異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
初っ端から修正。
椿姫がいたのは冬の諏訪原です。間違っていたので修正しました。
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――いかないで、私をひとりにしないで。
まず感じたのは『
――求めしものは愛し愛され触れ合うこと。
愛し愛されればその全てが目の前から消え失せ一人になる、愛し愛されることができない。
ああ、なぜ、なぜ私の前からいなくなるのだ。私はただ愛したいだけなのに。
いかないで、いかないで、私をおいていかないで、ひとりにしないで。
だから、ここに永劫全てを引き留めよう――
ああ、全て終わった
Or tutto finì
喜びも悲しみも、終わりを迎える
Le gioie, i dolori tra poco avran fine
墓は、全ての者にとって終末
La tomba ai mortali di tutto è confine
私の墓には、涙も花もないでしょう
Non lagrima o fiore avrà la mia fossa
私の上には、名を刻んだ十字架もないでしょう
Non croce col nome che copra quest'ossa
ああ、道を誤った女の願いを聞いてください
Ah, della traviata sorridi al desio
お許しください、神よ、御許にお迎えてください
A lei, deh, perdona; tu accoglila, o Dio
ああ、全て終わった
Or tutto finì
夜の世界・堕落する華
Demimonde――La Dame aux camelias
それは悲しみだった。嘆きだった。懇願だった。
いかないで。いかないで。いかないで。置いていかないで、わたしを一人にしないで。
それは世界に響く
過ぎ去った幸せを思って、全てが終わったと嘆く子供の叫びだ。愛すゆえに一人になり、愛されるがゆえに一人になる。
超深度にて一人を願う彼の者に呪われた哀れな寂しがり屋の少女の叫びだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
世界のどこともしれぬ場所、特異点と呼ばれる穴の奥底。その超深奥に男の声が響く。女神の為を思った男の声が響くのだ。
「わかってはいるとは思うが、私はマルグリット以外どうでも良い。
だが、君は別だ。君は彼女の
故に哀れな君よ。寂しがり屋の君よ。
私は、マルグリットの幸せと同じくらい君の幸せを願おう」
どこか考え込むような、あるいは、どこか哀れむようなそんな声色で。男は安心するが良いという。
「だが、君は奴の成長因子であり、対極存在でもある。
君が存在する限りあの悲劇は繰り返される可能性があるというわけだ。
ゆえに、女神の黄昏の為に去って欲しい。
なに心配はいらない。随分と昔に作って放置していた箱庭のものだが、招待状を用意した。
女神の為に修羅神仏、悪魔を封じた箱庭だから退屈はしないと思うよ。
だから、君の為に今宵は
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冬、その日の深夜、諏訪原は静寂に包まれていた。
誰しもが眠りにつき夢の一つでも見ているような時間。静謐さをたたえて、冬の冷えが段々と来るころアルファルトに覆われた道をコートを着た少女は歩いていた。
ぼさぼさの赤銅色の髪の少女――
「どこ……」
弱々しくか細い呟きは虚空に消える。答える声はない。
いつもは呼べば来るはずの男は来ず、冷たい風が吹き荒ぶ。
「どこに、いるの……」
再びか細い問いかけ、消え入りそうな問いかけを投げかける。いつものような返答を期待して。
だが、やはり期待は裏切られる。
誰もこの場には現れない。現れてくれない。そして彼女は気が付いてしまった。もう二度と彼は自分の目の前に現れてはくれないことを悟った。
「やっぱり」
悲しみはない。そんなものには慣れている。なぜならば、彼女が愛した人は、彼女を愛した人は、
ゆえに、これもまた当然の帰結。どのような意志があろうとも彼女が愛せば、彼女を愛せば、意味を成さない。彼女よりも格が低ければ、彼女の呪いに巻き込まれる。
呪い。そう一人になるという呪いに。ゆえに、赤銅の華は高嶺の華なのだ。孤高に咲き続ける華なのだ。
「…………」
帰ろう。
そう思い来た道を引き返そうと彼女はした。既に帰り道などわからないが、そんなことなど関係ないとばかりに歩き出そうとして、降ってくる白いものに気が付く。
雪だろうか、と思ったが違う。確かに季節としては冬であるが、まだそれが降る時期ではない。それに雪なんかよりも遥かにそれは大きい。
ひらひらと降ってくるそれは封筒だった。封をされた真っ白な封筒。椿姫は咄嗟にそれを受け取ってしまった。明ける気もなかったがそれは開く。
まるで、
いや、もし何もなくとも開いただろう。これは、既知ではない未知であったから。
『寂しがり屋の君へ。
これから先は女神の黄昏だ。甚だ勝手だと君は思うだろうが、女神の黄昏の為にこの場からは去って欲しい。
なに心配はいらない。随分と昔に作って放置していた“箱庭”のものだが、招待状を用意した。女神の為に修羅神仏、悪魔を封じた箱庭だから退屈はしないと思うよ。
そういうわけだ、君の為に今宵の
書かれていたのはそんな一文だ。
「――――!?」
そんな文章を認識すると同時に、足場が消失する。夜の闇から昼の光の中へと落とされて、そのまま重力に引っ張られるままに地面へと椿姫は落下した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
落下する笑いをあげる少年と少女たち。
だが、誰もこの後の心配などはしていない。誰も彼も、この程度で死ぬような人間ではない。
それに、下には水の膜がいくつも見える上に、湖まで広がっている。落ちているとはいえ幾層にも重なる水の層によって落下速度は落ちるだろう上に湖のよほど浅い場所に落ちたりしない限り大丈夫だろうと思われる。
水の膜を突き抜けて、湖に落下する。水柱が四つ。
ヘッドホンをした金髪の少年とお嬢様然とした少女と三毛猫をつれた少女が水上がってくる。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放りだすなんて!」
「同意だ、クソッタレ。場合によっちゃあれでゲームオーバーだぞ」
「大丈夫? 三毛猫」
上がってきた三人は三者三様に文句などをを垂れながら水気を切っている。
「じゃあ、一応同じ境遇なのだから自己紹介くらいしておきましょう。私は、久遠飛鳥(くどうあすか)よ。猫抱えてるあなたは?」
お嬢様然とした少女――飛鳥は粗方服の水分をきったあとに気を取り直して自己紹介を行う。
いきなり落とされるという理不尽かつ意味不明な事態において、少なくとも同じ境遇の仲間――一応の――に対してある程度の意志疎通をする事にしたのだ。
「春日部耀(かすかべよう)。以下同文」
で、最後にと粗野で野蛮かつ凶暴そうな金髪の少年へ名を尋ねる。
「そりゃどうも。粗野で野蛮かつ凶暴そうな逆廻十六夜(さかまきいざよい)です。
粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取扱説明書でも書いてくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。じゃあ今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様。
てかよ、俺の記憶だったらもう一人一緒に落っこちてたはずなんだが、上がってこねえな」
「それ本当?」
そんな飛鳥の疑問に答えたのは耀であった。
「本当、今は水底」
「それ溺れてるってことじゃない。まったく、情けないわね。まあ、救助入ったみたいだしだいじょうぶでしょ」
「だな、大丈夫だろ」
「うん、たぶん大丈夫」
人が一人溺れているというのに三人は心配も動揺もしていなかった。なにせ、三人が岸に上がって来て自己紹介を悠長に行っている時、もう一人が溺れたことを察知して何者かが湖に飛び込んだことを知っているからだ。
おそらくはその
「はっ、はっ、はあ、はあ、お、溺れるなんて、聞いてないですよ」
黒いロングのコートを身に纏った赤銅色の髪の少女を抱えた月光を帯びたような髪色の兎耳が生えた少女が岸に上がってくる。
濡れたコートを脱がして、人工呼吸。慣れた手つきであることを見れば医療術の心得でもあるのだろう。滅多な事でもない限り蘇生は確実であろうと三人は判断した。ゆえに、
「ふむ、良い眺めだ。黒とはこれはまたエロい。
しっかし、尻あげて人工呼吸してるはずなのに、スカートの中が見えねえ、どうなってやがる」
十六夜はそう言って、人工呼吸されている少女と人工呼吸に集中している兎耳の少女の後ろに回りしゃがんでしきりにスカートの中を見ようとしていた。赤銅色の髪の少女の方は黒の下着でなかなかにエロかったが、どういうわけか兎耳の少女のスカートの中を見ることができない。
今、兎耳の少女は人工呼吸をするために前かがみになっている。彼女のスカートは非常に短い。
しゃがんだり、寝転がる勢いの角度であるならば普通、スカートの中の
だが、どういう理屈か知らないがスカートの中を見ることができない。
「あなたねえ。それよりもっと気にすることがあるでしょうに」
そういう風にスカートの中を覗こうとする十六夜に呆れたようにジト目を向ける飛鳥。どうしてそうまでして覗きたいのか。男という生き物は本当に意味が解らないという風。
「私的にはあの耳の方が気になるかも」
耀はそんなことよりも人工呼吸をしている方に生えている兎耳の方が気になるようだった。
そんな風に三人が話している間に、少女は蘇生する。
「――カハッ、……………………ここは?」
「よかったのですよ。こんなところで脱落なんてしてもらったら、本当、どうしようかと思っていたところなのですよ」
そんな風に兎耳の少女が安堵しているその背後に耀が忍び寄る。
絶好のチャンス。舌舐めずりなど三流のやること。一流であるならばさっさとさわりに行くとばかりに、
「えいっ」
兎耳を鷲掴みにする。引き抜かん勢いで。
「ふぎゃっ ちょ、いきなり!? いきなりですか!? 触られるかもとは思っていましたが、人の一大事をなんとか解決して、安堵したばかりの黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ? このウサ耳って本物なのか?」
「………。じゃあ私も」
次々と引っ張られる兎耳の少女――黒ウサギの耳。
「…………」
もう立ち上がるまでに回復した赤銅色の髪の少女までその耳を鷲掴みにして頬ずりしていた。
そんな風に黒ウサギの耳を弄繰り回して息絶え絶えの彼女を放って、
「さて、じゃあ、貴方のためにもう一度自己紹介しましょう。私は久遠飛鳥よ。で、溺れちゃったおまぬけさんなあなたの名前は?」
飛鳥がそう聞く。
「えっと…………」
しかし、名前を言うだけというのに少女は酷く考え込んでいた。まるで、名前を思い出そうとでもしているかのように。
「あ、桜茉椿姫」
「…………あなた、もしかして、自分の名前、忘れてた?」
恐る恐る、まさかそんなわけないはずよね、と飛鳥が聞く。
「…………………………」
対する少女――椿姫は無言。その沈黙が事実を肯定していた。
「ヤハハ、自分の名前忘れるとか面白い奴だな。俺は逆廻十六夜だ。そっちのお嬢様曰く野で野蛮かつ凶暴そうなので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ」
「春日部耀、こっちは三毛猫」
「えっと、よろしくお願いします」
「じゃあ、あとはそっちの兎耳のあなたね」
「あ、はい、私は黒ウサギと言います」
こうして、椿姫は箱庭へと降り立ったのであった。問題児と共に。
主人公は問題児+椿姫ちゃんです。
椿姫ちゃんの元ネタである椿姫ですがその小説の主人公の名前マルグリットなんです。そこからマリィ=椿姫となっております。
ちなみにこれキャラ作ってから判明して、友人と二人で大笑いでした。
あと、椿姫ちゃんは流出位階ですが、きちんと形成から流出まで詠唱を用意しております。
というわけで、始めてしまいましたが不定期更新です。感想や評価などわかりやすく目にみえるようなものがあれば歓喜して更新が早くなるかもです。
では、また次回会えましたら。