当然のように、皆の視線がムラマサへと集中する。
「ど、どうしたって言うのニャ?」
「何か、問題でもあったのですか?」
ミハエルとネコチュウが、
ココット村へは、
途中、ドンドルマやメルタペットといった大きな都市を通過し、最後に、『温厚な心』という意味を持つシルクォーレの森とシルトン
このアルコリス地方は、感冷期でも暖かく、様々な動植物が生息している。
それ
その為、抱える物資の多い
今回の
しかし、その後ムラマサの口から告げられたら言葉は、その場の皆を
・・・
・・
・
「それ、本当なの?」
何時になく真剣に、押し殺したように言うギルドマスター。
「私も今し方、先程この村に到着したばかりの
それに頷き、ムラマサはそこまで言うと、一呼吸おき、苦いものを吐き出す思いで続く言葉を口にした。
「……確かだ」と。
「なんて事だ!」
それを聞いた教官が吐き捨てる。
確かに、ディーン達は新人としては規格外の才能の持ち主ではある。
しかし、ムラマサの口にした言葉の通りであるならば、アルコリス地方、通称“森と丘”にて彼等と必然的に遭遇するであろうその驚異は、明らかに今の彼等の分を越えて余りある。
おまけに、今回はもうすぐ繁殖期の到来とあって、
そうなった場合、彼等は
ガタン!
ミハエルが椅子を倒しかねない勢いで立ち上がる。
「ネコチュウ! 急いで家に戻って、父さんの装備を取ってきてくれ! それと、持てる限りの閃光玉とトラップを!!」
「にゃんぷし!!」
鋭い声で指示を飛ばすミハエルに、ネコチュウは敬礼のポーズで応え、出口へと駆け出した。
この時、この二人の判断は迅速(じんそく)だった。
兎に角急いでディーン達に追いついて、今の危機的状況を伝えなければならない。
そして、もしその驚異と遭遇してしまった時のための最大限の準備を、この場の誰よりも素早く開始したのだ。
「姐さん、竜車の用意を! 出来るだけ足の速い奴をお願いします!」
ネコチュウの姿が出口に消えるのを待たず、ミハエルはギルドマスターに道中の“
しかし、ギルドマスターからは二つ返事の回答は返ってこなかった。
彼女はまさに困ったといった表情で、ミハエルに応える。
「う~ん。そうしてあげたいのはやまやまなんだけど、ギルドから一般の人に竜車を貸し出すのには、色々と手続きがいるのよ……」
こんな時に何を悠長な……とは言うまい。
彼女とて支部を一つ任されるものだ。おいそれと特例を認めてやるわけにも行かないのであろう。
ならば、“テ”は一つ。今更迷ってはいられなかった。
「シャーリー! ペンと登録用紙を!」
「ええっ!? わ、解ったわ!」
急に声をかけられたシャーリーは、一瞬
シャーリーがテーブルに置いてくれた登録用紙に、ミハエルは必要事項を一気に殴り書くと、インクの乾かぬうちにギルドマスターへ突きつける。
「一般人への貸し出しが面倒なら、ハンターへのクエストって事で問題は無くなりますよね!」
突きつけられたら登録用紙に一瞬だけ目を通すと、ギルドマスターは「よろしい」と頷き、ミハエルから用紙を受け取り立ち上がって応えた。
「そう言う事なら問題ないわ。ちょっと待ってなさい。今とびきりの奴を用意してあげるわ」
言うや、くるりと
「教官、
声をかけられた教官は、重い表情で頷く。
経験値で言えば、彼が向かう方が適任なのかもしれなかったが、先に出発したディーン達に追いつくためには、彼等以上の強行軍が必須となる。
前線を退いて久しい彼には、年齢的に見ても少々
教官もその事は重々承知している。先達として、若者を向かわさざるを得ない事に対しては、悔しい気持ちで一杯だろう。
そうこうしている内に、ネコチュウが大きな
「ミハエル~! 取ってきたニャ~!」
「ありがとうネコチュウ!」
礼を言って、彼の持ってきてくれた包みを受け取ると、中に包まれていた防具を急いで身につける。
青く、鋭い刃をその身に
ギザミシリーズ。
ミハエルの父が生前使用していた、岩をも斬り裂く巨大な
彼の父親が帰らぬ人となってからは、ずっと物置の中で眠っていた代物である。
定期的に手入れはしていたとは言え、まさかこんな形で自身が身に纏うこととなるなんて、想像もしなかった。
だが、今は
「待ちたまえミハエル君」
そう思い、得物を手に取ろうとした時にかかる声があり、ミハエルは得物、モンスターの骨を削って作った双剣、ボーンシックルへと延ばしかけていた手を止めて、声の主、ムラマサへと振り返った。
「その武器では、少々
言われるまでもない。少々改良しているとは言え、それでも攻撃力不足は否めなかった。
父の愛用の双剣は、彼と共に帰らなかったのだ。ギザミシリーズも、所詮は予備でしかない。
それでも、無いよりは
そう思い、そしてそう言葉にしようと、ミハエルが口を開きかけた時だった。
はらり、と。
「こ、これは……」
思わず驚きの声が、ミハエルの口から漏れる。
そこに現れたのは、
幅広で肉厚な刃を、
「双剣ニャ……」
「うむ。
ネコチュウの呟きに応える形で、ムラマサが現れたる双剣の由来を語る。
「凄い……」
「持って行きたまえ。コレは君の物だ」
「っ!?」
ムラマサの言葉に、ミハエルは再び驚かされる。
当然だ。本来、倒されたモンスターの素材は、倒したハンターの物。ハンター達も、自身が命懸けで倒したモンスターの素材を、おいそれとは他者に渡したりはしない。
しかし……
「うむ。勿論これは彼等の意志だ。二人とも何故か、轟竜の素材を受け取ろうとはしなくてな。それでしばし、私が預かっていたのだが……」
そこで一旦言葉を区切るムラマサ。
彼が言うには、二週間ほど前にクエストから戻ったディーンとフィオールが、『出来上がったらミハエルに』と言って依頼をしてきたらしい。
「彼等は、君を口説く材料にするつもりだったのだろうがな」
こんな時でも、ムラマサとは
それとも、ミハエルや彼等が、きっと無事に帰ってくると信じてくれているからなのだろうか。
「………」
ミハエルは勧められるがままに、レックスライサーを見る。
まるで、轟竜の
「……頂戴します」
意を決して頷き、目の前におかれた双剣を手に取るミハエル。
ずしり。と両手にかかる重みに一瞬感じ入り、背中のマウントに引っかける。
「準備は出来たようね~」
ちょうどそんな時、ギルドマスターがミハエルに声をかける。
どうやら彼方もお
「よし! 出発するニャ! ミハエル」
「って、ネコチュウも来てくれるのかい?」
今更気付いたが、
緑色の、身体の部分部分に申し訳程度に着けられた、アイルー達専用の防具だ。
背中にはピッケルを改造したのだろう、しっかりと武器まで背負っている。
「あったり前ニャ! あいつ等はオイラにとっても大切ニャ友人ニャからニャ!」
なんとも心強い相棒である。
「助かるよネコチュウ! ……出発だ!」
「にゃんぷしっ!」
ミハエルの声に、再度敬礼の
二人は厳しい表情で頷き合うと、ギルドマスターが用意してくれた竜車へと向かって飛び出していった。
…急がないと!
急く心を
そんな彼等の背中に、送り出す側の皆は新たな魂の輝きを見たような気がするのだった。
To be Continued……