異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ 作:三代目盲打ちテイク
今更ですが、サブタイトルとかいりますかね?
――箱庭二一〇五三八〇外門居住区画・“ノーネーム”農園跡地
じゃりっ、と砂を踏みしめる音がむなしく響き渡る。見渡す限り廃墟。荒廃した土地が広がっている。これがかつて何よりも緑豊かで生命に溢れていた場所だと誰が信じるだろうか。
今や、それは過去の栄光であり、見る影も形もここには残ってなどいない。全て、奪われていた。その場所に黒ウサギとレティシアは佇んでいた。
「酷い物だな。本当に、いつ見てもそうだ。ここがあの農園区とは信じられん。砂と砂利しかないじゃないか」
地面の砂を手で掬いながらレティシアは呟く。
「ですが、白雪姫様もいらっしゃって、水の都合は付きました。これから農園を復活させて行けば良いのです」
「そうだな」
三年前とは比べものにならないほどにノーネームは落ちている。マイナスの負債は未だプラスにはならない。なにせ、プレイヤーが四名だけの彼らに頼り切った、いや、依存しているとすらいえるレベルで頼って現状なんとかなっているのだからプラスに行くはずもない。
水の都合はあれど、土地を復活させるのは莫大な時間がかかるだろう。なにせ、土地が死んでいるのだから。
それほどまでに強大な魔王。それでいて、足跡すら掴ませない。
荒廃した土地や居住区をみて、その力は時間を操作する類のものであると予測する。星の運行すら捻じ曲げる
まず間違いなく、箱庭最強クラス。かつて、時の運行を左右するほどの力を有した者は、かつて一人だけいた。
箱庭史上最悪のゲーム“ ”において、挑戦者を最強最悪に挑ませる為に己を犠牲にした神格。今はなき、最高神格の一人が、星辰すら止めてしまったという。
かつて八百万の大神の主神六柱がその総力を決して挑み、その背後に潜む最悪を倒してようやくゲームを終わらせることができたと彼女らは白夜叉から聞いている。
「…………」
「…………」
沈黙は、聞いた話を思い出したからだろう。そして、それに近いと思われる実力の魔王を倒せるのかという不安もあったのだろう。
だが、その一方で問題児ながらあの四人ならば何とかなるのではないかとも思う。
と、そんな時だ、
「黒ウサギおねえちゃん! レティシア様!」
そこにリリが走ってくる。
「どうしたですか? まさか、また十六夜さんたちが何かやらかしちゃったとか、ないですよね?」
「あ、あの、ええと、これを渡せと」
どうやらそうであるらしい。黒ウサギは覚悟を決めて開いてみる。
「ええと?」
それらを三人で見て、
「な、何を言っちゃってますか、あの問題児様方はああああああ!!」
黒ウサギの絶叫が響き渡った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
というわけでその件の問題児はというと、サウザンドアイズ支店で、ノーネームお断りを健気にも実行する店員を押しのけて、白夜叉の部屋へと突入し、さっさと北へ送れと要求を突き付けていた。
「いや、おんしら、あの招待状は黒ウサギあってのものだぞ? あの黒ウサギの豊満なBodyがあってこそだ」
「こっちにも豊満なBodyならあるぜ」
十六夜は白夜叉に背負っていた椿姫を突きつける。
「ほう! B88/W60/H89! これは、なかなか」
「見ただけでわかるとは、流石だな白夜叉」
「舐めるなよ小僧。今まで、幾人ものBodyを見て来た私だからこその技よ」
何やら変態共鳴が起きていた。
「おいおい、それなら俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」
「おい、覇吐、いつも言っているだろう。入る時は主人に断りをいれろとあれほど。申し訳ありません白夜叉様、この馬鹿が失礼を」
そこに覇吐と見慣れない女性が入ってくる。いや、女性というよりは少女だろうか。態度だけは一人前なチンチクリン。そんな印象を飛鳥と耀は受けた。
無論、十六夜は違う。
彼の額に一筋の汗が流れた。圧倒的だった。あの覇吐と同類だとかそんな次元ではない。あの覇吐がまともに見えるほどの次元。それほど隔絶した何か。
つまり、度し難い変態であると。
……いや、神格であると。十六夜は一瞬で視抜いた。それは同類が感じる圧倒的な渇望の表れだったのかもしれない。
「いや、おい、そこのお前」
「俺か?」
「そうだ。お前、今、ものすごーく、失礼なことを考えただろう」
「ああ、考えたぜ、和装ロリその2」
「そうかそうか、素直でよろしい。って、誰が和装ロリだ! しかもなんだ、その2って、まるで、私がそこらへんのモブキャラみたいな扱いではないか!」
むきーと怒り出す少女。いや、和装ロリその2。もとい八百万の大神が一柱御門龍水。
「そんな怒んなよ龍水。今日来た目的はそんなんじゃないだろ」
「覇吐に諌められた……、って、いの一番にふざけ始めたお前が言うな-!」
怒鳴って肩で息をしながらも、ひとまずは目的を果たすことにしたのか、まじめな顔になって白夜叉へ向き直る。
「白夜叉様、やはり北によからぬ者が入り込んでいると夜行様が」
「やはりか、ふむ……」
白夜叉は考えるように視線を彷徨わせて、十六夜とそれに抱えられている椿姫で止まる。
「(これはある意味僥倖かもしれんな)」
「北に私が赴くのもよいが、後手に回る可能性も考える必要があるとなれば」
戦力は多いに限る。
八百万の大神には東の留守を任せる必要があるため北に行かせるわけにもいかない。
「おんしら、私の頼みを聞くならば先の要求、北へ送ってやらんこともないぞ?」
「北に行けるならなんでもいいぜ」
「危険でもか?」
「あら、それこそ望むことよ」
「同意。コミュニティの宣伝になる」
「むーむむーむ!!」
さるぐつわをされて亀さん系の縛りをされているジンは不穏な空気というか嫌な予感を感じて騒ぎ始めるも、誰も彼のことを気にも留めない。
「よかろう! その心意気あっぱれよ。ならば連れて行こう」
「よろしいのですか白夜叉様、彼らは――」
龍水が本当に大丈夫なのかと問う。
感じる限り、彼らの実力は高くはないだろう。この箱庭において戦いにおいて重要となるのは個人の格だ。ただ一人椿姫ならば龍水が知る限り及ぶものがないほどの格を持っている。
だが、ほかは違う。太極にも至っていない者たち。素養はあるのだろう。だからこそ、ここでつぶしてしまっていいのかとも思う。
「問題なかろうよ。あくまでも保険であるし、何よりそこの十六夜は神格を殴り倒した童だ」
「確かに、それはそうですが」
「よいよい、ただ一人の格が隔絶しておるのだから問題なかろうて。それに、もう遅いぞ」
既にここは北である。そう白夜叉は告げた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――東と北の境界壁。四〇〇〇〇〇〇門。三九九九九九九門、サウザンドアイズ旧支店
熱い風が頬を撫でる。そこは既に彼らが見知った場所ではなくなっていた。いつの間にか高台に移動した“サウザンドアイズ”の支店からは、街の一帯が展望できる。
赤の街。赤壁と炎、それからガラスの街。
東と北を別つ天高くそびえる巨大な赤壁。境界壁。
「おいおい、こりゃまた……」
十六夜ですら驚くほどのそれ。
彫像されたモニュメント、ゴシック調の尖塔群のアーチ。巨大な凱旋門。
ああ、まったく、これは未知だ。そう既知ではない。
「はは、こいつは良いなおい。良い既知じゃねえもんを見たのはここに来て以来だ」
「すごいわ、なんていうか、言葉がでない」
「うん……」
「むーむー!」
「くく、気に入ってもらえたようで何よりだのう。じゃが、おんしら、これくらいで驚いておっては此れから先大変じゃぞ」
未知なるものに感動する十六夜。
遠目からでもわかるほどに色彩鮮やかなカットガラスで彩られた歩廊に瞳を輝かせる飛鳥。
黄昏の輝きを放つ街の匂い、音、風を感じる耀。
――だが、それに浸る余裕は彼らにはなかった。
「見ィつけた――のですよおおおおおおおおおおおおお!!!!」
轟音を響かせて、それは降ってきた。人型。それが黒ウサギであると三人は瞬時に察する。なぜならば、しっかりと彼女の特徴である耳が見えていたから。
ゆえに、その直撃を避けることに成功する。
「――うぎゃっ!?」
だが、咄嗟だったゆえに抱えていた椿姫を取り落とす。地面へと叩き付けられて驚くも彼女に傷はない。
そんなことよりもまずは気にすべきことがある。
怒髪天で怒る黒ウサギである。
「お嬢様、春日部! 逃げんぞ!」
十六夜は一番に逃走を選択した。少なくとも現状において、彼女を打倒するのは難しいと判断したのだ。
自らの実力ならば問題はないだろう。だが、飛鳥と耀を連れてでは不可能だ。ならば、別々に逃げる。それに限る。
だが――
「逃がしませんですよおおおおおお!」
有りっ丈を込めて跳躍した耀の足を緋色の髪を戦慄かせた黒ウサギが掴む。そのまま空中で彼女の体重を利用して振り回し地面へと叩き付ける。
もちろん、緩衝材として白夜叉を挟み衝撃を緩和することは忘れない。如何に怒り心頭であってもここで使い物にならなくなられは困るのである。
黒ウサギの思考は急速に考えを巡らせていた。白夜叉が何やら叫んでいるが無視だ。そんなことを考えている暇はない。だからこそ別のことを考える。
来てしまった以上は仕方がない。ならば、時点の妥協案を見つけることが肝要だ。
つまり、来たからにはノーネームの宣伝と有用なギフトを手に入れること。それが目的となる。それはレティシアも了解済み。
無論、こちらに来てギフトゲームをするという以上、それは彼らへの妥協点。彼らの妥協点ではない。彼らが黒ウサギに妥協しなければならない点は、ひとまず捕まり大人しくお説教を受けること。
そのため全力で彼らを捕まえること。それが目標。
「行きますよおおおお!!!」
まずは問題児筆頭たる十六夜を捕まえる。
飛鳥は彼ほどの身体能力はないため問題ない。十六夜に抱えられての移動であるが、いずれどこかで分かれるだろう。
そうなれば捕獲は簡単であるし、十六夜が妨害してこようが腐っても――別に腐ってもないが――月の兎であるのだ、十六夜くらい抑えて見せる。
だからこそ、失念していた。もう一人、問題児がいることを。能動的問題児ではなく受動的な問題児がいるということを。
そう、桜茉椿姫。彼女は問題を引き起こしはしないが、問題を連れてくる、あるいは問題の方がやってくる問題児であるということを。
既に、この場所からいなくなっていることを彼女は気が付かなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ここ、どこ?」
さて、ここはどこだろう。
椿姫は見たこともない通り、いや通路を人知れず歩いていた。十六夜の抱えられて落とされて、気が付けばよくわからないところにいたのである。
誰かに呼ばれたような気もするが、よくわからない。
どこか暗がりを思わせる。いや、ここは地下だろうか。光りの届かない、いや、光の少ない場所。いったいなぜ自分はこんな場所に来たのだろうか。
誰かに連れられて来たわけでもない。おそらくは偶然だ。偶然このような場所に落ちのだ。マンホール的な何かに偶然落ちたのだろう。つくづく運がないというか、誰かといると一人になってしまうのは変わらない。
椿姫は不安げにしながら、
「あすか? よう? いざよい? くろうさぎ?」
今最も近しい場所にいる彼ら名を呼ぶ。
――返答はない。返答はない。
暗がりに吸い込まれ、自身の声すら返ってこないのだ。
「…………」
――大丈夫、大丈夫
そう必死に、必死に心の中で唱えながら、彼女は歩き出した。
「ん……?」
と、いくら歩いただろうか、わからない、一分かもしれないしもっとかもしれない。実際はそんなに経ってすらないのかも。そんな感覚も曖昧になる暗がりで、彼女は白い何かを見つけた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
瞼を開けて――
彼は一瞬だけ、彼にあるまじきことではあるが、呆けた。
暗がり。北側につきものなキャンドルスタンドすらない。在るのは小さな妖精だとかが出す光だけ。うっすらとしたそれ。
自身がいた場所ではない。だが、そう離れてもいないだろう。彼はそう結論付ける。ならば、ここはどこだろうか。
地下だろう。おそらくは。あの戦いのあと、崩落に巻き込まれてしまった。不甲斐ないがそこで意識を失ったのだろう。
敵性存在はない。まだ生きている。そして、自分は仰向けに倒れている。
襟元は開かれていて、後頭部には柔らかな感触があった。
それはいつか感じたもので。ああ、またか、とも思ってしまう。
いや、すぐに彼はそれを否定する。違う。
不満そうにしながらも、それでも自分を送り出してくれた少女は、ただ変わらずにいるはずなのだ。こんな醜態を晒していてはまたいつかのように心配されて自分を追ってくるだろう。
相変わらず未熟な己に想うことはあれど、ひとまずは膝を貸してくれている誰かに礼を言うべきだろう。
そう思って、目を開ける。
おそるおそるこちらを覗きこんでくる黒い色の瞳がふたつ。あの男と同じ色だ。一瞬、あの男が自分を膝枕しているなどという酷い想像をしてしまったがすぐにそれは違うとわかった。
黒色が違う。あの男とは違う。もっと無垢で優しげな色をしている。
見つめ返して――
「だいじょう、ぶ?」
あの時の彼女と同じ言葉を少女に告げられた。
本当、遅くなり申し訳ありません。
リアルが忙しく執筆時間がなかなかとれないなかチマチマ書いてるので、これからも遅くなりそうです。
ゆっくり更新していきますので、これからも宜しくお願いします。
感想があれば気軽にどうぞ。嬉しくなって更新が早まる現金な作者なので。