境界線上の守り刀   作:陽紅

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わーい! 境ホラ二次がにぎやかになってるー!!




九章 刀、相対す 【上】

 

 

「ふん――これで一対一、となったわけだ。……良い感じに楽しくなってきたじゃないか。……なぁ、おい?」

 

 

 通神画面を見下しながら、豪奢な椅子に腰掛け、頬杖を突く男がニヤリと笑みを浮かべている。豪奢な椅子に劣らぬほどの装いを纏い、かつそれに『着られる』ことのない地位に立つ男。

 

 この男こそ、K.P.A.Italia代表。教皇総長(パパ・スコウラ)にして旧派首長、聖連代表が一。

 

 インノケンティウス。

 

 

 そして、その背後。椅子の背後に聳え立つように異形の存在が現われる。

 丈にして、常人の倍。幅にして数倍はあろうかという巨躯。硬質な外格は赤く、顎からは大量の髭を伸ばした、異形の王だ。

 

 

「……相変わらずだな、元・教え子。『このような状況』になると、童のような顔をする」

「童心は忘れえぬから尊いのだ……という持論だな。何事においても『障害』があるからこそ『楽しめる』……そうだろ、ガリレオ。まあもっとも」

 

 

 ――当然、障害を叩き潰した上でだがなぁ、おい?

 

 ……と、顔も意識も向けることなく、インノケンティウスは笑みを更に深くする。

 

 

「――この二回の相対で、武蔵には『戦う力かあること』、そして『戦える意思があること』を示されたわけだな。数字の上では一対一だが……奴らは二を得ている」

 

「で、あろうな。だがだとしたら、実質、負けてしまっているではないか元・教え子」

「事実負けてはいないだろう? ……それにな、強者は――弱者が勢いづいたところを一瞬で握りつぶすからこそ、強者なのだよ」

 

 

 浮かべる笑みは、なおも濃く。……上がる高笑いは、室内に響く。

 

 そんな教皇総長を見て――ああ、もうじきであるな。とガリレオは右手に持ったものを準備する。

 

 

 

「――ッ!?、ゴッフォ!?」

 

「……ふむ。水はいるかね?」

 

 

 ……ちょっと危ないのではと思わせるむせ返りを見せる男に、異形の王はそっと、右手に用意していた水差しを差し出していた。

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 二度の相対戦を終え、武蔵アリアダスト教導院が一勝。そして聖連派がまた一勝。――残る最後の一戦を前に、オリオトライはもう一度、双方を見る。

 

 ――とは言っても、最早聖連側に残っているのは本多 正純のみ。

 機関部代表である直政と騎士代表であるネイト・ミトツダイラは、既にそれぞれ相対に負けて、あるいは勝って――武蔵側と意思を合わせている。

 

 

(一人になった、って感じではないわねー……全然変わってないし)

 

 

 顔色の変化、無し。呼吸などなどの乱れもほとんど無し。まるで、最初から一人でこの場に来たのではないか? と思わせるほど、今の正純には『変化』というものが無い。

 

 

(まぁ――いろいろ難しい立場にいるから、しょうがないのかしらね……)

 

 

 そして、聖連側から視線を外し、武蔵側を見たオリオトライは……思わず苦笑を浮かべる。僅かに呆れも滲んでおり――。

 その苦笑を、ただ一人へと向けていた。

 

 

「……?」

 

 

 その一人のまぁ、緊張感の無いこと無いこと。巻きつけるのに相当時間が掛かったと思われる束縛は未だに健在だが、圧に耐え切れなかった鎖の輪のいくつかは引きちぎられている。

 

 ただの鎖であれば、オリオトライにもそれは可能だろう。

 

 しかし止水を縛るそれは、残念ながら『ただの鎖』ではない。武蔵が航行中に遭遇した妖獣……それも相当大型の固体を縛するために飛び切り頑強な合金で鍛造された代物である。

 

 

 ……ちなみにかつて、大酒のち大暴れをやらかしたオリオトライをも拘束しきった一品だ。

 

 

 

 ……そんな、オリオトライとて脱出を諦めたそれを、こともなげに突破しかけて……とうの本人は何事もなさそうなのだ。

 

 

(昨日の朝、やり合わなくて正解だったわねー)

 

 

 ――教師として『は』。と、その時点で点蔵に応じたが、オリオトライはこっそり内心で訂正しておく。

 教師として『も』。あの力の前に立つのはゴメンだ、と。

 

 

 ……もっとも、止水がそんなことをしないと分かりきってるからこそ、鉄拳制裁を続けるつもりだが。

 

 

「それじゃあ、相対最終戦よ。相対者は前に出てらっしゃい!」

 

 

 

 オリオトライの宣言に、当然一人しかいない正純は前へと進む。真っ直ぐ、迷い無く。

 そして、それに対する武蔵側は――

 

 

 

「オッケイ俺の出番だな!! ――いくぜ、秘技『あ~れぇ~お殿様御ぉ無体なぁ~』!!」

 

 

 バカが、ごろごろと転がってきた。カーテンの端を点蔵とウルキアガに踏ませているらしく、巻かれているカーテンはどんどん薄くなっていく。

 

 

「……拙僧らをなんだと思っているのだあの男は」

「Jud. 貸し一つとして後々『お宝』を要求するでござるよ。具体的に言えばR-元服の品的なものを……!」

 

 

 転がり進むトーリ(バカその壱)と、全国通神されている場でとんでもない発言をしている点蔵(その弐)ウルキアガ(その参)

 

 

(……これがアタシの担当クラスかぁ……ヤダなぁ……)

 

 

 とりあえず、厳罰者としてオリオトライの脳内にばっちり刻印された三名である。

 

 

 

 ――そして、やがてカーテンが無くなり――正純の前に、『具』が現われた。

 

 

 

「……おえっ……気持ちわる……」

 

 

 

 顔を青くし、口元を口で抑えた――

 

 

 ――全裸なバカだった。

 

 

 

「な、ななな何で裸なんだお前はぁ!?」

「ああ? うっぷ……よく見ろよせーじゅん――でもちょいステイ、マジで、気持ち悪い……」

 

 

 首から下が肌色のみだと判断した正純は、とっさに両腕で顔を覆い――恐る恐る赤くなった顔を覗かせて、確認する。

 

 

 正純とは真逆……真っ青で、今にもリアルリバースしそうなトーリの顔。

 大して筋肉の付いていない上半身を視線が下っていき……足の付け根辺り。

 

 

 

 金色に輝く通神画面。それが、モザイクを表示しながら存在していた。モザイクの上には『禁』と記され――

 

 

「……はぁ?」

 

 

 なんだそれ、という顔で『そこ』を凝視する正純に、何故かトーリは気持ち悪そうにしながらも自慢げ――というよりも誇らしげであった。

 

 

 

「うっぷ……なんだよ、セージュン見るの初めてかよ――こいつぁな、紳士のたしなみにしてゴールデンタイムにおける全裸必須アイテム……『ゴッド・MOZAIKU』――うぇ……っ!」

 

 

「わ、わーっ!? よせバカこっち向いて吐くなっ! あっち行け!!」

 

「「「ギャー! 戻って来るなバカ!? どっか他所で吐け!!」」」

 

 

 

 

 

 ――――しばらくお待ちください。――――以上

 

 

 

 

「……えーっと、バカがバカなことしてバカバカしくなっちゃったけど、とりあえず、相対最終戦。聖連側は本多 正純――武蔵アリアダスト教導院側は、バカでいいわね?」

「Jud.」

 

「おいおいセージュン、それじゃあ俺が=バカになっちまうぜ!?」

 

 

 え、違うの? ……という一同が完全にシンクロを果たした視線を一身に受けつつ、当人は当然とばかりに憤慨している。味方ですら味方になっていない。

 

 

 ゲ○って服を着替えて戻ってみれば正純と変わり……なぜかトーリが孤立無援となっていた。

 

 

 

「……な、なんだよその目!? お前ら俺のこと貶めてそんなに楽しいかっ!? ……ああ、いいともさいいともさ! どーせ俺はバカですよさあ笑え!! ……だからお願いしますそんなバカに助っ人&ハンデくださいセージュン様ぁああ!!!」

 

 

 

「……って感じでバカがジャンピング土下寝したから、一応聞いとくけど。正純はどうする? 却下して当然の要求だけど」

 

 

 気をつけの状態でうつ伏せになっているトーリを見――飛び上がったことを後悔しているらしい、地味に痛みに呻いていた――て、正純はため息をつく。

 

 

「……相対内容を『討論による対論のみ』とするなら、私は構わない。その代わり、私も――ないとは思うが、何かあれば助言を求める」

「……へぇ、主張を交互に言い合うってことよね……自信たっぷりだこと……。まあいいわ。それじゃあ武蔵アリアダスト教導院側から相対者をもう一人、出してもらうわよ」

 

 

 それを聞いた梅組一同は――戸惑っていた。誰がいくんだ? と互いに顔を見合わせて、数秒が立っても、もう一人の相対者は進み出てこない。

 

 

(? なんだ……葵の完全な独断か……?)

 

 

 未だうつ伏せているトーリを見る。存外痛みが強かったようで、未だ呻いていた。

 

 

 

 ……正純とて、ただ自信があって助っ人とハンデを許容したわけではない。

 先の二回の相対において数字の上では一対一だが、どちらとも負けていると正純は判断したからだ。武蔵の保有する武神と対等に戦えるだけの戦力。そして象徴たる騎士階級の存続。

 

 

 ……だからこそ、助っ人とハンデを許した上で、相対を制する。

 そうなれば、数字の上で二対一で勝ち。また内容でも、ほぼ同点に出来ると考えたからだ。

 

 相対内容を討論に限らせたのも、その助っ人とやらが戦闘系の人間であったとき、万が一にでも腕っ節に持ち込まれないため。……布石は、万全だ。

 

 

 トーリの独断ならば、彼がその助っ人を指名するのだろう。あらかじめ相対内容を限定したから、戦闘系の生徒が出ることはまず無いはずだ。

 と、なれば文系に強い者・政治に強い者。もしくは、頭の回転が速いもの――その誰が来てもいいように、正純はそれぞれの対策を構築する。

 

 

 

「よぉーし! ……おーいダム! なにやってんだよセージュン許可ってくれたから早く来いよー!」

 

 

「……え? 俺?」

 

 

 一同の視線が、指名された止水へと向けられる。その当人は、至極不思議そうな顔をしていた。

 その顔はある意味当然だろう。止水は自身のことを別段文系に優れているわけでも、とりわけ政治に詳しいわけでもない。頭の回転ものんびりしたほうだろう――と自分のことだからこそ分かっている。

 

 

 俺じゃないな、うん。と完全に考えていたからこそ、指名理由がさっぱり分からない。

 

 

 

「――えっと、なんで俺?」

「はぁ!? なんでっておめぇ、俺とお前が始めたんだから俺とお前で終わりやんなきゃいけねぇじゃん!?」

 

 

 変な理屈である。意味も正直よく分からないが……トーリらしい、と数名が苦笑を浮かべた。

 しかし、しかしである。

 

 

「……いや、終わりっていうのは分かるけど。だからって勝たなかったら意味無いんじゃないかな……?」

 

 

 止水がポツリとつぶやいた内容に――トーリは「あっ……」という言葉を、つい漏らす。

 場が死んだ。嫌に冷たい風が吹いた。バカを見る目から、だんだんと哀れな人を見る目に――。

 

 

「……葵。助っ人を変えるというのなら、私は構わないが?」

「ば、バカにすんなよセージュン! 男に二言はねぇ!! ダムすげぇんだぞ!? えっと……と、とにかくすげぇんだぞ!?」

 

 

「これさ、なんか俺までバカにされてないか……? いや、そりゃ正純とかと比べたら圧倒的にバカだけどさ……」

「うふ、大丈夫よ止水のオバカ。愚弟は手の施しようが無い致命バカ、でもアンタは物分りのいい超絶鈍感な大バカだもの!」

 

「――どうしよう、喜美は多分励ましてくれてるんだと思うんだけどトドメにしか聞こえない」

 

 

 

 喜美の言葉に一同――女子陣はとりわけ苦笑を浮かべるが、誰一人反論しようとはしない。概ね、その言葉が正しいと判断されたのだろう。

 ……ションボリしながら、それでも転がり進んでくる止水。相対する立場の正純にしても、その姿に同情を禁じえなかった。

 

 

 

 そしてその止水は何を思ったのか、梅組とトーリの丁度間まで来たあたりで停止する。

 

 

「あー、シロジロ。そろそろこの鎖、破っていいか?」

「結構今更だな貴様も。……好きにしろ。とりあえず武蔵にある鎖で貴様を拘束することは敵わんと分かった」

 

 

 問われたシロジロは、裾から取り出した鍵をしばし眺め――必要ないとばかりどこぞへと放り投げる。

 それが落ちる音とほぼ同時に――器用に立ち上がった止水を、幾重幾重にも束縛していた鎖が、鈍い音とともに引きちぎられた。一部ではなく、全体的な完全なる破砕。

 

 バラバラとこぼれていく鎖だったものを跨ぎ、止水は一度梅組へと戻る。アデーレから緋衣を受けとってそれを身に纏い――そして、その背、腰に、全身に。刀が配刀され――皆の見慣れた姿となった。

 

 

 そのまま、トーリの隣へ。トーリはニッと笑いそれを出迎え、止水は苦笑とともにため息をついて……二人で正純へと相対する。

 

 

「聖連側、そして武蔵側出揃ったところで、相対最終戦! 始めるわよ! お互いの立場をしっかり明確にして、存分に討論しなさい!」

 

「おう! そんでセージュン! ここでさっきもらったハンデ使わせてもらうぜ!? ズバリ【先攻後攻】の選択権ってやつだ!!」

 

「……だろうな。いいぞ」

 

 

 ――想定済みだ。交互に言い合う対論戦、その先攻後攻はとてつもなく大きな要因となる。そして、当然、トーリは優位となれる後攻を選――……。

 

 

「んじゃ、こっちが先攻な! 行くぜセージュン手加減してくれよ!?」

 

 

 ばなかった。

 梅組からは、既に敗戦の気配が漂いはじめ、隣に立つ止水ですら「もう一人で突っ込んでこようか」と危ない言葉をつぶやいている。

 

 

「おいおいおいおい、なんだよこの沈黙!? 重いぜお前ら軽くなれよ! とくにそこのロリコン!!」

「なっ!? 小生ロリコンでは……しまったつい反応を!?」

 

「ざwまwあw! 語るに落ちたな!? ――それに、いーんだよ先攻で。こんな面倒なことはやく終わらせたいしな! 権限の奪還とかどーとか、俺にとっちゃ足がかりなんだよ! 要は『俺がホライゾンにコクりにいく』ために必要だからやってるだけだ! だからまあ……」

 

 

 

「討論しようじゃねぇか! ホライゾンを救うことで何が得で、何が損なのか! ――それがこの討論の内容だ、そうだろセージュン!」

 

 

 正純の、いくつか考えてきた内容に含まれている。その中でももっとも考察した内容であるため、頷くことで返答とする。

 

 

「だから! その討論におけるこっちの『立場』をまずめいかくにしておこうか! それはな――っ!」

 

 

 ビシッと正純を指差した指は、上へ。そのまま曲がり、本人の後頭部へ――。 

 

 

 

「やっぱさ……ホライゾン救いにいくの――やめね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 世界単位で、ピタリと行動が止まる。

 

 どこぞの教皇は口から水を盛大に吹き、その前に立っていた異形の王は被害を受けつつも呆然とし。

 

 食事をしつつ観戦していた西国夫婦は「あーん」の状態で静止。それを見て熱い熱いと仰ぎあっていた三征西班牙(トレス・エスパニア)の学生達も、その手を止めていた。

 

 

 

 相対している正純も、そして、隣に立つ止水にしても。あらん限り目を大きくして、ド級の爆弾発言を投下したトーリを見ている。トーリは未だ頭を掻きつつ困った顔で――誰かを救いに行くー、という顔はしていない。

 

 

 そんな静止空間の中、ようやく動き出した点蔵、ウルキアガ。そして直政の三人がそれぞれ橋の上に上がり、左舷側、右舷側、艦首側へと位置取り――手を下から上に、タイミングを合わせ――。

 

 

 さん、はい。

 

 

 

 

「「「「「なぁにぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっっ!!!!!!!!???????」」」」」

 

 

 

 

 ……そんなコーラスが、武蔵全域を音源にして響き渡ったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

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