境界線上の守り刀   作:陽紅

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祝!80話と言うことで……

以前どこかでチラっとお話した番外編をどうぞ……!




番外編 武蔵の至宝と艦長たちの朝

 

 

 びゅー、っと抜けて行く、風のおと。

 

 ふぁー、って聞こえる、朝の早いお店の、誰かのあくび。

 

 

 

 たったった、ってかけ足は、あっという間に聞こえなくなって。

 

 ダダダダダ、ってたくさん続いてく。──多分、アデーレ。今日もたくさんワンちゃんに追いかけ……? られてるみたい。

 

 

 ゲシッゲシッ、って、ちょっと嫌なおと。起こしてもらったのにまた寝ちゃうから。

 あ、ベキョ、ってなった。──だ、大丈夫かな……?

 

 

 

 

「ん──……」

 

 

 

 おとが生まれる。うごき出してる。

 

 

 近くで遠くで。少しずつ、ちょっとずつ。

 

 

 

 お布団の中で、ひざを抱えて──じっとしてると、いろんなおとが聞こえてくる。

 早い早い朝の、ほんの少しの間。

 

 

 ……私が好きな、時間のひとつ。

 

 

 

 

『おしごと、いくの』『……どこ?』『うー?』『あっち。でもそのまえにおみず』

『『うー♪』』

 

 

 黒ちゃんたちの、ミーティング……なのかな? 銭湯でたくさんお水やお湯を使うから、近くをよく通るみたい。最近──個性、っていうのかな? そういうのがわかるようになってきた。

 

 しっかり者の子。よく迷子になる子。恥ずかしがり屋の子。お水が好きな子。お湯が好きな子。おんなじようで、ちょっと違う。

 

 でも、みんなみんな、がんばり屋さん。

 

 

「ふぁ──……」 

 

 

 あったかくなってきた──お布団のなかでまるくなってるから、かな……?

 

 ……そういえば、前に皆でお泊り会したとき喜美ちゃんに。

 

 

『たっま・GO~♪ 鈴の卵略してスズランよ素敵! ンフフあっためて孵してやるわ! ──……あらやだ。鈴のほうがぬくいわよこれ……! ヘヴン!? ここがヘヴンね!?

 ....zzZ』

 

 

 それで、えーと……寝ちゃった喜美ちゃんが、その。

 

 

「うぅ…………////」

 

 

(……わ、忘れてたかったよぅ……)

 

 

 あぅ……思い出してきちゃった。……武蔵さん、あの時の写真消してくれたかなぁ……?

 

 

 

「すずー? そろそろ起きなさーい?」

 

「ふ、ぇっ!? う、うん、だい、だいじょう、ぶ。おき、おき、起きてる、から……!」

 

 

 ……お母さんの声。あと、ゴハンと、お味噌汁のにおい。気付かなかったけど、もう朝ごはんの時間、みたい。

 両手をついて、お布団からゆっくり体を起こす。いきなり立っちゃうとちょっと危ないから。

 

 ……前に一回転んで、柱に頭をぶつけちゃって……止水君がすぐ来てくれたことがあったの。──謝ろうとしたんだけど、止水君……バッて、後ろ向いて、いなくなっちゃった。

 

 ……怒ってなかったみたいなんだけど、なんでだろう……?

 

 

 着替えて、朝の支度をして──……なんだろう、今日は前のことよく思い出すなぁ……。

 自分で朝の準備をやりはじめてすぐの頃に、髪の結ぶところが変になったり、制服の裾が捲れちゃってたり……。

 

 

「お、おは、よ……」

 

 

「あぁ、おはよう鈴」

「ん、おはよ。……お先いただいてます」

「はいおはよう。早くたべちゃいなさい?」

 

 

「う、うん。

 

 

 

 ……あれ?」

 

 

 おはよう、って言って、おはよう、って、三人から。

 

 それに、この声……。

 

 

 

「し、止水、くん……?」

 

「あー、うん。まあ……お邪魔してます?」

 

 

 ちょっと苦笑してる止水君がいた。……ちょっとびっくり。

 

 ……音鳴りさんをつける前からお家の中にいたのかな?

 

 

「いやいやー、朝支度してたら丁度止水君が通りがかってねー。重量系のお仕事手伝ってもらっちゃいましトゥッ……って熱いよ母さん!?」

 

 お玉の一撃。今日ちょっと肌寒いからお味噌汁、ちょっと熱めみたい。

 ──跳ね返ったお玉は止水君が取ってた。

 

 

「『手伝ってもらっちゃいました~』……じゃないわよ全く。本当ならバイト代出さなきゃいけない重労働じゃない……バイト代じゃないけど、朝ご飯くらい食べていってもらわないと悪いでしょ? 止水ちゃんもまだだったみたいだし」

 

「……あ、あのー、女将さん、流石に止水『ちゃん』はそろそろ……」

 

 

 ふふ……おかあさんの止水君の呼び方は、初等部からだったっけ。

 

 気まずそう、恥ずかしそう? よくわからないけど……男の子にもいろいろあるの、かな……?

 

 

「いやーでも、" 家族そろって朝ごはん "って随分久しぶりだなぁ。ボクは銭湯の朝支度で、だいたい鈴が教導院に着くくらいに一段落だから……」

 

 

 おとうさんがお茶を飲みながら。うん……言われてみれば、久しぶり、かも。

 

 ……ちょっと嬉しい。

 

 

「『向こう水』(※ 湯屋。鈴の両親が経営) も繁盛してるんだから、人雇えばいいんじゃ……?」

 

「うーん、そこまで忙しいわけじゃないからなぁ……。少し大変っていうのが一日に数回あるだけで、それ以外の時間帯はむしろ暇だし……時間給だと、暇にさせちゃう時間のほうが多くなっちゃうから」

 

 止水君が聞いて、おとうさんが答えて……、あー……、って止水君。

 

 ──今度はおとうさんが学校のこと、聞いて。きのうのトーリ君たちが教室をば、爆発させちゃったことを話して。そうしたら、お父さんが、昨日の爆音はそれかー、って。

 

 

(お父さん、楽しそうねー)

 

 おかあさんもちょっと苦笑い。たまにバイトでお手伝いに来てくれたときとかに、晩御飯を一緒に食べるんだけど……大体、おとうさんは楽しそう。

 

 前におかあさんに、なんで? ってきいたら『女の子だけの男親は大体そんなもの』って、教えてくれた。

 滅多に呑まないお酒も、その時だけはおいしそうに──。

 

 

「あ、母さん! 麦酒なかったっけ!?」

「朝っぱらから何をほざくかぁ!?」

 

 

 ──パコーン、って、フライパン。

 

 ……ん、ごちそうさまでした。

 

 

 

「あ、止水、くん? 教導院、一緒に、行こ?」

 

 

 

***

 

 

 『 『武蔵野』様から呼び出しがかかっております。 』

 

 

 『 艦長連極秘通神板 』に入室しますか?

 

 

 

 ──合言葉を入力してください。

 

 

 『 I-J-O-U 』

 

 

 ──認証完了。

 なお、此処で交わされる全ての情報等の外部流用は堅く禁じられております。それを十二分に理解したうえで御利用ください。

 

 

***

 

 

07:40 name 品川

 ふむ、早朝からなんですか武蔵野。こちらは今アデーレ様の走行距離を観測しているのですが────以上。

 

07:40 name 浅草

 と、いうよりまだ走っておられるのですか? そろそろ汗を御流しにならないと、始業時間に間に合いかねますが。────以上。

 

07:40 name 村山

 公園にて『早朝お猫様たいむ』中ですにy──失礼しました。30分ほど後にお願いします武蔵野。────以上。

 

07:40 name 奥多摩

 …………。────以上。

 

07:40 name 高尾

 ……擬似再起動中ですね、奥多摩は。それよりも、何かあったのですか? この極秘連絡板を使用するような事件が起きている様子はありませんが────以上。

 

07:40 name 青梅

 ところでこの緊急連絡、意図的に武蔵様には届いていないようですが……いいのですか? 私、怒られたくありませんよ────以上。

 

07:40 name 武蔵野

 Jud. 各員言いたいこと思う所もろもろあるかと思いますが。とりあえず、これを、黙って、心してご覧ください────以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

07:41 name 青梅

 こ、これは────い、以上……。

 

 

07:41 name 品川

 まままま待ちなさi武蔵野、こ、これは合成かなにかでsuか? だとsiたら大変suばらしi技術と賞賛iたsiまsuが────以上。

 

 

07:41 name 村山

 し、止水様と向井様が、お、お手を御つなぎにニャられて……! ────以上。

 

 

07:41 name 高尾

 村山、貴女はとりあえずその万歳させているお猫様を離しなさい。……離しましたか? 

 では、ちょっとフリーズしてまいります────以上。

 

07:41 name 多摩

 申し訳ありません、入場が遅れまし、高尾!? 起きてください高尾! い、一体何、が……────以、上。

 

07:41 name 浅草

 見たようですね、多摩。さて武蔵野、説明を。処理能力に高負荷がかかっているので簡略に────以上。

 

07:41 name 武蔵野

 Jud.

 

 壱、止水様、湯屋『向こう水』のお手伝い、店主様御夫婦に誘われて朝食をお召し上がり。

 弐、向井様御光臨。ご家族団欒のお食事で御満悦。

 参、お二人ご登校。その際止水様が『乗ってくか?』と問われ、向井様が『た、たまに、は一緒、に歩、こ?』、と……ッ!?

 ……失礼。取り乱しました。続けます。

 

 肆、おそらく小等部時代のクセで、向井様の御手を止水様がお取りになられた。←いまここ

 

 ────以上。

 

07:41 name 浅草

 つ、つまり、こ、この向井様が大変幸せそうなこちらの画像は……────以上。

 

07:41 name 武蔵野

 Jud. 本物です。中継もできます────以上。

 

07:41 name 高尾

 フリーズ復帰しました。……武蔵野、この構図を見るに、貴女隠れていますね? いえ、ナイスな判断とサムズアップいたしますが────以上。

 

 

07:41 name 武蔵野

 Jud.サムズアップ感謝いたします。────以上。

 ……日頃から我々のジャスティスは、上位権限により全て武蔵様に奪われております。止水様の御幼少時の画像など私武蔵野、一度も見せていただいたことがありません。

 故に、これは、反逆なのです。────以上。

 

 

07:41 name 青梅

 む、武蔵野……貴女まさか……ッ!? ────以上。

 

 

07:41 name 武蔵野

 ……小さな小さな、取るに足らないものだと皆様はきっとお笑いになられるでしょう。しかし、私も……いえ、私どもも、止水様の『姉』なのです。────以上。

 小等部のころ私を呼ぼうとして『武蔵にょにょ姉ちゃん』と噛まれてお顔を真っ赤にしたあの瞬間の歓喜も、中等部の後半で『姉』ではなく『さん』呼びになってしまった悲しさも。

 これらは、自動人形の身で恐れ多くも、私武蔵野だけの思い出です。────以上。

 

 

07:41 name 多摩

 武蔵野……。

 ──Jud.貴女の思考は理解しました。ですが、それとこちらの画像と、何の関係が? ────以上。

 

07:41 name 武蔵野

 Jud. 簡潔に言ってしまえば

『武蔵様にいろいろ持ってかれて悔しいからこっそり見回してすぐ消してしまおうぜ』作戦です。────以上。

 

07:41 name 品川

 ぶっちゃけすぎです。まあ、内容は理解できました。……ですが。

 

 ……このお二人の微笑ましいお写真を、貴女は消去できるのですか? 武蔵野。

 ちなみに私にはできません。無理です。トーリ様です。────以上。

 

07:41 name 武蔵野

 不可能ではありません。消すのです。ただし、電子的な情報だけですが。────以上。

 ……つまり、現像して、その一枚を我々だけの秘密として、隠すのです。もちろん、この作戦に強制はしません。しかし賛同者は、この場にて挙手を。────以上。

 

 

 

07:41 name 品川

 ノ ────以上。

 

07:41 name 村山

 ノ ────以上。

 

07:41 name 高尾

 ノ ────以上。

 お猫様込みの挙手はやめなさい村山。────以上。

 

07:41 name 多摩

 ノ ────以上。

 

07:41 name 浅草

 ノ ────以上。

 

07:41 name 青梅

 ノ ────以上。

 

 

07:41 name 武蔵野

 ……賛同、感謝いたします。では、こちらの画像を現像し直ちに──

 

 

 『 『武蔵野』様 が 退出なされました 』

 

 

07:41 name 品川

 ふぅ。……短い、反逆でした。────以上。

 

07:42 name 高尾

 最後のリアルタイム画像が逆さまの武蔵様でしたね。────以上。

 この掲示板の内容も筒抜けでしょうか。────以上。

 

07:42 name 奥多摩

 

 擬似再起動終了。……ログ確認終了。────以上。

 

 

 

 

07:43 name 武蔵

 

 各員、持ち場にて仕事をしなさい。────以上。

 

 ……なお今件の沙汰は追って通達するので、覚悟を決めておくように。────以上。

 

 

 

07:43 name 奥多摩

 

 ……お、おや? これ私完全にトバッチリですよ? ────い、以上。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……ど、したのかな?」

 

「何が?」

 

「え、と。武蔵、野さん、をね、武蔵さんっが、こ、ばっ、ばって」

 

「……?」

 

 

 

 

 ──いつもどおりの、朝だった。

 

 

 




鈴「ど、どくりょ、ありが、と……ございまし、たっ」


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