境界線上の守り刀   作:陽紅

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諸々のテーマソング?に関するご要望がありましたので一部記載させていただきます。

止水:stone cold、覚悟完了、深紅の呂旗-the one-(槍→刀に脳内変換)

守り刀の一族:忘れじの言の葉、sword summit、未来への咆哮

 他、妄想カップリングでの諸々もございますが、多すぎるので割愛させていただきます。あと、各動画投稿サイトで投稿されているmad作品が大好きです。


※著作権が切れていない『歌詞』の転載が禁止とありますので、問題ないとは思われます。もし規約等に抵触する場合がございましたら、お知らせいただければすぐに削除いたします。


二章 刀、迎える 【録】

 

 数秒。ほんの数秒だが、各員は確かに時間の停止を錯覚した。もっとも、錯覚である。時計を取り出せば、当然秒針は進み続けているので、あくまでも錯覚だ。

 

 ……その中の一人の思考を、ご覧いただこう。

 

 

 

 ――頭

 ――柔らかい

 ――生温かい

 ――グニョグニョ

 ――チョンマゲ? 

 ――モザイク金色

 ――男

 

 ――股間……?

 

 

 ゆっくりと五秒。

 

 

 

「おいおい。いくらゴットモザイクあるからってそんな超至近で超見つめられると……俺でも、流石に恥ずかしいんだぜ?」

 

 

 ポッと頬を染め、恥ずかしそうに身を捩る全裸がいる。その全裸のような物を背後に確認した義経は、つまりそれを超至近で見上げている訳であって……。

 

 

 眼が、合った。

 

 

「安心しろよ。……俺は、オメェの味方だから」

 

 

 

 ――理解は一瞬だった。

 

 

 

「貴様ぁあああ!!」

 

 

 

 高いソプラノの、悲鳴に近い怒声が店内に響く。それに、義経が勢い良く立ち上がった際に卓が盛大に揺れ、陶器やらガラスやらが砕ける音が続いた。

 なお、落ちたのは義経の物だけだ。止水・正純・ナルゼの武蔵勢は手慣れた様子で自分の皿やら杯やらを持ち上げて事無きを得ている。

 

 

「きさ、なん、何を人の頭に……!」

 

「なにってそりゃあ……言わせんなよ恥ずかしい///」

 

 

 うわキショイ……悲しい事に、各国代表の思いの一致は、コレが初めてになってしまった。

 

 一同のシンクロを知ってかしらずか、バカはなにやらポーズをとる。妙に科があるが無視して良いだろう。

 

 

「どうよ、この俺の尊厳を犠牲にした緊張解し! 良い感じに決まったろ!?」

 

「キマッているのは貴様の頭じゃ! 犠牲になった尊厳ってワシの尊厳じゃろうが!?」

 

 

 良い笑顔で親指を立てるトーリに対して、義経は獅子吼の如く吠える。

 

 ……トーリの行動に慣れを、義経の反応に新鮮さを、それぞれ得てしまった正純は――順調に染まってきてるなぁ私、と遠い目をしていた。左右から肩ポンは、きっと『まだ大丈夫』ではなく『なにを今更』という意味合いだろう。

 

 

 

「おいおいそう怒んなよ。オメェ聞いたぞ? 俺らよかすっげー年上なんだろ? 年上だったらここはよー、年長者の余裕ってやつで許してくれよ。ほら、近所に住んでる可愛い幼児の可愛い悪戯だろこんなの」

 

「ぬ……っ、ぐ、そ、そうじゃの。ワシは大人じゃ。貴様らよりずっと――うむ、許そうではない、か」

 

「そうそう、大物は大物らしく椅子に座ってふんぞり返るんだよ。ほれ座れ、黒マル、記念撮影準備で。んで――はい、『許してチョンマゲェ〜』」

 

「貴様ぁぁああ!!」

 

 

 高いソプラノの、今度は十割怒声が轟く。

 

 

(……酔っ払ってんのか義経(アイツ)は)

(混乱してるんでしょ? シリアスやってたらいきなり全裸が後ろにいて頭に股間乗せられたんだもの。そりゃあ混乱――……するわよ?)

(っていうかコレどうするんだよー……もう、シリアスっていうか真面目な空気ぶっ壊されたんだが。非公式だがコレ各国会談だぞ)

 

 

 

 

 深いため息の正純に、止水は苦笑する。

 

 服を着ていないので首を直接掴まれ、前後にガクガクと揺らされているトーリを見て、笑みを深めた。

 

 

 ――そりゃあぶっ壊されるさ。なにせ、ぶっ壊しに来たんだから。……だろ? トーリ。

 

 

 

「あっはっは、義経オメェ、何百年生きててもガキだなぁ。年長者とか、全然思えねぇよ」

 

「何を……! 短命の者の分際でワシをガキだと!?」

 

 

 一呼吸。股間ではなく、手をその頭に置いた。

 

 

「いやぁガキだろ? だってよ、『悪い事したって思ってるのに謝りたくない』って、まんまガキじゃねぇか。可愛いったらありゃしねぇ」

 

「――……」

 

 

 

 前後の揺すりが止まり、首にかけていた手も力を無くし……頭に置かれた手を強くはじいた。

 

 

 

「……っ、ふざけるな! ワシはあの時、間違った選択をしていない! ワシは……!」

 

「おいおいガキはガキでも頑固っ子かよー。いーか義経っよーく聞け。謝んのにな、正しいとか間違ってるなんざどうだっていいんだ。んなもんクソの役にも立ちゃしねぇ。正しかろうが間違ってようが、オメェのやった事でダムのご先祖が死んじまったんだろ?」

 

 

 

 トーリのその言葉を聞いた義経の顔が、刹那、歪んだ。後悔か懺悔か悲しみか――歪んだその顔に、正純は腰を浮かした。

 

 止めよう。トーリの言葉は、傷を抉るものだ。……しかしそれは、横から来た太い腕に止められる。

 

 

 ――いいのか? と視線を向けるが、止水は応じる事なく、まっすぐ二人を見ていた。その眼には……信頼からくるだろう自信しかない。

 

 

「そんで、責任だケジメだ仇だーで、ダムに殺せって――おめぇ、ダムのこと舐めてねぇ? オメェが知ってるダムのご先祖たちに同じ事言って刀抜くと思うのかよ? もし抜くなら、そいつの方が偽物だぜ」

 

 

 義経が押し黙る。卓に置かれたボロボロの刀の本来の持ち主を思い出し――『抜くわけがない』――そう、即答を思い浮かべてしまった。

 

 

 

 ――『謝らない』と言い、しかし殺されないと無意識に確信を得ながら、『殺す権利がある』と言う。

 

 殺される覚悟はあった。末世に死ぬくらいなら、守り刀の刃に貫かれよう、と――だが、そんな前提があるこの覚悟の、なんと浅ましく、なんと惨めなものか。

 

 

 

(……卑しいのぉ。こ奴に言われるまで、ワシは微塵にも気付かなかったのか……)

 

 

 守り刀の刃は守る時のみ抜き放たれる――それすらも、忘れていた。

 

 

「ダムはオメェのことなんか斬らねぇよ。斬らねぇから、殺す権利とかもいらねぇ。俺と同じで、ダムはバカだからな。信じられっか? コイツよ、自分にやられたことも三日経たないで忘れんだぜ? 

 ……だから、謝っちまえよ義経。確かに謝る相手は違ぇかもしんねぇけど――」

 

 

 でもよ。

 

 

「――()()()()()()()ってよ、結構キツイんだぜ? ガキのオメェは知らねぇかもしれねぇけどさ」

 

 

 

 ……トーリの言い切る言葉に、正純は息を飲む。

 

 

 

 ――後悔だ。形は、思う先も、表し方も違うが、根元を止水と同じくするものだ。

 

 

 

 

(確か……ホライゾンが元信公の馬車に轢かれた時、葵が謝るために追いかけていた、んだよな。彼女に謝るために……)

 

 

 

 片や、守れず。片や、謝れず。それを後悔にして抱え……これまで。

 

 そして、正純はもう一つ、思い出す。

 

 

 

 葵 トーリと守り刀の止水。この二人を合わせる、一つの呼び名があることを。

 

 

 

 ――『後悔通りの双主』。

 

 

 

 一人の主は守れなかった後悔を。もう一人の主は謝れなかった後悔を……それぞれ背負って、ともに十年。

 

 

 ……止水に並び立つのは、やはり葵 トーリしかいないのだと……それが少し、悔しかった。

 

 

 

「ほれ、謝っちまおうぜ。一人が心細いってんなら、俺も一緒に謝ってやっから。大丈夫だってほら、座った座った」

 

「くっ、しょ、しょうがない……貴様がそこまで言うなら、うむ。まあ、そうするとしようかの……」

 

 

 肩を押された義経が席に座り、そしてやはりトーリは、その後ろに、立った。

 

 

 

 

(((……あー……)))

 

 

「『許してチョンマゲぇ〜♬』……よっし満足! ――おいどうしたよ義経!? 三回も謝ったんだからダムだって許してくれるって!」

 

 

 

 

―*―

 

 

 

 

 少し遠めの距離の先で、板に肉塊が高速でぶつかって破砕したような感じの音が響く。そちらの空を見上げれば、月や星に照らされた肌色の人形が錐揉み回転して飛んでいた。

 

 ……それを確認して、武蔵にある焼肉店は注文と肉喰いを再開する。

 

 

「ふふ、英国の妖女に続いて、合法の幼女まで参戦するのかーって思ったけど……あの様子だと大丈夫そうよ? 良かったわね浅間!」

 

「自分の思考をさらっと私に押し付けるのやめてください。……まあ、幼馴染の私たちより、っていうか当人より色々知ってそうなのが怪しいですけどね。

 それにしても、英国といい今回といい……本題の前に止水君のネタで殆ど完全燃焼してるんですけど……いいんですかこれ」

 

「止水のおバカ的にはいいんじゃない? 本題聞かされても意味わかんない上に、疲れた所で自分の話されても、あのおバカは覚えられないもの」

 

 

 鉄板の上の炒飯はすでに各員の皿へ積まれている。今焼かれようとしているのは、英国でのサバイバル初日で開催された海の幸バーベキューに鈴が参加したそうにしていた……と耳打ちされた店長がダッシュで買ってきた『海鮮盛り合わせ(焼き用)』だ。

 

 ちなみに、お伝えする必要はないかもしれないが、鈴は何も言っていない。

 ――『肉の気分じゃない』と焼肉店に来て唯我独尊を発動した姉がいて、結構な勢いで便乗した巫女もいた、とだけ伝えておこう。

 

 

 ……殻付きのホタテが鉄板の上に置かれ、観念して帆を立てる。醤油の香ばしい香りが、店内の視線を集めた。

 

 

「つまり、ここから真面目な話ってわけですけど……止水さん大丈夫ですかねぇ?」

 

「ふふ。大丈夫よアデーレ。止水のおバカはおバカだけど、自分がおバカだってわかってるおバカだから、貧乳政治家に全投げて任せるはずだもの。現にほら、見なさいよ、酒とか持って移動――

 

 ……あ、あら?」

 

 

 

 喜美の言葉、声に珍しく戸惑いが含まれていた。これが結構なレアなことであったからだろうか、再開したお箸の動きがまた止まる。

 喜美に視線が集まり……その喜美が表示枠をひたすらに見ていたので、一同もそれに倣う。

 

 

 

 ――表示枠の向こうは目を離していた僅かな間に、三人も登場人物が増えていた。

 

 

 一人……いや二人は、禿頭豊髭の『まさに仙人』と紹介できそうな姿をしている。店に入って真っ先に義経に詰め寄っていたのか、彼女に近い位置にいた。装いと状況からして清武田……義経の身内だろう。

 

 残るもう一人……極東の制服を所々改造した黒髪の青年だ。並び立つ止水が巨体であるから、比べるとどうしても小柄に見えてしまうが、それでも平均以上の背丈と鍛えられた体型をしているだろう。

 

 

 

 その止水が僅かに見下ろし、その青年が僅かに見上げ……ほぼゼロ距離で、二人は睨み合っていた。

 

 

 

「……あ、あらやだ。……ちょっとエロいほうのゾクキュンってきたんだけど。具体的な場所で言――」

「――わせる訳ないでしょうこのエロ女! た、たしかにあの顔で壁ドンとかされてみたいですけど!」

「止水さんだと壁ドンで貫通しそうですけどねぇ。いや、まあー自分も直視できないんですけど……」

 

 

 ……目を見開き眦を釣り上げたその眼光は鋭い。さらに犬歯を剥き出すようにして笑うその姿は、体格も相まってまさしく『野獣』だ。

 

 日頃の緊張感の欠片もない緩い顔とも、戦時における真面目な顔とも違う。見たこともない独特の雰囲気の止水に、焼肉店にいる女衆が、大きくゴクリと喉を鳴らした。

 

 

「……。

 

 ネシンバラよ。拙僧が無学なだけかも知れんのだが……普通ああいう顔を見れば、大概の女子は引くものではないのか?」

 

「君、もう自分で答え言ってるじゃないか。……梅組(うちのクラス)の女子が、普通な訳ないだろ?」

 

 

 ――そう言われ、ウルキアガは店内を見渡す。

 

 

 ズパン姉(喜美)ズドン巫女()バコン姐(直政)ドカン騎士(ネイト)陽気なクッション(マルゴット)メイン盾(アデーレ)。直政が連れて来た機関部の後輩とやらは先ほどから肉を食うことにのみ集中している。

 西国無双妻(立花 誾)を筆頭に、妖女姉(メアリ)守銭奴嫁(ハイディ)の既婚者グループがそれぞれのやり方で野獣笑みを旦那にオーダーしていた。

 

 

 

――「止水様も中々な肉食系なようです。今度ミトツダイラ様式の肉尽くし祭り(会計止水持ち)にご招待するべきでしょうか……」

 

――「Jud. それがよろしいかと。しかし珍しいでござるな、止水殿があのような笑みを浮かべられるとは。拙者初めて……? む? なんでござるか眼鏡。拙者の顔に何かついてるでござるか?」

 

 

 なお、姫と副長はいうまでもなく平常運転である。

 

 

「……。ああ、うん。やっぱり向井君だけだね。彼女だけが普通女子だよ。影響力は武蔵トップだけど」

 

「どう、か。したっ、の? そ、それよりみん、 な、だいじょ、ぶ? すごい、ドキドキって……」

 

 

 止水の獣笑が視覚情報だけだからだろう、鈴だけが場の変化に付いて行けていない。

 

 キョロキョロと不安げに、心配そうに周りを気遣う鈴を少し眺めて精神の安定を得る。

 

 

 

「全く……『止水君にあんな顔をさせている彼は一体誰なのか?』っていう指摘を、書記としてはしてほしいんだけどなぁ」

 

 

 野獣止水と睨み()()、青年。普段は穏やかだろうと思わせる相貌は鋭く、今にも腰の……鞘の鯉口に犬の意匠が有る刀に手をかけそうなほどだ。

 

 鏡写しのような仙人二人は、義経側だ。ならば、あの青年もあの場にいるどこかの国の関係者だと考えるのが自然だろう。

 

 

「ふむ。消去法で、あの潰れているアデーレ並みの胸部装甲の里見代表の代わりか……」

 

「潰れてませんよ!? 平らなだけですよ!」

 

「……あの酔い潰れている、アデーレ並みの胸部装甲の里見代表の代わりか」

 

「く、くっそぅ! 哀れみ十割の視線向けながら言い直されるとダメージが割り増しになるなんて聞いてないですよ……!」

 

 

 ウルキアガとアデーレの装甲対決を無視して、ネシンバラは表示枠の向こうを見る。おそらく、あの状況の前に交わされただろう言葉を聞きそびれたせいで状況がわからない。

 

 一触即発にしか見えないが……。

 

 

 

「……『家臣殺し』、()()()・里見 義頼。里見の王と、どういう接点があるんだろうね、武蔵の刀は」

 

 

 

 一人呟くネシンバラに、答えを返す者はいなかった。

 

 

 

***

 

 

 

『――相変わらずの考えなしか。周りの者が苦労するわけだ。お前の友人たちには、心から同情するよ』

 

 

 そう言いつつ現れたのは、卓に座る止水を見下ろす男だった。一緒に入ってきた双子仙人へのビックリは、完全に呑まれた。

 

 

『――……相変わらずの生真面目だな。息が詰まりそうだ。お前の友人たちには、心から同情するよ』

 

 

 ……言われた言葉に噛み付くように立ち上がった、守り刀の止水に。

 

 

 

 武蔵に来て一年と少しの正純は元より、初等部からの付き合いがあるナルゼにしても、止水が喧嘩腰になるところなど、見たことがないからだ。売り言葉に買い言葉で返すのもまた初見である。

 

 その上、現在、武蔵某焼肉店で発生している『閲覧規制』系の妄想の原因である野獣のような笑み。正純は隣から「両手を片手で押さえつけられて……いやいっそ縛られて」と危険ワードが呪詛の如く流れてくるのを、努めて無視した。

 

 

 

(し、知り合いなの、か?)

 

 

 正純は自分で思った言葉に、しかし疑問を抱く。どう見ても、知り合いとの再会、という雰囲気ではないからだ。

 

 

 チラリと見た出入り口の先は、いつの間にやらなにか巨大なもので塞がれている。全裸の形に開いている穴から見えていた夜空も、犬顔の武神の頭部に変わっていた。

 

 その武神は、いまそこで酔いつぶれている里見 義康の騎乗していた武神に酷似しているから、里見の関係者……それもかなり上位の席に就く者だろうと予想できる。

 

 

 

 睨み合う二人。

 

 ――同時に右腕が動き……。

 

 

 

 

 

 二人の間で、腕相撲の形で組み合った。

 

 

 

「久しぶりだな、憲時(のりとき)! 三河の親善試合以来か……『里見』って聞いた時から、もしかしてとは思ってたんだ。来てたんなら言ってくれよ! 酒持ってきたのに!」

 

「はは。お前は本当に相変わらずだな……ああ。久しぶりだ、止水。

 

 ……そして、伝えるのが遅れてすまない。今の私は――『里見 義頼』だ。二代目だが、そう呼んでくれ」

 

 

 

 止水は心から嬉しそうに。対して、憲時――義頼は穏やかな笑みにどこか、影を落としていた。それにすぐに気付き、止水も喜色一面の顔を僅かに曇らせる。

 

 

「――いろいろあった、か。深くは聞かないぞ?」

 

「『聞いても多分わからないからな!』だろう?」

 

 

 

 笑う。笑い合う。

 

 わかっているのだ。言葉にしなくても――互いを、分かり合っている。

 

 

 

 ――『止水に並び立つのは、やはり葵 トーリしか〜』と正純が思ってから、まだそれほど時間は経っていない。

 

 止水が言った三河親善試合――二代が守り刀……止水に確執を抱き、番屋出動待った無しなストーカー行為をやらかした一週間。三河で行われた親善試合なのだから、当然、極東所属の教導院である里見教導院もその場にいたはずだ。

 

 

(憲時……というと、正木 憲時か。その襲名者が二代目の里見 義頼として襲名したのが確か二年前だから……辻褄は合うが)

 

 

 三年も経ち……ほんの一週間しかなかった時間の中で、親世代から交友のあるトーリすら超えそうな親密さが、正純には少し信じられなかった。

 ――信じられないが、実際に『生涯の』と装飾詞の付きそうな親友をしている二人が目の前にいる。

 

 

「えっと……二人は、どういう関係なんだ?」

 

「「友人だが?」」

 

 

 間髪入れずに返されたのは異口同音。何を言っているんだ? という視線は止水だけ。

 

 

「はは。いや、すまない武蔵の副会長。改めて名乗ろう。そこで潰れている義康(生徒会長)の代わりだ。お察しかと思うが、里見教導院総長、里見 義頼だ。義康があの状態では会談もなにもないと思ってな……遅参は故に、ご容赦いただきたい」

 

「あ、ああ。……いや。むしろ助かる。どうしようかと悩んでいたんだ。参加、歓迎させてほしい」

 

「そう言ってもらえるとありがたい。

 ……ありがたいついでに……先ほどからそこでハンカチを噛んでこちらを睨んでいる武蔵総長を取り成してくれると、なおありがたいんだが……」

 

「ああ。あれは無視していい。ああいう生き物と思って……? おい待て、葵。そのハンカチちょっと見せ……ってやっぱり私のじゃないか!」

 

「あ"あ"!? やっぱセージュンのかよどーりで良い匂いするわけだぜ! っていうかダムぁぁぁあ!! てめ、節操無しにも程があるぞてめぇ! あれか!? 停滞期か!? ほら、熟年夫婦がなんか冷めるあれ!」

 

 

 例えが最悪だった。あと、それを言うならば停滞期ではなく倦怠期である。

 

 取り返そうと正純が掴みかかれば、大袈裟にトーリが身をくねらせてハンカチが舞う。舞ったハンカチはべちゃりと、けっこう湿った音を立てて義経の頭に乗っかった。

 

 

 

 

「……個性的だな。止水。お前のところの王は」

 

「お前くらいじゃないかなぁ……そういう評価してくれるの」

 

 

 ――酒瓶が、盃が飛ぶ。皿が割れ、箸が刺さる。卓と椅子はさすがに危ないので止めてほしい。余波を受けた酔っ払いが参戦し、数秒とかからずに店内は大乱闘場へと様変わりした。

 

 正純とナルゼの手を引き、酔い潰れる義康とそれを介抱する氏直の卓まで止水は下がり、無数の刀たちで半球状の籠を作る。その隣には当然のように義頼が立って腕を組んでいて……その阿吽っぷりに、場の幾人かと表示枠の向こうの幾人かが、ムッと顔をしかめていた。

 

 

 

 

 

 

 

「――しっかし、すげぇな? いくら酔い潰れてるからって、こんだけ騒がれて起きないとか」

 

「……大物、ということにしておいてくれ。意外と肝は太いんだ。――やはり、姉妹なんだろうな」

 

「……むにゃ」

 

 

 




読了ありがとうございました!

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