境界線上の守り刀   作:陽紅

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すいません、番外編ではなく本編になります。

番外編を描いていたら、何故かこちらのほうがノリが良く……。


四章 刀、そして英国へ 【上】

 

 

 ……一通りの流れを眺めて、彼女はある疑問を抱いていた。

 

 

「……あ、あのー、第二特務? いまさっきすっごい格好つけて、『ここからは、男の戦場だ(キリッ』って言ってましたけど……自分、ガッツリ女です。この場合、どうなる感じなんですかね? やっぱり空気的なのを読んで退場したほうがいいんですかね?」

 

「細かいことは気にするなアデーレ。貴様の局所は男と比べても大差ない。故にいまこの一時、男とカウントされてもなんら問題はない……!」

 

 

 あまりにも力強く断言するウルキアガの言葉に、アデーレも思わずその言論が『正しい』と判断しかけるが──ギリギリのところで己の常識が勝る。

 

 どれだけオパーイが薄く、そしてなんら抵抗の無いすとーん(↓)だとしても、一時的に男性化するわけがない。──してたまりますかコンチクショウ……!

 

 それになによりもこの半竜、こともあろうにアデーレの胸部装甲をガン見しながらのたまいおった。

 

 

「すっごい熱弁ですっごい侮辱されてますよ自分!? しかもセクハラ交じり! 流石に酷くないですかそれ!? ──ねぇ、ノリキさん!」

 

「……知るか。それよりも、『客』を待たせてるぞ」

 

 

 憤慨しながら機獣用の突撃槍を構え、アデーレが。

 呆れつつ両の拳を打ち合わせ、ノリキが。

 そして、特に白甲に傷らしい傷もつけていない、ウルキアガが。

 

 

 並び立つようにして、英国四人衆(招かれざる客)に向かいあった。

 

 

「──おいナルゼ。お前、さっきの爆発の攻撃はまだできるのか?」

 

 

 ノリキだ。睨むように目を細め、己の相対するであろう相手を探しながら、後ろにいるナルゼに問う。

 その問いかけに──突然の援軍、そして、唐突に突きつけられた自分の不出来に俯いていたナルゼは、即座に答えを返すことが出来なかった。

 

 

 ……慌てて確認してみた、その結果。……どう考えても戦闘に参加できるだけの残弾ではない事実を、思い知らされた。

 ……残弾の把握という初歩的なことすら、頭に無かった。

 

 

 聖譜顕装を使われても、そして、使われていなくても……ナルゼは、戦闘を続けることは出来なかったのだ。

 

 

「……無理、よ」

 

「……Jud. アデーレ、この場合どうなる?」

 

「んと、出来るなら第四特務の──あの妨害爆弾で、『変則的な集団戦』にしたかったんですが……。

 仕方ありません。それでは……第二特務。第四特務を戦闘範囲外まで護送して、こっちに戻ってくるまで。そうですね、何『秒』ほどでいけますか?」

 

 

 どうやら先ほどの『無理矢理野郎識別』をまだ根に持っているらしい。分単位どころか、何十秒の猶予さえ与えるつもりはないらしい。

 

 仕返し、のはずなのだが、ウルキアガは真面目に思考していた。

 

 

「ふむ……ナルゼがいろいろとグシャグシャになってもいいのであれば、十秒ジャストで往復できる。そして、今のナルゼには止水の奴が最深度の護りをかけている。つまり! 結果として止水の奴がグシャグシャになるわけだ。

 それをやれとは……アデーレ。貴様は酷い奴だな……!」

 

『……。よし、覚悟できた。やってくれ、ウルキアガ』

 

「ちょ、ちょーっ!? 待ってください、これ自分が悪者ですよ!? さ、三十秒! 三十秒くらいでお願いします!」

 

 

 こいつらは本当に緊張感がないな、と拳を構えたノリキがため息をつき──。

 

 

「ま……待って、待ってよ! 私はまだ……!」

「──ダメです。第四特務」

 

 

 戦える──と告げようとして、叫ぼうとして──しかし、アデーレに遮られた。

 従士という階級だから……というわけではないのだろうが、自分の意見よりも他者の意見を尊重しがちなアデーレが、最後まで言わせることなく、強く、意見を遮った。

 

 その事実が、ナルゼに二の句を失わせる。

 

 

「……お願いします、退いてください。さっき浅間さんから聞いたんですが、浅間神社を経由していない『護りの深度変更』の術式効果は、とんでもなく止水さんに負荷がかかるそうです。

 『あれほど注意したのに……!』──って、浅間さんがメッチャ激怒してましたよ」

 

 

 危うくトバッチリ受けるとこでした……と苦笑するアデーレ。

 故に……この抗争が一段落したら、止水へのお説教が始まるだろうことは想像に容易い。だから、その時に。

 

 

「みんなで、お説教してあげましょう。無傷の止水さんを正座させて、皆で囲んで集中砲火です。たのしいですよー、きっと!」

 

 

 満開の笑顔でそう告げる。

 ──約一名、大変楽しみにできない人物がいるのだが、あえて実名は明かすまい。きっと、圧倒的な多数決の結果により黙殺され、闇に葬られるのだろうから。

 

 

 ……そして。

 笑っているアデーレの言うことを実現する為には……今、ナルゼの戦域離脱が、なによりも必須なのだ。

 

 

「……。あと、頼んだわよ……っ!」

 

「「──Jud.!!」

 

 

 ウルキアガが竜砲を吹かし風を唸らせて、品川の船尾まで一気に翔けて行く。懐に抱えた黒翼になるべく負荷がかからぬよう、しかし出せる最大の速度をもって。

 

 

 ──歯を食い縛り、堪えきれずにこぼれた涙には、気付かないことにした。

 

 

 

「……悪いな、待ってもらって。しかし……随分余裕だな。時間をかければ、こっちの勝ちってことはわかっているはずだが」

 

 

 ナルゼが退場し、ウルキアガが一時退場し、数の上では四対二。

 そうなるまでも、そして、そうなった後も。英国側は特にコレと言った行動を起こすことは無かった。

 

 時間稼ぎを交えたノリキの問いに、ジョンソンが微笑みながら応じた。

 

 

「You.まず、前提からして違う。先ほどMate'が言ったことは『あわよくば』のLevelなのだよ。

 我々の役目、その本題は『確認』だ。この先あるだろう武蔵との国交、そこで我々がどのような姿勢をとるべきか。そして、国交をそもそも結ぶか否かの是非もね」

 

 

 ── 十秒。

 

 

「しかし、Youが来てくれて嬉しいよ。なにせ、私はここに来てから、名乗り以外の行動と言えばトウガラシに苦しんだだけだからね。だからこそ今、戦士の来訪に心が躍っている。

 ……特に、先の三河での戦いで、あのガリレオ教授を下した一人……ノリキと言ったかね? まさか、君と相対できるとは。嗚呼……舞い上がってしまいそうだ」

 

「……わかっているなら名乗りは不要か。あと、一つ訂正しておく。俺は『戦士』じゃない。

 ──『労働者』だ」

 

 

 

 ──……二十秒。

 

 

 

「ふふふ。これ見よがしに武器を出していていいのかしら? そそそれとも、さっきの戦闘でなんの学習もししし、てないのかしらね?」

 

「お気遣いどうもです。ですけど、御安心を。ちゃあんと数分くらいの時間稼ぎができるくらいの作戦はありますんで。

 

 それじゃあ……」

 

 

 

 

 三十秒……!

 

 

 

 

「──さあ! 歓迎しようぞ異端奏者共! ……拙僧! 熱烈な打撃を差し上げる!!!」

 

 

 

 

 聖譜顕装に捕らわれぬように、堅牢な素手にて。

 

 助走を重ねた飛翔を乗せた、半竜の打撃が──熱烈盛大に炸裂した。 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ところ変わって、武蔵右舷二番艦、多摩。

 品川により近いその艦首にて、一人の巫女が、不機嫌……いや、最早怒気だろう。それを隠そうともせず、仁王立ちしていた。

 

 

 肩に座り、いくつもの表示枠を見ている走狗も困り顔で何かを調べて……その精査が今、終わったらしい。

 

 

『しらべ物 おわったよー ……やっぱり しーちゃんが無理やり通しちゃってる』

 

「ありがと、ハナミ。はぁ……止水君はほんとうにもう……!」

 

 

 ハナミの教えてくれた結果に対して、智の頭部に血管マークが一つ浮かび上がる。

 

 ──いつぞや。正純に向け、止水の術式──否、『守り刀の術式』について智が簡単に説明したと思うのだが……。

 ハナミが一生懸命まとめてくれた無数の表示枠には、その詳細とも呼べるデータが克明に記されていた。

 

 

 『守り刀の術式』……と一概に言っても、そう称されるものは、実はいくつかある。

 

 まず、『止水本人が用いるモノ』。"変刀姿勢"より始まる、刀鞘の使役などはコレに当て嵌まる。刀そのものに関わる内容の術式だ。

 刀に宿る付喪神たちとの契約もコレに含まれるだろう。

 

 そして、『止水以外の者が用いれるモノ』。──早い話が、三河での抗争。その前哨戦にて、喜美が二代に相対する際に用いたものだ。

 『神々からの恩返し』とは喜美の言葉だが、まさしくその通り。

 極東に連なる神の大体に通用し、守り刀所縁の品を用いるだけで、多少の例外はあるものの、術式の負荷軽減などが行える。

 

 

 最後に、『止水の身命を用いた加護』。……その内容が、誰かを守ることに直結するものだ。

 

 現在、" あらゆる物理的要因からくる負傷 "がその対象となっている。

 つまり止水が生きている限り、武蔵に正式な住民登録をしている住民は、物理的な要因での死は絶対にありえないと断言できるほどの……まさに神懸りの守護を受け続けることができる。

 

 

 智の知る限り……守り刀の術式は大きく分けてこの三種類に分別される。

 

 ──その中で、浅間神社が関わっている、と言えるのは実質この三つ目……『止水の身命を用いた加護』の、その上辺だけなのだ。

 

 

(ギリギリでウルキアガ君が気付いてくれてよかった……! もしあの時、ナルゼが攻撃を受けてたら……ッ)

 

 

 ──ゾッとする、なんてレベルではない。

 

 無理矢理変更された加護深度の影響で、術式そのものが過剰にナルゼを守ろうとし、止水の身体を必要以上に削り取っていたことだろう。

 

 その上、貫通性の低いボルトだ。刺さり、傷を与え続け……それから守ろうとして、止水の身体は削られ続ける。

 

 

 ……智の目の前にある表示枠が、その未来が十二分にありえたということを証明していた。

 

 

「……なぁに怖い顔してるのよ、浅間」

 

 

 腕を組み、急ぐことなど忘れた足取りで、喜美がやってくる。何故か制服は盛大に着崩されており、肌色過多気味であった。

 

 智はそれを横目に一瞥し──喜美の言う怖い顔のままで、視線を前の表示枠に戻した。

 

 

「……ふぅん。結構本気でプンプンしてるって訳?」

 

「……茶化さないでください! 喜美だって知ってるでしょ……!? 止水君がやったことが、どれだけ危険なことかッ!」

 

「イヤね、私に当たらないでよ。……そしてとーぜん、知ってるわよ? 幼馴染舐めないでくれる? お風呂でどこから洗うかとか熟睡姿勢とか──……十数年のブランクはあるけど熟知よ羨ましいでしょう!?」

 

 

 フフフと笑う、外見だけみれば完全な痴女。その明らかにふざけている態度に智は再び沸騰しかけるが、『喜美に当たるのは筋違い』と収める。

 

 あと別に羨ましくない。子供の頃にあって今ガッツポーズできる思い出は智にだってある。

 

 

 ……大きく、深呼吸を一つ。

 

 

「……喜美は、何もしないんですか……?」

 

「ンフフ。私はただエロくてただ壮絶にいい女なだけの一般生徒よ? なにしろってのよ? ナニならしちゃうわよ!?」

 

 

 智が半ば条件反射で弓を握りなおし、矢の具合を確かめる。それを察した喜美も、ズドンはゴメンだとばかりに肩を竦めて降参した。

 

 『一般生徒』……喜美の言うその括りならば、いま前線に立っているノリキだってそうだ。

 生徒会でも、ましてや総長連合でもない彼には、戦場に立つ義務はない──だが、立とうという強い意志があるなら、彼はそこに立つことができる。その権利が彼にはある。

 

 

 

 そして、その権利は……智には、ないものだった。

 

 

 

「……巫女って、損ですよね」

 

「……アンタ、いまの行動を全無視で何言ってんのよ……でもまぁ」

 

 

 ──少しは調子が戻った?

 

 と、微笑んでいる姉に……苦笑しか浮かばなかった。

 

 

 

(……敵わないなぁ、ホント)

 

「ンフフ、まあ確かに、人を射っちゃいけないって決まり本当にイジワルよねぇ。浅間の生きがいのほぼ全てを奪うようなもんじゃない。だから浅間が影撃ちなんてアサシンスキルを……!」

 

「あの、喜美ー? いろいろと、それはもういろいろと認識の齟齬があるみたいなんで後でゆっくり、ゆーっくりお話しましょうか? ね? あと私の刹那の感動を返してください」

 

 

 

 だが断るッ♪ と、喜美のテンションは何故か高い。いや、大体いつも高いのだが……いまはそれに加えて、どこか嬉しそうにも見える。

 

 智と話していた時は、ふざけはあっても、ちゃんと智のことを見ていた。しかし、そうでない時……現に今、喜美は真っ直ぐ前を……品川のほうを見ていた。

 

 

 品川──そこで繰り広げられる、戦闘を。

 

 

 ノリキはジョンソンに対し、防戦一方を強いられている。ドーピングにより打撃力・速力諸々に強化された連撃を、ただ防ぎ、ただ避け……。ノリキは手も足も出せていなかった。

 

 アデーレはダッドリーを相手取る。『武器を操る』という脅威に対し、歯引きされた槍を用いたようなのだが……現状を見るに、ガッツリと奪われていた。槍自体が巨大かつかなり重いせいか、短矢のように使われてはいないようだが……。

 

 ウルキアガはセシルを担当して、いるのだろう。セシルが浮き上がり、そしてウルキアガの歩みは遅々として……戦っているのかどうかすらわからない。

 

 

 シェイクスピアの相手は、今になってやっと登場したネシンバラだ。荒い息を直す暇も無かったのか、これから戦闘と言うには些か以上に頼り無い。

 

 

 ……四者四様。しかし、とてもではないが──どこも優勢とは言いがたく……。

 

 

 

「ンフフ、なぁに? プンプンしてると思ったら今度はオロオロ? そういうときは上目遣いでオパーイを抱えるように挟まなきゃダメじゃない! ホラこうやって!

 

 ああもう野暮ったい布はパァーッ、ズィッ!」

 

 

 またふざけてッ、と今度こそ説教フルコース(正座)をお見舞いしようとした智に向け、触し──ノン、蛇のような動きの双腕が殺到する。

 

 

 カチッ

 

 カチカチッ

 

 

 ──スルリ。

 

 

「へっ……?」 

 

 

 胸部装甲下の止め具、そして、背中側の二つを外すとあら不思議。

 

 ──上乳腹部腰背面さらしの巫女が出来上がっていた。梅組はもとい、武蔵最大の戦力を有するその双山が支えを失い、各方面の男衆のジャスティス擬音を鳴らしながら揺れること揺れること。

 

 

「きゃぁぁあああああ!? な、なにッ、なにしゅるんでしゅか喜美!? こ、こんな、ちょ、ちょっと待って、え? えええ!?」

 

 

 胸を隠せば良いの、それともお腹? いや待って背中? と、手は慌しく動き回り、二本の腕ではどう考えても隠し切れない肌色の面積に苦戦していた。

 

 ちなみに──しゃがみさえすれば、長い髪もあってほぼ全て隠せるという事実には当分気付きそうにない。

 

 

「ンッフッフッ、お尻ペタンの女の子座りまでするとはやるわね……!」

 

「やるわね……! じゃないですよ! い、いきなりなにするんですか!?」

 

 

 

 級友たちの劣勢を心配していたら、級友に服を剥かれた。

 

 この一文だけ見れば、何を馬鹿な、そんな風に冗談として笑えるのかも知れない。

 が……ここに『葵 喜美』と名前が入れば一気に真実味が増すのは、きっと日頃の信用だ。主に浅間 智を被害者とするエロ関係の。

 

 

 

「んー。あえて "なに" って理由付けするなら、そうねぇ……。

 

 『 下手にいろいろ背負い込もうとしてるオバカの邪魔しに来た』、ってとこかしら」

 

 

 「へ……?」

 

 

 ……呆ける智を気にもせず、戦場を見つめながら、姉は告げる。

 

 

「アデーレたちが心配? そうよね、見る限り圧倒的劣勢だもの。()()、どいつも負けてないし、通してもないの。わかる?

 ……アデーレなんて、あれ多分自分から劣勢になりに行ったわよ?」

 

「は、はぁ!? ど、どうしてそんなこと、を──……?

 

 ……も、もしかして、ナルゼの負け分を取り戻そうと……?」

 

 

「Jud. まぁ、取り戻すっていうよりは『あやふや』にしたいんじゃないかしら。

 

 ナルゼは実質負けていた。

 けど、相手に武器を取られたアデーレ(自分)はその副長相手に、もともとの戦闘スタイルでもないのに善戦できてる。

 でも、ナルゼとアデーレの力関係はナルゼのほうが特務だから高いわよね?

 

 ……ほら、もうごちゃごちゃしてきた」

 

 

 早い話が、じゃんけんだ。アデーレは、それを無理矢理自分を劣勢にすることで成立させている。

 当然、そんな簡単な話ではない。だが、僅かでも疑問を抱かせれば、アデーレの策は成功なのだ。完全に負けという判断がなされていない以上、勝敗を決する機会はかならず来る。

 

 

 ──そう信じ、それだけを信じ。アデーレは今、駆け回っている。

 

 

「じゃ、じゃあノリキ君は……?」

 

「耐えてるわね? 文字通り、『一歩も退かず』に。……攻撃されてるのはノリキなのに、追いつめてるのはむしろノリキよ?」

 

 そんな馬鹿な、と見てみれば──言うとおりの行動をノリキが取っている。散乱した資材を盾に、蹴撃を『いなして』間合いを埋めて──それにジョンソンは顔をしかめ、大変やり辛そうだ。

 

 

「拙僧半竜はあれ、種族的にべらぼうな荷重の中でもいけるから、自分から進んであの卵系フードファイターの相手をして自分に術式を集中させてる。同人作家とガチ作家はちょっと趣味高度が高すぎてこの賢姉にもわからないけど……不安になるのはいいけど、もう少し信じてみなさいよ。

 

 ……アンタが戦闘にまで首突っ込んだら、あそこで頑張ってる連中が頑張れなくなっちゃうでしょう?」

 

 

(……本当、喜美には敵いませんねぇ……)

 

 

 ほんの少しの言葉をかけられて、ほんの少し見方を変えただけで。不安だけだったのに、『頑張れ……!』と応援している自分がいる。

 

 

 敵わないと思い……だからこそ、脱がされたのが残念でならない。そもそも強制脱衣の意味が未だ智にはわからない。……わかったら、いろいろと常識人として終わってしまいそうな気がして、いっそわからないままでいいか、と開き直りつつさえある。

 

 

 そもそも、喜美自身が半裸なのも意味がわからない。しかも、二代と相対したときのように露出過多で──。

 

 

「……あっ、どうしましょう。わかっちゃいました」

 

「……アンタ、大丈夫? ズドンするタイミングとか無いからわかっちゃダメよ? もし脱ぐ快感がわかったなら練習するのよ!? 無意味に脱ぐと愚弟みたいに希少価値がなくなっちゃうから!!」

 

 

 

 狂言はスルーして。

 二代のときと、同じ格好。もし、あの時と同じことをしようとしているとしたら……。

 

 

(まさか『高嶺舞』の術式で、全員の足止めをしようと……?)

 

 

 少し難しいが、できないことも無い。短時間の足止めならば、むしろ効果は期待できる。

 

 ──そして、もしそうだとしたら、わざわざ品川に程近い、多摩艦首に来た理由にもなる。

 

 

「へぇー……♪」

 

「……ちょっと。何よ、そのカーチャンが『あらあらまあまあ』するときのにやけ顔」

 

「なんでもないですよーう? あ、ほら、しっかり見て応援しないと! アデーレー!頑張ってくださーい!」

 

『わわわ!? いきなり自分単品に声援がきましたよ!? あ、応援どうもですって富める者が二人も見せ付けてくるんですけどコンチクショーウ!』

 

 

 

 アデーレの叫びも──なにやら半裸で取っ組み合っている二人の姿も、ガッツリ中継されていたそうな。

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

二日間の出来事を、丸一年。
……数分の出来事を、数ヶ月。


……。


……細かいことは気にしないようにしましょう。ええ。 

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