境界線上の守り刀   作:陽紅

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十八章 刀、未だ世の『鈍』 【下】

 

 ――夕暮れが夜へと移り往く空に、それは現われた。

 

 

「シロくん! 取り舵15! 高度40下降!!」

 

「Jud.!」

 

 

 山間から、航空域ギリギリの高さを滑ってくる輸送艦。様々諸々の項目は武蔵に登録されているが武蔵が公的に所有しているものではない。

 

 ――艦底に墨字にて、『べ』の字を丸で囲んでいる。

 

 

「はーっはっは! 迎えに来てやったぞ金ヅル共! 今日今回に限り、特別に!

 

 

 ……『半額』で乗せてやろう感謝するがいい!!!」

 

「「「「「金取るの!?」」」」」」

 

 

 

「当たり前だ!」

 

 

 ガビンッ! と聞こえてきそうな一同の衝撃を他所に、丸べ艦の甲板上には地摺朱雀が網を構えて陣取っていた。少しでも艦の機動力を上げるためだろう。最低限の装甲しか装備していないので直接戦闘はもう出来ないだろうが、武神の力だけが今は必要なので大きな問題ない。

 

 

 

「……やれやれ。文字通りで現金な奴さね……あれのどこが冷面なんだい」

 

 

 

 ――その肩に陣取る直政は、戻ったシロジロの『らしさ』に、苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 ……止水が死んだかもしれない、と一報が届いたとき――シロジロは何も言わず、ただ一度、思い切り壁を殴りつけていた。それでもなんとか冷静を装い、電撃撤退――凱旋のための用意を続けるあたりは冷静なのだろう。

 

 

 ……そして、仲間が全員無事と分かった途端、あのテンションである。

 

 

「えっと、マサもシロくんのこと、言えないと思うけどなぁ。……前髪。まだちょっと濡れてるよ?」

 

 

 こっそり個人通神で教えてくれるのは、ハイディの優しさだろう。それを聞いてバツが悪そうに煙管を吹かす直政だが、ハイディの指摘どおりに前髪がまだ少し湿っている。

 よく見れば、暗くなってきているため若干分かりづらいかもしれないが、直政の目元も微かに赤みを残している。

 

 

 ……甲板上に、申し訳程度についていた散水栓の水で乱暴に顔を洗ったのだ。鏡なんて便利なものもないし、ましてやタオルの類だってない。

 

 

 

「……なぁ、ハイディ――止めの字には、その……内緒にしといてくれないかい?」

 

「うん。Jud. ……それじゃあ、マサもシロくんのこと。皆には黙っててあげてね? 私個人的には家に帰って赤くなった顔を片手で隠してるシロ君でドンブリ三杯いただきます♪なんだけど」

 

 

 直政はハイディの小さなお願い(後半のノロケはガッツリ無視し)に、直政は"元より言いふらす趣味はない"……とは言わない。

 ――せっかく商人相手に、殆ど無料で取引できる機会なのだ。自分から態々不意にすることもないだろう。

 

 

 

「直政っ! いまだ! 収穫しろ!」

 

「あい、よっと! 漁業開始さね!!」

 

 

 地摺朱雀により投じられたのは、建築現場で用いられる落下物防仕様のネット。

 

 ――迅速な撤退にはコレが一番なんだよなぁ、というどこかの学長のわざとらしい呟きから急遽繋ぎ合わされた特別仕様のネットに、『魚』に例えられた一同が殺到する。

 

 

 ……タイミング的に見ても、撤収できるチャンスはこの一度きりだろう。しかし負傷者らしい負傷者がそもそも居るわけもないので、最後のもうひと踏ん張りと、全員が自分の足で走り、自身の腕でネットを上っていていく。

 

 

 

「本当、良いタイミングですわね、直政」

 

「Jud. あたしゃ目立つ役目は趣味じゃないからね。……けど、裏方だからって手抜き仕事はいかんだろう?」

 

 

 銀鎖で誰よりも早く乗船したネイトが、裏方の大切さを知っているからこそ裏方に回るのだと言外に告げる直政に苦笑を向ける。

 

 

「――泰造爺たちが頑張ってくれてるから、武蔵そのものももう動き出してる。それにあたし等が合流して一気に戦場からオサラバ、ってのが大まかな流れさね」 

 

 

 義腕にて地摺朱雀を操りながら、煙管を一息。

 

 煙に隠れるように向けた視線の先には、未だ処刑場に居てホライゾンを背負っている止水となにやら悩んでいるトーリ。

 

 

「……なにをやっていますの我が王は……?」

 

「大方、目の前にあるもう一つの大罪武装が惜しいんだろうさ。何せ……まあ、『アレ』だろ?」

 

 

 さすがに直接言葉にするのは直政でも恥ずかしいらしい。濁された言葉の意味を正確に理解し、それは……と想像したのか妄想したのか分からないが、ネイトも顔を赤くして視線をそらす。

 

 

 

「ひ、引けぇー! 男衆ぅ! アデーレ殿の機動殻を力の限り引けぇ! ってああああ! 絡まったでござる! ……っていうかトーリ殿! そんなところでなにやってるでござるか!? 早く撤退を!」

 

 

「だって、だってよう点蔵……っ!! これ逃したら、いつになるかおめぇ、わかんねぇんだぜ……!? あんな事とかこんな事してるのにホライゾン真顔で「で、何をなさっているのですか?」とかしてくるんだぜ、きっ……ん、あれ? それはそれで悪くなくね……?」

 

 

 そんなトーリを見て、一同は切実に『後ろ! 後ろぉ!!』と言ってやりたい衝動に駆られる。

 

 ホライゾンの眼が……ああ、絶対零度の冷たさを宿しているではないか。不幸なことに何も悪くない止水は、そんな彼女を背にしているせいでその冷気を零距離で受けるハメになっている。

l

 

 

「止水様。『戦場で不慮の事故とはよくある』と、ホライゾンは店主様より聞いたことがあります。ですので、これもそんな感じの幸いな、いえ、不幸な事故的な感じで処理していただきましょう。

 

 ……というわけで、ゴー」

 

 

 

「おーいおいおいホライゾン! ダムが、相棒の俺放置してそんなことするわけが……」

 

「Jud.」

 

「あ、相棒ぉお!!!??? 待ったマジ走り出すな待って置いてかないでぇぇええ!?」

 

 

 

 冗談ではない。ふざけるなんてものでもない。処刑場から降りて本当に駆け出した止水の後ろ腰に、トーリは決死のダイブでなんとかしがみ付く。ホライゾンはそれに巻き込まれないように、刀の鞘を取っ手足場にして器用に移動していた。

 

 

 

 

 

「せ、聖下! このままでは……!」

 

「……」

 

 

 そんなドタバタ光景を前に、インノケンティウスは少しの間、呆然としていた。

 

 ――完璧だった。幾重にも張り巡らせた策は、満足のいくものであったはずだ。

 

 

 しかし、それが今、目の前で破られようとしている。

 

 

(なるほど……()()()()()……!)

 

 

 思い出すのは数十年前だ。インノケンティウスと極東の因縁の始まりである、酒井 忠次たちの時代。煮え湯を飲まされたあの時と、勝利を確信していたにも関わらず敗れてしまったあの時と、今の状況は酷似している。

 

 

「どうせ戦うなら強いほうが楽しめるよなぁ……おい――っ! ……聞け!! まだ勝負はついてはおらん! 極東・武蔵を此処で止めるのだ!! 

 

 『栄光丸』は発進準備! 他艦は先行して武蔵の背後を追え!

 

 三征西班牙(トレス・エスパニア)の全予備艦も武蔵を押さえろ! ……お前たちの大罪武装を取り戻すのだ!!!

 

 ――地上に残っている者は俺と来い! 空に手柄をむざむざ明け渡すことはなかろう!!」

 

 

 

 インノケンティウスは大罪武装を、高く掲げる。

 

 此処に集えといわんばかりに高く。そして、突き進めとばかりに、振り下ろした。

 

 

 

「ゆくぞぉぉ!!!」

 

「「「――Tes.!!」」」

 

 

 

 

 

「……向こうも、気合十分っぽいな」

 

「オッサンが先頭切ってんのかぁ。結構やるなぁ、あのオッサン……あ、ダム。アイツら撃ってくるぜ」

 

 

 あいよ、と。肩に担いだトーリからの報告とほぼ同時に横に跳ねる。その直後にそこを銃撃が通り過ぎていった。

 

 

「止水様、先ほどのように払えないのですか? 正直、相手方に帰還コース狙い打たれそうです」

 

「うーん、さすがに姫さんとトーリ背負ってるからなぁ……」

 

 

 バランス的にも速度的にも――問題はない。ないのだが、それなりに刀を振り回すため、二人が絶対安全と言い切れない。そもそもトーリが右肩を占領してしまっている今では、まともに刀を振り回せない。

 

 

「……トーリ、みんなの回収どんな感じだ?」

 

「おう? んー、アデーレが網ごと朱雀に巻き上げられてるとこだな。……っ! そ、そして新発見したぜダム。パーツ外してる朱雀がかなり……エロいっ!」

 

 

 ――チラリと見上げた艦上の朱雀は、確かに女性型らしい細く引き締まった、しなやかな体つきをしている。

 

 が、確かにそうだとしても、男の本心的にそう感じてしまったにしても。

 

 

「……」

 

 

 つい先ほど、告白した女子の前で見せたり聞かせたりするものではない。

 

 さて。ホライゾンが明らかに軽蔑の視線をトーリに向けていることは放置して、止水はもう一方……正純のほうを見る。

 

 丸べ艦から遠く、しかし武蔵に近いというわけでもない微妙な位置にいる彼女達。だが、彼女たちの傍にはウルキアガが居る。彼がいてくれたおかげで機動力云々の心配は要らないだろう。現に、もうすでに飛び立った後のようだ。

 

 

 つまり、後はこの三人が離脱できれば一先ず。ということ。

 

 

 

「急ぎなよ止めの字! あと悪い、網が使えそうにないさね!」

 

 

 アデーレの機動殻が――ではなく、一度の使用でかなり複雑に絡まってしまったらしく、すぐさまの再利用は出来ないらしい。誰ぞの力を借りるか、止水自ら跳ばなければならないようだ。

 

 

 

「……おいダム、届くか?」

 

「届くだろうけど、跳んだ後に間違いなく撃たれるよなぁ」

 

 

 ……だから。と言う言葉は二人はイマイチ聞き取ることができなかった。

 

 

「……おい。アイツまさか」

「Jud. やるつもりでござるな。いやはや……お二人にはマジ同情するでござるよ」

 

「私一度やられたことがありますけれど、中々快適でしたわよ?」

「あ、第五特務もですか? 実は自分も何度か。建築現場のバイトしてるときにたまにやってもらうんですけど、慣れると結構楽しいですよねあれ」

 

 

「……なんでしょうか。とてつもなく嫌な予感がします。止水様、ホライゾンはただちに第二案の思考を猛烈に所望いたします」

「ホライゾンに以下略! おいダム! 考え直せって! ――てめぇまさか考えるの面倒になって簡単な方法を……!」

 

 

 ――手は、二人の腰をそれぞれ『掴み』。急加速、のちの急制動。さらに全身を大きく『しならせる』ことによって生まれる、力。

 

 

 

 

 

「……しゃべると舌かむぞ?」

 

 

 

 

 その力の名は、投 擲 力 ……!!

 

 

 

 

 

 

「た、たぁ~まやぁぁあああ!!!???」

 

「結構余裕ですね、トーリ様。

 

 

 

 

 

 

 ……で。これ、誰が受け止めてくれるのですか?」

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

「あ……」

 

 

 

 

 つぶやいたのは、止水だった。

 

 

 

 

 

「な、直政殿!」

「む、無理言うさね!? 武神でんな精密な力加減できるわけないだろ!? やったらモザイクもん……ミト! アンタやりな! 王と姫さん守れよ騎士だろ!?」

 

「この重武装でやったら全身打撲ですわよ!?「鎖があんだろう!?」 はっ! そ、そうでした! 銀鎖! 『 …変態はイヤー 』 ちょっと銀鎖!? 」

 

 

 着弾までまもなく――というときに、その二人は現われた。

 健全なインキュバス・イトウケンジ。そしてスライム。

 

 

「――皆退いてくれるかいっ? ……いくよネンジ君! 放水開始!!」

 

「真打登場――水分過多! 表面張力最大展開! ……見るがいい粘着王究極奥義!!」

 

 

 ドバン! と一気にでかくなった薄桃色の牡丹餅……失礼ネンジの体のど真ん中に、トーリとホライゾンが突撃した。

 

 

「HINYARIクッション・XXLサイズ!!」

 

 

 ネンジが上手く体を捻り、押し出される二人を上へと上げ、もう一度自分の体で受け止めて、事なきを得る。

 

 ――直後に飛び上がってきた止水に、ホライゾンが鉄拳を叩き込んだのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「なぁ、姫さん機嫌直せって。……むしろ姫さんの拳でどうにかなってたら俺なんにもできねぇじゃん」

 

 

 鳩尾だった。渾身の一撃でもあった。

 

 ……それでもケロリとされて、ホライゾンは大変機嫌ナナメのようである。

 

 

 

 

 丸べ艦の艦上にて、それぞれが思い思いの格好姿勢で休憩していた。

 警護隊は流体で補われていた分の疲労が一気に来ているのだろうか、特に消耗が激しい。梅組の面々もそこまで行かないものの、度合いの差はあれど疲れているのは目に見えている。 

 

 

「でもまぁ、これであとは武蔵と合流してスタコラサッサ! おう皆お疲れ! よくやってくれたぜ! うん、終わった終わった!!」

 

 

 王らしく、みんなの労をねぎらっているのはトーリなのだが……何故か、誰の顔を見るわけでもなく、キョロキョロと何かを探している。

 

 

 

 そこに現われたのは、シロジロとハイディだ。

 

 

「……おい馬鹿。貴様が変なフラグを意図的に立てた所為で私たちがピンチだ。どうしてくれる」

「んお、早いなシロジロ。で何があったよ?」

 

「んーと、簡単に説明すると、私たちと合流するタイミングで武蔵の前後を三征西班牙(トレス・エスパニア)の予備艦群に挟まれそうなの。この艦にも武蔵にも対艦砲なんてないし、智ちゃんだって一人しかいない上に、相当消耗しているみたいで……」

 

 

 困ったように笑いながら、本当に困った内容を告げるハイディ。不幸中の幸いは武神がいないらしく、純粋な艦砲らの攻撃だけが問題だ、とのこと。

 

 

「おーいネシンバラ。軍師的にはどういう案があるんだ?」

 

『Jud. あるにはあるよ。ただ、実現がちょっと厳しいんだ――それでも聞きたい?』

 

「とりあえず言ってみ? 笑うか嘲笑うかはその後に決めてやんよ」

 

 

 それ、結局笑ってるよねキミ。とため息を一つ。

 

 

『……【悲嘆の怠惰】だよ。本多君――槍のほうのね?――彼女が立花 宗茂から大罪武装を取り返してくれたんだ。ソレを……』

 

 

 通神越しのネシンバラが、視線をトーリの隣にいる、ホライゾンへと向ける。

 

 

「……私、ですか?」

 

『Jud. 他の使用者ならいろいろ制限があって、十全使い切れるかどうかだけど……正式な所有者であるキミなら、十全とは言えなくても、キミが耐えられるだけの力を出すことが出来るはずだよ。幸いにも『悲嘆の怠惰』は剣砲型だから――ある程度狙って撃つことが出来ればいいんだ。難しい技術もいらないだろうし』

 

「待てネシンバラ。貴様聞いていなかったのか? 敵は武蔵の前後。二手に分かれているのだぞ」

 

『もちろん聞いてたよ。だから、彼女に撃ってもらうんだ。……二度、ね』

 

 

 出来るか否か、と問われたら――可能性がある、と答えよう。

 

 武蔵の艦上を移動すれば時間がかかるが、今は速度の出せる丸べ艦に乗っている。どちらかを砲撃した後、そのまま丸べ艦は最大速度、武蔵が逆噴射で時を縮め稼ぎ、残る一方を第二射で――。

 

 

「――問題は、ホライゾンがそれに耐えられるかどうかさね。アンタ等も見てたろう? 八大竜王の一人だって一発で相当消耗していたんだ――そんなものをもしかしたら『横薙ぎ』にぶっ放す必要があるんだ。

 

 ……正直に言えば、第二案を要求したいね。あたしは」

 

 

 

 しかし、時間がないという事実もある。直政の言う第二案を今から募り、その上で詰めるなど――。

 

 

 

 

「……なあ姫さん。大罪武装だけど……『一発』なら、確実に撃てるか?」

 

 

 

 声を上げたのは ――皆がそれに歯噛みした―― 止水、だった。

 

 

「……止水様も聞いておられましたか? ネシンバラ様のお話曰く、ホライゾンが二度ぶっ放す必要が――」

 

 

 でも、二度撃てるかどうかが分からない。そういう話をしていたはずだ。

 

 

「それが危ないって話なんだろ? ……正直、俺もそろそろ限界っぽくてさ。何とか流体でいろいろ補填してるから、ギリギリ動けてるけど、これ以上何かしたら、多分だけど倒れてしばらく使い物にならなくなる」

 

 

 

 本当なら、その二撃分を代わってやりたい。だが、それがどう足掻いても、出来そうにない。

 

 ――だから。

 

 

 

「……一撃分は、俺が何とかする。……してみせる。だから姫さん。もう一撃は、絶対に何とかしてほしいんだよ」

 

 

 

 

 ……人間は、その血液量の1/3を失えば命の危険に至り、半分を失えば心肺停止に陥るといわれている。

 

 今の彼が、どれだけの傷を負い、どれだけの血を流しているのかは定かではないが――ネイトの鼻にして、危険なんてレベルは超えている、と言わせる状態である。

 

 

 

『……手はあるのかい?』

 

「前の()()に比べたらずっと楽だぜ?」

 

 

 そういえば、と思い出す。

 

 件の三機の武神は、武蔵の特務乙女組が相手にしたものの……最初に武神の相手に名乗り出たのは止水だ。遠方の敵に対し有効かつ、武神を撃墜するだけの威力を持つ技があるのだろう。

 

 武神より動きも圧倒的に遅く、その上()としても大きい戦艦ならば、容易いかも知れない。

 

 

 

『……どうする? 葵君。最終決定権は譲るよ?』

 

「……おめぇ嫌な役だからって投げたろ? だけどこれ、俺の役目だな。ホライゾン、止水。いっちょう、頼むわ!」

 

 

「ホライゾンは未だ賛成していないのですが、ぶっちゃけ雰囲気的に、断れそうにありませんのでしぶしぶですが、Jud.」

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の最後。その策は定まり……そして、各々が、それぞれの配置に就いていく。

 ――武蔵をその視界に入り、その状況をより理解する。

 

 後ろに回った艦が五。前が三の計八艦。前後で艦の形状が違うのは、連携を気にしてのことだろう。

 

 

 

 

 

 ――丸べ艦の艦首に立ち、荒れる風に緋衣をはためかせ。

 

 そんな、『敵の数』などという些事を、止水は捨て置いた。

 

 

 

「……《変刀姿勢・戦型二番》――おやすみのところ悪いが、たたき起こさせてもらうぜ? 『(なまくら)』……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【――ふぁあ。……いぃや、さすがの俺も起きてるぜ? 兄ちゃん。まぁ……面倒臭いことを前に……狸寝入りたいけどな】

 

 

 ……どこまでもどこまでも気だるげな、覇気の一切をどこぞに忘れてしまった男の声は、無理矢理起こされたこと以上の不機嫌に染まっていた。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!!

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