奇談モンスターハンター   作:だん

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3節(3)

 眼前のイビルジョーは、自身を四方から取り囲むハンター達へ向けて、隠そうともしていない害意を、その乱杭歯(らんぐいば)ごとむき出しにしている。

 

「行けるか、ディーン?」

 

 少し離れた場所から、凶暴竜へ向けた警戒を解かずにフィオールが声をかけてくる。

 (おう)と返してディーンは再び戦闘態勢をとる。

 

…さて、どうする。

 

 なんとか致命打を避け続けられてはいるものの、正直なところジリ貧状態である。

途中から圧倒するような形にはなったが、角竜の(つがい)との戦いでのダメージや消耗したアイテムなどを鑑みても、控えめに言って絶望的だ。

 

 そして、イビルジョーは何かしらの作戦を練る暇すら与えるつもりもないようであった。

 

 

 グオオオォォォォォォッッ!!!

 

 

 吠える。

 大気すら震えるかのような咆哮を轟かせ、自身に挑みくる者達を睨み据えるイビルジョー。

 

 それも一瞬の事。

 

 ぐるりと巨体を旋回させると、今度は後方に立つイルゼへと標的を移した。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしつつ構えるイルゼ目掛け、どしどしと迫る。

 

 あの巨軀である。

 たっぷりと距離を取ろうにもすぐに追いつかれてしまうだろうし、下手に動き回ったとろで巨体を利用した攻撃範囲に巻き込まれる。

 

 となれば、取れる戦法は限られてくるものだ。

 

「ッ!!」

 

 イビルジョーが無造作にイルゼ目掛けてかぶりつく。

 しかし、大顎は彼女を捉えることはなく、虚空を噛み砕くのみ。

 

 そこは流石の“粗野なる紫(ヴァイオレット・ラフ)”である。

 

 イビルジョーの巨軀によるリーチが彼女を逃さないのであれば、最大限まで引きつけて、その間隙を縫うように攻撃をかわしたのだ。

 

 横っとびでイビルジョーの攻撃を回避したイルゼだが、悪名高い恐暴竜がただの一合だけで獲物を諦める訳がない。

 すかさず鎌首振り上げて、振り回すようにイルゼに喰らいつく。

 

 それでもイルゼは捕まらない。

 後方に反り返るように跳んだイルゼは、右手にデスパライズを握ったままの拳一本を地面に突き立てるや、見事なバク転で二撃目を凌いでみせた。

 

「調子に……ッ!」

 

 逆に、大振りになってしまったイビルジョー目掛けて、着地と同時にイルゼが踏み込む。

 

 瞬く間に三連撃。

 踏み込みに合わせた袈裟懸けからの切り上げから、勢いそのまま一回転して横薙ぎと、片手一本に絶妙に体重を乗せ、イビルジョーの横っ面を切り刻んだ。

 

 そこに飛び込んでくる影。

 

 それが何かを確認すらせずの、イルゼは追撃をかけずに恐暴竜から距離をとった。

 両手に握った狩猟笛大きく振り被るのは、蒼い軽鎧に身を包んだ赤髪のレオニードである。

 

「乗るんじゃあないぜッ!」

 

 イルゼの言葉を引き継いだレオニードが、渾身の力でドン・フルートを叩きつけた。

 

 

 ガアアァッッ!!??

 

 

 たまらず悲鳴をあげて仰け反るイビルジョー。

 怒りに満ちた双眸をレオニードへと向けるが、打撃武器からの一撃を頭部に受けたためか、かの恐暴竜が二、三歩後ずさった。

 

 

 ──好機。

 

 そう思って駆け出そうとするディーン、フィオール、イルゼの3人だが、それよりも早くにレオニードの警戒の声が上がる。

 

「退けっ!!」

 

 常に飄々としている彼にしては危機感のある声に、三人は疑うことなく踵を返した。

刹那である。

 

 その場から逃げる彼らの背後を、黒いガスのようなものがボボボと低いうなり声をあげて通過していった。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

 レオニードを除いた三人が戦慄する。

 馬鹿正直に追い打ちをかけていたどうなっていたことか。

 

「あれが奴のブレスか?」

 

「ああ。あいつの体内で生成される毒素は、俺たちどころか、装備まで(むしば)んじまう。下手すりゃ即死だ、気をつけるんだぜ」

 

 問うフィオールに応えるレオニード。

 彼がいなければ、下手したら本当に三人ともやられていたかもしれない。

 

「……やれやれだな」

 

「まったくだ」

 

 流石のディーンとフィオールにも、いつもの不敵さが陰る。

 

 

…まずいな。

 

 

 飲まれかけている。

 そう、レオニードは思った。

 

 あまりに腕が立つので忘れがちだが、彼らはハンターを始めてまだ浅い新人なのだ。

 自身の分を超える相手とやりあうには、まだまだ経験不足である。

 

 こんなことなら、後輩達へのハンデなど気にせずに、完全武装で来るのだったと後悔せずにはいられない。

 

 だが、そんな事を目の前に立つ恐暴竜は歯牙にもかけてはくれないのだ。

 

…さぁ、どうする?

 

 “最後の生存者達(ラストサバイバーズ)”のレオニード・フィリップスは、この窮地をどうやって切り抜たら良いのかと、頬を伝う冷たい汗をぬぐいながら思案するのであった。

 


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