境界線上の守り刀   作:陽紅

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独自解釈、設定が強く入ります。御了承ください。


八章 銀狼の咆哮 【下】

 

 

 

 突然だがここで、ネイトの――彼女の目論見を、明かそう。

 

 

 とは言っても、その答えの大半をアデーレが言ってしまっているのだが、改めて、明かすとしよう。

 

 ……彼女は、民を守るという騎士の役目を、その民と相対することで果たそうとしていた。

 

 階級が上である騎士、その代表が民と同じ立場に下りてきて相対し――その上で『負ける』。その結果を持って、武蔵の民を騎士階級より立場が上の存在とし……聖連に従った際の、武蔵住民――極東民全ての最低限の地位尊厳を守る。

 

 

 それが、ネイトが所属する領主議会の決定であった。

 

 

 

 ネイト・ミトツダイラ個人としては、ホライゾンを救出に馳せ参じたい。幼き日に交わした約束を、今こそ果たすときなのだ。

 

 

 だが……しかし、十年。彼女は約束を果たす力を得ると同時に――責を預かる身となっていた。

 

 武蔵にある領地に住まう民を、そして武蔵――極東民を守らなければならない。

 

 

 

 現われたのは……天秤だ。

 片方には、一人の友の命が乗り――片方には、数え切れない民の命、そして未来が乗せられている天秤。

 

 そして、ネイトは……より多くの、民の命と未来を望んだ。歯を食い縛り、拳を握り締め、それでも選び取ったのだ。

 

 ……天秤をその手で、傾けたのだ。

 

 

 

 相対の結果としては教導院側が二勝先取で『大儀』を得るだろう。しかし、武蔵は騎士という最大戦力と【象徴】を失い――戦いたくとも、戦えなくなる。

 

 ……それで良いとさえ思える。命をつなぎさえすれば、なんとにでもなるのだから。死んでは駄目だ、何も、出来なくなる。

 

 

(……そうなれば私も騎士という地位を返上して、市井に帰属するのでしょうね……)

 

 

 ――そうなった自分は、皆の中にまた戻れるのかと考えて……――……やめた。

 

 

 振り払うように、心のうちから湧き出そうになった恐怖に蓋をして……肩を組み円陣を作る梅組を見る。内密な話をしている気があるかどうか。結構単語単語が丸聞こえだ。

 もっとも、誰が来ても結果は同じなのだ。自分が騎士を代表して完全降伏を宣言し、負ける。その結果に変わりはない。ないのだが……。

 

 

「……できるのなら、最後に騎士として、潔く全力で戦いたいものですわね……」

 

 

 その上で、負けたい。……同じ言葉を、領主議会でもポツリと漏らしたが、揃って全員に呆れられた。

 

 無茶を言う。無理を言う。――と。梅組をよく知りもしない議会の一同に。

 

 人狼を母にもつネイトは、ハーフゆえ獣変調さえ出来ないものの……常人を軽々上回る力を常時使役できる。更には肉食系獣人の戦闘センスもしっかりと受け継がれている。

 ……なぜかリアルアマゾネスを相手に一度として勝てないのだが、それでも武蔵を代表する個人戦力だという自負がある。

 

 

 

 だが、しかし。

 

 

 いるのだ。もう一人(・・・・)

 

 

 

 ネイトをも打倒するであろう、ネイト自身が認める武蔵最強。

 

 

 

 それが、あの円陣の中には……いる。

 

 

 

 ……それがなぜか、今は情けなく鎖に巻かれてしまっている事実に、ネイトはまた苦笑を浮かべた。

 

 

 

「おっしゃあ決まったぜネイト!!! 待ってたよな!? タイムってたよな!? ……ああ!?」

 

 ……何故かキレているトーリに対しても苦笑を浮かべているが。――彼が梅組全員から『何怒ってんだコイツ』という視線を受けていることを確認して、自身に非がないことに安堵していたが。

 

 まあ、まずは何をおいても、無事に相対者が決まったことにも安堵していた。……オリオトライが不戦勝を今にも言い渡しそうだったので、内心少しハラハラしたのは内緒だ。

 

 

 

「なあネイト、お前は分かっちゃいねぇ! これっぽっちも分かっちゃいねぇよ!!! おめぇは確かに強ぇ! 俺なんかビンタ一発でアヒンされちまうだろうさ!! 優しくしてくれよ!?」

 

 

 ビタンビタンのたうつ自称ライスペーパーに、地味に本気のドン引きをしつつ、トーリの言葉を待つ。……前半は拾い、後半はスルーするのも忘れない。

 もっとも……ほとんどの人のビンタで貴方がアヒンとなることはまず間違いないでしょう、と心で突っ込みを入れてあげるのは、ネイトの優しさだ。

 

 

「俺をアヒンできるからって調子のんなよ!? いや、ノリには乗れよ? ……だがな、こっちにはもっと強いのがいるんだぜ!? もーお前なんか手も足も出ないぜきっとこれ!!」

 

 

 トーリは煽りに煽る。――正直、カーテン巻きの状態での物言いなので迫力その他諸々が欠片もありはしないのだが……。

 

 

(言って、くれますわね……)

 

 

 ――さすがに少し、カチンと来た。

 

 

「……そこまで言われるのであれば、私も本気で参りましょう。……満月の周期でないのか残念ですが――この10年を無為に過ごしたわけではありませんのよ?」

 

 

 ネイトは全身を軽く緊張をさせ、臨戦態勢に入る。

 怒り心頭で我を忘れるのは悪手だが、少しの怒り……理性で手綱を取れる程度の怒りならば、むしろ身体を温めるには丁度良い。

 

 内心にまだ迷いがあるが――悪くないコンディションだとネイトは自己判断を出す。

 

 

 

「おっけー、やる気十分みてぇだな! ……そんじゃあ、相対しようぜ。こっちから出るのは武蔵アリアダスト教導院、実質最強――!!!」

 

 

 

 円陣が解かれる。皆が道を開け、送り出すようなその動きの中、前へ進み出てきたのは、ネイトが想像したとおりの緋色。

 

 

 

 

 ……では、なかった。

 

 

 唖然、としか形容しようがない表情のネイトが目をパチパチと瞬かせている。

 

 

 

 

「頼むぜ……『ベル』さん!!」

 

 

 

 

 目で見て、耳で聞いて。……匂いさえも判断材料にして。

 それでも、ネイトの目前の現実は覆らなかった。

 

 一歩一歩を、おっかなびっくり進んで来るのは間違いなく、三年梅組の向井 鈴。

 ……彼女に、相違ない。

 

 

 全身に強いた緊張は、硬直となってネイトを縛る。鈴を指差しつつ何かを言葉にしようと口を開閉させるが、意図ある声はおろか音すら出ていない。

 

 梅組の外道たちは、ネイトのそのリアクションに満足げだった。

 

 

 

「え、えっ……と、ミト、ミトツダイラッ、さん?」

 

 

 呼びかけに、我に返る。我に返ったネイトは――先ほどよりもより強い怒りを覚えた。

 

 

「あ、貴方達ッ!? 一体何を考えていますの!?」

 

 

 相対に進み出てきた鈴に……ではなく、むしろその鈴を送り出しただろう、梅組へ向けて吼える。

 

 自分が望んだのは、表向きはと注釈が付くが、『戦闘』での相対だ。それならば当然戦闘系の術式を持っているものが出てこなければならない。

 

 

 なのに。

 

 

 それなのに、誰よりもか弱く、誰よりも争いごとに向かず……誰よりも、守らなければならない鈴を相対させる。その事実は悪ふざけで済むことではない。

 

 

 ネイトの怒声に、鈴は一瞬ビクリと肩を震わせるが、それでも前へ、前へと……相対者として歩み出てくる。

 

 

「ち、違、うの。私、から、やるって。……はなし聞いたら、多っ分、私か、なって……」

 

 

 一歩、また一歩と。初戦の直政とシロジロの攻防の爪痕が残る橋上を確認しながら歩き――鈴は、ネイトの目前へといたる。

 

 

「だ、から――勝負、しま、しょう?」

 

 

 ……コテン、と首をかしげる鈴に。

 オリオトライが開始を告げる前に、白旗を振り回したくなったネイトであった。

 

 

 まさか、ばれているのか――と焦る。

 

 自分が負けようとしている事が、ばれているのだとすれば……いや、おかしい。それでも鈴が出てくる必要は無い。

 

 

 誰でもいいのだ。ようは、ネイトよりも早く敗北宣言をすれば良いのだから。

 

 

 つまり――。鈴本人が名乗り出て、梅組一同はそれで『勝てる』と判断した、ということだろう。

 

 

「……おいおいネイトー、ベルさん泣かしたらやっべぇぞぉ? ……良心とか、うん。割とマジで」

 

 

 想像する。……自らの手で、鈴に害意をなし、傷つける。

 

 

 ――想像することさえ、出来なかった。

 

 

 

(ま、マジで武蔵最強ですわ……!?)

 

 

 攻撃が、出来ない。手を振り上げることさえ躊躇わせるとは、なんという防御力だろうか。そして罪悪感や良心の叱責という精神的にとてつもないダメージをもたらす攻撃力。

 

 

 冗談に思えるだろう? しかし、意外なことに相当マジなのだ。

 

 

(戦いは力だけではないということですの……!?)

 

 

 ……なにやらネイトが盛大に戦慄しているが、オリオトライにしてみれば『何アホなことやってるんだろう』程度だ。

 

 まあそんな彼女も、授業の厳罰内容で鈴本人が『拳骨』などを望んだとしたら、その期間中絶対に鈴を指名しない自信はあるが。

 

 

 

「えっと、まぁ、相対者が出揃ったことだし、第二戦――はじめ」

 

 

 

 そんなオリオトライの、明らかに鈴を思いやった開始宣言が、小さく響いた。

 

 

 

***

 

 

 

意地にも似ていて

 

 

故に、酔い、焦がれるもの

 

 

 

配点《騎士道》

 

 

 

***

 

 

 

「あ、やべぇな」

 

「まぁ、いいんじゃないか? 分かりやすく(・・・・・・)なる」

 

 

 相対が始まった瞬間に、巻かれている二人が静かに言葉を発する。

 

 一人は真顔で、一人はしょうがないとため息をつくように。

 

 

「どういう――」

 

 

 意味だ? と誰かが聞く前に、ネイトが動く。右手を心臓の位置に、一歩下がり、膝を下ろしていく。跪き、目を閉じて俯いた――その姿を見て、ネシンバラが誰よりも、『二人を除く』誰よりも早く、それを理解した。

 

 

「マズイ……っ向井くん! ミトツダイラ君を止めて、早くっ!!!」

「え、え……?」

「騎士は負ける気なんだ! 僕たち民に!!」

 

 

 ネシンバラの声はもう叫ぶといっても良いほどの声量だ。

 

 ネイトにも当然聞こえている。聞こえて、その通りだと心で頷いた。

 

 

「どういうことだい? ミトが負けたらこっちが二勝で武蔵側の勝ちじゃ――」

 

「それどころじゃないよ!! 武蔵で武装を例外的に許されているのは騎士と従士だけなんだよ!? そうなったら――」

 

 

 武蔵は、トーリ達は戦いたくても、戦えなくなる。

 

 

 

 ただ――。

 

 ただ一人を除いて。

 

 

 

「武蔵騎士団、そして、領主代表――ネイト・ミトツダイラが、領民に宣言いたします……」

 

 

 ネイトの口上は既に始まっている。止められない。誰にも、その言葉を。

 

 

 

 

 

「……止水。――悪い。無理させるわ」

 

「Jud. まあ、覚悟の上だよ。望むところでもあるけど」

 

 

 

 しかし、意外にもそれを止めたのは、相対者である鈴ではなく――トーリと止水、二人のやり取りだった。

 

 トーリが、止水のことを『止水』と呼ぶ。ダム侍などというふざけたあだ名ではないときは、真剣に何かを伝えるためだ。

 

 そして、止水はこともなげに笑って返すと、その身体を幾重幾重にも縛する鎖が軋み上がる。ピシリピシリと、小さな破砕音さえ響いてきた。 

 

 

 

「……なあ、ネイト。お前が負けたら、武蔵で戦うのは『止水一人だけ』になっちまうんだぜ? 忘れてんじゃねぇよな? 一年前、誰がお前と入れ替わりで『番外特務』やってると思ってんだよ」

 

 

 ビクリ、と。俯いたネイトの、肩が震えた。それでも――唇から血を滴らせるまでかみ締めてもなお、顔を上げようとしない。

 

 いまは鎖に隠され、そして日頃は大量に配置された刀剣と着流しによってほとんど見ることのない、その腕章。

 

 

 そこに刺繍された、番外特務の文字。

 

 ……特務とは、総長連合のいわば役職だ。教導院同士の相対となれば、総長以下、副長と特務たちが筆頭に相対する――その中で、いくつかの教導院にある例外の特務――それが『番外特務』なのだ。

 

 番外特務の役割は、それぞれの教導院、さらには年度毎によっても違うのだが――。

 

 

 武蔵アリアダスト教導院にてその役割は、代々決められている。

 

 

 まず一つ。『武蔵』を守ること。

 

 航空都市艦『武蔵』そのものを守る。それは、武装を許されない武蔵が、他国による攻撃を受けた際に攻勢に出る許可を得ている。

 

 そして、もう一つは――『武蔵の民』を守ること。

 

 他国の侵攻から、そして航行し続ける武蔵を襲う賊徒から。騎士と同じく、民の身命を守るために、応戦の許可を得ている。

 

 

 そして、その二つの役割を果たすために、聖連からの制約により、武装が許されない武蔵において、騎士でも従士でも、ましてや襲名者でもない者で、武装の所持及び……使役を許可された者。

 

 

 それが、武蔵アリアダスト教導院総長連合の番外特務。

 

 

 

 ――当然、ネイトもそれを知っている。自分よりふさわしいと、止水に番外特務の席と腕章を渡したのは、ほかならぬ彼女なのだ。

 

 

 明らかに膨らんできている鎖と、大して苦もなさそうにそれを実行している止水の顔を、ちらりと見る。

 

 

 

「――恨みますか? 私を」

 

「ん? んー……」

 

 

 膨張が一瞬止まり、寝転んだまま、止水は考える。

 

 んー、どこか気が抜けてしまうような唸り声がしばらく続き、あっ、という声が響いた。

 

 

 

「Jud. 恨んだりなんかしないよ別に。昨日に戻るだけだし、な? トーリ」

 

「……おお。言われてみりゃそうだな!? おいシロ、今朝の謝罪会見なし! ってことで俺&ダムの釈放を要求するぜい!」

 

「……だから止水はともかく貴様は自分でカーテンを巻きつけていただろうに」

 

 

 止水が言った。――昨日に戻るだけ。

 

 かみ締めていた唇を解いて、二人を見る。

 

 

 

 トーリが言った。――今朝の謝罪。

 

 次いで、直政を除き……どこか、悔しそうな面持ちの梅組を見る。

 

 

 

 ネイト・ミトツダイラは知らない。今朝、彼女が領主議会での決定に覚悟を決めかね、今だ悩んでいる中。

 時を同じくして、トーリと止水……とりわけ、止水のほうは、もう覚悟を決めてある行動を起こしていたことを。

 

 

 何が起こったのかは知らない。が、知らなければならないと直感が最大音量で喚きたてる。

 

 

 口上を中断し――跪いたことで、位置が上になった鈴を見上げる。その鈴も、今にも泣きそうで……。

 

 

 

「……止水、くん……わた、したち――を、頼って、くれた。の」

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

(たよっ、た……?)

 

 

 誰が?

 

 

(あの人、が……?)

 

 

 止水が。

 

 

「そんな……まさ、か……?」

 

 

 答えは、沈黙だ。そして沈黙は、肯定だった。

 

 

 あの止水が、自分達を頼った。ほかの誰でもない――自分達を。

 

 この十年、あの日から、どれだけそれを望んだことだろう。望みながら、どれだけ頼ってしまっただろう。

 

 

 

 その彼が、頼った。頼ってくれた。

 

 

 

 

 

 ――だというのに、私は、何を――やっていますの……?

 

 

 

 

 頼れ頼れと焦がれて望み――だというのに、頼られて伸ばされたその手を今、ネイトは振り払おうと、している。

 

 とうの本人は、再び鎖を突破しようと力を掛けていっている。一気にも出来るだろうに、もしも飛び散った鎖の破片で誰かが傷つくことが無いように。じわりじわりと圧を掛けていく。

 

 

 鎖はすぐにでも引きちぎるだろう。そしてまた一人で、トーリと二人で、駆けていくだろう。ホライゾンを救い――世界トップの組織と戦争となる中で、誰に頼ることなく、守り抜こうと、戦いに出る。

 

 

 それを自分は止められない。その時は既に、自分はもう騎士ではないのだから。

 

 

「う、あ――……」

 

 

 ――天秤がまた現われる。

 

 

 降伏しなければならない。それが、武蔵の騎士の総意なのだから。だが、言葉が出てこない。『全面降伏し、市井に帰属します』と、考えてきた言葉が、言えなかった。

 

 

 

「ミト、ツダイラ、さん……!」

 

 

 声が聞こえて、見上げようとして。

 

 

「うぷっ……?」

 

 

 

 そんな間抜けた声が出てしまった。ついでに、視界も真っ暗だ。

 

 なぜか、つい今しがたまで悔しそうな顔をしていた一同がおおっ、とどよめいている。

 

 

 そして、頭をぐるっと何かに抱えられていて……。

 

 

「す、ず……?」

 

 

 鈴に、頭を抱きしめられている。

 

 そして聞こえたのは、確かな心音と――嗚咽だ。

 

 

 

 

「……おね(・・)がい(・・)……っ!」

 

 

 

 ただ、それだけだった。

 何を、も。どうやって、も。言葉にすることは無くて。

 

 

 

 そして、それよりも。何よりも。

 

 

 鈴が泣いている。涙を流している。止めなくては、友として。

 

 

 

 

 なによりも、民を守る――騎士として。

 

 

 領主議会がどうした、守ればいいのだ。それが騎士なのだ。

 

 民を守り、支え、導いてこその『騎士道』。

 

 

 

 

「……安心なさい」

 

 

 

 迷いは消えた。不安も消えた。天秤など、ぶっ壊してやった。

 

 どちらか一つなど、決めることを求めてくる秤など、自慢の力で粉砕してやろう……!!

 

 

 

 そして、やんわりと鈴の腕を外し、立ち上がって、鈴を抱き返す。

 

 

「私を、誰だと思っているのですか……? 武蔵の『騎士』は、ここにいますわよ?」

 

 

 騎士であることを宣言する。民よりも上にあり、相対として民と同位に降りてきた騎士は、再び上位の身分に帰っていく。

 

 

「……鈴には敵いませんわね……さすが武蔵の最強ですわ。でもこの相対、不本意ながら私の勝ち、ですわね?」

 

「J,Jud. 私、の。負け、です」

 

 

 ……そんな二人のやり取りを、優しげな笑みで見届け……オリオトライは、聖連側の勝利を宣言した。

 

 負けた側から歓声が上がるという、なんとも不思議な結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一勝一敗。アナタへ手番を繋ぐという、最低限の役目は果たしましたわよ?」

 

「Jud. 騎士は騎士のまま。 武蔵には、十分に力があることは分かった」

 

 

 そして決着の、第三戦。それを前にして、決然とある正純を見て、ネイトは苦笑を浮かべる。

 自分も自分で不器用だが、正純ほどではない。

 

 

「……あちら側で、待ってますわよ?」

「……なあ、私はそれになんて答えればいいんだ?」

 

 

 さあ? と肩をすくめて、教導院側へと向かう。そのまま、梅組の前で先ほどのように膝を突いた。

 

 

 

「……武蔵アリアダスト教導院総長連合、第五特務。ネイト・ミトツダイラ、総長連合に復帰したいと思います」

 

「おせぇぞ? 騎士様。危うくダムがソロ突貫するところだったぜ?」

 

「……俺は別に、それでも良かったんだけどぐぇ」

 

 

 

 そこから先は言わせないとばかりに男女構わず、一同からの足蹴を受けて潰れたかえるのようなうめき声を上げる止水に苦笑し――視線を近づけるために、止水の目の前にて屈む。

 

 

 

「……それで、何か言うことはありませんの? 私に」

 

 

 ――実はネイト、ちゃっかり直政が羨ましかったらしい。

 

 その口から告げられる四文字(おかえり)の言葉を楽しみに待ちつつ――

 

 

「……?」

 

 

 巻かれた状態で器用に首を傾げられて、『え、何?』といつもの口癖が聞こえた気がしてイラッとキタ。ちなみに、こっそり直政が小さくガッツポーズしているのにも。

 

 

「で、ですから! 私に何か言うことは無いのですかと……!?」

 

 

(……まさか、無いんですの? え、待って、本当に?)

 

 

 それは、ちょっと。いや、かなり……悲しい。

 

 

 じっと待っても、じっと見つめ返されるだけで――、しょうがなく……しょうがなく、大変遺憾ながら。ネイトが折れることにした。

 

 

「た、ただいま……ですわ」

 

「ん。おかえり、ミト。……あんまり背負い込むなよ?」

 

 

 ……たまに、ワザとやってるんじゃないかというくらい。ずるい言葉を淡々と言ってくるから油断できないのだ。

 

 油断して、顔を真っ赤にした騎士を―― 一同でニヤニヤしつつ観察していた(見守っていた)

 

 

 

 

 何はともあれ、一対一。

 

 

 臨時生徒総会相対戦は――ついに最終戦を迎える。

 

 

 

 

 

《おまけだぎゃぁぁあああ!!》

 

 

「俺、葵・トーリが説明するぜ!! その名も『ベルズ・ハグ』!! それは武蔵の至宝がもつ絶対無敵の超必殺技!! すっげぇなベルさん!」

 

「あら愚弟? いきなりハッスルしてご機嫌ね? でも意味不明よ? そしてぶち壊しよ? 空気的なのいろいろと」

 

「簡単じゃねぇかねぇちゃん!! ベルさんがハグでそのまんま!! でも基本的に周りが怪しいやつとかあぶねぇやつとか見張ってズドンバコンドカンとやってるから近づけねぇよ!? 注意しろよ!? ……お、おいおいなんだよ皆、目が怖いぜ? 特にベルさん真っ赤になってプルプル震え――」

 

 ……三連の破砕音が、全てを飲み込んでいった。

 

 

 




読了ありがとうございました。

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