境界線上の守り刀   作:陽紅

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十八章 刀、未だ世の『鈍』 【中】

 

 

 

 

 椅子に座ったまま手でテーブルの高さを確認し――そしてその手を拳の形にして振り上げ、即座に……勢いよく振り下ろす。

 

 

 ……その行動とったのがオリオトライならば、紅茶にブランデーでも入れすぎて(ブランデーに紅茶でも可)酔っぱらったか? と呆れるものだろう。

 

 それ以外でも、同じ場にいる喜美や智であればストレスの発散――この場合は何も出来ない自身に対する苛立ちの解消……になるかどうかは分からないが、そう取れる。戦場にいるネイトであれば、机が割れないかの心配さえするかも知れない。

 

 

 

『 ……へーき? 』

 

 

 

 しかし、そんな行動を……梅組、いや、もしかしたら武蔵の誰よりも似合わないだろう鈴が行ったとしたら、どうだろうか。

 

 

 誰かがそれに気付いたときにはもう遅く、武蔵が止めに入ろうと一歩を踏み出したときには、もう既に鈴の手と天板はぶつかり合い、それなりの音を立てた後だった。

 

 

 ……女の子の手だ。それも、殴る訓練など一度として行ったことの無いだろう鈴の。その威力は精々机の上のカップが微かに揺らした程度で、殆どの衝撃は鈴の手に返ったのだろう。……音からして、相当痛いはずだ。

 

 

 心配したのだろう黒藻の獣達が、机の端によって鈴の手、そして鈴の顔を交互に見ている。

 

 

「鈴様……問題ないと判断いたします。止水様は――止水様は、必ずお帰りになるはずです。――――以上。」

 

 

 武蔵は、押し黙ったままの鈴のその行動を『哀しみを紛らわせるためのもの』だと判断した。痛むだろう手を両手で包み込み、自分の言った言葉を自身にも聞かせて――処刑場を見る。

 

 

 

 

 

「ちが、うの……っ」

 

 

 俯いた鈴から発せられた言葉は――武蔵の励ましに対する同意でも、ましてや彼女の行動に対する感謝でもなく、なんと否定の言葉だった。

 

 

 

「鈴、様? ……これは……」

 

 

「止水、君、の『 術 式 』……っ!」

 

 

 

 

 

 ――私は、悲しんでなんかいない。

 

  なぜなら、『彼が生きていること』を疑っていないのだから。

 

 

 

 ――私は、痛くなんてない。

 

  なぜなら……彼が、いままでどおり、守ってくれたのだから。

 

 

 

 顔を上げた鈴は嬉しそうに、興奮を隠し切れないように。武蔵の手から『微かな緋炎を上らせる手』を皆が見えるように掲げる。

 その意味を即座に、そして正確に理解した武蔵は、すぐさま通神を通してその様子を武蔵各所、戦場随所に伝えていく。

 

 

 ――今回の抗争において、まず間違いなく最大級の吉報であろうと確信しながら。

 

 

 

 

「……あら。こうして見ると結構その緋炎って、綺麗な色してるのね」

 

 

 夕焼けの茜が次第に夜の紺に染まっていく中で、その色合いは不変。本物の炎のように熱など無いはずだが――微かに、暖かい気がした。

 

 

 そしてその緋炎は、鈴が受けた痛みが、全て奪われたという証拠。

 

 ……それを見るたびに悔しくて、申し訳なくて堪らなかったが――もしかしたら、その緋炎を喜びをもって初めて見た瞬間かも知れない。

 

 

 

 ――その緋の炎こそが、彼がまだ生きているという、何よりの証拠なのだから。

 

 

 

「~~~っ! 皆見ました? 聞きました!? 止水君は生きてます! 確実に彼は生きてます!! あ、でも彼が戻るまでその場を崩さないでくださいね!? いまのその処刑場の特殊な現状か崩れたらパァですらからねいろいろと!!」

 

「……浅間君、それボクの仕事じゃ――まあいいけど。それにしても、やっぱり向井君ってすごいよね。止水君の加護の『深さ』を逆に利用した、生存確認とか。……誰も思いつかないよ。っていうか、こんな状況でよく冷静にそこまで……」

 

 

 

 なにやらテンションメーターが振り切れた智が、処刑場に居る本隊へ向けて叫ぶように指示を飛ばす。

 ……それは本来軍師を任されているネシンバラの仕事であるにも関わらず、だ。

 

 

 智にその役目を取られて手持ち無沙汰になったネシンバラは、わからなくもないその興奮に苦笑して、冗談一切無しの賞賛を鈴に送る。

 

 

 

 鈴だからこそ――守り刀の加護を受ける武蔵の住民の中においても、たった三人しかいない『守りの最深度』を持つ鈴だからこその確認方法。……同じくミリアムや正純も候補に挙がるが、"全員へ通達する"ということを考えれたら、指揮所――武蔵の直ぐ近くにいる鈴が適任となるだろう。

 

 

 

 事実、鈴の行動で『信じてはいたが不確かな拠り所』が、『確固たる証拠を持った証明』に代わり――眼に見えて前線の士気は戻っていた。それが、どれだけ難しいかを知っているからこそ、余計に鈴が凄く見える。

 

 

 

 

 ――そんな感想を持つネシンバラを筆頭にした一同だが……鈴は首を振る。武蔵の慰めに続き、なおも、否定する。

 

 

 

「生存、確認じゃ、ない、よ?

 

 え、えっと、ね? 多分、私、と、ポークウさん、だけ、知ってること。なんだけど……」

 

 

 

「……ねぇ先生。愚弟だけじゃなくて鈴にも嫉妬ファイヤーしていーい? 私が儚げに愚衆を励ましたの一気に無意味になったわよねこれ? しかも『私とあの人のヒ・ミ・ツ♪』なんて無いわよ私。ねぇどうなの?」

「おーし喜美ー。すこーし黙りましょうねー? あ、鈴は続けて続けて」

 

 

 

 では話を戻して。――さて。つい先ほど、鈴が『止水が生きていることを疑っていない』とお伝えしたのだが――。

 

 

 果たして、生きていると確信しているのに、わざわざ『生存確認』など行うだろうか。

 

 

 

 自分のせいで止水が傷つくことを何よりも嫌がる鈴が、そんなことをするだろうか。

 

 

 

 ――当然、答えは『否』である。

 

 

 

 

「止水、くんね? 場所、とか、分かるの……後悔通りのそば、だと、誰が、とかも……だから」

 

 

 

 思い当たる節は多い。多過ぎると言ってもいいだろう。

 

 

 

 正純が空腹で倒れた際、駆けつける人物は決まっている。

 

 鈴が人気の無いところで転んでしまった際、跳んでいく人物も決まっている。

 

 

 

 

 

 ――『通りの主』。そう呼ばれるほどにその()()、もしくはその通りのすぐ近くにいて、武蔵を守り続けた双主の片割れ。

 

 ……ただ傷を、痛みを引き受けるだけならば、それは盾か鎧で事足りるだろう。

 

 

 

 しかし、彼は刀なのだ。

 

 

 

 

 災厄を、原因を斬り払う――守りの刀なのだ。

 

 

 

 

「もうすぐ、止水君、きて、くれる……よ?」

 

 

 

 信じている。生きていることは当然、ここに戻ることも。

 

 

 そのはにかむような笑顔も、なによりの証明といえるだろう。

 

 

 

 

 ……まあ、尤も……。

 

 

 

「……うっわぁ、どうしよう。鈴の笑顔が綺麗過ぎて、先生直視できないんだけど。浅間、これって穢れになるの?」

 

「っていうよりお持ち帰りしていい? 抱きしめて寝るだけならアリでしょ? あ、止水のオバカもセットにしてくれる?」

 

 

「……あの、ちょっと待って、すみません。なんか、私の『木の葉(義眼)』の調子が急に悪く……っ!?」

 

 

 

 

「ぐむぅっ……この反応で、外道かそうでないかの選別が出来そうであるな。――ふむ。麻呂もアウトであるかな、これは――」

 

 

 目の前にいる連中は、いつもどおりなのだが。

 

 

***

 

 

 問われ答える

 

 問われずとも答える

 

 

  そもそも答えず、突き進むべきとき

 

 

  配点 【型破り】

 

 

***

 

 

 

 

「……?」

 

 

 その微かな、本当に微細な事象に気がついたのは、ホライゾンだった。

 白壁をただ見つめるトーリの傍らに立ち、彼と同じように緋色の男を待っていたのだが……不意に、足元を見る。

 

 確認しようとトーリを見るが、彼が何かを感じたという様子はない。指揮所のほうから届いた『生存確定』の一報にも、彼は微動にしなかった。

 

 

「……」

 

 

 気のせい、そう判断してもいいでしょうか……と、即決即断を常とする自動人形ではありえないその思考。

 後ろを見れば、指揮所から言われたとおりこの現状を維持しようと三河警護隊と梅組の面々が、剣戟銃声爆音なんでもござれの現場で踏ん張っている。

 

 

 一人の命を大勢が望んでいる。今は止水の命だが、ほんの数分前まではその一人の立場にいたのはホライゾンなのだ。感情を喪失している、とは言っても何も思わないわけではない――のだろう。

 

 

「っ……また」

 

「んー? どうしたよホライゾン。また腹でもなったかぁ? ……そーいや、ダムの奴も来る前腹減ったとかいってたなぁ……俺がオニギリ掻っ攫ったけど」

 

 

 さて、どこからツッコムべきだろうか。

 

 まだ貴方の前では一度も私のお腹は鳴らせたことはないはず、だろうか。それとも腹が減っては戦は出来ぬだろうが頑張れ、と鬼畜じみたことをやってのけたことだろうか。

 

 

 ――大変ツッコミたいが、その思考の最中にも『あった』ので、そちらを優先しよう。

 

 

「いきなりで申し訳ないんですが。……揺れてませんか? ここ」

 

「揺れ……? はっ! ……おいおいホライゾン。ダメだぜネイトとアデーレが丑の刻っちゃうからそういうネタは二人っきりの時にで――」

 

 

 ニヨニヨ笑いの王様と無表情の姫の間に突き刺さる、銀色の鎖に操られた機動殻用の重槍。――王の鼻先を盛大に擦っていたが、間は間である。

 

 

「『……次はありませんよ?』」

 

「……あれ、俺もしかして今日で一番のピンチだったんじゃね今の。

 んで、ここが揺れてるーって、そりゃこんな近くでズッコンバッコンやってたらそりゃあ揺れるだろ。お隣さんからうるせーって――あ、はい。ごめんなさい」

 

 

 腰ダメにグーを構えたホライゾンに、過去の一幕を思い出して即座に謝るトーリ。もっとも、その一撃を受けたのはもう一人のほうだが――その彼にして一撃で沈んだ。それほどの一撃はさすがに御免である。

 

 

「……またです。また揺れました。あ、言っておきますが皆様がたのフンバリとは別口の揺れです。どうにも表現しずらい感じでして」

 

 

 なぜかその微かな揺れが気になるらしく、槍が突き刺さって出来たばかりの穴を見る。トーリはまだ感じていないが――

 

 

 

 ホライゾンの感覚では、先ほどから数えて三度。もしかしたら、彼女が感知できなかっただけで、もっと揺れがあったかもしれない。

 

 その三度の中で……その揺れが、確実に次第に大きくなっているとしたら……。

 

 

 

「お!? もしかして今の?」

 

「Jud. 今ので――」

 

 

 

 

 

 

 ―――ズドォ……ン……ッ。

 

 

 

 

 

 

 と、例えるならそんな音と一際大きな揺れが、ホライゾンの言葉を遮った。

 

 

 

「……おい浅間? 一応聞くけどよ、おめぇいまなんか狙撃ったか?」

 

『ふぅ、木の葉の調子戻りまし……えっと狙撃ですか? なにか打ち抜きます?』

 

 

 

 ズドン的な音だったか、智とは関係ないらしい。それに揺れているのは、処刑場たる艦そのものだが――音の発生源は、白壁からだ。

 その白壁を見上げてみれば――水面に出来る波紋のようなものが、消えていくところだった。

 

 

「お、おい武蔵の総長! 貴様一体何をしたっ!?」

 

「おいおいおいおい言いがかりよせよオッサン! ……この穴はうちの騎士&従士がこさえたもんだろ見てたよな!? だから修理費請求とかそっちで頼むぜ!?」

 

 

『むっ、経費では落ちんから自腹で払え。いいな?』

 

『シロくんシロくん。目ざとい上にブレないところ超素敵だけど、アレって多分戦時保険とかそういうのでどうにかなるかもよ?』

 

 

 その騎士と従士が物申す前に。教皇がそっちじゃないと叫ぶ前に。金の話にぶれない守銭奴夫婦に呆れる前に……。

 

 

 白壁にまた、先ほどよりも大きな波紋が打たれる。音と揺れも比例して大きく――明らかに動いた艦を見て、誰もが戦闘行為を止めていた。

 

 

 そして、単発だった衝撃は――乱打へ。揺れは、振動にまで。

 ズドォンはズドドドド……以下略。と、絶え間ない。

 

 

『うひぃ!? ズドン連打!?』

『あ、あの、アデーレ? 昨日のことなら私謝りましたよね? っていうかちょっと頭掠っただけじゃないですか!?』

「う、うむ。……まるで、檻に閉じ込められた手負いの獣が、あらん限りに暴れているようでござるな……」

 

「つかあの野郎、中でなにやってんだよ……?」

 

 

 

 トーリのそんな感想の直後――ビシリ、という破砕音を立てて、トーリたちからやや離れた場所の白壁に、大きな皹が走る。

 

 その皹はすぐさま広がり――砕け散る破片を吹き飛ばすように、緋の大炎が凄まじい勢いで噴出した。

 実際に熱を感じるわけではないのだが、色も形状も炎と大差ないので、咄嗟に顔を隠してしまう。

 

 

「ああ、これダムだ。間違いねぇ……!」

 

 

 爆発という表現でも足りないほどの勢いで、緋炎は猛る。そして、その穴だけでは足りぬとばかりに、白壁のいたるところで『皹のち割れての噴火』がいくつも巻き起った。

 

 

『……す、凄い流体密度――まさか、ハナミたちが暴走気味だったのって、もしかしてコレが原因だったり……?』

 

『ど、どういうことだ浅間? 走狗と流体になにか関連があるのか?』

 

『Jud. ……正純はそっちの契約とかはまだでしたっけ……なら分からないかも知れませんが、走狗にもゴハンが必要なんです。例外もありますけど、基本的には地脈から汲み上げた流体を加工したものなんですが――あ、こらハナミ!? つまみ食いはダメ!?

 ……えーと、まあ、こんな感じで』

 

 

 つまり、『とんでもない御馳走の香りに居ても立ってもいられなくなった』――それが走狗暴走の原因ではないかという智の仮説。それならば、『おあずけ』を受けたようなハナミのあの表情も納得がいくだろう。

 

 ――あれだけの高密度の流体を大量に吸収してしまえば、走狗といえど下位、ハナミなどでは中位の神々くらいには匹敵するほどの容量を得るだろう。そうなってしまえば、浅間神社は諸々の対応で数ヶ月単位で業務が停滞してしまう。

 

 

 走狗だけではなく、器のない――霊体の少女にしてもそうだ。

 

 ただ純粋に流体をぶつけられれば対消滅は免れないが、止水の流体ならば話は別だ。流体の源である止水自身が、そんなことを望むはずがない。故に、安心して"ゴハンだワーイ!"突撃ができるのだ。……もっとも、ミリアムに止められてしまったが。

 

 

 

 

 そして――トーリとホライゾンの目の前の、今まで辛うじて無事で合った部分にも皹が走る。他の部分と違うのは……そこから、十の指が飛び出したことだろう。

 

 

 その十指は皹を広げ、ギリギリと左右に割っていく。……白壁が押し留めようと反発する力も相当あるのだろうが、指の力のほうが圧倒的に強いらしい。殆ど一方的に、蹂躙するかのように割開かれた。

 

 

 

 その、奥。

 

 

 

 緋の大炎を全身より猛らせた最後の一人が、荒々しく、猛々しく。力のままに、帰還した。

 

 

 

「ったく。遅ぇぞ、ダム!

 

 ……あ、ちょい炎抑えてくれね? 熱かねぇけどやりづらいかなり」

 

 

「ん? ああ、ごめん。っていうか……なんか俺待ちだった感じだな、これ……」

 

 

 

 ――死んだかも知れない。二度と会えず、言葉も交わせず。一部にいたっては、ずっと抱いてきた想いを伝えられなかったかもしれない。

 

 そんな心配をさせた野郎は……キョトン顔に気まずそうな表情をプラスさせていやがり――。

 

 

 

『判決は?』

 

 「「「「「「『『『『『『有罪(ギルティ)』』』』』』」」」」」」

 

「……いや、なにがだよ?」

 

 

 帰ってきて早々有罪とか言われても困る。

 ……戻らないほうがよかったのかなぁ、と盛大に的外れなことを考えながら、止水は猛らせていた緋炎を体に収めていく。

 

 

 あの――理不尽なまでの超密度の流体を、造作もなく淡々と、しかし完璧に制御している様を(本人は一切知らないが結果として)全世界に見せつけていた。

 

 

 

「……まあいいや。それより、鈴のおかげで助かったぜ。……こじ開けようにも方向も何もわかんなくってさ」

 

 

 だから、ありがとな、と。

 鈴が机を叩いた手と、同じ方の手を少し掲げて、武蔵の方向へ振っておく。

 

 

 

「ど、どういうことだ貴様ら!? 武蔵の総長と姫の罪の否定は、まぁ分かるとして……お前だ守り刀! どうやって出て来れた!? 時間はとうに――」

 

 

 問い糺しながら、インノケンティウスは自分で答えを出してしまったのだろう。罪を否定してきたというトーリ、ホライゾンの両名とは明らかに違う帰還状況。そして、なんとも荒々しいあの状況を鑑みれば……。

 

 

「――ネシンバラが言ってたんだけどさ、流体ってのはいろんなもののエネルギーなんだろ? だから、これの術式……かは分からないけど、こいつだって流体を使って処刑とか消滅とかさせてるんだろうな、って思って……」

 

 

 教師から「解け」と言われた問題に正解できたときのように、少し得意げに笑う止水。

 

 ……掲げた握り拳に、緋炎を纏う。

 

 

「だから、()()力出しながらいろんなところ殴ってたんだよ。罪の否定とか、俺無理だし、出来そうになかったし。……鈴が境い目教えてくれたから、あとはそこを本気で」

 

「……早い話が、力技ですよねそれ」

「ダムらしいなマジで。……おい見ろよオッサン絶句してるぜ?」

 

 

 理論上、と言っていいのかすら怪しいが、理屈は合っている。消そうとする処刑場の力場に対し、傷の補填などに特化している止水の流体は真逆の力場を形成するだろう。

 

 だが、そんなものは絵空事だ。それも、『紙飛行機にロケットエンジンを搭載すれば機体は軽いから音速が出せる』レベルの内容でしかない。

 ……でしかないにも関わらず、目の前でそれをやられてしまったら、否定しようがないではないか。

 

 

 

『――総長。臨時副長として、拙者はこの状況からの撤収を提案するでござる。姫の奪還は成り……この通り、大罪武装の一つも得てござる』

 

『うわっ二代!? おま、いつの間に!?』

『……先ほどから、ずっと後ろにいたでござるよ……』

 

 

 本気でビックリしている正純・ウルキアガコンビの後ろで寂しげにしょんぼりしている二代の言葉を受け、トーリは考える。

 

 彼女の言うとおり、最大目的であるホライゾン救出は出来た。その上二代の活躍で大罪武装『悲嘆の怠惰』の獲得も出来た。これ以上の戦闘は、経験の浅い武蔵勢には少し厳しいし、なにより止水がこれ以上の負荷に耐えられる保証もない。

 

 

 ……なんて、真面目なことを考えるわけもなく。

 

 

「でもよ、あそこにあるもう一つの大罪武装ゲットできればだ。――ホライゾンが淫乱になるんだよな……!?」

 

 

 

 ……沈黙は、回避不可能であった。当然敵味方問わず。

 

 

 

「…………。

 

 ああ、止水様、少々屈んでくださいますか? ホライゾンの足の速さでは多分退避は難しいので。……あと極東君主権限的なもので、臨時副長様の提案を了承します。――では正純様、レッツ・コール(宣言を)

 

 

『え? あ、うん。――Jud. それでは総員っ! 撤た――……』

 

 

 撤退――と告げようとして、ふと思いとどまる。『撤退』では逃げるという意味で、これから世界を相手取る自分たちには相応しくないだろう。

 

 だから正純は深く息を吸い――改めて、声を張り上げた。

 

 

 

 

『――『 凱 旋 』だっ!!!』

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました!!

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