境界線上の守り刀   作:陽紅

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終盤までいって――データロスト。

 ……とあるの方で耐性が着いている私を誰だと……誰、だと……!


そして、終わりませんでした、三河消失編――……


※ 大変なお目汚しをさらしましたので改めて投稿させていただきます。
  お騒がせいたしました。


五章 槍、伝える  改め

 一人テンション高く、踊り狂うように動き回りながら――三河の長、松平 元信が世界に発信する。

 それを、おそらく通神の制御でもしているのだろう自動人形たちが視線で追いかけるのに必死だ。

 

 

 

『いやー、ごめんね、やっとだと思うとつい気が高ぶっちゃって。えっと……どこまで言ったかな?』

 

『Jud. 全世界へ向けてイブニングコールを終えたところです』

 

 

『ああ、そうだった。それじゃあ全世界の皆ぁ! 先生は今、何処にいるでしょー、か!? …………答えの声は聞こえないけど大・正・解! 先生は今……!!!』

 

 

 

 

 

 

 溜める。溜めて、溜めた。

 

 

 ――そして。

 

 

 

 

 

『いい感じで暴走している三河の地脈統括炉の前にいまぁああす!!』

 

 

 演出なのだろうか、統括炉内の広場をぐるりと囲むように松明が燃え盛る。数十人もの自動人形達が列を成し――笛や太鼓、とにかく、祭囃子に使われる楽器たちを奏でている。

 

 曲調は――極東の民であれば誰もが知っているであろう、通し道歌のそれ。『とおりませ』の音階を無数の楽器を持って複雑にし、僅か一分ほどのその歌を、その部分からループさせている。

 

 

 

 そして、その最奥。

 

 そこに彼はいた。世に傀儡男(イエスマン)と呼ばれた――その男が。

 

 

 

『……んー、ここちょっと暑いなぁ……あ、そこの副長。丁度いい。ちょっと一っ走りアイス買ってきなさいアイス。罰として』

 

「何で我!? 鹿角もいるしその辺りにいる自動人形にでもやらせろよ! ってか罰って――……どれだ?」

「Jud. ――語るに落ちすぎです。罰せられるあれこれそれこれがあるとご自身で白状なさっています。……あと、こんな身を使い走りとか、忠勝様も十分鬼かと」

 

 

 全国を通神ジャックしながら、とてつもない危機を見せ付けながら――やっていることは実質、三河の中年弄りである。

 だからこそ、現実味が無かった。

 

 地脈路の暴走(・・・・・・)などという異常事態も、本当はそんなこと起きておらず――何の問題もないのではないのか、と。

 

 世界の名だたる者たちはそうは考えないだろう。しかし、それは少数だ。

 大多数を占める民達にとって、判断できる材料があるわけでなく……ただ通神越しのやり取りでしか分からないのだ。そして、そこに映る三人のやり取りを見て危機感を持て、というのも無理な話だ。

 

 だからこそ――。

 

 

「……ふざけないでいただきたい……!」

 

 

 

 現場にいる、唯一の第三者である彼の、静かかつ強大な威圧感だけが、その危機感を知らしめる唯一の要素であった。

 現時点で相対し、かつ相当な実力者と判断した忠勝を相手にしながらも、完全に背を見せて、元信へと叫びを向ける。

 

「元信公! 一体何をお考えですか!? 地脈が暴走すれば三河が消失することになります! それが分からない貴方ではないはずです! 極東を危機に陥れるおつもりですか!?」

 

『その三河の街に大罪武装の超過駆動をつかったのはだぁーれだ? ――いや、そんな怖い顔をしないでくれないかな。大丈夫、今の三河は無人だよ。そこにいる副長と私、そして代理の君。あとは自動人形だけさ』

 

 

「知っているからこそ使ったまで! はぐらかさないでいただきたい!」

 

 

 悲嘆の怠惰を強く握るその若武者は、きっと忠勝の存在さえなければその神速を持って、元信に突撃していただろう。それだけの気迫、怒気を受けつつも――主催はにこやかに笑っていた。さらには――ある言葉に対し、喜んでいた。

 

 

『極東の危機、と言ったね。ああ、危機だとも! でも危機ってさいっこうに……面白いよね?』

 

 

 ――そう思わないかい?  と問う元信に、宗茂は何も返せないでいた。信じがたい。信じられない。あの男はこの危機的状況を――心から、楽しんでいる。数え切れない民が混乱し、必要の無い不幸が生まれるというのに。

 

 

『先生、常日頃からよく言ってるよね? 【考えることは面白い】って。それじゃあ危機――それも最大級のヤツって、考えて考えて考えて、考えないと死んじゃったり、滅びたりしちゃうよね? 危機=考える=……面白い。ほら、式の完成だ』

 

 

 ふざけるな、と声を上げんとした宗茂を止めたのは、――だけど。と続けた元信本人だった。

 

 

『実はもっと楽しいことがあるんだ。もっと、もっともぉぉぉぉっと! 考える必要があるもの。さぁ、れっつ・くえっしょん! ……んー、回答者は、まあ、この際君でいいか。立花君、わかるかな?』

 

 

 やや、いや、かなり残念そうな顔で宗茂へと問いかける。その問を、まるで宗茂ではなく、別の誰か(・・・・)にしたかったように。

 

 

「はいはーい殿先生ぇ~! 今我のこと二度見してからため息ついたことに異議ありー!」

 

「Jud. 妥当かと。忠勝様、しばらく黙りましょう。何気に真面目な雰囲気な様ですし。忠勝様が入ると、ぶち壊しかと」

 

『こらそこ、私語は死後まで謹んでなさい。――バケツ満載案山子立ちスペシャルは健在なんだぞ?』

 

 ざっ、と元信の背後。積み重なったバケツを持って現われた自動人形二人。バケツにはそれぞれ『我専用』『俺専用』――と、若かりしころの馬鹿の名残が刻まれていた。

 ……即座に口を閉じる忠勝と、それにため息つく鹿角。

 

「Tes.!! 分かりません! これは時間稼ぎの問答ですか元信公!?」

『Jud. 時間稼ぎなつもりはないんだがね。それよりんー、そうか、分からないか』

 

 

 うんうん、と笑顔。

 それでいいんだよ、と諭す教師の笑顔。

 

 

『だが残念――その答えでは赤点だ。それでは君は恐怖から目を背けて死ぬ人間ということになる。それが嫌だというのなら考えなさい! 考え考え、抗ってもがいて血反吐を吐いて考えなさい!!』

 

 マイクがハウリングを起こすほどの声量で、言葉を宗茂へと叩きつける。そしておそらく、宗茂だけでは無いだろう。全世界の、全てへと叩きつけた。

 

 

「……っ」

『――まあ、時間が無いから特別に先生が教えてあげよう。――答えはとっても簡単だよ宗茂君。極東の危機なんかより恐ろしいものが一つ、あるじゃあないか。……『末世』だよ』

 

 

 末世。

 世界の終わり。

 世界の終焉。

 

『いま世界は、底の無い崖へ突き進んでいる暴走車だよ。卒業式を目前としているのに卒業式『後』がないんだ――ああ、実に、この上なく面白い』

 

 

 感受する様に両手を広げ、想うように両手を高く。

 

 

『……さあ、タイムリミットは近いぞ世界。延長はきかないんだぞ世界。――今度は『守り神たち』は居ないんだぞ、世界!! さっさと解答用紙を表にして考え出せ!!』

 

 

 誰もが目を背けていたことに、無理矢理顔を向けて、目を開かせて。

 消極的にしか動いていなかったものたちの、背中を蹴り飛ばす勢いで。

 

 いま間違いなく、松平 元信は、全世界に相対していた。

 

 

「――」

『ただまあ、何も無いと考え出さないだろうから、『大変よく出来ました』な答えを出せた生徒には『末世』を覆せるくらい凄い御褒美を用意してあげたよ。そして、特別(スペシャル)ヒントも二つ付けよう。どうだい? 出血大サービスだろう?

 これでも考えないとかいう生徒は流石にもう知らない、うん。布団の中で丸まって震えてなさーい!』

 

 

 またふざけて――と顔を顰めた宗茂。しかし、引っかかった。

 

 元信の言った、ご褒美とヒント。ヒントは、まず間違いなく末世解決に繋がるものだろう。

 ご褒美。――末世を覆せるくらい凄い、ご褒美。

 

 

「!? Tes.!! 質問があります元信公! 貴方は既に、『末世』を覆せる手段をお持ちということですか!? ならば!」

『Jud. 落ち着きたまえよ宗茂君。あと、その答えだとまた赤点だ。あと一回赤点したら留年させるからね。――質問に答えよう。私はその手段を『持っていた』――思い出してごらん?

 

 ……私 が 何 か 配 ら な か っ た か い ?』

 

 

 嗤う。愉快気に。

 元信が真っ直ぐ見ているのは、若武者の携えた、黒白異形の剣砲。そしてそれをカテゴリーにするもの。

 

 

「大罪武装――、で、では末世を覆すというのは!?」

『そう。大罪武装を全てその手におさめた者は、末世を左右するだけの力を得る。末世を解決したその後に残るのは、超上たる力。ほら、とんでもないご褒美だろう?』

 

 元信が世界へとばら撒いた大罪武装は、八つ。一つでも超越した兵器であるそれらは、現時点での世界のパワーバランスを保っているといえるだろう。

 それを集めろと元信は言っている。

 

 

「――八つの大罪武装を巡り、全世界に戦争をしろとおっしゃるおつもりか!?」

 

 

 遂に終に、宗茂が『悲 嘆 の 怠 惰』を元信が下、地脈統括炉へと向けた。

 

 止めなければ……いや、もう既に火は世界へ放たれた。戦火は、確実に広がるだろう。

 

 ――ならば……!

 

(ここで元信公を止め戦火を最小限に抑える……! そして、末世への解決に御尽力いただく――!)

 

 

『――また赤点、留年だな宗茂くん。私は一度も、大罪武装が『八つ』だなんて、言ったことは無いぞ? ――八つじゃなくて、九つなんだなぁ、これが』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――世界が停まった。

 

 

 

 

 

 

 

『フフ、フフフフ!! 良いねぇ良いねぇ!! 世界の頭でっかちたちがこぞって秘匿通神を飛ばして来てるね! 慌てない慌てない、ちゃんと最期に教えてあげるから!

 さあ、留年しちゃった宗茂君だけど。いまのうちに先生に聞いておきたいことあるはずだろう? ……いや、むしろ聞いてくれないと困るんだけど』

 

 

 戦火は停まらない。打ち明けられた最後の一つ、九つ目の大罪武装を巡り、確実に火は拡がっていく。

 呆然としている宗茂に、元信は指を二本立てて、何かしらを必死にアピールしている。

 

「二つの、ヒント――ですね」

『うん! 有り難う!! 聞いてくれて本当に!! っていっても、一つは大罪武装だよーって今さっき暴露しちゃったんだけどね』

 

 

 伸ばした指を一本曲げて、残る指は後一つ。

 

 とたん、元信が優しげに。心から優しく、そして悲しそうな笑みを浮かべた。

 

 

『もう一つのヒントはね……多分、末世の解決には至らないと思うんだ。でも、もしかしたら……万が一、大罪武装での解決が出来なかったら(・・・・・・・)――その保険だよ。解決ではなく、被害を最小限に抑えられるかも(・・)しれない……本当は、今日の特別ゲストは君じゃあなくて、その彼だったはずなんだけど』

 

 優悲しい顔を一旦止め、宗茂の後ろにいる忠勝をジト目で見る。忠勝はというと、え、我!? と自身を指差してなにやら慌てていた。

 

 

「我じゃねぇって! 酒井の所為だろこの場合!」

『連帯責任です。自動人形首からぶら下げて街道に立ってなさい』

 

 

 ひでぇ、とうな垂れる忠勝に鹿角が追い討ちをかけるのを眺めつつ、元信はため息をついた。

 

 

『さて、宗茂君。突然だけど……君は、世界滅亡の危機が、過去無かったと思うかい?』

「……あった、と思います」

 

『……そう、あったんだ。何度も、何度も。たとえば自然災害だったり、たとえば一個人、一国家における無計画征服だったり……。

 現に、一番近いもので190年くらい前だ。世界は滅亡しかけてるって知ってたかい?』

 

 

 ――――190年。

 それを、遠いと思うか近いと見るか。とりあえずのところ、宗茂は後者――のさらに上。『最近過ぎる』という意見。

 

 人の生で考えれば、僅か三世代から四世代程度の前でしかない。

 

 当然、世界滅亡しかけたなどという話を聞いた記憶はない。しかしその時期にあった事変が、一つだけあった。

 

 

『――重奏統合争乱。テストにはでないよ? でもしっかり聞いておくように。まず重奏統合争乱だけど、皆知ってるよね? 神州側がミスって重奏神州を落としちゃったアレ。

 ……でもおかしいと思わないかい? ほぼ同質量同体積の物質がぶつかり合って、何で神州側が無事で、重奏神州のほうだけが半分も消滅しちゃったのか。おかしいよね? どっちも同じように被害を受けないとおかしいのに、『上書き融合』とか。おかしいと思わないかい?』

 

 

 

 元信は告げていく。

 今まで、今の今まで、誰も知り得なかった事実を。

 

 

『でも、同じように被害を受けていたら、神州も重奏神州も、歴史再現とかそんな余裕なかっだろうね。でも、そうはならなかった。最悪は回避されたんだよ……たった千人にも満たない、ある一族によって』

 

 

 

 歴史に、一度とて名前を残すことが無かった一族。口伝でのみ、その存在が語り継がれてきた一族が。

 

 その一族の名を、初めて――

 

 

『その一族こそ、第二のヒント。 

 

 

 それが、守り刀の一族だ』

 

 

 

 

 ……世界に、刻み付けた。

 

 

 

「守り刀――?」

 

『知らないだろう? 宗茂君。知っているのは神州側、今は極東と言おうか。そのごく一部だったから、今の聖連の大半は知らないんじゃないかなー……本当なら、誰よりも賞賛されて、誰からも感謝されるべき人たちだというのにね』

 

 

 せめて先生だけでも、有り難うって言いたかったんだけど……と再び忠勝をジト目で睨む。忠勝はならない口笛を必死に吹き、原因の要因を作ったと自覚のある鹿角は自動人形である無表情さをこれでもかと出している。

 

 

「――では、今一度その一族の方々に御協力は願えないのですか!?」

 

『他力本願は感心しないなぁ、先生……って、ヒントに出してる時点で先生も人のこと言えないんだけど。だから答えるけど、それは無理だよ。

 ……だって、守り刀の一族は滅んでいるんだから。その争乱のときに』

 

 

 悲しげな顔のまま、首を振る。

 

 説明――よりも、独白か、懺悔とも思える声で言葉を紡いでいく元信に、宗茂は言葉を挟めないでいた。

 

 

『争乱のとき、重奏神州の民が神州に攻め込んだ、ってことも知ってるよね。その時だよ。力を使い果たした守り刀たちは次々と、重奏神州の兵に討たれていった。そして、かの一族は滅んでしまったのさ。――たった一人の、その時まだほんの赤子だった守り刀を残してね』

 

 

 

「――その生き残られた赤ん坊の……子孫がいるのですか?」

 

『Jud. 一人ね。――三年前の親善試合で武蔵にいるって分かったときは、ビックリしたよ。……あんなに大きくなっていて、年甲斐も無く喜んだよ……まあ、そんな感じで。千人の彼らでやっと防げた統合消滅よりも、はるかに厄介な『末世』を、彼一人に押し付けてどうにかなると思うかい?』

 

 

 だからこそ、大罪武装でどうにもならなかったときの、最悪の状況での、もしかしたら――という保険。

 

 静かに首を振った若武者の、悩みぬき、考え抜いている顔を満足げに元信は見ている。

 

 

 

 考えろ。若き力よ。

 

 そして、進め。己が考え、導き出した、その道を……!

 

 

 

『――先生からは以上だよ。本当は彼の答えを聞きたかったんだけど、君の答えでも面白そうだ。さあ、立花 宗茂君! 回答をどうぞ!!』

 

 

 深く深く――呼吸を落としていく。自分は元信の言う守り刀では当然無い。一人の立花 宗茂という個人でしかない。

 それを考えて、まず思い浮かんだのは、一人の少女だ。

 

 

 

 ――なんだ、簡単じゃあないですか。

 

 

 

「……Testament!! 私は――私は貴方を止めます! 限られた時間を模索し続ければ、必ず手段はあるはずです! 三河の消失など、早計過ぎる考えです!」

 

『Jud.!! 良い答えだ!! 初めて君に合格点を上げられるね! ただ――三河消失は大切な工程なんだよ。これを邪魔されるわけには行かないんだよねぇ……』

 

 

 嬉しそうに悩む。

 

 嬉しそうに考える。

 

 

『んー、でもなぁ、最近教師が生徒に物理的指導をするといろいろ叩かれるしなぁ。先生が叩かれたら学級崩壊じゃないか――というわけで、ちょっとそこの副長、どうにかしなさい』

 

「おいおいおいおい、殿先生よぉ。今までさんざん言っておいてそりゃあねぇだろ? 言い方ってものがあってもいいと、我は思ったり思ってなかったりしまーす!」

 

 

 御指名された忠勝は槍を担ぎ、気だるげに返している。二人分のため息が聞こえたが、必死に流している。

 

 

『全くしょうがないなぁ。それじゃあ。

 ――往け、本多 忠勝。人々が末世という最終課題をどうにかせざるをえないようにするために……! お前の忠義の偏差値を、全国レベルで見せてみろ!!』

 

 

 

「――Judgement.!! それじゃあ止めるぜ、学級崩壊……!」

 

 

 

 

『さあて時間もガッツリ稼げたし! あと二分ってとこかな!! 全世界の皆ぁぁ! 先生の最後の授業、しっかりと聞くよぉぉぉに!! メモの用意を、わっすれるなぁ!?』

 

 

 




読了有り難うございました。

今回、かなりオリジナル要素が強いです。

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