戦姫絶唱シンフォギア 〜子の為に人を止めたモノ〜 作:円小夜 歌多那
第一話
「……?」
気が付くと真っ白な空間の中に私は浮いていた。何処を見ても白、白、白……おぅ、病みそうだ。
「白一色……寂しい場所だな……」
「仕方ないことさ」
「!?」
私は零した呟きを聞かれてしまい驚いた。
「驚くポイントはそこか?! 急に私が現れたことには驚いてくれないのか? まぁ、どうでもいっか」
どうでもいいんだ。驚くのも面倒だから有り難いけども。
「ハッハッハッ、いいのさ。細かいことは気にするな」
軽いオッサンだ。突如現れた男は豪快にそう笑い飛ばす。が、そんなことはどうでもいいんだ。そんなことより気になることがある。
「さっきから人の心を勝手に読まないでくれませんか?」
「断る!」
「威張るな!」
ふざけやがって、一回ぶっ飛ばそうかな。
「心が乱れてるな」
「誰のせいだと思っているんですか!」
「私だ!」
「だから、威張んな!」
こ、こいつ、私で遊んでやがるな。クソジジイが、後で絶対殴ろう。でも、今は睨むだけにしておく。このままじゃ話が進みそうにない。
「はぁー……それで、貴方は誰なんですか?」
「神だ」
また、こいつは一言で済ましやがってからに。神だ、って何だよ……って、え?……カミってまさか神話とかの神のことか? ……え、マジで?
「マジ」
「お前はいつまで一言で済ます気なんだよ!? てか、マジで神なのか!?」
男……神が頷いた。今、私は神に向かってクソジジイと言ったのか!?
でも間違ってないし構わないか。
「おいおい、構えよ」
何か、神様が悲しそうな顔をしているが
「神を罵倒するのも問題だ」
「細かいことは気にするな」
「真似をするな!」
えーい、鬱陶しい。とっとと話を進めさせてくれよ。
「それで、何故私はこんな所にいるのですか?」
「そんなもん簡単な話、お前が死んだからここにいるのだろうが」
それはそうでしょうね。死んだ覚えありますからね。けど神と面会するようなことをした覚えはないんですよ。あ、それってつまりあれなのか?
「神様が私を態々呼んだということは、まさか二次小説とかいうのでよくある神様のミスってやつですか?」
ちょっと期待して神様に聞いてみる。
「そんな訳ないだろう。あんな失敗してたまるか。一回でも大目玉物の失敗なんだぞ。それをあんな何度も何度も失敗してたら即刻クビになるわ!」
へぇー、神の世界にもクビってあるのか。人間の社会だけの考え方だと思ってたが、強ちそうでもないみたいだ。
「じゃあ何故私を此処に?」
「お前は、運命は定められていると思うか?」
また藪から棒だな。神様は突然そう私に聞いた。知るかと答えたいところなのだがそういうわけにもいけないんだろうな。神が真面目な顔をして私を見ているのだ。
「良くわかりませんが、ある程度は決まっているものだと思っていますよ?」
「ああ、その通りだ。人に限らずありとあらゆるモノに僅かだが運命が決められている」
それがどうした? 神様は何が言いたいのだろうか?
「だが、お主は我らが決めた運命をほんの些細な事で外れた。たった一作のアニメという極々小さなことでな」
……知らないうちに私は運命に逆らっていたのか、いやはや驚いた。アニメを見ただけで運命に逆らえるなら日本人のほとんどが逆らっているんじゃないのか? それ に私は普通に生きてきたつもりだったんだがな。
「普通に生きた、どと良く言うな。今まで何も考えずただへらへらして怠けまくっていた10歳程度の子供が、たった一作のアニメを見ただけでどんなに変わったと思っているのだ」
確かに変わったがそれほどではないと思うのだが。
「僅か数年で剣道、柔道、合気道、空手道といった有名どころからほとんど知られていないマイナーなものまでほぼ全ての武道において段保有者に、さらに一部では師範代の資格まで取って、仕舞には総合格闘技では何回も世界チャンプになったんだぞ。これの何処が普通の人生だ。誰がどう見ても異常だろ」
振り返ったことは無かったけれどそんなことをしてたのか、確かに普通じゃないかも。そうか……『あの子』に憧れ私は気付かない内に随分と規格外な人間になっていたんだな。確かにあのアニメがなければ私は何もしないクズニートと呼ばれるダメ人間になっていたに違いない。
「でも、そのようなことで運命が変えられるなんて可笑しくないですか?」
「ああ。可笑しなことだ。あのアニメを見るのは決まっていたことであり、運命と呼ばれるものではあったのだ。なのに結果は我等が想定していた影響とは全く逆の影響を受けたのだ。実際は今お前が想像したような世界になるはずだったのだぞ」
うわ~……考えたくない。よくわからないが運命に逆らって正解だったようだ。
グッジョブ、生きてた頃の私!
「まあ、そんなものは小さなことだ。それよりもお前は我らの予想を遥かに超えたことをしでかしおった」
「はい? ……特別何かをした記憶は他にないのですけど」
何とも言い難いが私はこれまで自分に正直に生き、後悔しない道を選んできただけだ。神に驚かれるほどのことはしていない。
「お前は死ぬ直前何をしたか覚えておるよな?」
「覚えてますよ」
確か電車に轢かれそうになっている子供を助けるために飛び出して、それで轢かれたんだ。そういえばあの子、大丈夫だったかな?
「ぴんぴんしておるぞ」
「本当ですか! それは良かったです!!」
突っ込んだまでは良かったのだが突き飛ばしたりはできなかったのだ。電車はすぐそこまで来ていたし子供は泣いてへたり込んでいて、突き飛ばす余裕は無く私は子供を抱きしめて衝撃から庇うだけで精一杯だった。ちょっと心残りだったのだが無事で何よりだ。
「死んだというのに良かったとは変わっている」
子供が生かせたことを喜んで何が悪い。私はもう三十路間近だったのだ。某赤い彗星も言っていたが新しい時代を作るのは老人ではないのだ。若者の方が大切に決まっている。
「もう良いわ。それ以上は止せ。それでお前が助けた子供だがその子は未来で大き過ぎる偉業を為す子でな、それ故に我らは死の運命をその子に付けた。あの日の事故で子供は引かれ終わるはずだったのだが、そこにお前は現れ、その子の運命を切り替え身を呈し救った。お前を引き金に子供は運命に逆らったのだ」
「さらに、運動が苦手なその子にとってお前はヒーローのような存在だったのだ。憧れのヒーローが自分を庇って死んだ、日本のヒーローを死なせてしまったということを知ったその子は酷く悲しんだ。そして運動の苦手なその子は代わりに狂ったように勉学に励んだ。目標は唯一つ、自分のせいで死なせてしまったお前の代わりに勉学で世界の頂点に立つことだ。贖罪という奴さ」
何時の間にかヒーロー扱いされてたんだな。子供を救おうとして私はあの子を苦しめてしまったのか。
「そうでもないぞ。誰もその子を責めることは無かったしな。それもまたお前の行動故だがな」
ああ、そうか。そういえば昔から人助けのために無茶してたもんな。周りから危険な真似は止めてくれって怒られていた。
「そして未来のことだがその子はとある発見で賞を取り有名になり、お前が命懸けで救ったことを知った人々はその子を何と呼んだ思う」
神様が問うが答えられるわけがない。
「子供は『英雄の子』と呼ばれておる。その後、次々とお前に助けられた子供たちが世界中で大活躍していることも分かった。化学、数学といった勉強から、職人や武術といった本当に様々な面でな」
「そしてお前が命懸けで救った子供たちは同志を集めて、嘗て無いほどの膨大な成果を残した。……我等が想定していたよりも遥かに大きなな」
神様は呆れたような、困ったような、複雑な顔をしていた。
「死んだ甲斐があるってもんですかね?」
思わず顔がにやけてしまう。どんな死に様を晒すかと思っていたが未来の為に死ねるとは頑張ったことは無駄ではなかったようだ。ただ子供たちの作る未来を見てみたかったというのはあるけどな。
「ふっ、やはり変わっているな。……だが、だからこそここに呼んだのか」
「???」
神様が急に笑ったと思えば私のほうを向いた。その目は鋭く尖り私を捉えていた。
そして神様は言った。
「運命から外れてなお、己が心のみでありながら見ず知らずの他者を救うために命を投げ出した勇気ある貴殿に我等神は敬意を表す。そして我等は貴殿の行く末を見てみたくなった。このまま輪廻を巡らせるのは惜しい存在だ。故に我等は貴殿を他の世界に転生させる!」
「てなわけでさっさと決めるぞ。時間を使い過ぎた尺がヤバい」
「尺って何だ!?」
「ツッコむな。時間が惜しいんだ。行く世界は何処がいい?」
今のかっこ良かったセリフは何処にいった。凄くメタった気がするんだがなまあいいか。とっとと進めた方が良さそうだ。
「行く世界は当然“戦姫絶唱シンフォギア”の世界です」
「そりゃそうか。では、人間界でのテンプレ通り、3つの特典を付ける。さぁ、何を望む?」
特典か……。確か凄い力とか頭脳を望むのが普通だっけ。でも
「荒唐無稽な願いでも構いませんか?」
「良いが、程度によるぞ」
「では一つ目、『私自身が完全聖遺物“ガングニール”“天羽々斬”“イチイバル”になること』」
「…………本気で言ってるのか? それをするには三つの願いでは足らんぞ」
む~……あ、この手があった。
ニヤリと笑う。
「だった“私には極一部の力しか使えない”ならどうです?」
「それなら何とか二つ分で手を打とう」
良しっ! 何か一つ儲かった。三つで出来るかどうか不安だったが何とかなった。
「じゃが本当にそれでいいのか? その願いだとお前は人とは少し違う存在になってしまうぞ?」
「少し、か……。まあ、そうですね。でも構いません。私はもう後悔はしたくないので」
「そうか、お前がそれでいいならもう何も言うまい。で、もう一つはどうする?」
あと一つ、自分を守る術が必要か。
「そうですね……。決して折れることなく欠けもしない特別な鎌を幾つかとそれに合う衣装で」
「できるが、ちゃっかり二つ願ってるな。まぁセットにしておいてやる」
「ありがとうございます」
「それでは『聖遺物になること』と『鎌と衣装』だな?」
私は頷いた。
「良し、わかった。では行って来い」
「了解です。それではまた……?」
今まであった足場の感触が消えた。……嫌な予感がするんだが。
「じゃあな」
嫌な予感ほど良く当たるとは言うが嫌なもんだなっ!?
足場に穴が開き落とされた。
「クソジジイィイ!! ここまで再現せんでいいっ!!」
「ハッハッハ、神を罵倒した罰だ」
次に会ったら絶対殴ってやる。そう誓って私は為す術なく落とされた。
「頑張れよ。英雄王」
神様の呟きを聞くものは一人もいなかった。
感想お待ちしております。
二話目は今日じゅうに投稿します。
大量のミスがあり申し訳ございませんでした。