境界線上の守り刀   作:陽紅

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十一章 故に、背を押す 【弐】

 

 

 

 ――私は時折、『彼は凄い』と、心から思う瞬間があるの。

 

 まあ、実際にはその瞬間がかなりの頻度で、しかも結構日常的に巻き起こるから……時折、っていうよりも毎日、起きている時は基本そう思ってるかもしれない。

 

 

 たまにだけど、朝目が覚めた直後にその瞬間があるから、最近では寝ている時もまさか……!? って思う様になったの。

 ……寝ている時くらいは休んでいて欲しいなぁ、ってその時は思うんだけど、生き生きしてる顔見てると、何にも言えなくなっちゃうのよね。

 

 前に一回、皆にそれを言ったら『やっぱ魂売ってやがる……!』って、なんか戦慄してたのよねぇ。

 

 

 

「……っ!? これは……!?」

 

「ど、どうしたの? え……まさか!?」

 

 

 それで、えっと。武蔵の今後の方針が決まって、傭兵として英国艦隊の代わりに武蔵がアルマダ海戦に出陣する事になったの。

 艦戦武装の搬入とか設置とか、それに付随してくる作業員の人件費の諸々とか。様々雑多な激務が朝から続いて……疲れたー、って一息つける、お昼休憩。

 

 私の作ったお弁当を一緒に食べて……ノンビリ煎茶タイムを楽しんでいたら。

 

 さっき言ってたその『瞬間』がね、唐突にきたの……!

 

 

 

 

 

 

   「金 の ニ オ イ が す る … … !」

 

 

 

 

 

 

 

 シロくんの眼がキランと煌めいて、とってもとってもいい笑顔。これが私が一番ドキッとくる瞬間なのよね。一目惚れしたあの時から全然変わってないんだからもう毎日が惚れ直しなの。でも、皆は彼がこの笑顔になると、不思議と急用思い出していなくなっちゃうのよね。

 まあ……止水くんみたいにライバル増えないから、私としては好都合なんだけど。あ、止水くんは急用思い出すことないかな? だからよく手伝ってもらうんだけど。

 

 

「どこっ!? どこなのシロくん!? そしてどういう感じの!?」

 

「待て、落ち着けハイディ。これは、ふむ――奥多摩……いや、武蔵野だな。武蔵野の後方甲板だ」

 

 

 っ、うん、大丈夫。落ち着いた。……あちゃー、勢いよくテーブル叩いちゃってお茶が結構飛んじゃってる。

 

 ん……あれ? いまどうやって場所調べたんだろ。軽く天井見てただけみたいだったけど……まあいいわね。些細なこと些細なこと。

 

 

 それで、シロくんが開いた表示枠には、聞き間違いが無ければ武蔵野……の、後方甲板かな。そこのいま現在の様子が映ってるんだけど……。

 

 

 

 ――ウチのクラスの点蔵くんと、いままさに脳内話題にあげたばっかりの止水くんが、縁に腰掛けてお昼を食べてた。

 大きいおにぎりを仲良く、こう、なんとも言えない一体感空気を作りながら。

 

 

 

 ……え、えっ!? まさか、まさかまさか? この構図ってもしかしてもしかしちゃったりする感じなのこれ!? そっか、だから皆からの『いや普通気付くだろコレwww』ってあからさまアピールにもスルーなのね!

 ということは、シロくんはこれを揺すりネタにして……!

 

 

「え、えっとぉ、シロくん。これは……そういうこと、なのカナ?」

 

 

 ――最後の方、声が裏返っちゃったけど無視してね?

 

 

「そういうこと、だろうな。くくく。やはり止水、貴様は私の終生の友なのだな。毎度毎度、良い稼ぎネタを提供してくれる……!」

 

 

 やだ、その終生の友達をいまからドン底に突き落とそうっていうのに凄い素敵な笑顔……!

 

 っ、見惚れてる場合じゃなかった。録画と、決定的な瞬間の撮影準b―― 「ハイディ! いますぐ全艦へ放送……いや、その前にこの甲板の付近に防音系の術式壁を用意してくれ。しかし悩ましいな。()()の倍率をどうするか」

 

 

 

 

 ――……。

 

 

 

 

 ……あ、私ってば止水くんたちに超失礼な勘違いしてたっぽい。

 

 よくわからないけど、とりあえず急ぎみたいだから言われた通りに、防音術式壁を止水くんたちのいる甲板の周辺に展開っと。両面防音は高いから一方通行の遮音にして……外側の音が内側に聞こえないように、でいいかな?

 

 

「うん、できた。それで……えっと、シロくん? これから何が始まるのか聞いていい?」

 

「ん? ああ、おそらくだが――」

 

 

 超高速で表示枠の文字列を連打していた指を止めて、シロくんはまだ座ってる二人が映ってる表示枠を横目に見た。あ、二人ともなんか黄昏てる。

 

 

「乱取り稽古だ。それも、ほとんど実戦形式のな。――武蔵の第一特務と番外特務による一対一(サシ)の勝負だ。さぞ盛り上がることだろう。

 タイミングも良く昼休み、腹も膨れて暇な時間を持て余した娯楽に飢えた者共の財布も緩むこと間違いなし……! ……一口五百円ほどにすれば子供にも手が出しやすい、そして少額だからと大口で大人たちが挙って買漁るだろう」

 

 

 くっくっく! って淡々と言ってるけどシロくん、目の奥に『¥』がもーキラッキラよ? そんなところもマジ素敵なんだけど……。

 

 うーん、乱取り稽古って、たまに戦闘系のみんなが放課後にやってるやつよね? シロくんもたまに参加してたけど。

 でも、ねぇ……。

 

 

(……どう見ても、『そういう』雰囲気じゃ、ないんだけどなぁ)

 

 

 なんで、『これから』乱取り稽古をする、ってわかるんだろ。シロくん。

 今だって、二人でノンビリお昼を食べてるだけ。これからガチな戦闘訓練しますよー、って感じは全然無い。むしろ、食べ終わったらお昼寝しそう。止水くんは特に。

 

 

「ふむ――安心しろ、ハイディ。私の読みは、まず間違いなく当たる」

 

 

 二人の後ろ姿を見ていた私に、三つの表示枠を連打していたシロくんがため息をつきながら、でもちょっと笑いながら、そう言った。ため息も浮かんだ笑顔も、多分表示枠の向こうの二人に対してかな。

 

 ……む? なんだろ、ちょっとジェラシィ。

 

 

 

「止水も点蔵も、どっちもアレで意外と暑苦しい一面がある。『拳で語り合う』などという時代錯誤かつ原始的なやり取りを素でやる。――全く、微塵も私には理解出来んがな」

 

 

 あー、Jud. 男の友情ってやつね。

 ……理解出来ないとか言って、三河抗争のあとからシロくん、ランニング土下座の距離伸ばして体鍛えてるよねー、って。これ言うべき? それとも黙ってるべき?

 

 

 

 

 

「まあ見ていろ。――ヘタレた忍者にバカが喝を打ち込むはずだ」

 

 

 そう言ってまた笑って、シロくんは武蔵の全艦放送をジャックした。

 

 

『昼休憩中の金ヅル諸君! 武蔵アリアダスト教導院、以下略のシロジロ・ベルトーニだ! いまからこの私が! 貴重な時間を稼がずに無駄にしている貴様らに、慈悲深くも最高の娯楽を提供してやろう! むせび泣いて感謝するがいい!』

 

 

 すぐさま、あ"あ"? ってダミ声がいろんなところから聞こえた。続いて罵声系の絶叫が各地で上がるけど、シロくんは鼻で笑って一蹴。

 ――ちょっとゾクッてしちゃったのは内緒ね?

 

 こっそり張った防音術式で遮られてるから、止水くんたちにはシロくんの通神放送もなにも聞こえてない。

 

 

 その二人に、動きがあったの。正確に言うと止水くんが点蔵くんの胸ぐらを掴んで、思いっきり投げ飛ばした。

 結構な勢いで水平に飛んでいく点蔵くん。甲板を超えて隣の『多摩』まで届きそうな勢いだったけど……不自然に減速して難なく着地。

 

 ――うん。人を片腕で水平に投げ飛ばしたり、空中で勢い殺したり。今更だけど……うちのクラスって何気にキワモノ揃いよね。私やシロくんみたいな善良な一般人は巻き込まれないように気をつけないといけないからホント大変。

 

 

『武蔵第一特務、点蔵・クロスユナイト! 対するは番外特務、守り刀・止水! さあ賭けるがいい金ヅル共! 試合開始はもう間も無くだ!!』

 

 

 おっと、いけない。私もお仕事しなくっちゃね! お金のために!

 

 

 

***

 

 

 届けるべき言葉があって

 

 言葉も筆も使えない時における

 

   (バカ)同士の最終手段

 

 

  配点【 拳語 】

 

 

 

***

 

 

 投げ飛ばされた。

 前へと流れていく左右の景色と、遠ざかっていく止水の姿。そして何より、水平強制飛行時の独特な重力を内臓に感じて、点蔵はそう判断した。

 

 

(ううむ……昨夜の一戦は自分も見てはいたでござるが、やはり怪力度合いが上がっているでござるなぁ)

 

 

 また人外に一歩、いや既に人外だったでござった云々を考えながら、空中にて重心を複雑に動かして減速。そのまま音もなく着地した点蔵は、大きく開いてしまった止水との距離を見て、思わず苦悶のような呻き声をあげる。

 

 ……掴まれ投げられ、飛ばされてようやく行動に移った点蔵だが、それでも飛ばされて十数mだろうと、思っていた。

 

 だが、その距離は目測で、どう見ても30mはあるだろう。つまり、点蔵が思っていた距離の、倍に近い距離がそこにあったのだ。

 

 

 30m。戦闘系特務であるこの二人の身体能力なら瞬く間に詰められる、何でもない距離だ。

 だが『詰められる』距離であって、主に体術を主とした近接攻撃を多様する点蔵と、長さの違いはあれど刀という近接武器を用いる止水にとって、その距離は当然攻撃の間合いではない。

 

 

 そして、その間合いの向こうで、止水は特に気負った風でも、構えすらとることなく自然体で立っている。準備運動なのか、首やら肩やらを回してゴキゴキ鳴らしていた。

 

 

「ルールは……あー、面倒だからいつも通りでいいか?」

 

「……へ? あっ! Jud. 自分は、それで良うござるが……」

 

 

 点蔵の視点から見れば……機関部でバイトをして、フラリと現れた友人と駄弁りつつ昼飯を食べていたら、いきなりその友人に投げ飛ばされて模擬戦闘に突入しかけている。

 

 意味不明で理解不能だが、武蔵において――殊更、三年梅組において、そんなのは日常的な事だ。

 

 だが、よくよく考えれば点蔵にとって止水の申し出は渡りに船と言える。色々と鍛え直そうと考えていた矢先だ。一人であれこれやるよりも、相手の……武蔵きっての実力者である止水との実戦形式でやった方が効率がいい。

 

 

 ――と。

 

 

 

「!?」

 

 

 膝から、後ろへ仰け反るように身を沈め――帽子のツバ先をかすって行く、自分のそれより確実に一回りは大きいだろう『拳』の、帰り様を見送った。

 

 

(っ、連打!)

 

 

 腑抜け腑抜けと自分を罵っていた点蔵だが、彼の長年の鍛錬は裏切らなかったらしい。思考と同時に体が動き、一息に放たれた右拳の三連の追撃を回避した。

 横に跳んだ点蔵と、30mを一気に詰めた速度のまま通過していく止水。どちらも音を立てて甲板上を滑り、再び距離を開けて器用に向かい合うように止まった。

 

 

「……一発くらいは当たるかと思ったんだけど、流石にそう易々とはいかないか」

 

「いやいやギリギリ! 今の結構ギリギリ! 一発でも当たったら自分真っ赤なモザイクで彩られるでござるから! グチャァなトメィトでござるから!! っていうか『ボッ!』って音がなる拳打ってなんでござるか!?」

 

 

 ちなみに三撃の時はボボボッと鳴っていた。大気の破裂か、摩擦によって火が着いたのか。どちらにせよ、軽々しく受けていい一撃ではないことは確かだ。

 

 

 

(……あれくらいなら、酔って暴れてる真喜姉が結構頻繁に打ってるんだけどなぁ)

 

 

 

―*―

 

 

「ブェッ、クションッ!!」

 

「……先輩。もう少し女性っぽいクシャミしませんか? あとティッシュください」

 

「あっはっはー、ゴメンゴメン。急にきてさー。でも女らしいクシャミってどんなの? 例えば誰よ」

 

「両手で抑えるだけで被害は減りますよー。例えば、っていうか理想は……止水くんですね」

 

「いやアレ男よ? この前酔った勢いで上脱がせたら思わず酔い冷めたもんアタシ」

 

「その話詳しく。っていうか何やってんですか教師!!」

 

 

―*―

 

 

 

「ッチュン……あー、いや、ちゃんと打撃減衰の術式使ってるって。『いつもの』ルールって言っただろ?」

 

 

 打撃減衰……文字通り、止水の攻撃が当たる瞬間にその威力の大半を相殺する、という止水が造った専用のオリジナル術式だ。

 個人製作の術式だが、三月に一度程度の頻度で浅間親子(専門家)に術式構成を総監修してもらっている為、その信頼性は相当に高い。その上、実績としてもこれまでの放課後鍛錬中に軽傷を超えるものを出したことがない。

 また、三河での抗争の開始早々、梅組一同が止水の繰り出す破壊力に驚いていたのも、この術式が原因だったりする。

 

 

 もちろん、点蔵も術式の存在は熟知している。何を隠そう、ウルキアガと並んで一番術式のお世話になっている一人なのだ。

 ……だが、先程の回避時。点蔵は自身の感じた『脅威』がいつものではないと確信があった。さらには、止水ならば、というある可能性も見出していた。

 

 

「で……では止水殿。最後に術式を調整したのは、何時でござる? 浅間殿に見てもらったのは?」

 

「え? 何時ってそりゃあ……最近っていうか英国に来てから色々慌ただしかった――……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ……あっ」

 

 

 

 

 点蔵は知っている。経験則で、知っている。基本的には外道から対極にいる止水だが、ごく稀にやらかす時は梅組トップクラスの物理被害を文字通り叩き出すのだ。

  ※ 三河・輸送艦輪切り突撃、副王ズ投擲を参照

 

 なお、その他のカテゴリーの被害では……人的被害は某ズドン。金銭的には某金の使徒。精神的にはランカー多数なため判断不能……となる。閑話休題。

 

 

 止水が術式の調整をしたのは……おそらく三河の抗争の前後だろう。どちらにせよ、止水の大規模アップデートの前であることに変わりはない。

 

 

「「…………」」

 

 

 妙に冷たさを帯びた沈黙が、痛い。

 

 止水は己から嗾けておいてのこのグダグダ。点蔵は何だかんだ言いつつ、先程の攻防で火が着いたにも関わらず不完全燃焼。

 

 

 

 

『――もう、何やってるんですか止水くん!!』

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 ――そんな、中途半端に臨戦態勢だったからだろうか。

 

 突然現れた通神表示、その向こうにいる人的被害トップランカーの出現に、その脅威に二人は即座に反応し、完全な戦闘態勢に入った。

 

 

 ――背中を合わせるように左右に。

 

 ……しかし役割の差が出るように前後に。

 

 止水が先駆け前へ出ることで、攻めと守りの両方の要となり。

 点蔵がその目立つ止水の裏に付き、数多様々を忍び成す。

 

 

 ――ちなみに、言葉はおろか、二人は視線すら交わしていない。相手が智だと判明し、理解した今でも構えを解かない。

 声音はなにやら若干オコ……失礼。若干の怒気をはらんでいた。まだ、狙撃の可能性は捨てきれない。

 

 

 

『……あ、あの、二人とも? なんですかその『強大な敵を前についに手を組んだライバル』みたいな相棒率は――』

『おい点蔵ぉぉぉおおお!? おめぇもか? セージュンに続いておめぇもダムの相棒やろうってか!? あ"あ"!?

 ……おい誰かハンカチ貸してくんね? 『きいい!』ってやるから。『泥棒猫』のネタがホライゾンに取られちまったから新規開拓しねぇと』

『どうぞ、トーリ様。ホライゾンがBlue Thunderで愛用していた雑き――凡用ハンカチです。店主様から廃棄の許可は得ておりますので、さあ存分に』

 

 

『ふえっ、ふええ……すーぅ、しすい、しすいどこー……?』

『き、喜美ちゃ、ほっら、止水っくん、いたよ? だいっじょうぶだ、から。ね?』

『……武蔵様、新しいメモリーカードの使用許可を。7枚目の容量がもう殆どありません。――以上。』

「Jud. 許可します。――以上。」

 

 

 表示枠に写っているのは智一人だが、その周囲に色々といるらしい。酒やつまみの追加要請や、その返答として悲鳴が時折聞こえる。……英国でやっていた宴会の続きでもしているのだろう。――総艦長の声だけやたら近くで聞こえた気がしたが、気のせいだろう。きっと。

 

 

『んん! 止水くん。調整済みの訓練用減衰術式、今から送りますから、どうぞそれ使ってください。

 

 あと、えーっと……これから忙しくなるんですからね? わかってますよね? あんまり気合とか、入れちゃだめですよ? だから、ええ。引き分ける形で終わらせましょう。 良いですか? 引・き・分・け! ですからね!? 点蔵くんも! 良いですか!?』

『待ちなアサマチ! アンタそれ反則さね!』

 

 

 表示枠の向こうにいた智が、聞こえた声からすると直政だろう。彼女を筆頭にした数名に取り押さえられ、画面からフェードアウト。

 

 

【 しーちゃん おとどけものだよ? ハンコある? 】

 

「あー、ハンコないからサインでいいか?(……なあハナミ、なんで智のやつ、あんなに引き分け押しなんだ?)」

「う、うむ。流石ハナミ殿、仕事が早いでござるなぁー!(それ以前にタイミング良すぎでござろう。これから一戦するってなんでわかったでござるか)」

 

【 し、しらないよー? しらないー しーらないー 】

 

 

 知らない知らないと繰り返すハナミが、小さな……走狗のサイズからしても小さな表示枠を無数に並べる。こっそりと、それこそ、目の前の二人以外にわからないよう。

 

 

 並んだその形は――『○』と、ひらがなの『べ』。

 

 止水のサインを受け取ったハナミはぺこぺこと申し訳なさそうに頭を上下させ、鳥居型の表示枠を潜って行く。

 それを見送り……二人は、全てを察した。

 

 

 

「……状況を整理するに、賭博系でござるか。で、浅間殿が自分たちの引き分けに張ったと……」

 

「Jud. だろうな。梅組の仲間内だけ……なわけ、ないよなぁ」

 

 

 シロジロ(守銭奴)だしなぁ……と、ため息と遠い目のコンボ。

 すでにテンションは下がりに下がり、これから実戦式の稽古……という気分では無い。しかし、やらなければどんな理不尽なイチャモンを付けられるかわかったものでは無い。

 

 

「やるしかないでござるか――勝っても負けても引き分けても、一定の人数に恨まれるんでござろうなぁ……」

 

「ははは……少なくとも、引き分けにすれば智のズドンは回避できるみたいだけど……他のみんなに総攻撃されそうだな。

 なら、俺たちも賭けに出てみるか? 点蔵」

 

「ふむ。賭け、でござるか……?」

 

「Jud. みんながさ、賭けの勝ち負け忘れるくらいの大一番魅せて、うやむやにしてやるって大博打」

 

 

 

 

 やってみるか? と。

 ――点蔵が見たのは、無邪気な少年が見せるような……そんな笑顔であった。

 

 

 

 




読了ありがとうございました!

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