異世界から問題児と寂しがり屋が来るようですよ    作:三代目盲打ちテイク

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おそくなって申し訳ありません。
今回は、日常と伏線回です。なので、外道は出ません。その上話も進みません。こんな体たらくですみません。


2

 レティシア奪還より一ヶ月。

 レティシアの処遇は、とりあえずメイドということに落ち着いていた。というのも、彼女を助け出した問題児四人、主に椿姫を抜いた三人による彼女の所有権の分配によりメイドをやることになったのだ。

 死病の重篤者に何をさせているんだというなかれ。彼女の死病は完治こそ不可能であるが、その死病の格を超す椿姫の太極によってその状態にだけ固定化している。そのためこれ以上の悪化は一先ずは起こるはずもないためメイドとして働けている。

 そんな彼女の朝の仕事は年長組の子供たちに交じっての朝食の用意と、

 

「うぅ~」

 

 今現在、無理矢理起こして唸っている椿姫をなんとかすることだった。

 

「ほら、早く起きろ。朝食が始まってしまうぞ」

「ぅぅ~」

 

 どうにも、この桜茉椿姫(おうまつばき)という少女はかなり朝に弱いのだ。起こさなければ自力で起きることなんてないのではないだろうかと思えるほどに。

 そうやって起こしてみても、今目の前に広がっている光景と同じようにただ振り子のように左右にゆらゆらと揺れながら再び眠るか、唸り続けるかのどちらかである。

 しかも、

 

「ほら、手をあげて」

 

 起こしたとして、自分で着替えもままならない。どうにも動こうという意思はあるようだが、それに身体が付いていっていないようだった。

 もぞもぞと動くばかりで、本当に朝は弱いらしい。そのため、レティシアのもっぱらの業務として彼女の着替えというものがある。

 濡れたタオルで顔を拭いて、それから寝巻からの着替え。一ヶ月もやっていればさすがに慣れて、即座に終わらせることができていた。

 

「ほら、行くぞ」

「うぅ」

 

 まだ唸っている。とりあえず、朝食の場にさえ付きさえすれば良い。そうやって食卓まで行かせれば、既に朝食は出来上がっている。

 基本的に、ノーネームの食事は自由だ。そのまま部屋に配膳することもあれば、食卓で食べることもある。今回の場合、飛鳥と耀がそれぞれの部屋で朝食を摂っているらしく、この場にいるのは黒ウサギだけであった。十六夜は昨夜からジンと共に書庫にこもりっきりだ。

 

「おはようございます。椿姫さん」

「うぅ、おは、よう」

「あはは、相変わらず朝は弱いのですね」

「うぅ」

「とりあえず、いただきましょう」

 

 そんな感じでノーネームの朝はそれぞれ自由に過ぎていく。

 朝食のあとは基本的に自由である。コミュニティのことは子供たちがやるので、基本的に椿姫には仕事がない。

 というか仕事を任せられない。皿洗いを任せれば皿を割る。洗濯をさせれば、びりびりに破る。料理をさせれば、この世のものとは思えないようなダークマターを生み出すなど、とりあえず家事全般ができないので、その手の仕事はなにもない。被害が甚大になるのだ。

 そんな午前中、時折行われるゲームに参加したり白夜叉から来るゲームをしたりする日々であったが、今日は特に何もない。

 白夜叉という存在を参考にして、魔王打倒コミュニティとしてジンを旗頭にして名声を稼ぐためにあくせくと問題児たちはゲームを戦って宣伝したりと働いていたわけであるが、この日は特に開催されるゲームもなく完全な休日であった。

 

「むう、暇?」

 

 暇なのだ。椿姫は。レティシアも仕事で今はいない。いつも一緒にいるかと言えばそうでもなく、仕事で抜け出されたりする。それはそれで寂しい椿姫だが、一応、彼女のことも考えて無理強いはしていない。

 よって完全な手持無沙汰であった。いつもならば、問題児三人の後ろにくっついてゲームに参加するか、レティシアに引っ張られてゲームに参加するかだったので、そのどちらもいない今はかなり暇だった。

 趣味でもあれば良いのであるが、生憎と彼女に趣味と呼べるものは特にはない。誰かと一緒にいれればそれでいいのだが、子供たちは子供たちで仕事で忙しい。

 

「むぅ」

「あれ? 椿姫さま」

「ん?」

 

 何をしようか考えていると、そんな彼女の背後から声がかけられる。振り向けばそこにいるのは狐耳の少女だ。

 

「え~っと、リリ?」

「はい、そうです。こんなところでどうかしたんですか?」

「こんなところ?」

 

 はて、と周りを見てみると、そこはすっかり廃墟一色。いつの間にかこんなところまで歩いてきてしまっていたらしい。

 

「何も、考え事」

「考え事ですか?」

「暇、だから」

「お暇なんですか? それならお買いものに行きませんか。コミュニティの買い出しのついでですけど」

「行く」

 

 願ってもない、と即座に椿姫は言った。

 何度も言うが暇なのだ。だからこそ、椿姫はリリについていくことにした。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――2105380外門。ペリベッド通り

 

 リリと共にやってきたのは通いなれたそこだった。今回行くのは商店街とも呼べる通り。ゲームに参加する際に何度か来たことがある通りであるが、それ以外の目的で来るのは初めてだった。

 いろんな商業コミュニティの店があることがわかる。

 

「あれ、なに?」

「どれですか? ああ、あれは――」

 

 始めてきたわけではないが、よく観察したことなどなかった。ゆっくりと見てみると意外にも面白いものが多いことが分かる。

 箱庭由来の動植物などはその最もたるものだった。珍しいそれらに興味を持っては立ち寄ってそれをリリに聞いていく。

 これも意外なことにリリは動植物に関しては詳しく、椿姫が興味を示すそれらについて答えることができていた。

 ただ、どちらが子供なのだろうかという風な感じになってしまってはいたが。

 

「箱庭、面白い、楽しい」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「あっ、あれは?」

「どれです?」

 

 何度目かになるその質問にリリが答えようとそちらを向くと、何やら人だかりができているようであった。

 

「えっと、あれはたぶん芸能系コミュニティの興行ですね。見たことない人たちですけど、たぶん、新興コミュニティの興行だと思います。サーカスと同じですよ」

「サーカス……」

 

 そう呟く椿姫。言葉自体は知っているが見たことがないという風。

 見れば、仮面の男がボールの上一輪車にのりその上でナイフによるジャグリングをやっている。その隣では、猛獣使いなのだろうか、ともかく黒い道化が猛獣に頭を後ろから噛み付かれながら笑顔で走り回っていた。

 舞台の中央では鼻眼鏡に大外套を纏った男が様々なものをどこからともなく取り出して喝采を受けている。到底隠せないような巨大なものを出しては笑っていた。

 

「そこのあんたらも見たいなら見ていきなさい」

 

 と、そんな風に見ていたからだろうか、12、3歳ほどのとんがり帽子を付けた赤紫の髪の少女が言う。どこか不本意そうな感じではあるが、それ以外は特に違和感などなく見ていくことを勧める。

 

「行く!」

「あっ」

 

 さっさと行ってしまう椿姫。わき目もふらずというのはこういうのを言うのだろうというくらいの疾走だった。普段のとろくさい動きなどどこにやったのやら。というか、動けるなら普段から動けよと言いたいくらいのそれであった。

 

「何心配してるのかわかるから言うけど、お金なら気にしないでいいわよー。新興だから、宣伝替わりよ。見て宣伝してくれればいいわ」

「えっと、それなら」

 

 とおずおずとリリも椿姫を追って席へと座る。サーカスも終盤にして佳境。それはそれは盛況に。

 誰も彼もがこのコミュニティのサーカスを楽しんでいた。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そこは不思議な空間だった。さして広くも感じられないような漆黒の空間。いや、あるいは宇宙空間とでも言おうか。数多の輝きがそこにはあったが、まるで狭苦しい部屋のようにそこには限りがあるようにしか思えなかった。

 そして、奇妙な事はもう一つ。上も下もないような場所で、数多の鳥居が複雑に組み連なっている。色もさまざま、形も様々なそれが組み合わさって連なって、無秩序な構造体を作り出していた。

 いや、構造体ではないか。何の意味もない物体を形作っていたのだ。

 

「■■■■■■■」

 

 声ならざる声にて、その空間に響く声。それは渇望(イノリ)(イクサ)(マコト)であり、それはただ1人に捧げる(アマタ)(イノリ)

 そこにいたのは血の涙を流す異形だった。辛うじて人の形をしていることだけはわかるが、その瞳は赤く、黒く、憎悪に染まり、度を越えた憤怒によって血涙を流している。

 それは、酷くおぞましい物だった。生きていることが不思議なほどにその肉体には亀裂が走り、その肉体を何かが蝕んでいる。そこまでしてなぜ生きているのかすらわからない。

 いや、そもそもこれは生きているのだろか。もともといなかったものが無理矢理に己をつなぎ合わせている。そう考える方が自然だった。

 そうして、わかるのは常人には理解できない域でそれが何かを願っているということ。純粋な思いだ。果たせなかった後悔というわけでもなく、悲嘆も、諦観も、悲憤すらもなく。そこにはただ、己を責める自責と自分自身を犠牲にする覚悟だけがあった。

 

「■■……」

 

 ふと、それは視線をあげる。その先はただ虚空。されどそれの目には何かが見えているのだろうか。

 

「■■■■」

 

 そこにある感情は嬉しさだったのだろうか。あるいは喜びか。浮かべていた憎悪とは違う何かがそこにはあった。

 だが、再び視線を戻せば、そこに宿るのは憎悪だけだった。憤怒が噴出し、圧倒的な討滅の渇望(イノリ)が流れ出す。

 

「■■■、■■■■、■■■■■■■」

 

 噴き出すのは討滅の意思。極大の何かに向けて放つそれは、しかして、その対象にすら気が付かれない。もとより、その対象が他人に気が付くことなどありえないが、それでも不快感は与えているはずだった。

 気が付かれれば終わるだろう。そうでなくとも、その身は滅んだのだから。それをただ認められぬから繋ぎ合わせたに過ぎない。

 

――■■■■

 

 ただ、それでも生かして帰すものか。必ず。いずれあれは彼女がいる限り成長し、そして、いつかこの庭と飛びだすだろう。そうなれば待っているのは破滅だけだ。

 ゆえに、

 

「■■■■■■■■■■■■■■」

 

 流れ出すのは祈り。ただ1人を思い続けるだけの祈り。ただ、誰かの幸せだけを願う美しき渇望。

 認められない。一切合財の躊躇も躊躇いもない。ただの己の全てを差し出してでも、全てを引き受けよう。

 どうか笑っていて欲しい。それだけが、願いなのだから。

 だから、舞台の幕を上げよう。君のために、落ちて、堕ちて、墜ちて、どこまでも穢れてみせるから。

 

 ■■■■■■■■■■■■■

 

 ■■■■■■■■■■■■■■

 

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

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 ■■■■■■■■■■

 

 ■■■■■■■■■■

 

 ■■■■■■■■■■

 

 ■■――

 

「■■■、■■■■■■■■■■■■」

 

 そして、

 

「■■、■■■■■■■■■■■■■■」

 

 人知れず、それは名を呟くのだ。

 総てを包んでやりたいと無垢に微笑んだ女の名を。愛せば死ぬとわかっていながらも、自らの存在など比べ物にならぬほどその女を愛していたことをそれは今でも覚えている。

 だが、哀れ、それは思い出せない。女の名も、繋いだ指の感触も、交わした逢瀬も、抱きとめた幸福も、何を語り何を託してくれたのか。一切合財みな総て死の瞬間に喪失している。

 だが、それでも、己の生きる理由だけは忘れてなどいなかった。だからこそ、だからこそ、己の太極を開くのだ。

 死ぬとわかっていても、それでも、

 

「■■■■■■■■■■■」

 

 それは深き深淵で、ただ、人知れず戦う。愛しき何かを見つめながら――――。

 




さて、今回は軽い日常回。なんかどこかでみた三人組がなんかサーカスやってたように思いますが、気にしないで下さい。

後半は何か出てきましたが、とりあえず言えるのはこれはオリキャラだということだけです。
■の部分は二週目でないと聞けません(笑)。KKKをリスペクトしてこうなっております。
ネタバレでも知りたいという方がいらっしゃいましたら感想でもメッセージでも良いので言ってください。お教えいたします。

では、また次回。

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