境界線上の守り刀   作:陽紅

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十一章 刀、そして王 【上】 

 

 

 

――通りませ。

 

 

 何処(いずこ)を通るか、天神の。高嶺へいたるその道を。

 

 

 

――通りませ。

 

 

 言の葉の、最早その価値無用なるかな。

 

 (とお)の年月を重ね経て、両の御札を参ずるがため。

 

 

 

――通りませ。

 

 

 喩え、帰ることを難事とされど、行かねばならぬが故に往く。

 

 

 

――通りませ。

 

 

 ……我が中の、一つの(コワキ)を、通すがために。

 

 

 

 

 ……槍が、迫った。

 

 

「おぉぉッ!!!」

 

「あら惜しい。もうちょっとよ、頑張んなさい? 根性見せなさい? それまでは付き合ってあげるから……多分よ! きっと、メェイビィ!!」

 

 

 突き、戻し――また突く。刹那の間にそれが幾度。その刹那を、更に幾度。

 

 幾度幾度の超高速の槍撃が、高嶺を崩さんと押し迫る。

 

 

 しかし。

 

 

「ぬっ……厄介な――!」

 

 

 高嶺へと一足踏み入れたと思えば、そこには堅牢強固な守りの壁が立ちはだかる。その僅かな硬直の間にも、舞いの奉納価値は上がっていく。

 

 

 より可憐に。より苛烈に。高嶺へと

 

 より美しく。より清廉に。高嶺へと。

 

 

 

「……ならば拙者も、さらなる高嶺へと至ればよいだけのことッ!!」

 

 

 

 対する二代は競い合う。それゆえに、釣られていく。高く高く往こうとする華だけを目的に、高嶺の荒道をかけ上がる。

 

 

 迫る槍は、より速く。鋭く、重く。

 

 

 吹き荒れる風に、幾人もの二代が見える。それほどの残像を映し出して、全方位から槍を穿つ。

 

 それでも届かぬ。だが、届かせて魅せる。裂帛の気合を雄たけびとして、二代はなおも攻め続ける。

 

 

 

(ンフフ――

 

 あー、もう。……やっぱりきつい、わねぇ)

 

 

 

 迫る槍を微笑で向かえつつ――喜美は笑みを浮かべる唇の奥で、痛いほどにかみ締めていた。

 

 

 韻を踏む足は、鉛でも巻きつけているのではないかと思うほどに重く。

 

 重さすら感じなかった緋羽衣さえ、舞を彩る双手に圧し掛かってくるようだ。

 

 

 ――芸能系主神・ウズメとの上位契約を結んでいる喜美だからこそ行える『高嶺舞』。奉納される舞いの価値を高めれば高めるほど、その術者をより高嶺へと押し上げ、無粋をより遠ざける術式だ。

 

 ……普段の喜美であれば、ここまで消耗することはなかっただろう。最初こそ自身でアレンジした通し道歌を口ずさんでいたが、それも1ループだけ。後は音響術式である転機編(テンキアメ)に完全に任せている。

 

 呼吸以外に口を使う余裕が余り無い。余裕を見せるために煽り文句を言うが、それもかなり厳しいものがある。

 

 

 

 ……高嶺舞と同時並行で行っている守り刀経由の術式代演――それが、とてつもない足かせとなっていた。

 

 いかに低コスト高リターンとはいえ、喜美には『舞い』を代演として奉納するしか方法が無い。しかし、その舞は同時に高嶺舞を発動し続けるための奉納なのだ。

 

 

 

 それを交互にならばともかく、二つの舞を同時に――しかもそれぞれ『舞い』として形にしなければならない。より神経を研ぎ澄まし……されど、高嶺舞のために舞の価値をあげていかねばならない。

 

 

 ――本音を暴露すれば、守り刀の代演術式を取っ払った方が効率が圧倒的にいい。今のレベルの奉納をそのまま高嶺舞だけにつぎ込めば、二代が見上げることしか出来ない高嶺まで至れるだろう。

 

 

 

 

「でも……足りないのよねぇ。こんなんじゃ、全然足りないわ」

 

 

 

 ……そんな、妥協(・・)でしかない選択肢を、喜美が選ぶわけも無く。

 

 

 

 

  ――更に早く。追い詰める。まだいける。果てなき高嶺へ。

 

  ――しかし足が重い。しかし腕が重い。しかし、体中が軋み悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

(それで? それが何(・・・・)? そんな些事……私の罪に比べたら……!)

 

 

「全然ッ! 足りなすぎるわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

『しすい? ……つらい?』

 

 

 ――組んだ腕から、声が聞こえる。

 

 

『だいじょうぶ?』

 

『いけそう? いけない?』

 

 

 いつもなら、間をおかず何かしら返していただろう。しかし、感情が邪魔をしてそれどころではない。

 

 

 

 それは、怒り。だった。

 

 それは、喜怒哀楽の二番目の感情。それは――彼が、滅多に浮かべることのない、そしてもっとも浮かべることのない、感情。

 呆れることはある。理不尽な一撃には困惑することもある。そして、だれもがほっと安心し、肩の力を抜ける、子供のような笑みもある。

 

 

 しかし、怒りの感情を表に。それもこれほど明確に見せるなんて――隣に立つ正純は、初めての光景だった。

 

 

 組んだ腕に器用に乗っている三匹の黒藻が、不安そうに見上げている。たどたどしい声。それでも心配している――という思いは真っ直ぐ彼に届いているはずだ。

 

 

 

 舞い踊る喜美の背を、睨む一歩手前の険しい目つきで見ていた止水は……一度目を閉じ、大きく大きく息を吸い込んでいく。

 防御術式と槍撃の耳に残る、金属をぶつかり合わせたような激しい激突音。喜美の術式が奏でる、舞いのためにアレンジされた四つ打ちの通し道歌の韻。

 

 

 ……大量の空気を溜め込んだ止水の上体が一回り大きくなって、ゆっくりと吐き出されて、戻っていく。落ち着けようと深呼吸したものの――それほどの効果は得られなかったようだ。

 

 

 

「――悪い、クロ。でも、ちょっと、な」

 

 

 

 ……苦笑が無理矢理だ、とは――言えない。

 正純は一人だけ――梅組の中で一人だけ。『なぜ止水が怒りの感情をあらわにしているのか』……それが、分からないのだから。

 

 

 故に、だからこそ知りたいと思った。

 一歩踏み出した、その後悔の先にあるものを。

 

 

 ――彼に、皆に何があったのか、を。

 

 

 

 

「はぁ……ったく」

 

 

 躊躇い、しかし、どう聞けば――? と悩み考える正純の耳に届いた声は――直政のものだった。

 

 

 

「……丁度十年前。ホライゾンが事故にあって死んだ――ってのは、アンタもさすがに知ってるだろう? 正純」

 

 

 煙管を右手で弄びつつ――梅組の中、直政は少しだけ前に出る。顔は相対場へと向けたままだ。

 

 いきなり問われ、しかも問われた内容が内容だけに、正純は少しだけ躊躇し……言葉を探した。

 

 

「……ああ、武蔵の改修が決まった式典で、元信公の馬車に轢かれた……と」

 

「Jud. 不幸な事故、さ。でも……それだけなら、外側(・・)なんさね。……アタシらにとって――そして、止めの字やトーリたちにとっては、その『先』があるんさね」

 

 

 

「直政、それは……」

 

「アンタは黙ってなよ止めの字。――それに、ホライゾンを取り返すために戦うってのに、正純一人だけが何一つ、知らぬ存ぜぬのままってわけにはいかないだろ? 仲間はずれはよくないさね。

 ……抱き抱えちまいなよ。――それくらいの甲斐性、持ってないはずないだろ?」

 

 

 一度僅かに振り返り、止水に苦笑を見せる直政に対し――止水はまた大きく深呼吸を繰り返し、露にしていた感情を抑えていく。

 

 

 直政にとっても、誰にとっても。それは傷のはずなのに。それでも、直政は語ろうとしてくれている。

 

 

「悪い……俺が言うべきところは、俺が言うから」

 

「あいよ――そんじゃ、頑張ってる喜美にゃ悪いが、昔話でもしようかね」

 

 

 

「ンフフ聞こえてるわよ直政ーッ!? 後で覚えときなさい!? でも私は忘れるの! 仕返しを恐れて末代までビクビクしてるがいいわ!!」

 

「隙ありッ!!」

 

「在る分けないでしょこの駄目女!? ……一瞬アンタのこと忘れかけたけど!」

 

 

 白熱していく舞と武の競い合い。圧倒的な防御を見せる喜美の舞いに、二代は速度と技の冴えを持って食らいついていく。

 そんなやり取りの中に無理矢理冗談を交えている喜美を見て――直政はため息をつきながら煙管に火をいれる。

 

 

 ――メンソールの香りの紫煙が、一筋昇った。

 

 

「……十年前。ホライゾンが事故で死んで――皆泣いた。アタシだって泣いた。泣いて叫んで……アタシらに出来ることは、情けなくもそれだけだったんさね」

 

 

 直政自身の相対戦のとき……相対するシロジロの問に対して、激昂した彼女の言葉の、それはほとんど繰り返しだった。

 しかし、それも仕方が無い――と正純は思う。何せ、十年前と言えばわずか八歳――理不尽に対し、抗う術など持っているはずがないのだ。

 

 

(それなのに、皆が悲しみにくれる中でも……止水(コイツ)は、皆の支えになった)

 

 

 ちらりと横顔を見上げれば、ただ真っ直ぐ喜美を見つめている止水がいる。怒ってはいない……と、思う。少なくとも、ピリピリした感じはなくなっている。

 

 

「でもね、皆の中で二人(・・)だけ――泣きも叫びもしなかったのがいるんだよ。それがそこの止めの字と、あそこで無理してるバカな姉さね」

 

 

 紫煙を吐き出し――空気にまぎれて消えていく煙を眺めて、直政は思う。

 

 

 トーリの見ている前では絶対的である喜美と。

 止水の前では唯一『弱さ』を見せる喜美。

 

 

 今の彼女は―― 一体どちらの喜美なのか。

 

 

(――どっちにしろ、バカってことにゃ変わりないか)

 

 

 

「あの時、トーリの奴が特にひどくてね―― 数ヶ月は教導院に顔を出さなかったかね。アタシも何度か行ったけど、飯は食わないし喋らない……感情も出さない、まるで人形みたいだったよ。

 ……でも、喜美の奴がそんなトーリを連れ戻したのさ。ぶん殴って、いろいろやって……トーリを向こう側へ行かせなかった」

 

「そう、なのか……」

 

 

 今のトーリと喜美を見て、そんなことを想像も出来ないだろう。常時バカをする弟と、常時傲慢不遜を地で行く姉――そのくらいだ。

 

 弟を思う姉。ゆえに散々愚弟といわれても、トーリが『姉ちゃん』と慕う理由なのかも知れない。

 

 

「そんで……止めの字が泣いてるだけのアタシらを励まして、支えてくれたんだよ」

 

 

 

 そうして、トーリもみんなも立ち直って――ホライゾンの死を乗り越えた。悲しみは多いが、皆で強く生きていく……と、そこで終わると思っていた。

 

 ……直政の声にほんの僅かに。怒りのような、後悔のような感情が出るまでは。

 

 

 

「でもね――トーリが笑って、教導院に出てきたと思ったら――今度は止めの字だよ。

 ……やれ、救護棟に担ぎこまれたとか、やれ集中治療術式の雁字搦めだとか……大人達に無事だって聞かされてもね、皆安心できなかったよ……。

 

 このバカは誓いを――とんでもない契約を結んじまったのさ」

 

 

 契約。――その言葉に、梅組も、相対中の喜美でさえ反応を見せた。普段どおりなのはトーリくらいだろう。

 

 契約といわれて、真っ先に思い浮かぶのは術式の契約だ。武蔵であれば浅間神社を経由して、信奉する神に奉納をささげ、術式の加護を得る、というもの。

 

 

 しかし、苦笑を浮かべている止水から――それがどんな内容なのかは判断することはできない。術式の加護を得ている様子も、また何かしらの奉納を捧げている様子もないのだ。

 

 

 ……正純が疑問を抱いたまま、直政の言葉は続く。

 

 

「それを止める義務が、アタシらにはあったさね。止めの字は一人でアタシら皆を支えてくれたのに、アタシら全員は……その時までトーリのことだけを心配してた。

 ……止めの字は大丈夫だろうって、勝手に決め付けてたのさ。――大丈夫なわけが、ねぇだろうにね」

 

 

 トーリとホライゾン、そして止水。

 

 正純にも分かる。昨日と今日だけを見ても、止水がホライゾンに寄せる想いの強さは、痛いほどに分かる。それこそ、死んでも助けたいと考え、かつ実行できるほどなのだ。そこになんの感情も無いとは思えない。

 

 

 

「なかでもね、喜美の奴はその義務とか責任を……誰よりも感じちまったのさ。それこそ『自分の罪』だって自分から言うくらいに」

 

「何故だ……? 葵を立ち直そうとしていたんだから、あいつには……」

 

 

 

 正純の言葉を遮るように紫煙を吐き出し――

 

 ……なぁ、もし――。

 

 

 

 

「――喜美のせいでホライゾンが助けられなかったかもしれない。って言ったら……アンタはどう思うよ、正純」

 

 

 

 

 

***

 

 

血と肉と。震えと涙と。

 

生きるために。生き抜くために。

 

 

 必要なものは、あといくつ?

 

 

配点《クフフ。数えられるわけ無いでしょう?》

 

 

***

 

 

 返せたのは、絶句だった。

 

 いや。絶句しか、返せなかった。

 

 

 

「……直政! それは……!」

 

「悪いね。でも、これが喜美本人の言葉さ。アタシだって『バカ言ってんじゃない』って思うさね。けどね――もし自分がそうだったら……アタシが喜美の立場だったら思うし、絶対言うさ――『アタシのせいだ』って」

 

 

 

「ま、待ってくれ。ホライゾンが死んだのは――馬車に轢かれた事故なんだろ? 何でアイツが関係してくるんだ……!?」

 

 

 正純が今まで聞いていた中で、ホライゾンの事故に直接関わっているのはホライゾンと、その事故に巻き込まれ大怪我を負ったというトーリだけだ。そして、事故の後に止水が皆を――。

 

 

 

 ……事故の、()

 

 

 

(……なんで、ホライゾンが事故に遭ったその時に――止水(コイツ)が出てこないんだ……?)

 

 

 仲の良かった三人。それこそ、いつも一緒にいたように皆は語る。

 ならば当然、祭にも三人で行っていておかしくは無いはずだ。しかし、聞いた話をどれだけ思い返しても、登場人物は二人。

 

 ……一人、足りないのだ。

 

 

 

 直政が幾度目かの紫煙を吐き出し、消え往くそれを見送りながら……答えを告げる。

 

 

 

「あの祭の日――喜美の奴が、止めの字を無理矢理連れ出してたのさ。『トーリとホライゾンを二人っきりにする』って、そんな姉心でも利かせたんだろうな。二人っきりにゃ止めの字が……邪魔だったのさ」

 

「じゃあ、助けられたかもしれない、というのは――」

 

「Jud. 単純な話さ。トーリと止めの字じゃ、あのころから体力とか運動能力とか、天と地ほど差があったからね。もしあの事故の場に止めの字がいたら……ホライゾンを助けられたかも知れない。

 

 ……誰も悲しまないで、トーリが向こうに行きかけることも、まして止水が契約を結んじまうことも――無かったかも知れないんだ」

 

 

 

 ――だが、それはIF(もしも)、仮定の話なのだ。事実としてホライゾンは事故に遭ってしまい、命を落とした。

 

 

 だが。

 

 皆が悲しんだ。『しかし』止水がそれを支え、悲しみを乗り越えることが出来た。

 

 トーリは向こうに行きかけたが、『しかし』喜美がそれを阻み、連れ戻した。

 

 

 ……つまるところIFとの結果の差は――明確には違うかも知れないが……ホライゾンの命と、止水の契約だけではないだろうか。

 

 それは昨日までであり……そして今、ホライゾンが――自動人形という形であれ――呼吸し、思考し……生きている。

 

 

 ――止水だけが、彼の契約だけが……残ってしまっているのだ。

 

 

 

 

「だ、だがしかし、それは……」

 

「ああ。そうさ。助かった『かもしれない』っていう確率が高いだけだよ。もしかしたら、止めの字がいたって助けられなかったかもしれない。もっと最悪な事態になってたかもしれない。

 ――それでも、喜美は考えちまうんだとよ。『自分が何もしなかったら』ってな」

 

 

 

 

 それが喜美の罪。

 

 

 

 

「――じゃあ止水がさっき怒ってたのは……」

 

「どっちも、頑固なバカなんさね。『俺が悪いんだ』『私が悪いんだ』っていう、意味の分からん意地の張り合いさね。喜美は罪を償おうとして、止めの字はその必要はないって言って……イタチゴッコを延々と、さ。

 ……大方、喜美が勝手に決め付けてることに腹立てたんだろ?」

 

 

 ――口を尖らせ不機嫌そうに。

 

 そっぽを向いてる男が、答えを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、女は――笑みを浮かべる。

 

 

 

 クフフ……いい感じに若干勘違いしてるわねぇ! と。

 ――瀑布のように連続して穿って来る槍撃を防ぎながら。ほくそ笑んでいた。

 

 

 

(――私が、そんな安い(・・)女なわけないでしょう? 心外よねぇホント! そんなわけ無いじゃない? ホライゾンと愚弟を二人っきりにさせる? それだけなわけ無いでしょ直政)

 

 

 愚弟――トーリがホライゾンを好きなことは知っている。当然だ。

 そして、止水も、十中八九――九割九部九厘、ホライゾンのことを好いていただろう。賢姉様の『女のカン』の的中率を舐めないでもらいたい。

 

 

 

 だからこそ。

 

 渡したくなかったのだ。

 

 

 

 止水を――ホライゾンに。

 

 

 

(正面から堂々行きなさいよねロリ私。あんな小ざかしい手(・・・・・・)を使うなんて、イイ女が泣くじゃない?)

 

 

「考え事とは余裕で御座るなっ!?」

 

「ククク余裕いっぱいよ!? いっぱいいっぱいよ!?」

 

 

 ――それってつまり余裕無いんじゃ、という後方からの突っ込みは華麗にスルーした。

 

 ……ああそうだとも。そろそろ限界だ。ぶっちゃければベッドにダイブしたい欲求が先ほどから沸々と湧き上がってきている。いや、その前に風呂だ。

 

 

 ……まあ、さらにその前に。

 

 

 

「ンフフ。……ねぇ? 駄目女、一つ言いたいことがあるから言うんだけど……」

 

「っ!? 何で御座る!?」

 

 

 

 ……愚弟の未来嫁を迎えに行くとしよう。

 

 

 だからまぁ、とりあえず。

 

 さっさとこのダメ武者を、たたき起こすとしよう。

 

 

 

 

「さっきから守りに徹してあげてるわけだけど。……そろそろ、終わらせるわね?

 

 ……答えは聞いてあげないけど!?」

 

 

 

 二代が再び突き通し――喜美がそれを、防御術式による防御ではなく――髪数本を犠牲にした、『回避』。

 

 何十と繰り返された攻防が突如として変わり――防がれるだろうと心のどこかで考えていた二代は――

 

 

 

「っ!? しまっ……!」

 

 

 決定的な隙を、喜美に曝した。

 

 蜻蛉切最大の武器たる割断をなすための穂先が、生きているようにうねる緋羽衣に捉えられ、対象を写しだすことを封じられる。それどころか、槍全体とそれを握る二代の手まで巻きつきは及んでいく。

 

 

 そしていまだ羽衣の端は――、喜美の手の中だ。

 

 

 

 

「守り刀の術式補助はねぇ……! 守りだけじゃあないのよぉ!!」

 

 

 

 羽衣を引くと同時に、喜美も前へと跳ぶ。器用に空中で、それらしく回転すれば、それも舞い――!

 

 

 

(補助代演内容もクリア……!)

 

 

 空いた片手は大きく開き、弧を描いて進む様に展開された、どこかで見たことがある無数の術式枠を割っていく。

 

 

 

 

 加速し加護を受け……狙うは顔面。

 

 

 ――あっけにとられた呆け面!

 

 

 

 

   ズパン……ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「…………うわぁ」」」」」」」」」」」

 

「――なぁ気のせいか? いま手が燃えて……」

 

 

 

 ……張り手か、ビンタ。紅葉でも可。

 

 音を聞いた全員が、思わず自分の頬に手を当てて顔を顰める威力のそれが――本多 二代を張っ倒していた。

 

 

 

 

 




読了ありがとう御座いました。

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