境界線上の守り刀   作:陽紅

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一ヶ月もお待たせしてしまい、申し訳ありません。



幕章 剣庭の酒会

 

 

 ……その光景は、某航空都市艦では一月に一回以上の頻度で必ずあるであろう日常で。――その光景は、某浮遊島国家ではこの数年で一度もなかったであろう非日常でもあった。

 

 

「わた、私は負けない……! 負けられないのだよっ! なにせ、『英国の盾』の名を背負っているのだからね! ここでyouに、負けるわけには……!」

 

 

 男は息も絶え絶えに。しかし呼気を熱くしながらも、相手に対して粘り、挑む。

 

 

 負けられないのだ、と。誇りにかけて。

 

 負けるわけにはいかないのだ、と。誓いにかけて。

 

 

 だが、そんな決意とは裏腹に――自分は決して……そう、決して、目の前の相手に勝つことは叶わないだろう、と本能で察していた。

 だが、だからこそ退くわけにはいかないのだ。ここで退いたら、先に逝った同胞たちに顔向けが出来ない。胸を張って彼らに連なることが出来はしないのだ。

 

 倒れるならば、前のめり。そして後ろに続くであろう者たちのための『道』にならんことを。

 

 

「そう、ですか……」

 

 

 そんな決死の覚悟を見せる戦士に、ならば、と相手である彼女も覚悟を決める。……戦士の覚悟に対して、情けや容赦はむしろ、無礼だと。

 

 

「じゃあ、もう少し度数が高いの行きましょうか。ええっと……とりあえず1ダースもあればいいですよね! すみませーん! 

 

 こ こ か ら こ こ ま で、1ダースお願いしまーす!」

 

 

 

 ――ズドンとトドメを、笑顔でブッパなした。

 

 

 ……詩人という彼の職業柄(?)だろうか、『白魚』などの言葉で比喩すべき綺麗な手指がなぞったのは、おおよそ十数センチ。少なくとも縦書きのお品書きの……七、八行は固いだろう。

 それを1ダース。1本ではない。1ダース (12本)だ。

 

 その行動と言葉の意味を、朦朧とした意識の中で理解した戦士、ベン・ジョンソンは、マイグラスをそっと地面に置く。

 

 

 

「――レディ。どうか、どうかお気をつけ下さい。武蔵の主砲シスターは……化け物ぉ……デスっ!」

 

「「「「……え? まさか今まで普通のやつだと思ってたの?」」」」

 

 

 いや待てズドン的に考えて普通なんじゃ? そもそも普通のズドンってなんだ? とりあえずあの巫女自分の体積以上に飲んでね? などなど、外野連中は巫女が弓矢を持ってきていない事実を知っているから言いたい放題だ。

 

 

「Mr.ジョンソン――ッ!? ソレはぁハットン君の持ちネタ――、death!」

 

 

 なぜか上半身裸の黒人系アスリート詩人が後ろ向きに倒れ、これまた、なぜか頭に色んな模様を書き殴った動骸骨(リビングボーン)に受け止められている。前向きに倒れるんじゃないのかよ、というツッコミもそこそこに。

 

 あえて言おう――カオスだった。

 

 

「あ、あの、みなさーん? いまの満場一致はなんdeathかー? あと、飲んでるの神酒ばっかりですから、巫女肝臓的にお水と変わらないんですよー? それに奉納代演にもなって拝気も溜まるから、無駄ない感じで……」

 

「んふふ、いいわよ浅間! 飲み比べ15人抜き! ……負けたら勘定全額持ちとか、巫女云々の前に人として色々よね……っ!」

 

 

 そんな、憤慨する智の隣。グラス片手に上機嫌な喜美の暴露に対し、うわぁ……と一同が真面目に引いた。隅のほうで死屍累々と言った感じで酔いつぶれている14名の戦績というべきか被害者というべきか、大変に悩む連中を極力見ないようにして。

 

 

「い、異議! 異議あり! 私その条件初耳ですからね喜美! っていうか、喜美だって便乗して結構呑んでるじゃないですか!」

 

「あら、やぁねぇ……超良い女が男共に奢られてるだけじゃない。これ世界の真理よ? 何の問題もないじゃない」

 

 

 ……そ・れ・に。

 

 と、喜美が色っぽく、ほんのりと朱に染まった頬に手を添えて、微笑む。

 

 

「……あの愚弟が、態々お願いしに来たのよ? この賢姉様が、応えられない訳ないじゃない」

 

「…………。あのー、喜美? なにさらっと話の流れ変えようとしてるんですか? ダメですからね? 『それとこれとは』って奴ですから」

 

 

 ――……。

 

 

「ちっ。じゃあー……まったくこの母ちゃん巫女は! 祭り催しでハメ外さないとか、それこそ無粋じゃない。ほら、他の連中見習いなさいよ」

 

 

 ――微塵にも隠そうともしない喜美の舌打ちと投げやりな感じの言い訳に対して、苛立ちよりも諦めとため息が先行してしまう辺り、智も被害者なのだろう。

 

 クピリとジョッキに残った神酒を飲み干して、喜美に言われた通り、周りを見渡してみる。

 

 

 ……目前の、すでに出来上がっていたにも関わらず、飲み比べに挑んできた半裸のジョンソンは置いておくとして。

 

 

 

――「ンー! ンーッ!?」

 

 

――「……っ! おかわりで御座る!」

――「おかわりなのー! ……負けないのー!」

――「なぁぜに小生が年増同士のガチフードファイトの調理役なのですかぁ!? ……はいっ、季節の彩り野菜炒め出来上がりぃ!」

 

 

――「違うッなんど言えばわかるのだ! そろそろ異端審問るぞ貴様!? いいかよく聞け! ただ年上であればいいのではない! 弟か妹がいる女子、つまりは『姉』っ! それこそが世界の真理にして絶対の理なのだ!」

――「異端審問るってどんな脅しですか!? あと絶対に譲りません! 『競泳水着』こそが青春の王道なのです……!」

――「あのさ、女のボクがこの話題に入っていいのかどうかアレだけど……姉キャラが競泳水着を着ればいいんじゃないの、それ」

――「「……。なん……だと」」

 

 

――「「「オロロロロロ」」」

――「ネンジくぅ――ん!? ダメじゃないか! 武蔵の外で固形物を食べる時は表面を不透明にしないとっ! みんな耐性がないんだから!」

――「ぬ!? すまぬ、吾輩としたことがっ……今消化をっ!」

――「「「うっ!? オロロロロロ……!?」」」

 

 

――「ほら、(グスッ)遠慮なんてしてないで食べな食べなっ!」

――「Jud.! いただいてますグレイスさん! ……あれ、ノリキさん食べないんですか?」

――「俺はいい……いや、土産用にいくらか包ませてくれ。……俺一人が良い物を食うわけにはいかない」

――「っ! ああ……好きな"っ、好きなだけ持って行きな! ただし! 持ってっていいのはアンタが食った分掛ける人数分だからな……!」

 

 

――「ンー! ンーッ!?」

 

 

 以下略。その他諸々でも可。

 

 とりあえず、智は主要と思われる面々を一通り眺め……最初と最後で同じ場所を見て、頬をひきつらせた。

 

 

「……あ、あのぅ、喜美? いますごーく見慣れた感じの光景が広がっている視界の一角で、雁字搦めに拘束されて、その上猿轡かまされてる英国の副長っぽい人がチラって見えたんですけど……気のせいですよね。ええ、そんなことしたら国際問題ですもんね! 私、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいですね! ええ!」

 

「あら、言ってなかった? 『()()でやる』って話がでた時にキーキー喧しかったから、浅間神社産の注連縄で縛っといたんだけど」

 

 

 ……あ、確かによーく見れば、どこかで見まくったことのある縄ですねぇ。

 

 クピリとグラスを傾けた喜美がサラリと……浅間神社が強制的に共犯になっていることを暴露した。しかも国際問題級、このあと色々と後始末系で忙しくなることは確定だろう。

 

 

 ……智は、自分の中で、何かが切れる幻聴を聞いた。

 

 

 

「Jud. ……そうですよね。トーリ君にお願いされたんですもんね。巫女として、ええ、巫女としてキチンと応じませんといけませんよね。……あ、すみません。酒屋さんですか? さっきの注文訂正したいんですけど。いえ、品はそのままで――3ダースで、はい。大至急」

 

「あ、あら、なにかしら。急に背中がぞくっとしたわ。これが世間でいうシックスセンス……! 頭文字をセに変えてもいいのよ? ……のよ!?」

 

 

 通神の向こうから、悲鳴混じりの絶叫で『在庫がぁ!』やら『どうやって運べばぁ!?』やら叫んでいたが、智は無視して通神を叩き割る。その反動で立ち上がり……ゆっくり――いや、ゆらりと、喜美と向かい合う場所に座り直した。

 

 ……母ちゃん巫女がエロネタに対するツッコミをしない。

 

 そして、なによりも不気味なほどにニコニコと笑っている智を前に、喜美のせっ――シックスセンスが警鐘を鳴らしている。

 

 

「あらあら喜美が16人目の挑戦者ですかそーですかー幼馴染ですけど負けませんよ時間無制限ですから頑張ってくださいね条件は一緒ですよね?

 じゃあ――……。行きますよ喜美、お財布の中身と肝臓の休息は十分ですか……!?」

 

「く、くくく! 弓使うアンタが言うと洒落にならないセリフよそれ!

 

 

 

 

 ――……え? やだ本気?」

 

 

 

 

 智からの返事はない。

 

 ……ただ、あはっ♪ と、ニッコリとイイ笑顔が返され――喜美は咄嗟に周囲を見渡した。

 生贄――もとい、身代わりとなる人柱を探すが、武蔵・英国一同はそれより先に一斉に距離を取り、さらには体ごと視線を逸らして『我絶対関せず』の姿勢だ。いつの間にかジョンソンとハットンも消えている。

 

 

 ―― そうこうしている内に、十六回目となる空耳ゴングが、むなしく響く。

 

 それとほぼ同時。カオスと化している宴会場に、一人の全裸が階段から現れた。

 

 

 

 

「よーしよぉーし! みんないい感じにデキ上がってきてんな!? ……そんじゃあ今日のメインイベント『エクスカリバー抜けるかどうかガチでやってみましょうそうしましょう!』いっくZ☆E♪」

 

 

 宴会場にされてしまったこの場の、中央にある台座。そこにある、一振りの剣――王賜剣・二型(エクスカリバー・カリバーン)

 

 ……決して、そして断じて、宴会の催しなんかに使っていいものではない。

 

 

「ン"ー!?」

 

「……おいおーい、いくら祭りだからってさらけ出しまくってると、あれだ、次の日からの人間関係とか、大変だぜ?

 ――性癖暴露とか、一番ダメだぜ?」

 

「HAHAHA! そうだぞmate! だが安心したまえ! 私はそんな些細なことはぁ、気にしないともぉ!」

 

 

 いつの間にか消え、いつの間にか復活し、ついでとばかりに、いつの間にかトーリの側に再登場したのは、明日以降の人間関係が壊滅していることが確定している半裸黒人ジョンソン。

 ……そんな彼の近くには、多彩な頭蓋骨に羽根飾りが追加された、やたらとネイティヴな大法官が沈んでいる。

 

 

「確か点蔵の話だと『一回ズボッと差してからソォイ!でござる』らしいけどよ、やっぱ必要だと思うんだわ、潤滑油。……ってことで、ワカメアーマー、装☆着!」

 

「ん"〜っ!?」

 

 

 酒飲みテンションは天井知らずで上がっていき――ストッパーは、未だ不在のまま。

 

 いま……伝説の剣に、史上最大の危機が迫っていた。

 

 

 

***

 

 

 

呑めや歌えや どんちゃん騒ぎ

 

裸踊りもなんのその 馬鹿げたことでも難なくと

 

 

 素のままできる ある意味の強さ

 

 

配点 【芸人の作戦】

 

 

 

***

 

 

 

『ぷふぉぉぉぉ……! 抜けないぜぇぇこのエク剣! っつか空気読めよてめぇ!! 「あ、やっべ抜けちゃった、テヘ♪」くらいやってみろよ! つか滑るんだよ! なんだよこのヌメリ!? そぉい!!』

 

『『『ってワカメを投げ、ピギャァアア!?』』』

 

 

 階上から幾度か奇声があがり、その度に歓声と野次が飛び交い。そして剣に八つ当たりするなんとも情けない罵声ののちに悲鳴が響いて、宴会の喧騒が乱闘系の喧騒に変わりだし――。

 

 その喧騒を頭上に仰ぎ、階下にいてよかった、と。ほぼ苦味で埋め尽くされた苦笑をネイトは浮かべていた。

 

 

 

「着々と、順調に国際問題が積み重なっていきますわねぇ……」

 

「いや、今更何言ってんだいミト。トーリのやつが英国で宴会やろう、って言い出した時点で大体こーなるってわかってたろうに」

 

 

 ドカン騎士の何気なく呟いた言葉に、バコン姉御が呆れながら――新しく開けた小瓶の酒をグビリ、と直接煽る。

 直政らしいその飲み方に、また苦笑を浮かべたネイトも、続けとばかりに自分のカップの中身を減らす。

 

 酒気が混じる吐息を一つ。そしてなぜ自分たちがこの様な場所でこんなことをしているのか、というのを改めて考え……今朝方、総長が唐突に言い出したのが事の発端でしたわね――とネイトは記憶から自答した。

 

 

「たしか……『天の岩戸作戦』、でしたわよね?」

 

「ん? ああ、そういやそんなこと言ってたさね……ったく。変なこと考えるよ、トーリも」

 

 

 ネイトもそして直政も、特筆して神道に詳しいというわけではないので、その神話の内容を深く知っているわけではない。だが、浅くならばその内容を知っている。

 

 

(えーっと……確か、現実に嫌気がさして引き篭もってしまった偉い神様を引っ張り出すために、扉代わりの岩の前でドンチャン騒ぎをしたんですわよね。そして、引き篭もっていた神様が自分も混ぜて欲しくなってコッソリ顔を出したところを確保された――って感じでしたわよね)

 

 

 ――もっとも、その理解の深さは水溜り程度の浅さだった。

 

 なお、ネイトがその引き篭もった神様に、わずかながら親近感を抱いているのは完全な余談である。

 

 

  ――『くそう! 流石だぜエクスカリバー! だけど負けねぇ! 唸れ! 俺の股間のエクスカ――』

  ――『『『言 わ せ ね ぇ よ ! ?』』』

 

 ドンチャン騒ぎを通り越して、これはもう乱痴気騒ぎではなかろうか? という感想を、直政・ネイト両名ともに酒と一緒に飲み込む。

 

 ――岩戸に隠れた神様は女神であり。トーリが時折視線を、宴会の会場から外してある塔の窓に向けている。

 

 

「岩戸は頑丈この上なく、ってか。トーリの作戦は失敗かね」

 

「そのよう、ですわね。それで――この国際問題級の宴会って、誰が止めるんですの……?」

 

「……誰って、そりゃあ――……」

 

 

 ――ネイトに言われ、直政は視線を宙に彷徨わせる。

 

 

 葵姉弟専門のストッパー巫女はすでに箍が外れていて、葵姉を潰しに忙しい。頼んでもいいが、最悪ブチ切れた巫女によってヘッドショット(ズドン)が乱れ撃たれるだろう。死傷沙汰はさすがにまずい。

 

 武蔵の至宝は宴会開始直後に誤って強い酒を飲んでしまい、直政の膝を枕に丸くなって寝息を立てていた――のだが、どこからともなく総艦長がふらりと現れ、何も言わずに抱きかかえられて武蔵へと護送されている。

 

 あとは……と、考えるまでもなく、二人の顔が浮かんできた。

 

 

「……そういや、アサマチから聞いたんだが、正純が一人で英国(こっち)に乗り込んでるらしいね」

 

「……ええ。止水さんがその回収に向かった、というか向かわせた、とも言ってましたわ。――つまり『この近くに二人がいる』ということですわね」

 

 

 二人はお互いの情報を確認し、収まるどころか悲鳴や怒号が強化されていく階上の騒ぎに、無言で頷きあう。

 ――なお、既にお気づきだろうが、『自分たちが止める』という選択肢は最初からない。

 

 

 ネイトが周辺の空き瓶や空皿の証拠隠め……後片付けを始め、直政が表示枠を呼び出し、見慣れた――そして呼び出し慣れた名前を選択する。

 

 一度。二度、と呼び出し音が鳴り……通じた。

 

 

「あー、止めの字かい? いきなり悪いね。ちょいと頼みたいことが――」

 

 

 

 

 

『――ほうほう、これが武蔵の通神の仕様か。やはり、我が英国のものと比べると若干差があるのだな』

 

 

「あるん、だ、けど……」

 

 

 

 

 現れたのが、何やら偉そうな金髪巨乳だったから驚きである。

 そして、直政はその人物をしっかりと見覚えていて……その上、多分――恐らく、いや絶対に、この場の状況を知られてはならない人物である、とも判断した。

 

 証拠隠滅していたネイトも手を止めて、呆然とした顔でその表示枠を見ている。

 

 

『……む? おい大丈夫か。すごい汗だぞ?』

 

『……というより妖精女王。他人の連絡に無断で出るなんて……むしろどうやって出たんだ? あと悪い、もう少し詰めるかこの肩の装飾を外してくれ。さすがに狭い』

 

 

 妖精女王らしき金髪巨乳の横から割り込んできたのは、これまた目当ての人物ではない正純だ。二人の距離がやたらと近いこともそうだが、金と黒の髪が向かい風によってずっと後ろに揺れていることも気になる。

 ――狭いと思うなら降りればよかろう今すぐに。――なあやっぱり私のこと嫌いだろ? そうなんだろ? と、仲がいいのか悪いのか判断に困る二人のやりとりを見ながら、直政は言葉を探す。

 

 

「あー、えー……と。なぁ正純? あたしがまだボケてなけりゃ、止めの字にかけたつもりなんだけど……?」

 

『ん? ああ、あってるぞ? ただ、止水が出る前にどうやったか知らんが、妖精女王が先に出てな……代わるか? あ、いや、ダメだ。不注意で転ばれたりしたら私がやばい』

 

『私()だ戯け。……まあ、そんな心配は無さそうだがな。人の背とは思えんぞ』

 

『……あのさ、せめて『誰々からの連絡だー』ってことくらい教えてくれよ。いや、声で直政ってのはわかるんだけど』

 

 声は聞こえど姿は見えず。状況的に、二人は止水の背に乗って移動しているのだろう。どこか気分良さ気なエリザベスと、苦笑というか呆れの雰囲気をにじませる正純を見る限り、どちらが我を通したのかはすぐにわかった。

 

 

『それで直政、ちらっと頼みたいこと、って聞こえたけど、なんかあったのか?』

 

「あー、あったというか、今まさに、その真っ最中というか」

 

 

 

 

  ――『くおおお! くっそ、エクスカリバー勝負で俺が負けるだと……っ!? とにかく抜けねぇ! 抜けないの! 僕のエクスカリバー抜けないの!! ……いや俺のエクスカリバー抜こうとしてんじゃねぇよこの野郎!! でもなんだこの股間と内股に走る冷たい新感覚……!』

 

 

 あー、現行犯ですわね、これ以上ないほどに。

 

 タイミングが良いのか最悪なのか、トーリのやることやっている声がガッツリと通神を通して向こうに聞こえてしまった。

 

 

 

「「…………」」

 

 

『『『…………』』』

 

 

 ――理解が全くできない一人と、理解したくないのに慣れで理解できてしまったことを嘆く一人。そして、日常過ぎて全く動じていない三人。計五人分の、種類の違う沈黙が辺りを支配する。

 

 

 ちなみに左から順に武蔵歴の短さである。……正確には葵さん家の長男との付き合いの長さだが。

 

 

『ま、待て。ちょっと待て! なんだ今のキチガイな叫びは!? 貴様ら王賜剣になにをした!?』

 

『あー、なんだ……その、ウチのバカがとんだご迷惑をおかけしているようで』

 

『今ので理解できたのか貴様!? くっ、武蔵視察は中止だ! おい守り刀! 今すぐ戻――……』

 

 

 

 ――エリザベスの言葉を最後まで聞くことなく、直政は表示枠を手刀で叩き割る。

 つなげておく理由はなく、そして、最後まで聞いている理由も、同じくない。

 

 止水だけでは急かされるままに急いでくるだろうが、幸いにも正純もいるのだから、少しくらいは時間を稼いでくれるだろう。

 

 

「――で、どうしますの?」

 

「はぁ……しゃあない。ミト、ここの片付け頼んだよ。あたしは、いろいろ気が進まないが、上の連中に伝えてくるさね」

 

 

 深いため息をつきつつ、わしわしと頭を掻きながら階段を上っていく直政を見送る。

 

 

 ――数秒後、騒ぎの質が変わったのを確認し……証拠隠滅もしっかりと終わらせ。

 

 

 

「――ずらかるよ、ミト!」

 

「Jud.って何ですのその抱えた酒瓶ケースは!? 洋酒もちゃんと入ってますわよね!?」

 

 

 

 ――誰よりも早く、死地を二人は脱したのだった。

 

 

 エリザベスが到着し、悲鳴とも絶叫とも取れる雄たけびを上げるのは、その数分後のことだった。

 

 

 

 




読了ありがとうございました。

活動報告にて現状をお知らせしたいと思いますので、お時間のある方はそちらをご覧ください。

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