境界線上の守り刀   作:陽紅

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三章 決戦前の支度場 【早朝】

 

 ……早朝を吹き抜ける風に目を細める。

 

 

 武蔵左舷二番艦、『青梅』――その外側甲板縁に立ち、外界を眺めているのは、痩身の青年だった。

 

 作業着代わりに着ている制服は、所々がヨレていたり、拙い修繕の跡が多く見受けられる。彼が苦学生である証拠だった。現にこの後、彼は武蔵補修の早朝バイトに参加する予定だ。短時間だが、かなりの高時給なのである。

 

 

 ――幼い弟妹たちのために働きまくるその青年の名は、ノリキと言った。

 

 

「……今更、何のようだ」

 

 

 ノリキの言葉の形は、問いかけるもので……しかし、どこか責めるような棘と強さを孕み、空気を揺らした。

 

 言葉の届く範囲にいるのは彼女――小田原総長、北条 氏直だけだ。

 

 

 呼び出されたのは男の方であり、呼び出したのは女だ。……これだけならば逢瀬とも思えるだろうが、二人の纏う空気に、そんな温か気なものは、一切としてない。

 

 

 ……氏直は揺れそうになる肩を意志強く抑える。無音になる様に意識をして、一呼吸を置いた。

 

 

「お戻りに、なられないのですか? ……相模は、もう落ち着いてきているのですよ?」

 

 

 諭す様な、実際そのつもりなのだろう。

 頑として、足場のない艦外を見ることで氏直を見ようとしない……そして、足場のない艦外に体の前面を向けることで氏直に向かい合わせようとしないノリキを、諭す言葉を氏直は紡ぐ。

 

 

「――十三年、経ちました。もう、戻ってこられても良いのではないですか?」

 

「今更戻って何になる。……親父が生きていて、もし親父が戻ると言ったとしても、答えは変わらない。俺は武蔵に残る――俺の帰る場所はもう相模にはない。

 

 ……俺の帰る場所は、武蔵(ここ)だ」

 

 

 しかし、諭そうとする言葉は相手の思いに隙がある場合にのみ効果を出す……故に、取り付く島もないノリキの姿勢には、なんの効果も為さなかった。

 

 ノリキの言葉が続く。

 

 

「――お前は北条 氏直を襲名できた(認められた)。しかし、俺は認められなかった。二人とも違っていたのに、お前だけ正しかった。それが全てだ」

 

「それは……!」

 

「……今更それをどうこう言うつもりはない……正直な所、俺はそれでいいと思っている。俺はただの、武蔵に住む一人の学生だ。それでいい」

 

 

 

 片や、襲名者。そして一勢力の長。

 

 片や、一般人。後ろ盾も何もない、どこにでもいる労働者。

 

 

 

 それでも――ならば、と。氏直は言葉を返そうとする。

 

 一人の学生ならば、身軽であろう。昨今で編入やら転校やらは珍しくないし、手続き一つで簡単に済むのだ。それに氏直は総長である。多少どころではない融通だって利かせられる。彼の弟妹達だって喜んで受け入れるつもりだ。

 

 

 ――しかし、だが、と。氏直の勢いを遮り、ノリキは振り返る。

 

 細められている氏直の眼から覗く金色は、生来のものではないだろう。それを、ノリキは真っ直ぐ強く見据えた。

 

 

「相模に戻る理由はない。……だが、武蔵には残る理由がある。

 

 ――『じゃあな』の一言で、別れる事が出来ない仲間が……武蔵にはいるんだ」

 

 

 

 相模から離れ、十三年。

 

 武蔵で暮らし、十三年。

 

 

 ……金がないときに、弟妹達も合わせて自身がバイト店長を務める店の賄い飯を振舞ってくれた王がいた。

 

 ――親が居らず、また愛想の悪いノリキがバイト探しに苦労していたときに多方面に掛け合ってくれた刀がいた。

 

 

 

 『威力を上げず、力を徹す打撃技がある』と教えてくれた刀が、そして、それを形にするために浅間へ口添えしてくれた王が。

 

 

 

 

「――守る。俺も、この武蔵を守りたい。だから俺は武蔵に残るんだ」

 

 

 殊更、守ると刀を握る大きな背中は、同年代と思えないほど力強く……長男であるノリキにして、『兄』を思わせるほどだった。

 

 三河の戦場で共に駆けることができたあの時の高揚は、今でもしっかり覚えている。続く英国での不在では、ならばこそと奮起した。

 

 

 

 ……弥生月を捧げ、如月に徹し、睦月と終わる。

 

 三拳必撃(さんけんひつげき)の技を拳に宿し――言葉なく二人の背に続いていく。戦士の気位を掲げる、ただの労働者。

 

 

 

 それが、ノリキという男だ。そうあろうとする男が、ノリキなのだ。

 

 十三年前……過去のノリキしか知らない氏直の、知らないノリキがそこにいた。

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 立場の差。思いの相違。

 

 それを突き付けられ、淡く思っていた『理想の希望』が脆く崩れる音を夢幻に、氏直は拳を……自動人形のものとなった拳を、硬く握る。

 

 

 北条の当主として、多種族で構成される小田原教導院を纏め上げるために強くあらねば成らぬとされ……実際に、総長として相応しいだけの力を彼女は得た。

 

 かつて幼い頃に交わした……『何があっても、お互いを守り合おう』――そんな約束など、最早必要ないほどに。

 

 

 

 意志は示した。もう言葉は要らぬだろうと、ノリキは去っていく。

 

 その背に手を伸ばそうとして、言葉を投げようとして――。

 

 

「……まって、ますから。ずっと……」

 

 

 

 それではダメだと、わかっている。しかし、その言葉しか、氏直には紡ぐことが出来なかった。

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

「ど…………どうするでござるか? この状況、結構なお点前のシリアスでござるよ……?」

 

 

 ところ変わる――ことなく。ノリキが去っていき、氏直がそれをただ見送ることしか出来ずにいる現場から、離れる事――僅か二十数メートルの物陰に梅組一同が、ほぼ全員集合していた。

 少し背のある草むらに腰を落とす者、開店前の店の影に張り付く者――時間が早朝でなかったら、間違いなく住民に見られて番屋に通報されていることだろう。その程度には怪しかった。

 

 

「うーん、自分たちと結構芸風が違いますねコレ……どうしましょう、慣れてる方いませんか? こう、自分たちの側にちょっと寄せられる感じで……」

 

「アデーレ君、芸風って発言は取り敢えずやめましょう。……小生的には、素直にノリキ君とあのババ――北条 氏直氏がかなり深めのお知り合いだった事に驚いてますよ」

 

「御広敷君は取り敢えず番屋に通報しておきましたから。普通に外交問題になる発言ですからねそれ。しかし、これは……他人がおいそれと聞いちゃいけない内容っぽいですよね……」

 

 

 真面目にそういう巫女に、一同は呆れを盛大に乗せた視線を向ける。集まりこそほとんど偶然だが、最初の一人はなにを隠そうこの智である。眼こそ良いが鈴のように優れた聴覚を持っているわけでもない智が、聞き取れないからと読唇術を取得している点蔵を呼んだのだ。

 

 ……一応弁護をするならば、明朝に喜美から指摘された事をしっかり考えようと、散歩がてらに物思いに耽っていたところ、偶然にも現場に遭遇してしまったのだ。なお、そこで良心を利かせて引き返せなかったので、一応の弁護も役には立たないだろうが。

 

 

「うむ――聞いてはならぬ事を聞いてしまったのだ。もし何かあったなら、どんな形であれ、ノリキ殿を手助けせねばなるまい。……それが我輩たちのできるせめてもの償いであり、友としての役目であろう……!」

 

「そうだねネンジ君! ……でもできれば、二人が笑顔になってくれる結末を僕は望むよ。――心から、ね」

 

 

 そう誓うように言葉にするのは桃色のスライムであるネンジ。その言葉に答えるように笑みを返したのは、彼を頭に乗せているインキュバスのイトケンだ。

 

 それを直視できないのが周りの面々だ。外道精神に染まりきっている彼ら彼女らに、二人の精神は眩しすぎたのだろう。

 

 

 

「ノリキが北条の関係者だった。それも、私とかなり似た様な立場か……しかし誰の襲名を?」

 

 

 呟いたのは、正純だった。

 

 『本多 正純』――その襲名が叶わなかった正純は、同じく本多 正信を襲名出来なかった父に次いで三河を離れ、今はこうして武蔵にいる。彼女はそのまま正純という男性名を名乗っているが、少なくとも、北条関係の歴史上の人物で『のりき』という名の人物を正純は知らない。

 

 

(……おい。誰か、話振ってやんなよ。ネシンバラのやつ、ソワソワしてメガネ頻りに直してるさね)

(うーん、なんか嫌。説明も理由もないんだけど、なんか嫌。私はパス)

(ガッちゃんも? 実はナイちゃんも……こう、ね? 男子でやってくれない?)

 

(得意げな顔をされてイラっときて、つい打撃を入れてしまいそうなので拙僧はパスである)

(こういう時はカレーですネー。カレー食わせて聞き出すですネー)

(番屋で出されるカツ丼のノリでござるな! ……知識披露がすでに番屋通報レベルになってるでござるよ)

 

 

 ヒソヒソと……『ネシンバラに()()聞こえないように話し合う』という無駄でしかない高度な相談技術を見せる一同。押し付け合い、なすりつけ合いが醜く静かに行われている中で。

 

 

 

「……。

 

 え、と。のり、きっ、君が、しゅうめ、い、しようと、してたの――だ、誰なんだ、ろ、ねっ? ネシ、バラくん、わかっ、る……?」

 

 

 

 それを自ら進んで引き受けたのは――鈴だった。

 

 一同は込み上げてくる何かを拳を握りながら抑え、唇を噛んで堪えた。それはもう必死に。

 

 

 

「っ! さっさと教えろ(吐け)ネシンバラぁぁぁあああ!! あ"あ"!? 貴様……っ、武蔵の至宝がお伺いだろぅが!!!」

 

「ごめん……っ、ベルさんごめんね……っ! ナイちゃんたちがやらなきゃいけない事なのに……っ」

 

「え、あの、なに……? どう、したの……?」

 

 

 ――誰も聞かないなら自分が聞こう、くらいで特に深く考える事がなかったのだろう。そんな鈴だからこそ、一同へのダメージはデカイ。

 

 比例して、ネシンバラへのダメージもデカかった。良心の叱責もあるが、国に対抗できる戦力が揃ってガチで睨んできているのだ。聞こえて来た武装展開の音は流石に幻聴だと思いたい。

 

 

「――と、督姫! 松平 督姫だよ! えっと、北条 氏直の正室に嫁いだ、松平 元信――徳川家康の娘!」

 

 

 本来ならもったいぶってから答えを言うのだが、今回ばかりは形振り構っていられなかったのだろう。答えを先に告げて冷静になってもらい、その後に説明を付ける。

 

 

「北条 氏直と並ぶのは、その配偶者くらいさ……多分、北条は身内だけで済ませるつもりだったんじゃないかな。そして、産まれたのが、しかし男女逆だった。

 ノリキ――彼の名前がそのあり方を示すなら、二通りの字に当てられるんだ。武蔵に『乗』って『去』るか、武蔵に『乗』る『姫』か。……どちらにせよ、『乗去/乗姫(ノリキ)』って読めるだろ?」

 

 

 襲名者が襲名先の人物と同性ではない――ということは、実はかなり多い。だがそれは、正純や義経、氏直のような……男性の襲名を女性が行っている場合だ。

 

 その逆で、女性の襲名を男性が行う事は非常に稀なことである。そもそも戦国の時代は男性優位――言葉を悪く言えば男尊女卑の時代だ。有名どころは基本男性が多く、史実に記されているのは女性は正室側室に嫁いだ姫君と、男性に比べれば圧倒的に少ない。

 

 

 

「徳川家康の娘というと、つまりはノリキ君様がこのホライゾンの未来娘ということになるのでしょうか?」

 

「い、いや、襲名は失敗しているわけだから、ノリキ君がアリアダスト君の娘になるわけじゃ……」

 

 

 

 ない、と、言いかけて――言い淀むネシンバラ。腕を組み、思考を深める。

 

 ……どうなるんだろうか、この場合。

 

 

 

「でも北条氏直に嫁ぐのが督姫なら、北条氏直の襲名者と結婚した男が=督姫なわけでしょ? 北条で襲名出来てないっていうなら、督姫の襲名者を極東側――武蔵から出さなきゃいけないんじゃないの? そこんとこどうなのよ、オタクメガネ」

 

「それに、松平元信の娘っていうなら、ホライゾン自身も督姫候補になるんじゃないのかい? 昨日の義経みたいに、多重襲名ってことになるさね。その場合、武蔵の主権云々はどうなんだい? オタクメガネ」

 

「第三案じゃないけど、ホライゾン自身が産んだ子供を襲名者にするのもアリよね? 丁度英国で、そこの犬くさい忍者とメアリが次期英国王を産む、っていう似たような前例があると言えばあるけど。その辺どうなのよ? オタクメガネ」

 

眼 鏡『いい加減に婚姻届(コレ)にサインと捺印してくれないかな? その辺早くね? My ダーリン』

 

 

 そこに、喜美、直政、ナルゼの順で次々に疑問が投げつけられ、表示枠から国際通神が飛び込んでくる――流石に、キャパシティオーバーだ。

 

 

「まってまってまって! 混乱してきたっていうかそんな重要案件をこんなノゾキしてる状態でするもんじゃないよ!」

 

 

 そもそもノゾキをするな、というツッコミを入れてくれる一般人はここには、残念ながらいない。国際通神を叩き割ると、また新たに表示枠が開く。今度は国内――身内だ。通神で情報を共有していた誰かが何かしら発言をしたいのだろう。

 

 

 

 

 

傷有り『フフ、点蔵様、ワンちゃんたちと遊ばれたのですか? あ。湯船の用意をしておきますので、戻られる時はご連絡を。いつものようにお背中流させて頂きますので』

 

 

 

 

 

 

 

約全員『――ほう?』

 

 

 

 

 

「ふむ、氏直殿も、もう特に発言はないようでござ――……おやおや? 何やらこれ、自分を対象にした爆弾が投下された感じでござるな?」

 

 

 梅組外道被害、その件数・期間ともに最多・ 最長のレコードホルダーは伊達ではなく、気配というか場の空気で自分に被害が来ることと、そしてその被害がどの程度のモノであるのか……という大体の察知が出来るようになっている点蔵。

 しかも最近……具体的には英国後、メアリと結ばれてからは梅組外にも情報が流れて奇襲をされるようになった。……それが何気に良い訓練になるのだから、笑えば良いのか嘆けば良いのか。

 

 ――まあ、その程度でメアリ殿と一緒に居られるのならば望むところ、と開き直りに近い心境なので、むしろ本人のモチベーション的には上昇傾向だったりする。

 

 

「まあ……なにはともあれ、ノリキ殿の件は暫くは見守るしかないでござろう。今日などは特に、各々抗争で忙しいはずでござる。――色々終えてから、ネンジ殿たちが言うように過ぎない程度に手助けをすれば良いかと。それで、よろしいでござるか?」

 

 

 点蔵の提案を受けて、頷くネンジとサムズアップを見せるイトケン。

 

 周りの梅組メンバーは、鈴と一部のメンバーを除き、了承の頷きをしながらも渋面を浮かべている。ノリキの手助けに否があるわけではない。喜んで、とまではいかないが、吝かではない。

 

 

 

(((……点蔵の余裕のある態度が、妙にイラっとくる……)))

 

 

 コイツに上から余裕気に締められる事が気にくわない……という、それは、何とも子供じみた反抗だった。

 

 

 

***

 

 

 

「……妹よ、今日は一段とボールのキレがいいな。もう二十人斬りだぞ? ベンチどころか二軍のメンバーもか……」

 

「次! ほら早く! 次にバッティング練習するの誰!? ……ああもうこの際アニキでもいいや! 早くバッターボックス立って!」

 

「待て妹よ。お兄ちゃんはお前と同じで投手だからそこまで激烈にバッティング練習をする必要は……あ、ちょ、待っ……!」

 

「負けるもんかぁー!!」

 

 

 

「……うふふ、嫉妬がかわいいなぁ」

 

「房栄! 止めてくれ! そろそろ多分俺の―― 「主将ぉ! バント練習しませんかぁ! 私投げますよ!」……お、おう」

 

 

 ――男の悲鳴をBGMに、死屍累々な地獄の朝練は終了したそうな。

 

 

 

***

 

 

 

 

「……お前ら何やってんの? 朝っぱらからこんな所で」

 

「おいおいなんだよオメェら! さては俺に内緒でなんか面白ぇことやってたな!?」

 

「「っ!?」」

 

 

 突然(本人たちは普通に歩いてきただけだが)後ろからかけられる聞き慣れまくった二人の声に、過剰なまでに反応したのは智とネイトの二人だった。

 

 隠れている状態から立ち上がり、すぐさま距離を取り……ネイトを前に、智を後ろにするフォーメーションでそれぞれ銀鎖と弓矢を構えている。……それは、図らずして英国で点蔵と止水が賭け試合の際に見せた対応によく似ていた。

 つまり、戦闘特化の人間の対応となる。

 

 

「……ミトツダイラ君はともかく、浅間君がその対応できるって巫女としてどうなんだい……?」

 

「なに言ってんだい。……あのアサマチさね。むしろ、今の時点でズドンしてない方がおかしいだろ」

 

「あ、あのってなんですか!? あのって! こ、これは……いきなり後ろから声かけられたら、女の子として当然の対応ですよ!」

 

「「「世の中の女があんたみたいに常時弓矢を携帯してると思ったら大間違いだぞ……!」」」

 

 

 ――ズドン巫女(アンタ)と一緒にするなと、女衆一同の総ツッコミ。武蔵の四大擬音で、二番手に圧倒的大差を付けて鳴らされるのは伊達ではなかった。

 

 

「ふふ。愚弟に止水のおバーカ。実はここでかくかくしかじか!」

「なんだよ姉ちゃん! まるまるうまうまかよ! なるほどな!」

 

 

「……これでトーリが理解出来てると、俺だけわかってないことになるのかぁ……まあいっか。丁度皆と合流したいと思ってたから」

 

 

 白い布に簀巻きにされた……嘗ての当人の言を借りるならばライスペーパー状態のトーリを肩に担いでいる止水は、吐息を零している。

 

 トーリを巻く布はどこか湿っており、『湿った手の男(ウェットマン)』の通り名を正しくしていた。それを肩に担ぐ止水も薄着で、上は緋色の着流しと上着がない、白の内着だけという装いだ。こちらは袴の裾部分が濡れている。

 

 何かがあった――と一同に思わせるには、十分過ぎるヒントである。

 

 

「お前らこそ何やってたんだ……?」

 

 

 正純が代表して問う。

 

 

「なんだよセージュン! 俺らがヌレヌレな理由知りてぇのかよエッチぃ! 実はかくかくしかじかでよ!」

 

「ちょっと愚弟? アンタなに言ってんのかサッパリわかんないから、ちゃんと説明しなさい?」

 

 

俺  『(´・ω・`)』

 

 

 ――「お、生きてる。今のは流石に悲しんだ(逝った)と思ったんだけど」

 

 ――「どうせ顔文字打ってるのをネタに楽しんでいるのだろう。……簀巻かれてる状態でどうやって打ったのだアイツは」

 

 

 

「……え、何トーリ? 俺が説明すんの? いや、別にいいけど……えっと。

 

 

 壱、トーリが義康に早朝ファラオった。

 

 弐、義康が激怒してトーリ探し。俺と義頼は朝飯。

 

 参、義頼が学長に用があるって言うから俺が案内して、その途中でなんかワニ園に落ちたってトーリから――」

 

 

「「「「「お前らこそ朝っぱらから何やってんだよ!?」」」」」

 

 

 トーリの全身が濡れているのは、ワニ園の池に簀巻き状態で落ちたから。そして、止水の袴が裾だけ濡れているのは、その池にトーリの救助に行ったからだろう。

 ……確実にトーリの内容からおかしくなっているのがお分かりだろう。止水は完全に巻き込まれただけだ。

 

 

 身構えた後、こそこそと気まずそうに距離を取るネイトと智に、止水は首を傾げる。

 

 

「(俺、なんかやらかしたかな……)まあ、その辺はいいとしてさ。ちょっと今日の……え、えぐざごんふらんせーず? とかとの戦争の事で話があってさ」

 

 

 笑う。

 

 

「義経が言ってた十五分だけどさ。――その時間、俺がもらうから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が誰だったのか。そして何人分だったのかは定かではない。一様にポカン、という表情を浮かべている。

 

 ……言葉が足らなかったか、と元凶は苦笑し――言葉を探して、言い直す。

 

 

「武蔵が飛べない十五分間。――六護式仏蘭西(えぐざごんふらんせーず)とは、俺一人で戦うから」

 

 

 

 ……提案でもなく、また、意見でもない。

 

 それは確定事項を告げるような――そんな、口調だった。

 

 

 

 ――早朝。武蔵全艦に響くような絶叫が、本日の目覚ましになったそうな。

 




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