かなりのオリジナル要素がここからこれでもかと出て参ります。
なんとか最後まで描ききろうと思いますので、お付き合いいただけると幸いです。
『不語』編 カタラレズ編 と
「まあ許せ。ほら、あれだ。『ついカッとなってやった』という奴だ。誰にだってあるだろう? カッとなる時が。私は丁度あの時がそうだったのだ」
「…………」
どこか機嫌良さ気な女の声に、男は特に反応せず沈黙を返した。
――大きな体を横に。そして肘を立て頭を支え……大体いつものスタイルで寝転んでいるのは、英国にあっては部外者である止水だ。
この場に来てすぐ挨拶も無しにその体勢になった彼に向け、呆気に取られた大半と憤った一人と、笑顔を浮かべた一人による視線の集中砲火が放たれたが、大木男は気にも留めず微動だにせず。
最初はそのあまりの不動っぷりに「マジで寝ているのでは?」と何人か本気で思ったりしたのだが、彼のすぐ近くまでわざわざ椅子を運ばせてそこに座り、イタズラをする童女のような笑みを浮かべて語りかけたり、色々ちょっかいをかけるエリザベスに僅かに……渋々にだが反応を返していることから、その疑念は拭われる。
……そして、その疑念はすぐに『寝たいのにちょっかいかけられて寝れない男』という同情に変わった。
「……『でも、後悔も反省もしてない』……だろ?」
「Tes. フフフ。なんだ、私の事がよくわかっているではないか。ああ。もしかして貴様アレか? 実は巷で有名な『つんでれ』というやつか?」
――止水は沈黙を、今度は半眼と一緒にエリザベスへ返した。
以前トーリ達から『どういうのがツンデレなのか』というのを、無理矢理半日ほどかけて長々と説明されたので、理解はしていないがどういうものかは知っている。……照れがどうの萌えがどうの、アイツら時々意味わからなくなるのやめてくれないだろうか、と当時の記憶もついでに思い出した。
止水が半眼を向けたのは、ツンデレに対してではない。その前の言葉……『私の事がよくわかっている』の方だ。
……わかっているわけではない。
だがなんとなく、本当になんとなくだが……。
(……なぁんか、似てるんだよなぁ。コイツ)
……半眼で見上げた妖精女王に重なった姿は、付き合いが最長の幼馴染の一人。
何故かやたらと自信満々で、何故かやたらと上から目線で。でもそれが板についていて、そしてそれが当然のように思える女。
人の話を聞いているようで聞いていなく、聞いていても知ったことかと我が道を突き進む。だというのに、なにかあっても自分に被害はなく、周りがその被害を被るという謎現象の中心。そして、基本反省も後悔もしない……ついでに謝罪も、あんまりしない。
違うところは、彼女は自分が悪いのが明白であっても、エロネタで強制的に場の空気を有耶無耶にするところだろう。付け加えると止水限定でエロネタと半々くらいの比率でドツキがくるのだ。
「思いっきりバレてたしなぁ……」
「……? なにがだ?」
こっちの話だ、と。視線を外す。
浅間神社で守りの術式の停止措置を終え、その足で英国に降り立った止水。その時に血を拭った高襟は「洗濯しといてあげるわ」と強奪された。
……以前着流しを引っぺがされた時と同じセリフだったのが気になるが、気にしても無駄なので忘れておこう。
そのまま見届けの三人に見送られ、そして武蔵に戻っていく三人を逆に見送り……海岸で一人になった途端にオクスフォード教導院の謁見の間まで
その際にエリザベスが何やら色々と言っていた気がしたが小難しかったので大半を聞き流し。要約すると『念の為の監視』らしい。
――英国の周辺海域で行われるアルマダ海戦なのだが、実はやろうと思えば英国本土にいながら止水は十分にアルマダ海戦に『手』を出す事が出来る。
止水も「万が一の場合は……」と少なからず考えていたのだが、ものの見事に先回られてしまったのである。
「……」
……そんな、ここぞという時の勘の良さも、また彼女に似ていた。
(あー、でも……うん。やっぱり一緒にいるなら、俺は喜美のほうがいいかな――)
―*―
「っ!」
「……? あ、あのー、喜美? どうしたんですかいきなり。拳骨空に突き上げて『完・全っ勝利っ!』のポーズとか――アルマダ海戦、これからですよ?」
「……くくく、なんかよくわからないけど勝ったわ! この賢姉が勝つのは世界真理並みに当然のことだけど! 勝ったわ!! あ、やだ……ちょっと浅間、愚弟こっち見てないわよね? なんかちょっと涙出てきちゃった」
「はい? えっと。トーリ君ならみんなと一緒に正純の方に集中……え、涙って喜――ちょ、ええっ!? 何があったんですか!? ボロ泣きじゃないですか! しかも女子としてちょっと放送躊躇われるくらい顔ニヤけてますって! 嬉し泣きじゃなくてニヤけ泣きってキャア!? 何人の胸顔隠すのに使ってんですか!?」
「ちょっと貸しなさい! 賢姉様の尊厳のピンチなのよ!?」
「私の女の子としての尊厳ガン無視ですかぁ!?」
「……女の子?」
「あ、流石に今のはカチンときました」
―*―
(――喜美のほうが、まだ被害予測できそうだからなぁ)
十数年の付き合いがあれば、いくら止水が馬鹿でも、経験からだいたいは予測ができる。もっとも予測ができても回避ができないので(したらさらに大きな被害になるので)あまり意味がないのだが、覚悟的な心の準備ができるのだ。
些細な方の理由はこんなものだが……なにより、喜美ならば――……。
「……ん?」
と、そんなことをボンヤリと考えていると、上にしていた脇腹にゴスッと硬いものが落ちてきた。……膝だ。そしてオマケとばかりに過多気味の剣状装飾が連打コンボを決めてくる。
「ああすまん。……何故か急にイラっときたのだ。まあ許せ。私は許さんが」
「――いやお前これ、普通のやつだと許す許さないのレベルじゃないぞ? この重」
禁句を言おうとした刀馬鹿に向け、椅子へ戻るべく上がった膝が以下同文。剣状装飾コンボも繋がった。……先の一撃よりも若干重――若干威力が高い気がするのは、きっと、気のせいではない。
しかし、普通ならばのたうち回って悶絶する威力がある膝落しなのだが、受けた奴は生憎と色々と普通では済まない止水だ。一撃目の膝も、そして威力が上がった二撃目の膝も、避けることなく受けて平然としている。
その様子に面白くなさそうな……どこか不機嫌そうな様子で眉を顰めたエリザベスだが、はっと何かが頭を過ぎったのか、納得の笑顔を見せる。
「なるほど……守り刀の一族の面目躍如、といったところか。確かに、一族でも少ない男たちは、皆相当に頑強であったからなぁ……」
「……こんなことで一族躍如してたら俺ご先祖たちにボコボコにされ……る?」
少ない男たち? ……と。
まるで、『自分以外の守り刀の一族たち』を熟知している様な物言いをするエリザベスを、止水は不思議そうな顔で見上げる。エリザベスが己の母親と会っているのは花園の時に知っているが、しかし、それだけのはずだ。なのに、『少ない男』と……まるで一族の出生を何代も見てきたかのような……。
その視線を受け、エリザベスが……また違った笑みを見せる。
「……不思議か? 私がソナタたちを知っていることが。……私はな、ずっ――」
ヴォン……と。
交じる二人の視線を遮る様に、交わす言葉を隔てる様に、一枚の通神画面が現れる。『
「(むぅ、良い所で……っ!)誰だ。いまは」
『あー……もしもし。英国女王のお宅ですかー?』
エリザベスの言葉を遮るように、止水には聞き慣れた……エリザベスには最近聞き覚えた声が届いた。
その声が正純のもので、だから連絡の内容も、武蔵の副会長としてこれからアルマダ海戦を始める云々の連絡だろう、と思い――
((なんでコイツ、こんなに声がヤサグレてるんだ……?))
顔が見えない音声のみの通神にも関わらず、正純が眉を顰め、頬を引きつらせ。額に幾つかの血管を浮かせている彼女の様子がアリアリと想像できる……そんな声だった。
――通神画面を越してお互いを見合った止水とエリザベスが首を傾げる中、正純のやさぐれ声は続ける。
『一回しか言わないからよく聞けよ。やっぱり私たち、英国とも戦争することにしたから。とりあえず代表相対戦で、細かいところは臨機応変に。いまから三十分くらいしたら開始な? うちの外道たちがそっち行くから』
「すまん何言っているのかサッパリわからない。いきなり何を……というより貴様、何を怒って……」
『――……』
深呼吸、一回。
『何を、だと? ハハハ――大体……っ、大体お前がっ! お前が止水は不参加とか頓珍漢なことを言い出すのが悪いんだろ!? そのせいでわたし、私はなぁ……!』
『セージュン視線! 視線こっち! ……バッカ違っげぇっよ誰が睨めつったよ!? 睨むんなら涙目上目遣い! あーくっそ俺のメイクセット持ってくりゃよかった!』
『おいバカ。武蔵でやり直すぞ。ここでは撮影機材が貴様(無能)過ぎて商品にならん。ちっ、スタジオも予約せねば……いや、敢えて屋外で自然に』
その通神の向こう……やや離れた位置から聞こえてくるのは、全裸王と金の使徒の声。しかもテンションに脂が乗っている時の、『要注意、もしくは潔く覚悟』の時の声だ。
『わぁぁー!? 撮るなって言ったろお前ら! 消せ! 今すぐに消せ!』
『『だが断る!!』』
「……おい守り刀。どういう状況だこれは」
「(覚悟、できなかったかぁ……正純)……どういう状況かってむしろ俺が聞きたいよ。トーリとシロジロの二人だと、本当にいろいろやるからさ。『これ』っていう断定ができないんだ」
基本共食いか潰し合い関係にある二人なのだが、利害が一致してタッグを組むと武蔵トップクラスの厄介さを発揮する。止水は十年来の付き合いだが、正直、この二人が組んだ時は予想が殆ど付かない。そして収拾も早々に諦める。
……それでも、トーリの
その止水は、よっこらしょと口にしながら身を起こし……そして、通神から聞こえてくる激しい口論(攻防)に苦笑を見せながら、あえてそのやり取りを無視した。
「おーい正純。俺も一つ聞いていいか? ……『英国と
『へっ、止水!? なんでお前がそこに――ちょっと黙れお前ら! そして消せ! いい加減訴えるぞ!?』
正純の気配が離れ……ゴスッともガスッとも取れる打撃音が二度。そして悲鳴も二度ほど聞こえたが……聞こえた悲鳴は全裸のものだけ。どうやら守銭奴がトーリシールドを使ったと思われる。
『んん……ホライゾンだったか。それなら、ちゃんと決めたぞ。『末世という全ての喪失から世界を救う』そうだ。そうすることで感情を取り戻した時、哀しみや後悔という負の感情を得ないようにするって……今回はまあ、その第一歩になるんだろうな』
それを聞き、眼を閉じて。
「世界を喪失から……か。相変わらずだな、姫さんのそういうところは」
トーリといい、姫さんといい……掲げる目標がどうしてこう世界単位になるんだろうか、と。
嬉しそうに笑いながらそう皮肉を呟く止水は――需要があるのかどうかは別として――確かにツンデレの素質を持っているのかもしれない。
そして割り込まれた形となったエリザベスはホライゾンの言葉に、武蔵副王の決定に目を剥いた。
「喪失から救う第一歩、だと……っ!? まさか貴様ら、メアリの処刑を……!」
『Jud. と答えよう。なんか知らんが、ウチの忍者がやたらとやる気満々でな。まあ、この前はそっちがいきなりふっかけて来たんだ……まさか、逃げたりしないよな?』
正純の言葉は挑発だ。それも、かなりわかりやすい部類の。
だが、エリザベスはこのわかりやすい挑発に乗らなくてはいけない。不意を打った英国と、直前だが宣言した武蔵。それだけでも優劣が生じるというのに、その上で相対戦を拒否したとなっては各国のいい笑い者だ。
息を溜めるエリザベスの様子を知っているのかいないのか。正純はこの前のお返しだとばかりに一方的に言い告げる。そして、あ、と。何か閃いたように―― 一番大きな爆弾を投下した。
『……そうだ、止水。英国との戦闘はアルマダ海戦外になる。だから、お前も思う存分やっていいぞ。都合よくそこに、王賜剣の使い手もいるわけだし……できるんじゃないか? 輸送艦の時のリベンジ。
じゃあ、そういうわけだから。現地集合の現地解散で――……? あれ、聞こえてるか?』
「っ、馬鹿者ぉぉおおお!!」
溜めた息でそのまま吠えたエリザベスが、苛立ち任せに通神画面を粉砕。止水は突然直近で上げられた大声量に耳を痛めながら、爆発した妖精女王の感情に呼応した眩い極光に眼を細めながら……場の空気が切り替わったことを察知した。
察知して……苦笑が浮かんできた。
(……リベンジ、ね。そりゃあまあ、そうなんだろうけど……)
「……その英国のど真ん中にいる俺に、一番言っちゃいけない言葉だと思うぞ? 正純」
通神は砕けているので、当然その呟きは届く事なく。止水は変わっていく空気に吐息を一つ零す。
――英国の聖譜顕装を左手に構えて警戒する副長に、英国璽である槌をバトンの様に回す妖精。
――無数の刃を滞空させる番犬に、おかしの袋を開ける副会長。
――変わらず本を読みながら、しかし術式を展開した作家に、付近を警護していた一般生徒が異変を察知しぞろぞろと。
二人ほど動きを見せていないのがいるが……一人はそもそも最初から重力刀を肩に担いでいるので予備動作の必要がない。もう一人はドーナツを咥えながら、過剰なまでに反応している同僚を呆れた顔で眺めていた。
……今日は正純に振り回されっぱなしだな、と止水は呑気に思う。決定事項として戦えないという情報を今日の今日まで忘れていたり、今の開戦宣言だったりと――着実に武蔵に染まってきているようでなによりだ。
「――今度から正純にやるおにぎり、塩無しの具無しにしてやる」
それでも『作らない』という選択肢がないのは、単に止水がお人好しだから――だけではない。作らないと腹ペコ金欠副会長の生命維持に本気で関わるのだ。死因には流石になりたくない。
(まー……それに、正純が改めて言わなくったって
なんて事を考えている止水を他所に、荒い息をなんとか静めて冷静になったエリザベスが思考を巡らせる。が、流石に彼女もこんな状況になるなど想定もしていなかったようで、一向に良案は浮かんでこない。
あえて例えるなら――盤上対戦の遊戯で、最重要の駒の前に最強の駒が置かれている状態で始まったようなものだ。
監視と勧誘が目的で止水をここに連れてきたのに、最早、そのどちらもそれどころではなくなってしまった。
――盾符たちが一触即発な空気を作る中で、考えることを放り出した女王が、問う。
「……色々とそちらの副会長やら副王やらに物申したいのは山々だが、率直に聞こう守り刀よ。ソナタはどうするのだ? ……戦うか? 私たちと」
どこか、複雑そうな
「――どうするもなにも、俺は最初っからそのつもりだったからな」
淡々と、是の意思を。
「ここに来たのだって、アンタの近くにいたほうがメアリの処刑を簡単に止められそうだったからだし……でも、皆が来るっていうなら、もうコソコソする必要ない、だろ?」
正純の言葉のせいで
止水は最初から、メアリの処刑を止めに――引いては、英国に戦いを挑みに来ていたのだ。そして、それを『もう正純が言っちゃったから』と、なんの躊躇いもなく言葉にし、止水は闘争の意を示す。
そこが敵陣のど真ん中で、さらには孤立無援であるにも関わらず。
いまの止水は高襟を着けていないので、その笑みを隠す物はなかった。
そしてその言葉と笑みが大言壮語でも、ましてや強がりなどでもないことは、直接戦ったウォルターを筆頭としてこの場に居合わせる者は少なからず知っていた。
故に、彼ら彼女らの警戒レベルは高い。少なくとも、武蔵が英国に来てからは最大だった。――なお余談だが、オマリとセシルは変わらずにドーナツとお菓子を頬張っている。もちろん警戒なんて欠片もせずに。
「じょじょじょ女王陛下! 危険です! おおおお下がりください!」
「……落ち着けダッドリー。ここもそこも、大して変わらん。この部屋の中はすでに守り刀の間合いだ。それに戦うとは言うが、今すぐにやりあう気は無いらしい――そうであろう? 守り刀」
「ん? まあ、Jud. かな? 正純が言った通りなら三十分後に始めるみたいだし、俺もそれに合わせるよ。第一、ここで俺たちが始めたらこの教導院がヤバイ……お互い、生き埋めは嫌だろ?」
何気にサラリと『オクスフォード教導院全壊宣言』をしているのだが、恐ろしい事に止水の言葉には冗談が欠片もない。
集まった警備兵たちが何を馬鹿げたことを、と思うが、その場にいる英国の代表者たちの大半が深刻そうな表情を浮かべているのを見て「あ、マジなんだ」と理解する。
そして先日に見た大軍無双の時の威力を思い出し、教導院が瓦礫の山になった光景を想像してしまったのだろう。一同は総じて顔を青くし、息を呑んだ。
――アルマダ海戦を無傷で乗り切ったとして、教導院そのものが崩壊してしまったのでは本末転倒どころの話ではない。
なぜなら、教導院とは言わば国の中枢……政治の中心だ。そこが崩壊したとなれば、英国は国としての力を著しく落としてしまう。そうなれば、各国に付け入る隙を盛大に晒すことになるだろう。……それどころか、英国の存在を疎む者たちが大挙して押し寄せてくる可能性だって十分にある。
――だから、だろう。
「じゃあ、三十分後に……俺が先か、他の奴らが先かはわからないけど。武蔵と英国の最終戦で会おうぜ」
そう笑って告げて、謁見の間を後にしようとする止水を、誰も止めようとはしなかった。
十戒のように道を開ける警護兵たちの中を、止水はまるで近くの商店に買い物に行くような軽い足取りで進んでいく。……わざわざ立ち去る理由は知れないが、敵対者自身が本陣から遠ざかってくれるのだ。英国勢はその止水の背を、警戒しながら見送る。
「……待て、守り刀」
「……ん?」
彼女を。――止水のその歩みに、なんの躊躇いも名残惜しみも感じられなかった……エリザベスを除いて。
待てと言われたので足を止め、しかし眼を閉じて何もせず、何も言わずのエリザベスに止水は首を傾げた。
「……やはり、私がただただ無粋であった、か。わかっていたことだが、こうも袖にされると中々に応えるな。なぁ、シェイクスピア」
「女王陛下。そこでどうしてボクを引き合いに出したのか納得のいく答えがほしいんですけど。あと、ボクはフラれた陛下と違ってもう王手かけてますから、引き合いに出されても意味ないですよ」
メガネの位置を直しキラリと光らせつつニヤリと笑うシェイクスピアを見て、背筋に氷でも入れられたような寒気に疑問を覚えた止水は――何故だろうか、無性にネシンバラに両手を合わせたくなった。
……彼女の発する雰囲気から、どうにも彼を守れる自信がない。むしろ道すら譲ってしまいそうだ。
そんなシェイクスピアを強大な敵候補として記憶しようとしている大バ刀を他所に、エリザベスは言葉をつなぐ。
「あとで説教だからな貴様。覚悟しておけ。――まあ、あまりソナタにしつこい女と思われたくないのでな。もう望まんよ。歯がゆいが……な」
だが……と。言葉は続く。
「一つだけ……最後に一つだけ、聞かせてくれ。なぜ、ソナタはそこまで武蔵に思いを寄せる? そこまでさせるものが、武蔵にあるというのか? 私、いや英国と武蔵の違いは、一体どこにある……?
メアリのこともそうだ。なぜ、縁も所縁もない彼女を救おうとする? ……自ら死を望む、あの者を」
(……『聞きたい事一つじゃないのか?』って聞き返すのは――流石に場違いかなぁ、コレ)
止水はエリザベスの問いかけに、そんな場違いな事を考えていた。
答えない、という選択肢はすでに無い……現場の空気は、もう
とりあえず……こっそりと後ろに回した手で、今いくつ聞かれたのか指折り数える。若干怪しいが……多分きっと、四つほど聞かれていた。
(にしても、たまーに俺に対して面倒くさい感じの問いかけ来るよなぁ……)
……勘弁してくれ、と、ため息を一つ。――頭を使うのも言葉でどうこうするのも苦手だと公言しているのに。
苦い顔で数秒ほど、どう答えたものかと悩み……ふと気付く。自分は答えはすでに言っていた。すこし前に、この部屋で。
――その答えが、同じ言葉のまま……問われた事で、己の中で形を変えたのを、守りの刀は自覚した。
***
『命』守れて、三流だよ。ぼーや
『心』守れて、やっと二流だぜ? 兄ちゃん
『願い』守れて、ついに一流だ。ケヒャケヒャ!
……では、ボウズ。
――なにを守れば、『超一流』になれると思う?
配点【いまだ嘗て、至った者なし】
読了ありがとうございました!
あと、活動報告にてアンケートではないですが、100万UAの記念になにかしらやりたいと思いますので、そちらもご覧頂けると幸いです。