境界線上の守り刀   作:陽紅

72 / 178
三章 刀、静観の事 【下】

 

「……いやさ? 俺も悪かったと思うよ? 『大人しくしてろー』って言われたのに大人しくしてなかったり、今武蔵に移るのがちょっと危ないのに行こうとしてたしさ? それで、みんなが『止まれー』って思うのも、わかるよ?

 

 ――だけどさ」

 

 

 向き合っているのは二人。

 堅い甲板の上にも関わらずお互いに正座であり、膝と膝の間は拳二つ分ほどしかなかった。

 

 片方はとても、それはそれはとても珍しく、唯一見える目元に 『批難』 の色を滲ませている止水だ。

 基本的に自身に何かあっても 『大体において自分が悪い』 と片付けている止水が、誰かを批難する、というのは年に一度級に珍しかったりする。

 

 

 そして、そんな止水と膝を突き合わせているのは、所在無さ気に視線を顔ごとそっぽへ向けている――直政だった。

 

 咥えている煙管から煙は上がっておらず、というよりも、とっくに火は消えているのだが……それでも、上下にゆらゆらと揺れている。

 

 

 

「……首にかかってるロープをさ? その、思いっきり引っ張るのは流石にさ、俺も危ないと思うんだよ……直政」

 

 

 ――その時に喉を痛めたのか、はたまた舌でも噛んだのか。……若干滑舌がたどたどしいのは、気にしない方向で。

 

 ちなみに、最初にリード……ではなく、首に繋がっているロープを持っていたのは正純だったのだが、彼女では止水が駆けた時に何の抵抗にもならないだろう、ということで、直政にバトンタッチされている。

 

 

 後はまあ、大体お察しの通り。

 

 

 『品川』で大規模な爆発が起こり、それに無意識に反応した止水が駆けつけようとして、飼い主役の直政が吊り上げたのだ。

 

 【止水の体重+駆け出しの速度+直政の義腕による引き=破壊力】が首を絞めに来ているのである。いや、その衝撃を考えれば最早首の骨を折りに来ているだろう。

 

 それを受けて――何故折れていないのか甚だ疑問だった。

 

 

「だ、だったら他にどうしろって言うんだい。……止めの字止めるにゃ、あれくらいしないと、その……」

 

 

 首へのダメージの追い討ちとしてか、吊り上げられた際に、思いっきり後頭部から甲板に着地している。

 その場にいた誰もが顔を顰める鈍い音が響き……今も、直政に見えない位置に、ギャグマンガのような巨大なタンコブが、名残の様に鎮座している。

 

 

 ……よぉく見れば、止水の眼にもうっすらと涙が滲んでいたりするのだが……それもどうか、気にしない方向で。

 

 

 止水が駆け出さなければそんなことはしなかった、のだが……さすがに過剰か、とも思えてしまい――直政も強く反論できずにいた。

 

 

 そんな居心地の悪い沈黙が続き――顔を反らしたままチラリと止水を盗み見てみれば、潤みを帯びた熱い眼で自分だけを見つめている男がいた。

 そして当然、自分を見ている相手を見ればバッチリ眼が合うわけで、そんな『見つめあう』などという行為は自分らしくないと視線を反らし……。

 

 

 

 

 

 ――「……眼、そらさないでくれよ、直政」

 

 

 

 

 そんなセリフが聞こえた。

 

 

 

 ……そんなセリフが聞こえた……?

 

 

 

 

 

 

 ―― … … そ ん な セ リ フ が 聞 こ え た ! ?

 

 

 

 

 

 

(え、おいおいおいおい待て待て待て待て……! 今の、と、止めの字か……!?)

 

 

 声は止水だった。確かに止水だった。

 

 ただ、なんというべきか……そう、『そういう雰囲気』の声だったことが直政には信じられなかった。

 

 

 何故このタイミングで? 脈絡とか過程とか諸々すっ飛ばして? 

 

 と疑問は尽きない。――が、事実としてそのセリフは放たれた後であり、この至近距離で聞き間違えるはずも無い。

 

 

 そんなセリフを言うような男ではない、そして、そんなセリフを言われるような女でもない。

 

 

 ――こっそりと視線を送ってみれば……当の直政から視線を外して、自分の後ろに手を回している止水がいる。

 

 そして、その止水に頭を鷲掴まれ、クレーンゲームのように引っ張り出される全裸がいた。

 

 

「えと……トーリ? なにやってんの?」

 

――「おう、腹話術式。前々から出来てはいたんだけどよ、こう、『ここぞ!』ってところが無くってさ。使ってみたけど、だーいせーいこーう!」

 

 

 止水の声で、トーリの言葉。いまの構図だと止水がトーリを使って腹話術を使っているように見えなくも無い。

 

 どうせそんなオチだろうと思った、と落胆しかけ、ふと、直政は一計を思いつく。

 

 

 

「――ったく紛らわしいさね。あとで覚えとけよ?」

 

――「悪い悪い。後で埋め合わせするから、勘弁してくれ」

 

「おし。言質とったさね、止めの字。まさか、男が二言を言ったりはしないだろうね?」

 

 

 

「……お前ら今のハンドサインなんだよ……」

 

 

 嵌められた、とうな垂れる止水と、元凶ながらドンマイと肩を叩く全裸。

 

 そんな二人を眺め――

 

 

 

 

  ――『……眼、そらさないでくれよ、直政』

 

(…………ん。まぁ、たまには悪くない、か)

 

 

 

 

 

 ――閑話休題(この話はいずれ追求するとして)

 

 

 

 

 

「……んー、おっ! おーいダムー! 今テキトーに調べたんだけど、お前の今日の運勢激悪っぽいぜー!? なになに『食難あり‐食べ物にはよー注意、ゲテモノドリンク系』『首元注意‐変な遊びは控えましょう、そのお店教えてください』『女難あり-個性的な人は特に注意! 爆発してネ!』だってよ。

 あ、ちなみにこれ浅間神社提供な?」

 

 

 止水に頭を掌握されたままのトーリがどこかの、言葉が正しければ浅間神社首謀の通神板を突き出してくる。

 ――ちなみに、閑話休題とは話を本筋に戻す際に主に用いられるのだが、見事に崩されていた。

 

 そして、梅組で浅間神社担当、というよりも当事者と言えば。

 

 

『つ、ツッコミが追いつきませんよーう!? さっきから一体なんなんですかもう! なんで私がオチ要因みたいな感じになってるんですか!? あと一応弁明しますけどトーリ君が読んでるのは私 一 切 ッ ! 関与してませんから! 大体なんですかこの『今日のしすい君のうんせー』って御指名占いは!? 私マジで知りませんよ!? でもこんな権限バリ使いの占いなん、て……。

 

 ……まさか。ちょっとお父さん!? 』

 

 

 浅間父『…………てへっ♪』

 

 

「…………」

 

 

 いろいろ物申したい。

 一瞬だけ開いてテヘペロして消えた浅間神社神主専用の通神や、絶対適当に調べてないトーリに対して、いろいろと。

 

 だが。

 

 

 食難は、終わった(と思いたい)。

 

 首元注意も、遅かった(もう無いだろう……無いよね?)。

 

 

 ……しかし、個性的な女性たちから、は……。

 

 

「……武蔵にいる限り、無理だよなそれ……」

 

 

 ――だが、どうしようも無いことを、どうにかするほうが、圧倒的に最優先なのだ。

 

 

 

 

 

「お前らちょっとくらい真面目にやれぇ!!!」

 

 

 

 

 未だ昼にもならない時間帯であるが、いろいろあり過ぎたのだろう。

 この世の全てを放り投げる勢いで甲板へと寝崩れる止水とその周囲に、個性的な女子の一人である正純が吼えた。

 

 

「今品川でナルゼが一人で戦ってるんだぞ!? 駆けつけられないにしても、その、応援とか……!」

 

「おーいおいセージュン。あそこで戦ってるの誰だと思ってんだよ? "あの" ナルゼだぜ? ――応援なんかしたら、ほもぉでひぎぃな同人に出演させられちまうじゃねぇか」

 

 

 わかってねぇなぁ、と言わんばかりの表情で正純を諭す全裸にムッとしながらも、ナルゼの相方であるマルゴットをチラリと見る。

 いつものニコニコ顔……では流石にないが、彼女はただ黙して、相棒の戦う姿を見ていた。

 

 

「いや、だが……大丈夫なのか? ナルゼは主に空戦主体なんだろ? 白兵戦なんて……」

 

 先の三河の戦いにおいて、ナルゼは武神との戦いの中で『白嬢(ヴァイスフローレン)』を失っている。スポンサーである見下し魔山(エーデルブロッケン)からの新機や予備機の配備も無い。

 

 

 ――言葉は悪くなるが武蔵の役職持ちで、今最も戦力として劣っているのが、ナルゼなのだ。

 

 

 ……もっとも。

 

 

「あー、そっかそっか。セージュンは知らねぇのか」

 

「そりゃしょうがないさね。あたしら皆、基本放課後の、しかも不定期にやってるんだ。副会長とか毎日いろいろやってる正純だと、知らなくても無理はないだろ」

 

 

 煙管に火を入れなおし、寝崩れている止水を軽く叩いて慰めながら、直政が言う。

 その言葉を聞いて正純は、また自分の知らないことなのか? と少々不機嫌になりながらも、先を促すために黙っていた。

 

 

「今の特務とか生徒会の連中で、一番古くからやってんのって誰だっけか?」

 

「Jud. 最初に始めた、というのであれば、自分とウッキー殿でござろう。それからシロジロ殿が来るようになり――中等部から浅間殿や直政殿、アデーレ殿や双嬢のお二方ら女衆が参加しだして、ノリキ殿やミトツダイラ殿が高等部に入る少し前ほどから顔を出すようになった感じでござるな」

 

 

 点蔵が昔を懐かしむように、指折り仲間達の名を上げていく。若干の例外はいるが、その殆どが戦闘系か、殆どが役職者なのは、偶然ではないだろう。

 

 その中に上げられたネイトも、ホライゾンを抱えつつ混じる。

 

 

「極東は今も尚、騎士や従士、襲名者や特例を除いて、明確な武装の所持は禁じられていますの。それは、授業においても同じこと。他国の教導院は明確な戦事鍛錬を行っていますが、武蔵では許されていませんわ。

 ……うちのクラスは体育の授業として、かなりグレーなことしているようですけれど」

 

 

 あの先生だからなぁ、と正純が僅かに考えたが、背筋が冷たくなったのですぐにやめた。

 ――そして、少しずつ少しずつ新しい情報が示され、三河の抗争から聞いている内容とすり合わせて、止水を見る。

 

 

 教導院として、戦事訓練は認められない。

 

 ……しかし、その程度の障害で、皆が現状に甘んじるわけがなく。

 

 

 

 そしてさらに都合のいいことに。

 

 彼ら彼女らのすぐ傍には、いつも武蔵最強の男がいたのだ。

 

 

 

「あー……最近だと、その日に集った皆と対一でやって、そのあとに『全員 対 俺』をやるっていうのがもっぱらだけどな」

 

 

 顔だけ、品川の戦況を映す通信画面へと向け、そう告げる止水の顔は何を思い出しているのか、かなり苦めの苦笑を浮かべている。

 

 

「ナルゼは……うん、とりあえず見てればわかる。時間稼ぎなら多分、心配ないはずだ。……それにまあ、いざとなったら、俺がなんとかするよ」

 

 

 その顔で言われても説得力がー、と反論しようとして、品川の状況をリアルタイムで表示していた通神から悲鳴が上がる。

 

 

 ……その際、止水がその視線を鋭くし、マルゴットが唇を静かにかみ締めたのだが……正純は慌ててそちらの確認をした為に、それを見ることは無かった。

 

 

 

***

 

 

 

 

***

 

 

「ゲホッ! ゴホッ、ご、ごれはいっだい!?」

 

「いたいの――!?」

 

 

 苦悶はジョンソンで、悲鳴はセシルのものだった。片や喉を押さえながら幾度も咳き込み、片や大量の涙を流しながら、突然の異常事態にただ混乱していた。

 

 

「せせせセシル!? あ、貴女一体何をしたの!? ま、まさか毒!?」

 

「ちょっ!? あんまり失礼なこと言わないでくれる!?」

 

 

 右手に持つラケットによる『打ち払い』の術式を行使したダッドリーと、そもそも後衛としてやや離れていたシェイクスピアは無事だったらしい。

 被害は、言葉を紡ぐために大きく息を吸ったジョンソンと、術式の発動の為に不幸にも飛び上がってしまったセシルの二人。

 

 

 その苦しむ二人の症状を見て、毒物か!? と青白い顔色を更に悪くするが、そうではないとナルゼは憤慨する。

 しかし、しっかりと成功したことに、満面の笑みを浮かべていた。

 

 そして続けて取り出した、フラスコと試験管の弾幕を張る。

 

 

「安心しなさいよ! ただの、カレー屋が作ってる『特選トウガラシ』の粉末を混ぜただけだから!」

 

「ささ最悪ぅぅうッ!!??」

 

 

 フラスコに入っているのは水。そして試験管に入っている赤い粉末。

 白魔術で水を一気に気化させ、擬似的な水蒸気爆発を起こし、特選トウガラシの粉末に、ほんの少しの指向性術式を纏わせれば完成だ。

 

 吸い込めばジョンソンのように、喉や肺に焼けるような痛みが走り。

 目に入ってしまえば、セシルのように目を開けていられなくなる。

 

 

「でで、でも! それでもまだ二対一! 仕掛けさえわかれば空間ごと『打ち払い』をかければいいだけのことよ!」

 

「フフフ! 慌てないでくれる? (トウガラシ)はまだまだいっぱいあるから、ゆっくりしていきなさい!」

 

 

 ナルゼは笑う。不敵に、笑う。

 

 大国の役職者、それも上位の四人を相手取り、苦戦するどころか状況を優位に進めている。……その紛れも無い事実が、今のナルゼには、なによりも欲しいものだった。

 

 

(……戦える……ッ!)

 

 

 白嬢が無くても私は、足手まといなんかじゃない――と。ただ一重にそれを、証明するために。

 

 

 優雅とは程遠い。卑怯卑劣と罵られる手段をとっている自覚もある。だが、白嬢が無い今。空戦力としてみてもらえない今、そんなことに拘っている暇はないのだ。

 

 

 

(でもって、二人がまともに動けない今、一気に畳み掛けるチャンス……!)

 

 

 ゆっくりしていけ、と自身で言っておきながら……ナルゼは早々に勝負を決めんとしていた。

 

 

 だが、トウガラシの被害を逃れた二人。その中で、実質ナルゼの相手をするであろう一人の、役職を完全に失念していた。

 

 

 ロバート・ダッドリー。『女王の盾符(トランプ)』の一人であることは先刻の紹介にて御存知いただけているだろう。

 

 

 

「あああ、あんまり『 副長 』を、なめるんじゃないわよぉぉぉお!」

 

 

 総長連合、その副長。

 武蔵でいうならば、二代に等しい立場にいる彼女は、長く、英国が長……エリザベスの治世を支え続けたのだ。

 

 

 そんな相手を、焦り、急ぎ……ダッドリーが左腕に装備している歪な、五指の鍵爪を有する白手甲に注意すら払えなかったナルゼが相手をするには、些か以上に、手強すぎた。

 

 

『マズイ!? ……下がってナルゼ君! 英国の聖譜顕装だ!』

 

「それがなによ!? これで決めれば……!」

 

 

 良いだけ、と言葉を紡ぐ前に。

 

 ナルゼが投げようとしたフラスコも試験管も、そのどちらもが砕かれた。

 

 

(ッ!? 今の、短矢(ボルト)!? でもボウガンなんてどこにも……)

 

 

 視界の隅に辛うじて見えた、智が使うような極東式の弓ではまず使わない形状の、短い矢。知識として知っているが、今この場にいる敵対者のどちらも、そんな物を構えている様子はない。

 

 

『な、ナルゼ! 動かないでください! 貴女、今囲まれてます!』

 

 

 

 ネシンバラに続くように、智の通神が開いて、悲鳴に近い声で告げる。

 

 そこで初めて……ナルゼは周りを見渡した。

 

 

 

 ――数十はあるだろう金属製の短矢。それが宙に浮き、ナルゼを全方位から囲むようにして、その鏃を向けている。

 

 

「っ!?」

 

「ふ、ふふふ。ちちょっと、指示が遅かったわね? ……わわわわかっているとは思うけど、変な動きをしない事ね。じじ自分たちの仲間を見捨てたくはないでしょう?」

 

 

 ――暗に、『動けば容赦なく撃つ』と言っているようなものだった。

 

 

 ……戦えている、と。優位に運べていると。

 

 だが、それを意識しすぎて、他に目が行っていない。周囲の認識を疎かにするなど、空を往く者にあってはならないこと……完全に、ナルゼの失態だった。

 

 

 

「せせセシル! そ、そろそろだ大丈夫よね!?」

 

「Mate...結局私の、ゴホッ。……心配はしてくれないのだね最後まで……」

 

「まだひりひりするのー……でもだいじょうぶなのー!」

 

 

 そして、無効化していた二人も復帰してくる。まだ完全に、とは言えないが……それでも数の上で四対一の振り出しに戻る。しかし、実質英国側が王手をかけている状態になっていた。

 

 だが、決定的な一手は出さない。

 ナルゼを完全に捉え、その生殺与奪を完全に握り、まるで……。

 

 

「……何が、望みよ……ッ!」

 

「ふ、ふん。じじ自分が『人質』だということは理解しているみたいね? かかか簡単なことよ――む、む武蔵には我が英国のしし支配下に入ってもらうわ……! 今後全ての決定権をこちらに渡してもらうってことよ……!」

 

 

 ――ふざけるな、と思わず叫びそうになるも、なんとか抑える。

 

 まず以ってして、そんな要求が通るはずが無い。一国が一国の全てを奪うと宣言したのだ。――だが、そのまず以ってして通るはずの無い要求が、通ってしまうかも知れないのだ。

 

 ナルゼという、たった一人の人質がいるだけで。

 

 

 ナルゼを見捨てれば、『仲間を見捨てた』と悪評を各国から受けるだろう。

 

 逆に隷属を受ければ、三河での決起が、そして全員の覚悟の全てが、水泡に帰す。

 

 

 

 

 

『アッハァ――ン! って感じで俺、登☆場ッ!』

 

 

 

 

 

 ――ちなみに、何かしらのミスではないので、あしからず。

 

 緊迫しているその場面。武蔵・英国間の今後が、いざ決まろうとしているときに、大画面の通神に、等身大の全裸が割り込んだ。

 

 

『ったーくナルゼぇ! おめぇなーに一人でハイッちゃってんだよー、あれか!? 王子様の助けを待つヒロイン願望か!? いいなそれそこ代われ! 今ウィッグつけてくから! ……コカンに!』

 

 

「…………ひょ?」

 

 

 さらにちなみに、ダッドリーである。

 いきなり全裸で現われ、いきなり全裸で説教(?)をしだし……慣れていない者は放心してもおかしくないだろう。

 

 

「……なんではだかなのー……?」

 

「ゆ、You.見事な全裸だ……! そうとも、生きとし生ける全てのLifeは裸で生まれ出もの! それこそが神秘! ……そ、そういう意味とか意図があるのだろう?」

 

『はぁ? ……おめぇ、頭大丈夫か? 医者いけよ医者。

 まあ変なのは置いといて、あとで一回反省会するぜ全員で。ダムに頼らねーって言いながらさっきも今もダムに頼りっきりじゃねぇか。ってことで、おめぇらも一回帰ってくんね?』

 

 

 コイツこそ頭大丈夫なのだろうか、という英国組の視線は尤もなものであって……なんとか衝撃から回復したダッドリーが、いきなりの全段階ガン無視の全裸の要求に激怒した。

 

 

「……。はっ!? ああ貴方こここの状況が……!?」

 

『あ"あ"ぁ!? それがどーした! んなもんちょっとうちのナルゼがヤンチャしただけだろーが! ……それによ、 ()()()()()()()()? くすぶってんの、何もそいつだけじゃねーんだぜっ♪』

 

 

 言うだけ言って、後は何故か踊り出す全裸。

 

 何を言いたいのか、何をしたいのか。

 

 

 そして、"そうしよう" と意図していたのかどうかもわからないが――。

 

 

 『 王 』は、時間を稼いだのだ。

 

 時を稼ぎ、タイミングを計らせた。

 

 

 

 

 ―― 拙 僧 … … !

 

 

 その声の主は、先の抗争で敵方の主力を討った。だが、彼の立場が、その先を許すことは無かった。後は裏方に徹するしかなく、感情を、その激情を煮えたぎらせていた。

 

 

 ――落下速度では遅い。故に、吼える。更に更に。

 

 背に乗せた二人には辛いかも知れない。が、男なのだから気合を見せろ。

 

 

「――爆ッ! 進ッ!!」

 

 

 ――武蔵の半竜。キヨナリ・ウルキアガが、高らかに吼えた。

 

 

「ああ新手!? ……なななら!」

 

 

 ダッドリーの行動は簡単だ。敵が増えたのなら、減らせばいい。そして、確実に減らせる一人は、この場合ウルキアガではなく、王手をかけているナルゼだ。

 

 短矢を殺到させる。致命傷は避け、手足に縫い付けるように。人質は多いほうがいい、と判断したのだろう。

 

 

 ――尤も、そこまで考えて殺到させた矢群は、ナルゼに届くことは無かった。

 

 

 ……現われた新手である、ウルキアガ自身によって。

 

 

「ぬぅ……ッ!」

 

「は!? う、ウルキアガ!? アンタなにやって……!?」 

 

「……それはっ、こちらのセリフだ! バカ者ッ!!」

 

 

 覆いかぶさるように、全身の甲殻を盾にしているウルキアガが、強く声を荒げる。普段教室などで馬鹿話をしている三馬鹿の一人とは思えないほど、その声は真剣で、そして――確かに、怒っていた。

 

 

 

 

 

 

「未だ気付いていないのか!? 今貴様は、『最深の守り』を受けているのだぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ――呼吸を、忘れた。

 

 そして、覆いかぶさる白甲の隙間から微かに見える、全裸が踊りを止めた通神その後ろに立っている、緋衣を、見た。

 

 ウルキアガの『仮説』に、反論も――否定もしない、その刀を。

 

 

 

 

「なん、で……?」

 

「貴様は今まで何を見ていたのだ……ッ!? あの男が! 戦地に一人でいる友をただ眺めていると思うのか!?」

 

 

 ……思わない。

 

 無理をしてでも、無謀をしてでも、無茶をしてでも。

 ……駆けつけ、その盾となり、鎧となり、刀として、打ち払うだろう。

 

 

「…………はは、じゃあ何……私は、『一人じゃ戦えない』って、そう思われたわけ? 信じて、もらえなかったってわけ……!?」

 

 

 その言葉に、ウルキアガは小さく、これだから女は……! と、殺到し続ける短矢を防ぎながら、告げる。

 

 

「ぐぅっ、信じて、いたのだ……ッ! ()()()()()()()こそ、奴はここにいないのではないかッ!」

 

 

 あの無茶したがりが、多少危険があるという意見がある程度で、果たして収まるだろうか。

 ――収まってくれていれば、今、止水の首にロープは繋がっていないだろう。

 

 

 

「……貴様はそこで、頭を冷やしていろ。ここからは――」

 

 

 

 

 

 

 ――男の、戦場だ。

 

 

 ウルキアガに続き、降り立った影は二つ。

 

 

 

 

 ……武蔵が英国に至るまで、あと、わずか数分。

 

 戦場は、苛烈を極めんとしていた。

 

 

 




読了ありがとうございました!


最近スランプなのか、上手く纏められなくなってきた感が……。

ここらで一つ、番外編とか交えてみてもいいでしょうか……?
武蔵の至宝様で……短編上下とか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。