境界線上の守り刀   作:陽紅

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五章 春先の海辺のアバンチュール ~副会長編~

 『人が生きるために必要なものとは何か』

 

 

 この問いに対し、すぐさま答えを返す人と、しばし悩み答えを返す人……大体がこの二通りに分けられるだろう。

 余程の子供でもない限り、『わからない』という回答はまずないはずだ。

 

 

  ──「あ"ぁー!? 直政殿! それは拙者が大事に育てたサザエにござるぞ!?」

  ──「やかましい! あんたさっきあたしが取って置いた海老全部食ったろうが!」

 

 

 そして、この問いに対する模範解答は『衣食住』……それぞれ、着る物・食べる物・住む場所といった三要素だ。これだけ揃えられてなお生きられないなら、当方には手が付けられないので別教員棟へ回っていただきたい。

 

 自分に厳しい人ならば、『水と食い物』の二要素を回答とするだろう。

 しかし当方には外ど──ふむ。外道が多いので、「じゃあ水と食べ物ね、あ、海のど真ん中に行ってもらうから」と突き落としてくるので、答える際は細心の要注意が必要だ。

 

 

  ──「はぅぅ、はぅぅう! お肉、お肉ですわ! まさかこんな場所でお肉にありつけるなんて! しかも滴る牡丹ッ!」

  ──「ミトっつぁぁん! ソレまだ全然焼けてないよ!? 両面真っ赤だかんね! レアくらいがナイちゃんのお勧め、って聞いてる!?」

 

 

 また、さらなる強者は単品を回答とする。

 

 ……『 金 』と一言、淡々と一瞬の内に言い切った商人などが良い例だろう。

 その態度にイラリと来た某教員に、十円玉一枚を手渡されて海上に蹴り落とされていたが、無事生還していたので今となっては良い思い出だ。

 

 また、何か勘違いしたのか、『 みんな 』と照れ交じりの笑みで回答した至宝様もいらっしゃった。問いの前提がサバイバル系とは思っておられなかったらしく──説明されて数秒フリーズし、うーうー唸りながら頭を抱えて一同を萌え落とした一件は最早伝説だろう。

 

 

  ──「へぇ、山菜って結構取れるものなんだな。それに美味しいし……このキノコなんて、舌にピリッとワシャ()ビみりゃ()にゃ()()()──……ふぇ?」

  ──「え? 俺今日キノコなんか取ってきてな──って正純っ!? なんだそのあからさまに『毒持ってます』って自己主張の激しいキノコ!?」

 

 

 

 もっとも、件の問いかけは個人へ向けられたものである。

 

 サバイバルに当たり、個人ではなく団体──その全員が生き残るために必要不可欠なものを、その忍はのんびりと思い浮かべていた。

 

 

 

「……『 チームワーク 』の『 チ 』の字すら、ないでござるなぁこの連中」

 

 

 ──飛び交うのが怒号ならばまだ軽いほうだろう。場所によっては行き交うのは拳と削りたてのお箸だ。行儀という文明人必須スキルは本能の前にあっけなく潰されて久しい。

 食べ物を奪い合うという弱肉強食の世界が目前に繰り広げられていた。

 

 

「しかしこのペースでござると……むぅ」

 

 

 慣れない土地での夕暮れの行動を控えるために、あらかじめ夕食の分も、と考えて二人が確保しておいた食材たちも、直に底を突くだろう。

 

 

 

「む、お代わりはもうないので御座るか……?」

 

「ッ!? (ガツガツガツガツガツ) そ、そうですわね。ええ、こちらもちょうど品切れですわ」

「ケプッ──うんうん、ちょうど終わっちゃったね! いやーでも美味しかったよー! ごちそーさまー!」

 

 

 ……訂正、たった今底を突いたらしい。一気にスパートをかけた騎士と有翼魔女の食い意地には流石の点蔵も気分脱帽を禁じえなかった。

 

 まぁ、幸い海にも山にも実りはまだまだあると止水・点蔵両名とも判断している。そのため、そこまで危機感はないのだが──集めるのにそれなりの苦労がかかった食材たちが、瞬く間に消化されていく様はなんとも言えないものがあったそうな。

 

 

「──ま。『英気を養う』という目的は達せたようでござるし、良しとするでござる。あ、止水殿、そっち大丈夫でござるか?」

 

「んー、一応大丈夫だ。飲み込む前に吐き出させたし、毒性も麻痺系のかなり弱い奴だな──しばらく呂律は回らない上に手足も痺れるだろうけど……ってそんな睨むなよ」

 

「うるひゃい……ッ!」

 

 

 羞恥か何かで顔を真っ赤にし、涙目で睨み上げてくる正純を見て、どちらとなくため息をつく苦労人が二人がいた。

 なにはともあれ、第一回、『ドキッ! 川・海・山の幸贅沢網焼きフルコース!』は終了。

 

 

 ──サバイバル、スタートである。

 

 

 

***

 

 

 

 初日。

 

 十分すぎるほどに胃袋を膨らませた一同は満足感あふれる食休みを挿み、作業を開始した。

 最短でも二週間。武蔵・英国間の交渉が拗れれば、その二週間よりさらに長くなるだろう期間を生き抜かねばならないのだから、それなりに真剣にもなる。真面目にやればやった分だけ贅沢ができると昼食で学んだこともあるだろう。

 

 幸いにして、最重要とされる『 水源の確保 』と『 拠点の確保 』はやる必要もなく終わっている。

 

 輸送艦の墜落した場所は川のど真ん中で水質も無問題。拠点に関しても輸送艦の重力制御が生きているため、輸送艦をそのまま拠点として使えたのだ。もちろん多少の改造は必要だろうが、経験者二人に言わせれば「自動開閉の扉があるサバイバル拠点なんて聞いたことがない」とのこと。

 

 ……唐突に遠い目になって「──あの時はやばかったなぁ」と二人して呟き出したときは、流石の一同も同情を禁じえなかった。

 

 ──閑話休題。

 

 

 ともあれ、最優先の二つを難なくクリア出来ている一同は、団体を二つに分けた。

 

 水や拠点の確保と同等の重要さのある食料確保を担当する" 食料班 "と、もろもろの生活環境を整える" 作業班 "。

 向き不向きは当然あるのだろうが、戦闘中──その最前線で分断されたことも、男女問わず体を動かすことに関して問題のない一同が集まっていた。的確な指示役もいる中で、その作業は早い。

 

 

 

 ……ただ一人……。

 

 

 

「…………はぁ」

 

 

 

 ──トンテンカントンテンカンと、何かの工事の音を聞きながら一人、綺麗な水がただただ流れる清流を前に、膝を抱えて黄昏ている──本多 正純君を除いて。

 

 ……ついた溜め息は、思いのほか重量があった。

 

 

 弁護をするわけではないが、彼女は決してサボタージュしているわけではない。状況に絶望して全てを投げ出してるわけでも当然なく、怪我・病気で動けないわけでもない──毒キノコによる痺れはとっくに抜けている。

 

 ではなぜか、と問われれば──残酷な話、彼女は想像以上に『 戦力外 』だったのだ。

 

 

「……いやまさか、ここまで動けないとはなぁ……私も少しくらい鍛えたほうがいいのだろうか」

 

 

 貴女の場合は日々の食生活改善が先です──という注意もそこそこに、弁護を続けよう。

 

 まず、本日の早朝にあったランニング。ここで既に体力を使い切っている。

 そこからほとんど休む間もなく三征西班牙(トレス・エスパニア)の奇襲戦、英国──と、立て続けに二連戦があった。英国女王の盾符(トランプ)戦では何もしていないにしろ、緊張の連続は想像以上に体力を削ったことだろう。

 

 つまり、副会長という上位役職者ながら、運動能力は一般女生徒以下の正純は、ほぼ全員から" 頼むから休め "と強制休憩させられているのだ。

 

 

 ──別に、運動能力の低さゆえに、山で転んで頭を打つ、海岩場で転んで頭を打つ、川で滑って以下同文を心配されたわけではない。輸送艦の片付け中に資材の生き埋め云々も心配されたわけではない。

 

 ……ないったら、ない。

 

 

「はぁー……」

 

「む、随分と重い溜め息にござるなぁ、正純殿」

 

 

 聞き慣れた声が聞こえて、正純は振り返る。すると案の定、見慣れた男がそこにいた。メモらしき紙束とペンを片手にしているところを見ると、何かしらの情報をまとめているのだろうか。

 

 

「……クロスユナイトか。──はぁ」

 

「た、溜め息がさらに重くなったでござるな今ッ! 流石に自分でも傷つくでござるよ!?」

 

 

 突然──ではなく当然吼える点蔵に、確かに失礼だったかと正純は片手を上げて謝罪する。

 

 

「はは──いや、すまん。自分の非力さを改めて思い知らされてた……お前は何をしているんだ?」

 

「……え"っ!? あ、ああ……近辺の地殻の調査をしていたのでござるよ。英国は浮遊島でござろう? 輸送艦の墜落の衝撃で万が一でも歪みが出てしまっていれば、本土そのものに影響が出るやもしれんでござる。

 ……まあ、一通り調べてみた所、表層が少々荒れているだけで特に問題はなさそうでござるが」

 

 

 点蔵は意外なほど素直に返された謝罪に、一瞬呆然としてしまう。

 正純は梅組の中でも比較的に常識側だが、行動の端々に『片鱗』を垣間見せつつある。

 

 

 それがいまや、完全に鳴りを潜めてしまっていた。

 

 

(……ふぅむ。それだけ思い悩んでいる、ということでござるかなぁ……)

 

 

 初日から何を、と思われるかも知れない。しかし、初日だからこそ、とも言える。ほかの全員が忙しそうにしている中で、自分だけが不労者というのは居心地が悪いのだろう。

 

 根が真面目な正純ならば、それは人一倍のはずだ。

 

 

(……ここへ来て超高難易度の問題が表れたでござるな……!)

 

 

 さて、自分にどうしろというのか。『落ち込んでいる女子を励ます』──なんてリア充行動ができるはずもない。

 ソレらしい仕事を割り振ろうにも、残っている作業といえば " それなりの知識か体力 " か " べらぼうな経験か怪力 " を必須とするどちらかだけだ。正純が当てはまるだろう項目は一つとしてない。

 

 

 数秒の時間をかけてライフカードを漁り──ようやく見つけた起死回生の『切り札』を点蔵は切る。

 

 

「──正純殿。『寝ず番』を知っているでござるか?」

 

「は……? なんだ急に……いや、夜間に眠らないで見張りをすること……だよな?」

 

 

 Jud.と正解を示す点蔵に、正純は首を傾げる。まさか、それをやれというのだろうか。

 そんな視線に、点蔵は苦笑を返す。

 

 

「ここは他国にござる。敵と断言はしないでござるが、しかし完全に味方とも取れぬでござろう? それに──英国の意思が一本とも限り申さぬ。故に、皆が寝静まっているうちに何かしらの工作をしに来る可能性があるのでござるよ」

 

 

 人質か、破壊工作か。物資になにかしらの細工を施しても効果は高い。

 ──言われて初めて気付いたが、十二分にありえる話だろう。見張りは必須……それも、かなり重要度は高い。

 

 

「──ので、明日から男子数名ずつによる『寝ず番』をつけようと止水殿と決めてござってな。今晩は言い出しっぺの自分と止水殿が担当することになっているのでござるよ」

 

「…………」

 

 

 上手いやり方だ、と素直に感心する。誰かが率先して既にやっていれば文句も出にくいだろう。それも、昼間一番働いているだろう二人がやったともなれば、効果はさらに上がる。

 

 そう感心して──しかし首をかしげた。

 

 

 ──男子でやるという寝ず番を、どうして『 女子 』の自分にするのか。

 

 

「──自分には言えぬことも、止水殿になら言えるのではないでござるか? それに、あまり余人に聞かれたい話でもないでござろう?」

 

 

 点蔵の話がいろいろと長ったらしくなったが、一文で要約したら『止水と夜二人っきりになる』ということである。

 それをいまだ理解していないだろう……大真面目に止水に話してみるか、とだけ考えている正純を置いて、点蔵は消える。

 

 

 ──止水と寝ず番の話をしたという ()を本当のことにするために。

 

 

 なんてことはない。

 ……『 生贄を差し出す 』という、武蔵であれば日常的に行われている切り札を、あの忍者はなんの躊躇いもなく切ったというだけなのだ。

 

 

 

 ***

 

 

 実は以前

 

 言葉にしていたこと

 

  配点 《理想の逢瀬……?》

 

 

 ***

 

 

 携帯社務のアラームを深夜に設定……したのだが、使う必要もなく。時計と睨めっこしてなった、深夜一時。

 正純は宛がわれた個室を忍び足で後にし、輸送艦の甲板に出る。

 

 

「わ……!」

 

 明かりはないが、それを必要としないほどに明るい。満天に輝く星もそうだが、半分より満ちている月の存在もあるだろう。

 ──息を呑み、数秒。天然のプラネタリウムを鑑賞し、意識を地上に戻す。

 

 

(っと。感動してる場合じゃないか……。止水、は……)

 

 

 ぐるり、と壁のように聳える甲板の上に立ち、周囲を探す。どこで見張りをしているのか聞いていない上に、気配なんてものはわからないので、虱潰しになるだろう。

 少し億劫になったが、しょうがないと切り替える。切り替えたところで、たとえるなら扉をノックするような、そんな音が聞こえた。

 

 点蔵だ。

 

 

 現状一番高い船尾の艦縁に、重力操作を無視して普通に座っている彼は、手を数度振ってからある方向を指し示しす。

 艦のどこかではなく──川岸の一点。橙色の光が円を作り、その一部に不自然な影ができている場所だ。

 

 

 昼間誰かが、輸送艦の廃材で作った簡易的な橋を渡り──。

 

 

「あれ……正純? なにやってんだよ、こんな時間に……」

 

 

 丸太を椅子代わりにしている止水が、いた。

 

 

「まあ、なんだ。寝付けなくてな……ほら、私、昼間大して働いてないし……」

 

 

 苦笑でごまかし──これって自虐だなぁ、と気が滅入る。

 

 止水もそれを見て苦笑を返し、少し移動して正純の座れる場所を作った。

 

 

 礼を一言に腰を落ち着け……ふと、思う。 ──思い、出す。

 

 

(あれ……ちょっと待て。この、状況って)

 

 

 

 

 『満天の星空』 『焚き火』 『肩を寄せ合って(まではいかないが近い)』

 

 

 

   ── どのようなって……そうだな。

 

 

 

 ……そんな、他愛もない会話をしたのは、ホライゾンがP-01sであった、最後の日。

 

 

 

   ──夜景が綺麗な食事処──は、合わないな。そういう柄じゃないし。

 

 

   ── たとえば……『満点の星空の下で』『肩を寄せ合って』『焚き火でもしながら』取り止めのないことを話し合う……とかか?

 

 

 

「~ッ!?」

 

 

 ドンピシャだった。

 

 スリーアウトチェンジだった。──訳がわからないだろう。安心してほしい。当事者も理解できていない。

 

 

 自分が口走ったことがそのまま再現されるなどと、正純に予想できるだろうか? いや、できるわけがない。

 

 ……一度意識してしまえば、あとはもうご想像のとおりである。

 

 

 

「……なんで、端っこに座り直したんだよ」

 

「ほ、ほっとけ……!」

 

 

 くっそ、あの忍者……! という呟きは聞こえなかった。顔を逸らすように見上げた船尾の上には、腕で大きく丸を作っている人型のシルエットがいる。

 

 しばし、サルにも馬鹿にも見えるシルエットを睨んでいれば、残像を残すことなく影は消えた。きっと逃げたのだろう──いなくなった相手を睨むのは意味のないこと、しょうがないかと、溜め息一つこぼす。

 

 

 ……幸い、焚き火に照らされているおかげで、上気しているだろう顔はなんとかごまかせているらしい。

 

 

「まあ──よくわからないけど、眠くなるまでゆっくりしていけよ。……俺の()()も、どうせ形だけの見張りになりそうだしさ」

 

 

 薪を一つ放り入れ、大あくびを一つ。……見張り、というほど緊張感はなさそうだ。

 覗きこんでみれば、薪の山の横には水筒やら食べ物らしきものが包まれただろうホイルがいくつかあった。

 

 

「……だ、大丈夫、なのか?」

 

「今のところ気配はない──食うか? 山芋だけど」

 

「……一個もらう」

 

 

 意識しているのが馬鹿らしくなるくらいに、止水は普段どおりだった。意識されたらされたで困るくせに、全くの無意識というのも逆に苛立つものがあるのだから不思議である。

 

 手際よく焚き火の中に三つほど埋め込むのを眺め……正純は本題を言葉にする。

 

 

「その──なんだ。……足手まとい、だよな。今の私って……」

 

 

 竹筒から竹コップに水を入れようとしていた止水が、ピタリと不自然に止まる。眼を何度も瞬かせて──思考も止めていた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 きっかり十秒をカウントし、薪が爆ぜる音をきっかけに、止水がなんとか再起動を果たす。だがどこぞの精密機器のように、再起動後は処理能力が回復する、なんてことはなく……盛大にキョドっていた。

 

 

 

「へぇ? ──あ、いや、ごめん。軽く整理するから時間くれ?」

 

「いいぞ。三秒な?」

 

(……いや、普通に元気じゃんか……)

 

 

 振られた話題的に落ち込んでるかと思えば、その切り返しは早い上に鋭い。

 あと三秒は短い。絶対。

 

 

 ……改めて水を注ぎ、一気にあおって──言われた言葉の意味を考えながら、答えを探す。

 

 

「あー……まぁ、確かにさ、正純にできることってないかもしれないな……今のところ。でも、何だ? " そう成らざるを得ない " って言えばいいのかな」

 

 

 腕を組んで唸り、言葉を捜す止水を、正純は黙って促す。

 

 ……ややあって、止水は再び口を開いた。

 

 

「……点蔵は小等部前から、家の方針で生存訓練とかやってるらしいんだよ。言っちまうと『こういうこと』のプロなんだ。

 俺だってあいつほどじゃないけど、おふくろが死んでからほとんど一人暮らしみたいな感じだったし、長い休みの時は武蔵から降りてそういうことをやってきたから、体一つで放り出されても生き抜く自信がある」

 

 

 ──実は野宿のほうが楽だったりするんだこれが、と苦笑う野生児(18)。

 

 それはそれでどうなんだ、と返そうとして、『 そもそも止水の家の所在を知らない 』という新事実に正純が苦笑していた。

 

 

 ……後日、生徒『会長』主導による突撃晩御飯が開催されることになるのだが、今はおいておこう。

 

 

「他のみんなは生存訓練こそしたことないって感じだけど、基本は前線に立つような奴らが見事に集まってるだろ? ……それに、特務もほとんど揃ってるんだ。夕方に点蔵とも話してみたけど、やらなきゃいけない事よりも、やれる人間のほうが多いみたいだし」

 

 

 棒切れでホイルをつつき、ソレを取り出す。……芋の焼けるいいにおいがしてきた。

 

 

「いま食べると火傷するぞ? ……もしかして、腹へって眠れなかっただけじゃなkJud. わかってる。わかってるからその握り締めた拳大の石は置こう。な?

 ……だからまぁ、なんだ。正純は変に気負わないで、俺たちに任せて休んでたっていいんじゃないか?」

 

「休む、か……しかしなぁ」

 

 

 正純は腕を組み、唸る。

 ……疲れたから休むのは『休息』だとしても、疲れてもないのに休むのは『堕落』では? という意識が、すぐさま浮かんできて止水の提案を拒否していた。

 

 

(……トーリとはえらい違いだなぁ)

 

 

 内心で止水はシミジミと語る。昔全裸に似たようなことを言ったら、全裸は即行でマンガを読み始めて本気で休み出していた。守銭奴らは邪魔が消えたとばかりに作業をはかどらせていたが。

 

 

「……あとは、サバイバル関係とは全く別のことで、正純にしかできないことをやる、とか」

 

「それ本末転倒じゃないのか……?」

 

 

 現状にできることがない、といっているのに、現状をそもそも無視しろ、という止水の言葉に、正純は唸りの性質を変える。

 

 

(その『私にできること』がないから困って……?)

 

 

 

 ──パチリ、と薪が爆ぜた。そして、つぎつぎと埋まっていき、どんどんと纏まっていく。

 

 

 そして、思考が完成する。

 

 

 

「あった! ……あれ、なんか美味しい……」

 

 

 そして手には半分ほどになった、ホイルに包まれた焼き山芋。口の中に香ばしい甘さが広がっている。

 

 半分となってもそれなりに大きく──目を白黒させてその怪現象を眺めている正純に、止水は容赦なく現実を突きつける。

 

 

「正純……お前やっぱり腹へってただけだろ。……ちなみにソレ二個目だからな」

 

 

 大型系男子より多く食う女子。……そんな不名誉を回避すべく、半分ほど残った芋を問答無用で止水の口に叩き込んだ正純は──きっと、混乱していた。

 

 

 

 ──そしておなかも膨れ、さらには不満の解決も見えた彼女が、夢の世界へ誘われるまで、そう時間は掛らなかったそうな。

 

 

 

 いつぞやのように緋衣を掛けられ、緋衣を纏った足を枕に──。

 

 ……『きゃ』から始まる長い悲鳴が、翌日の目覚ましになったのは、ここだけの話にしておこう。

 

 

 

 ──おまけ──

 

 

 

「およそ二週間、私たちは武蔵から離れて生活するんだよな?」

 

 Jud.

 

「だが、私たちは学生であり、当然二週間の間も授業はあるわけだ。しかし当然、出れるわけがないから、欠席扱いになる。……二週間の欠席は、でかいよな。普通に」

 

 ……!?

 

「だけど、私は教師のバイトをしているからな。多少だが融通が利かせられる。この二週間を『課外授業』としてある程度の勉強をすれば、欠席にはならない。

 ……申し訳ないが、私にはこれくらいしかできなぁ──ッ!? 押すな! 何だお前ら!? 落ち着け、ちょ、止水助けろ!!」

 

 

 ──Jud. だが断る。

 

 

 

 




読了ありがとう御座いました。


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