異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
後半のバロンさんの語り場でのBGM 漆黒のシャルノスより OST - Um Thrathnona
You Tubeで検索れば出て来ると思います。
太極とは、それを定義した者の魂に属した色を帯び、その理をもって他の全てを塗り潰すもの。万象を型に嵌める法則そのもの。
己が法則で森羅万象を制圧する太極と、己が法則のみ森羅万象から外れるという太極である。この法を色と呼び、それを決定するのは人の想念。我は何々がしたい、何々になりたい。そうした祈りや願い、つまり渇望と言われるものが、太極を発生させる原動力となる。
よって、型に嵌めるとはそういうことだ。己を象徴する渇望をもって、自らが願う宇宙の在り様を決定する行為に他ならない。
そして、今ここに二つの色、理、己の法則で森羅万象を制圧する太極が流れ出す。
「死よ、死こそがただ一つの救済
間もなく全ては死にゆき苦痛は消え去る
私をただ死なせてくれれば良い
私自身に死を与えるよう、願ってくれれば良い
なのに、お前はもう一度、生に舞い戻れと言う
この上ない苦痛に満ちた日々に戻れと
これがお前の礼ならば、私は奉仕しよう
終焉をもたらし、あなたの苦悩を終わらせてあげる
その傷口に剣を突き立てて
深く、深く、柄が見えなくなるまで
苦悩諸共、殺してあげる
それこそが、この上ない救いの奇跡だから
――太・極――
神咒神威――神霊・黒死斑の魔王」
それは死を与える太極。
「愛している、愛している、愛している。ゆえに、私はあなたたちに死を与える。それこそが、私にできる最大の奉仕」
それは死を想う渇望の発露。死こそが救済。死こそが幸せ。死を与えることこそが全ての救う。あなたを愛しているからこそ死を与える。
愛しているのだ。お前たちを。恨みもした。悲しみもした。怒りもした。だが、それ以上に、私たちで良かった。病におかされたのが私たちでよかった。
生きる苦痛を知っている。病の苦痛を知っている。生きることは苦痛だ。だから、そんなものにあなたたちを残してはいけない。
だから、死を。死こそが救済。死を想い、死に抱かれて、無明の安息へと誘おう。
「いや、一人は嫌。みんなで一緒が良い。誰かがいなくなるのは、もう、見たくないから。みんな、ここにいて欲しいから」
ゆえに、
それは悲しみだった。嘆きだった。懇願だった。いかないで。いかないで。いかないで。置いていかないで、わたしを一人にしないで。
超深度で願われる全てを繋ぎとめる楔の法が今、流れ出す。
「ああ、全て終わった
Or tutto finì
喜びも悲しみも、もうすぐ終わりを迎える
Le gioie, i dolori tra poco avran fine
墓は、全ての者にとって終末
La tomba ai mortali di tutto è confine
私の墓には、涙も花もないでしょう
Non lagrima o fiore avrà la mia fossa
私の上には、名を刻んだ十字架もないでしょう
Non croce col nome che copra quest'ossa
ああ、道を誤った女の願いを聞いてください
Ah, della traviata sorridi al desio
どうかお許しください、神よ、御許にお迎えください
A lei, deh, perdona; tu accoglila, o Dio
ああ、全て終わった
Or tutto finì
流出
Atziluth――
夜の世界・堕落する華
Demimonde――La Dame aux camelias」
流れ出す。渇望が。
創造位階の異界と理が全世界で永久展開する。それこそが流出。己が世界となること。世界を己とすること。自らの渇望を流れ出させ、それによって世界を塗り替える法。
世界=己。己を世界の一部と認識するのに留まらず、己こそが世界であるという破壊的なまでの自負と傲慢さの極致。創造位階が永続的に展開しないのは、ひとえにその精神と魂がこの境地に達していないからである。
だが、桜茉椿姫という少女は幾万もの回帰の果てで生まれながらにしてこの領域へと達した。ゆえに、魔王が流れ出させ、開いた太極へと対抗できる。
神気が走る。神威が流れる。その一瞬にして全てのものが現状の状態に固定化される。死を与える理と全てを固定化する理が互いに流れ出す。
これが覇道太極という名の神咒神威。完成した暁には宇宙を覆う、正真正銘の神業だ。その規模、威力、総てにおいて、異界の具現という奇跡に懸ける想いの重量が桁外れている。
そして、その背後に浮かぶのはただ成層圏すら突き抜けて、胸の中心に釘が刺さり、鎌を持った下半身は華になっている女と、死の霧を纏う笛吹き男の姿が具現化する。
世界を覆う
そして、愛しき者の意思をそれは確かに感じ取った。異界にありながらも確かに感じ取ったのだ。愛しき者の願いを。響き渡る、先を照らす光のように心地のよい声を。
『■■■■■』
もはや、顔も、握った手の柔らかさも、抱きしめて、拒否されたあの日々ですらもはや欠片も覚えてはいない。
だが、それでも血涙を流し、一撫でしただけで身体が引き裂かれバラバラになりそうな程にひび割れた異形は、それでもなお歓喜の叫びをあげる。
彼女に抱かれているという感覚。それは、数万の回帰の中で待ち望み、今や、幾千年待ち望んでいたもの。誰も彼もを包み込み、引き留め抱きしめるもの。
だからこそ、それは同時に相対する者ですら抱いている。
『ヤメロ、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ。
気持ち悪いんだよ塵虫が――!!』
憎悪にまみれた叫びが木霊する。滅人滅相。ここから生かして返さない。抱きしめる者。一人を拒むものをそれは許しはしない。
だが、そんなものを異形は許さない。
『■■■■。■■■■■、■■■■■■■■■!!』
淀み、もはや何もうつさなくなった瞳に宿るのは確かな討滅の意思。破滅を待つばかりの停滞の中に沈んだ魂が奮い立つ。
『■■■、■■■■■■■、椿姫』
イノリは駆動し、鬩ぎ合う。
愛しき者の為に――。
愛する者は叫ぶのだ。寂しいと。寂しがり屋の彼女の為に。
「一人は嫌だから。皆、ここにいて欲しい」
「死よ、死こそが救済。こんな苦しい世の中にあることこそが地獄。だから、殺してあげる。それこそが救いの奇跡だから」
天高くを飛翔する、それは巨大な笛吹き男。黒い霧の彼女の随神相。振り下ろされるその極大の拳。死の概念そのものである拳。振れれば最後、何があろうとも死を与え全てに幕を引く。
全てを終わらせたい。苦しんだ。苦しんだ。生前は病に侵され、誰からも見捨てられ、苦しみの中で死んだ。
恨みも辛みも全てが混ざりあり、感じたのはただ一つ。死の安息だけが一致していた。死よ、死こそが救済。
死は素晴らしい。苦痛もなく、何もかもが穏やかな闇に包まれる。ならば、死をあたえよう。愛しているから。私たちはそれでも愛していたから。
だから、与えよう。全ての者に死を。死こそが救済であるから。
「いや」
だが、いやだと、椿姫は首を横に振る。
認められない。死は別れ。絶対の別れ。私の愛した者は全てが死んでいなくなる。愛しているのに。愛したいのに。愛してほしいのに。
愛は全てを奪っていく。でも、嫌だ。一人は嫌だ。そばにいてほしい。愛したい、愛してほしい。全てを抱きしめたい。
幼子のような祈り。寂しい。行かないで、一人は嫌だ。極限の域で願われるのはただ一人が嫌だという子供の泣き叫ぶ声。
だが、だからこそ、超深度で思われるそれは、全ての者に楔を打ち込む。もうどこにも行かせない。何があろうとも傍にいてほしいから。
そして、どこにも行きたくないから。
振り下ろされた拳。それは避けることすらできない。
だが、避ける必要などない。超深度で行かないで欲しいという願いが駆動する。
それゆえに、椿姫は死なない。願いにおいて、想いにおいて上回らねば傷をつけることすらできない。それでも、分の悪い勝負ではなかった。
彼女は一人だ。己の魂のみでここにいる。対して、彼女は八千万の総体と、舞台区画において取り込んだ観衆たち全ての魂を保有している。
その質は確かに椿姫には遠く及ばないだろう。それでも燃料の量が莫大だ。それだけの総体において拮抗している。
「私も!」
そこにサンドラの炎が奔る。されど、
「効かないわ」
神の位階に属する者には、人や人もどきの業などあらゆる意味で通用しない。ゆえにその座へ至らずして、どのような策と力を重ねようが結果は蟷螂の斧にもならぬ。絶対法則——神格は神格しか斃せないのだ。
神の位階ですらない者には神を倒すことはできない。幼き彼女では未だ、その域にない。
如何に椿姫に守られていようとも。ただそれは固定化されているだけに過ぎない。彼女は椿姫の軍勢ではない。
軍勢を変生する特性を彼女は有していない。流れ出す渇望によって染め上げた魂を、己が幕下に集わせ率いることなど彼女の願いではない。ただそこにいてほしいだけなのだ。
率いることなど彼女には出来ない。これを有しているのは歴代でもただの二柱のみ。彼女はその特性を持ってはいない。
渇望の特性上、誰も彼もを認めるという特性から、覇道神を共存させる特性は有しているものの、今の状況において、それはこの状況を解決しうるものではない。
それはペストという存在ですら許容していることに他らならないから。
ゆえに、この勝負は平衡を辿る。互いにお互いを傷つけることなどできない。
咲き誇る花と笛を吹く男。
流れ出す、流れ出す、流れ出す。
全ては未だ、何一つとして始まってはいないのだ――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――チク・タク
――チク・タク
「――さて」
男は言った。
それは奇妙な仮面を被った男であった。
道化の如き姿であるが、一世代前の西洋貴族のようでもある。
奇妙な人物。
仮面と服装は彼をそう思わせる。
彼は決して自らを口にしない。見たままを口にせよと戯けて言う。いつもの通りに。まさに容姿通りに、奇妙な男であった。
しかし、存在があるという事は存在するという事である。
男の名はとある世界の極東の小さな島国に伝わる神なる獣の名。それがこの男を示す名であった。
しかし、今その名前はない。その自分は既に砕けてしまっているから。彼の地、彼の街で。あるいは神々の箱庭ここで。
あるいは、砕けていないのかもしれないが。
――もっとも。
――彼に名前がなくとも問題はあるまい。
――彼にとっては名など幾つもあるさほど意味のないものであるし。
――かつても、名を知る者は決して多くはなかったのだから。
例えば――
最も新しき
あるいは――
全力を求め、破壊の慕情を抱く黄金の獣であるとか。刹那を愛し、ただ変わらぬ日常をこそ尊んだ永遠の刹那であるとか。
もしくは――
果て無き未知を求めて回帰する水銀の蛇であるとか。
人はその仮面の名を呼ぶ。
即ち、『バロン』と。 もしくは、『バロン・ミュンヒハウゼン』と。
ただ、不用意にその名前を呼んではならない。
命が惜しければ。
彼の仮面の奥を想像してはならない。
命が惜しければ。
あらゆる虚構を吐き出すというその男は、 対面する何者かへと語り掛ける。
小さな部屋。ソファ以外には調度品は何もない。壁に囲まれた部屋。
暗がりの密室。結界ともいうか。あるいは封印とも。
男の格好とは不釣り合いな普通の部屋だ。100の血濡れの眼が、見つめるだけのただ普通の部屋だ。
静謐なる内向の間と人は呼ぶ。
かつて栄華を極めたコミュニティあるいは未知なる結末を求める男、もしくはその両方の余技にて作られた部屋。
己が全てを見つめるというその部屋で男は眼前の何者かに語るのだ。
「さて。吾輩はここに宣言するでしょう」
――余計なる観測の開始と。
――無意なる認識の開始を。
――そして、異なる物語の幕開けを。
「これは、可能性の中にしか存在しえない儚き幻想に御座います。
しかし、あらゆる可能性はそこに確かに存在するのです。
流れ出す二つの理。どちらもまた、深い深い、愛を有しているのでございましょう」
男の声には笑みが含まれている。
対する何者かは無言。
「どちらが塗りつぶそうとも、何も変わらないことは、承知でしょう。全ては彼の者の掌の上の出来事でしかないのですから。
一つ懸念を申し上げますれば、彼の者が残した者が42番目がうまく機能するかですが、それは我々には関係のないことでしょう」
男の声には嘲り我含まれている。
対する何者かは、無言。
「成る程。
そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう」
そうして、男は高らかに宣言する。
「さあ、我らが愛してやまない人間と下賤なる修羅神仏、悪魔の皆様。どうか御笑覧あれ。
――全ては、ここから始まるのです」
皆さまから燃料を頂いたのだ、頑張らんでどうする! 創造――死世界・凶獣変生!
てなかわけで、創造を駆使し、なんとか0時までにかきあげれた! 展開が決まっているのと、あと、刹那・無間大紅蓮地獄を聞きながら書いたからテンション上がって早くかきあげることが出来ました。
さて、ようやく椿姫ちゃんの登場です。白夜叉様? 黒死病は太陽の寒冷期に流行したので、眠ってます。
流出対決。しかし、対決になりません。固定化するだけですからね。仕方ありません。
そして、軍勢変生なんてなかった。ぶっちゃけ、これあると真面目にいろんな敵が悲惨な事になりかねないので、カット。
固定化してるけど偽神化はしてないということで一つお願いします。むしろ固定化だけでも強すぎて。
なにせ椿姫ちゃんこの箱庭で最高の格の持ち主ですからね。あの白夜叉より格上ですからね。縛るしかないの(泣)。
この辺りの戦闘バランスの調節が非常に難しいです。誰か、何か良い意見ないでしょうか。
次回は、十六夜か外道のターン。ジン君が空気ですが、大丈夫です。ちょっと、アマッカスが何かしてるだけですから。
というか、下手したら耀が達磨落としにされかねないということに今思い至りやべえってなったのはここだけの話。
では、また次回。