奇談モンスターハンター   作:だん

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3節(11)

 

「おおおおおおっっっっ!!!!」

 

気合い一閃。

蜻蛉(とんぼ)の構えで高々と掲げられた獄・紅魔邪龍刀が、漆黒の鎖によって引き裂かれた冥雷竜の首目掛けて振り下ろされる。

 

ザギィィンッッッ!!!

 

硬質な何かが砕け散り、ぞぶりと血風が捲き上る。

雲耀の速さに達した一撃が、遂に幻の冥雷竜の頚椎(けいつい)ごと、その命を断ち切ったのだ。

ドラギュロスは一瞬だけビクンと痙攣して、そしてそのまま二度と起き上がることはなかった。

 

「……やった」

リエの口から、呆けた様な声が出る。

実感が中々湧き出て来てくれないが、あの悪魔の様な飛竜を、倒す事が出来たのだ。

短い期間だけしかハンターをしていなかった彼女からすれば、こんな強敵は(まみ)えたことすらない。

段々と喜びが湧き上がって来たリエだったが。

「うをっ!?」

彼女のすぐ後ろ声が上がる。

見るとイルゼが幻鎖のボタンを操作していた。

驚く彼女の手元では、見る見る内に地面に突き刺さった双方の鎖が本体へと吸い込まれて行く。

「すごいな、コレ」

まじまじと幻鎖を眺めつつイルゼが呟く間に、かなりの長さで伸びていた漆黒の鎖は本体へと収まっていた。

リエは、元の真っ黒い鉄製の棒に戻った試作幻鎖をまじまじと見つめるイルゼに好感を覚えるとともに、今までの自分の態度を少しだけ恥じるのだった。

 

一方。

 

「……あ……」

確かな手応えをその手に感じていたディーンだったが、突然何を思ったのか、引きつった声を上げる。

「……まさか」

なんとな〜く、手元から怪しい気配が漂ってくるのだ。

実に、実に嫌な予感がする。

ここ最近、なんだかお約束の様な感覚が、地面に突き刺さる程の勢いで振り下ろした獄・紅魔邪龍刀から這い上がってくるではないか。

さて、現状ディーンが振り下ろした紅蓮の大太刀は、ドラギュロスの首を半ばまで断ち割り、その刀身の二割ほどを地面に潜り込ませていた。

感じるのは違和感。そう違和感である。

なんと言うか、こう。

…お前さん。こんなに軽かった……け?

ノコギリ引きして変に引っかかってしまったので、一旦引き抜こうかと思ったら、手に持ったノコギリが妙に軽い。みたいな。

例えるならそんな感じだ。

「ウソだろ〜……現存する中で最高峰なんだろ〜……」

口から(まじな)いでも唱えるかの様に呟くが、結果は勘のいい読者諸君の創造する通りであった。

恐る恐る両手に握った大太刀を引き抜いて行くディーンだったが、淡い期待は露と消えるものなのだ。

 

う〜〜そ〜〜だ〜〜ろ〜〜ぉぉぉ……

 

引き抜かれた獄・紅魔邪龍刀の半ばからバッキリと折れた刀身を確認したディーンの、なんとも間の抜けた声が、不死の霊峰響き渡っていた。

 

・・・

・・

 

「おやおや。本日二本目の武器破壊ですね、尊き君よ(ユア・ハイネス)

「うう……」

深紅の外套に包まれた肩をすくめて見せるルカの言葉に、先の出鱈目さが嘘の様に鳴りを潜めたディーンがしゅんとなって唸る。

「す……スンマセン」

借りた大太刀を見事にへし折ったのだ。ここ二週間程の間に都合四本の武器を自らぶっ壊している手前、流石に良心に響く。

「いえいえ、構いません。お気になさらずに」

ディーンから折れた大太刀を受け取ったルカは、全く気にしていないとばかりに応える。

御身(おんみ)にお渡しした以上、こうなる宿命だったのですよ」

と。

「いや……でも……ねぇ?」

何たって現存する最高峰である。

あの冥雷竜の副尾を一刀のもと断ち切る程の大業物だ。余程高価に違いない。

…何年タダ働きしなきゃならないんだろう?

ディーンが恐れるのはコレであった。

「本当にお気になさらないで下さい。それよりも……」

目深にかぶったフードの奥でもわかるほど、苦笑している様なルカであったが、ふとディーンから意識を外して見せる。

それに習い、ディーンもルカの意識の先へと視線を向ければ、そこには助太刀に来てくれたイルゼと、そして厳しい表情を浮かべたリエの姿があった。

「ご説明願えます?何故貴方が我が里の最秘奥をご存知なのか」

「さて、困りましたね。私がとてもとても物知りだから……と言う回答では、許していただけないでしょうか?」

「ふざけないでっ!」

飄々とした態度を崩す事ないルカに、思わずリエが声を荒げてしまう。

しかし、対するルカの方は「失礼いたしました」と頭を下げるばかりで、どうやら彼女の問いに応じるつもりはない様だった。

「貴方はっ!?」

「よせ、ぱっつん」

馬鹿にしている、という訳ではないだろう。

しかし、リエとしてもこの話題は無視できはしないのだが、イルゼに肩を掴まれてしまい、その勢いを削がれてしまう。

「申し訳ありませんね。まだ、私達の事は多く語る事が出来ないのです」

リエの勢いが止まってくれたのを確認し、再び彼女に頭を下げるルカだったが、その言葉はむしろ、彼のそばに建つディーンに向けられた言葉でもある様だった。

「……わかったよ」

彼から借り受けた大太刀をへし折ってしまった手前、思う様に彼に物申す事がが出来ず、ディーンは「近いうちに、詳しく話を聞かせてもらうからな」と言って、この話題は終了となった。

ディーンの記憶の事、そして白い龍の騎士の事、聞きたい事は山ほどあったのだが、今は堪える。

「さて、それでは」

一先ず皆がルカに対する疑問を飲み込む事が出来た事を見て取った彼は、彼自らが新たな話題とばかりに切り出した。

「まずは場所を移動しましょう。村正様の“工房”は、この火口跡ですね?」

「ああ」

彼の言葉に応えたのは、イルゼである。

リエはやはり、ルカの事をすぐに認める事は出来ない様だ。

「おやっさんは今、その“工房”に火を入れているところだ」

イルゼが言うには、今現在ですぐに使えるのは、試作品である幻鎖と緋鷹のみであり、流石にその二つだけではドラギュロスを倒しきる事は難しいので、幻鎖でドラギュロスの動きさえうまく封じる事が出来たら、すぐに“工房”に戻ってくる様にとの指示を受けていたそうだ。

ディーン達が工房に避難次第、急ぎ武器の制作に取り掛かり、出来上がったその武器を以って、ドラギュロスを撃退する作戦だったらしい。

驚くべきことに、“工房”内で数ヶ月は生活できるだけの蓄えや機能があると言う。

それがまさか、ルカの助力も大きいとはいえ、冥雷竜を既に討伐してしったとは、流石にムラマサも考えていないだろうが。

ちなみに、ディーンが飛竜刀【紅葉】を折ってしまうであろう事は、ムラマサだけでなくイルゼも共通認識であった。

「結構。では、我々も参りましょうか、尊き君よ(ユア・ハイネス)

そう言うと、ルカは驚く面々を置いてスタスタと火口跡に作られた階段状の道に入っていってしまう。

「あっ、ちょっと!」

やはりリエが声を上げて制止しようとするが、今度はそれをディーンに止められる。

「りえぞー、待ってくれ」

「貴方まで変な呼び名で呼ばないでくださいっ!」

「悪ぃけど、アイツも通してやってくんねぇか?」

果たして、変な呼び名に関しての謝罪かは甚だ疑問だが、ディーンは言う。あの赤衣の男は敵ではない、と。

「多分、だけどな」

途中からは自信なさげではあるが、それでもあのルカという男を疑ってはいない様である。

「頼むよ」

いつの間にか黒い色に戻っていた瞳で真っ直ぐに見つめられ、思わず鼓動が高鳴るリエだったが、元来生真面目な彼女は、「もう!知りませんから!」と顔を背け、自分も“工房”へと歩いていくのであった。

その背中を追うディーンとイルゼは、とりあえずはひと段落とばかりに顔を見合わせ、やれやれとばかりに仕草だけでお互いをねぎらうと、彼らも“工房”へと入って行くのだった。

「それはそうと」

思い出したかの様に、ディーンは言う。

「何だ、少年」

「ユア・ハイネスって、何て意味?」

「知らん」

「だよなぁ」

…ま、気取った呼び方か何かだろう。

深く考えない事にして、ディーン達も先行する二人を追うのであった。

 

・・・

・・

 

「驚いたな」

“工房”内で皆を待っていたムラマサは、まず現れたルカを見て苦笑する。

「いつもお騒がせして、申し訳ありません」

対するルカは、誰に対してもそうなのであろう、慇懃に礼をして応えた。

「“今回”は、ディーン君達に助力してくれたのかい?」

「おや?我々は、ディーン様に仇なす様なことなど、した覚えはございませんよ?」

何処まで本気なのやら、皮肉に対して肩をすくめて見せるルカに「そうかい」と応えて、ムラマサは、すわ知り合いだったのか!?とばかりに驚いた表情のディーン達に「少し前に、会った事があるのさ」とだけ返す。

砂漠の死闘の上空での出来事は口止めされていたし、ムラマサ自身も、未だ語るべきではないと思うからだ。

「まぁ、まさかわざわざ出向いてくるとは思わなかったがね」

「ディーン様専用武器は、私も非常に気になるところですので、居ても立っても居られなくなりまして」

フードの奥でフッと笑みを浮かべるルカに、ムラマサも苦笑で応えるが、ルカが続けた言葉は、和みかけた空気を一気に引き締める内容であった。

「ですが、あまりのんびりともしてはいられない状況になってしまいましたのもありまして、こうして参った次第です」

「ん?どういう事だ?」

「王都に動きがありました」

問いに応えたその言葉に、ディーンの瞳が一気に鋭くなる。

「何だって!?」

今にもルカに掴みかからんばかりの勢いである。

…コイツ、まさかエレンの事を言ってやがるのか!?

ディーンの脳裏に、何故ルカが王都の事を知っているかと言う疑問が浮かぶ。

「確か、今王都には老山龍ニョ亜種が向かってるのニャったよね?」

「ンニャ」

ルカに詰め寄るディーンの頭にも、ルカがその事を言っているのかという考えはあった。

確かにシュンギクとシラタキが言う事も、確かに緊急事態ではある。

だが、この赤衣の男の事だ、本当にディーンの仲間であるエレンの事を言っているのかもしれない。

それに、王都にはフィオールやミハエルをはじめとしたディーンの仲間達がいるし、何よりラストサバイバーズが急行しているのだ。

この底知れぬ男がわざわざ出向く事が、老山龍(それ)だけが理由でとは思えなかった。

嫌な予感が拭えない。

「いえ、老山龍亜種だけであれば、おそらくディーン様のお仲間の御力だけでなんとかできるでしょう。ですが……」

やはり、ルカが続けて語った内容は、その場にいた全員の表情を険しくさせるのに充分な内容であった。

 

「クソッタレめ!」

ディーンが吐き捨てる。

ルカの口から語られたのは、崇龍(ドラクル)子爵の暴走と、彼の呼び出した白疾風(しろはやて)の事、そして、先のディーン達の乗った飛行船を襲った舞雷竜も、例の子爵の差し金であるという内容であった。

…やっぱり、あの野郎ッ!

胸中でディーンがありったけの怒りを燃やし、ギリと奥歯を噛みしめる。

こいつは敵だ。と。そう感じた彼の直感は的中していた。

操龍術(そうりゅうじゅつ)と申しまして。はるか古の時代の技術なのですが、どうやら子爵はその技術を蘇らせる事に成功した様なのです」

憤るディーンを後目にルカが言葉を紡ぐ。

もしかしたら、今王都に迫る老山龍(ラオシャンロン)の亜種、岩山龍(イェンシャンロン)も、奴が裏で糸を引いていそうである。

「我々は、かの技術がこの世に蘇ることを良しとしておりませぬ。故に、こうして私もディーン様の刀を打つことをお手伝いするべく、馳せ参じた次第なのですよ」

「……なるほどな」

唸るムラマサは、両手を組んでルカの言葉を反芻する。

確かに、辺境を跋扈する大型モンスター達を使役出来たならば、世界をひっくり返さんばかりの事態である。

「わかった。そう言うことならば是非もない。ルカ殿、助力に感謝いたします」

「いえ、私の力で何処まで御役に立てるかは存じませんが、どうぞお使いください」

うなずきあう男達は、早速ディーンの為の武器を作るための打ち合わせを始める様である。

「ニャア、ニャンで少年の武器を作る事が、そニョ子爵さんの企みを防ぐ事にニャるのニャ?」

なんだか皆を置いて話がグングン進んでしまったのに耐えかねたシュンギクが、周りを代表してルカとムラマサに問いかける。

「確かに、いっちゃニャンだけど、大型モンスターを操る事が出来るのニャら、その技術は世に出た方がいいんじゃニャいかニャア?」

シュンギクの言い分ももっともだと、シラタキが便乗するが、それが非であると応えたのは、驚く事にイルゼであった。

「ちがうな」

「「ミ"ャッ!?」」

いつになく知的な話題に主人が参入してきた事に驚愕する二人だが、彼らの主人はそんな二人の若干失礼な反応など気にするそぶりなく言葉を続ける。

「もし、ヒトが大型モンスターを自由に行使できる様になったとしたら、遅かれ早かれ国が滅ぶ事になるぞ」

腕を組んで言うイルゼの(げん)に、オトモの二人は「ニャに言ってんだこの人」と言った顔をしていた(シュンギクに至っては実際に口にしていた)が、それに対して「ほう」と、いかにも感心した声が上がる。

ルカであった。

いや、よく見ればムラマサも同様の反応だ。

「どう言う事だよ?」

どちらかと言えば、オトモ達と同じ考えに至ったディーンが問う。

「ぱっつん。お前がさっきオレに聞いた事の答えも、多分こう言う事だと思うんだが……」

そう前置いて、リエの表情が一瞬曇ったのを見たイルゼは、皆に対して自分の考えを口にするのであった。

「辺境に生息する飛竜種をはじめとする大型モンスターの力は強大だ。それは、オレ達ハンターが一番よく知ってる。そして、それを戦力に出来たとしたら、そりゃあ凄いもんだろう。そんな技術を持った組織は、おそらく世界を制すると言っていい」

「まぁ、そうだろうな」

珍しく雄弁なイルゼに、ディーンが頷く。

「だがな、大型モンスターの脅威で制されたって事は、それは暴力の統治って事だろう?暴力で従えられた奴らは、やがては絶対に反発する。もし、反発する奴らも、その操龍術を使い出したら、どうなると思う?」

そこまで言われて、ディーン達もハッとする。

「ここにいる方は、御堂の家とその分家の方ですし、ディーン様方にも、言っても構わないでしょうから、補足させていただきますと」

ディーン達の目の理解光が灯ったのを見たルカが、イルゼの弁に便乗し口を開いた。

「元々、この辺境に生息する大型モンスター達は、遠い遠い遥か昔の、それこそ気が遠くなるほど昔に栄えた文明が生んだ、生物兵器の子孫達なのです」

補足というにはあまりに衝撃的な事を宣うルカである。

想像して見てほしい。

生物兵器などと、言葉にしてみれば至極簡単に聞こえはする。

しかし、大空を舞い炎を吐き出すリオレウスや、電撃をその身から作り出すベルキュロス。

それだけではない。最早天災とまで言われる古龍種を生物兵器として産み出す事が、如何に驚異的な事か。

だが、今はその事実に驚いてばかりはいられなさそうである。

「その超古代文明が滅んだ直接の原因とも言えるのが、操龍術による生物兵器同士の戦争だったのです」

王立図書館の連中が聞いたら、卒倒するか狂喜乱舞するかどちらかだろう。

大型モンスター達の原点を、事もなげに語るルカであったが、なるほど、確かに危険な技術なのは疑いようがなかった。

何より、その操龍術を使ったのは、あの狂人(・・)崇龍子爵なのだ。

事実彼の放った白疾風が、王都の臣民に多大な被害を出している。

「おやっさんがこの“工房”を封じていたのも、これとほぼ同じなんだろう?大方、この“工房”はその超古代文明の遺産ってトコだ。当然、この“工房”で精製するものは、超古代文明の技術の結晶だ。とんでもない兵器になる。でっかい力ってのには、でっかい責任があるもんなんだよ」

イルゼが、ルカの補足を受け取って締めくくった言葉に、リエは漸く、里の神童が何故“工房”を継ぐのを拒んだか、そして里が、何故その神童の意思を尊重していたかを知るのであった。

「そう、だったんですね」

「リエには、悪い事をしたと思っているよ」

申し訳なさそうに語るムラマサに、リエはいいんですと応え、憑き物の落ちた様な顔で言うのだった。

「御曹司のお考えがわかって、リエは嬉しゅうございます」

草紙ヶ谷のお家が是としてきたものは、胸を張るに値するものであったのだ。

それが彼女には嬉しかった。

「でも、それニャらニャおさら、少年にその“工房”を解放する理由がわかんニャいニャ」

首をひねるシラタキの言い分は、至極当然であろう。ディーン自身がまったくもって同感だからだ。

そんな思いが視線に乗ってしまったのだろう。彼の視線を受けたムラマサが、突然ふっと表情を緩めた。

「それはな、ディーン君がハンターで、出鱈目だからだよ」

まるで、(わっぱ)に戻ったかの様に言うムラマサに、ディーン達は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

「何だよソレ?」

「まぁ、叩き込まれた鍛治師の腕を振るいたい。と言う事もあるのだがね。それだけならば、恐らくは里の鑪錬成(たたられんせい)でもできなくはない。だが」

「だが?」

恐らくは、ムラマサの表情を子供の様に見せたのはそれが原因なのだろう。

やはり、彼も故郷と、そして家を愛していたのだ。

ムラマサは続ける。

「先の砂漠の死闘を上空から見ていてね、思ったのさ。君なら、この“工房”のでっかい責任というものを背負えるのではないか、とね」

いつしか彼の表情は、その責任を背負い続けてきた大人のそれに変わっていた。

そして、彼は思う。

何より、上空でシアとルカから少しだけ語られた、来たる“災厄”。

それに対抗するには、やはりこの“工房”を開くしかないであろうと、ムラマサは思うのだった。

「ディーン君だけじゃないぞ。フィオール君やミハエル君。君達ならば、このでっかい責任に押しつぶされる事なく、ハンターとして、過剰に命を奪う事なく、未来を切り開いてくれると思ったからさ」

語るムラマサの目は、真摯だった。

皆の視線が、自分に集まるのを感じる。

今まで、ディーンは自分というものを恐れていた。

自分は本当に、皆と同じヒトなのかと疑う程に。

だが、そんな自分にこんな期待をかけてくれる人がいるなんて思いもしなかった。

そして、仲間のピンチが巡り巡って世界のピンチになりそうなこの状況を、自分に託そうというのだ。

なるほど、こいつは確かにでっかい責任だ。

…そうまで言われちゃ、応えない訳にはいかねぇな!

腹の底に熱が宿るのを感じる。

「わかったよ、マーサ」

出てきた声は、自分でも驚くほど力強かった。

「では、始めましょうか。御身に相応しい武器を作るために」

「オレも手伝うぞ。面白そうだしな」

「ああ、助かるよイルゼ君。よろしく頼む」

皆がディーンの声に応えて進み出す。

急がなくてはなるまい。

岩山龍だけではない。今王都に、否、もしかしたら彼らの生きるこの辺境の地全体に迫っている脅威に対し、今こそ彼は自分自身の為の武器を手にするのだ。

「あ、そうだ!」

ふと、ディーンが足を止める。

何事かと振り返ったのは、“工房”奥まで入って行くムラマサ達を追いかけようとしたリエであった。

「どうしました?」

「りえぞー、すまねぇけど頼みがあるんだ!」

突然のディーンの申し出に、また変な呼び方で呼ばれたことを突っ込むことを忘れたリエは、大きな瞳をパチクリさせるのであった。

 

ToBe Continued...


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