小説自体今年に入って投稿したのが、TOAの1話だけとかもうね。
今年に入ってから正直何も特筆するような事をしてなく、気づけば8月です。
復帰しようしようとはずっと思ってたんですが、どうにも気力が沸かず……新しく投稿したい気持ちはあったので、今回ようやく重すぎる腰を上げました。
といっても、今回の話はリハビリがてらの本編と全く関係ない、自分の好きなとある漫画のギャグ話のパロネタです。怒られたら消すかも……?
とにかく、こんな駄作者の作品をまだ覚えてる方がいれば、またお願いします。
ここはIS学園生徒会長室。
IS学園最強の生徒にしか座る事を許されない会長席に座り、とてつもない集中力でとある本を読みふける少女がいた。IS学園生徒会長・更識楯無その人である。
――――たとえ世界が俺達を引き離そうとも、俺は必ずお前の下に帰ってくる!
――――待ってる。私、ずっと待ってるから!
「う゛ぅ……ずびっ! あぁ……私もこんな大恋愛をしてみたいわぁ……!」
……その本――――流行の少女漫画を滂沱の涙を流しながら、もうずっと前から泣き続けた結果であろう真っ赤になった瞳で読み続ける姿は、とても学園最強の生徒会長とは思いたくない姿だったが。
手に持っていた巻を読み終わると、ティッシュで鼻をかみつつ次の巻へと手を伸ばし――。
「お姉ちゃん……」
「は、はいっ!?」
伸ばそうとしたところですぐ傍から声がかかり、慌てて姿勢を正す楯無。そこにいたのは自身が最も大切にしている妹である簪と、その従者である本音。そして姉妹共通の友人である鈴だった。
3人が楯無を見つめる目はどう反応すれば良いか分からないという感情がありありと表れていたが、楯無はそれを気にする様子もなく、涙を拭き素早く化粧直しをして普段通りの顔になると、笑顔で3人に話しかけた。
「もう、3人とも。来たなら普通に声を掛けてよね!」
「いや、だって楯無さん。涙と鼻水流しながら漫画読んでたから……」
「お姉ちゃん、何回その漫画読んでるの……?」
「うっ……! だ、だって素敵なんだもん! 簪ちゃんだって、好きなアニメは何回でも見るでしょ? それと一緒よ一緒!」
「見るけど……流石に見る度に号泣はしない……かな?」
「簪ちゃんに裏切られた!?」
妹に白い眼を向けられて戸惑う楯無を放置し、鈴と本音は先程まで楯無が読んでいた少女漫画を手に取って眺めていた。
「お嬢様はね~かんちゃんがロボットアニメが大好きなのとは反対に、昔から少女漫画が大好きなんだ~」
「ふぅん。簪はヒーローに憧れて、楯無さんは王子様に憧れてるって事? 似合うような似合わないような……って、あら? この本って新刊でてたんだ。スランプって言ってたけど、もう大丈夫なのかしら」
「え? りっちゃん、この作者さん知ってるの~?」
本のタイトルを見て、知人に対するかのような感想を呟く鈴。その呟きを聞いた本音が知り合いなのかを鈴に問いかけると、苦笑しながら首肯した。
「まぁ、親しい知人くらいの関係かな? 昔両親がやってた中華料理屋に来てね。凄い、その……特徴的な人でさ。なんかアタシの容姿? が琴線に触れたみたいで、何回かモデルとか簡単な手伝いとかさせられた事が――――」
「なんですってぇ!?」
思ったよりも親しげな関係だと本音が感心を持ち、作者がどんな人物なのかを尋ねようとしたところで、簪とじゃれ合っていた筈の楯無が叫び声をあげつつ突貫してきた。
「り、鈴ちゃん! 作者さんと知り合いなの!?」
「う、うん。まぁ……今でも作品の感想を聞かれたり、ネタの提供を要求されるくらいには」
「会わせてー! 私、子供の頃からこの人のファンなのよ! 『桜蘭高校ホステス部』も『ハチミツとタンポポ』も『スウィーツバスケット』も!」
「は、はぁ……まぁ、気さくな人だから別に良いと思うけど……」
「鈴ちゃん最高! 貴女が神だったのね!」
子供の頃からの憧れだった作者に会えるという思わぬ幸運に、喜びの舞を踊り始める楯無。どれだけ楯無がその作者に憧れていたのかを知る簪と本音は、その様子をジト目で見つめながらも口元には仕方ないなと言わんばかりに、笑みが浮かんでいた。
「あー……それじゃあ、次の土日で良い? もしかしたら色々頼まれるかもしれないし」
「オッケーオッケー! たとえ予定があってもこじ開けるわよ! 愛してるわ鈴ちゃん!」
完全に自分の世界に入っている楯無を見て一つ溜息を吐くと、鈴は静かに生徒会室を後にした。誰にも聞こえない程度の声で、不吉な一言呟きながら。
「……会わせて大丈夫かしら。大分あの人に夢を見ちゃってるけど……失神したりしないわよね?」
しばらく首を傾げ唸っていた鈴だったが「楯無さんだし、まぁいっか」と自己完結し、ルリとラウラも来るかどうかを聞くために捜しに向かった。
◇
その日より数日後の土曜日。
とあるマンションの一室では、楯無が憧れているかの漫画家が仕事に励んでいた。
「はぁ……」
だが、その筆の進みは非常に遅く。カリカリと描きはじめたかと思えば、すぐに原稿用紙を丸めてごみ箱に捨ててしまう。
「ダメダメ。こんなんじゃ読者のハートは掴めない……」
悩ましげなその姿はとても絵になっており、その姿を見た者は周囲と切り離されたかのように意識を持って行かれるだろう。
「あぁ……どこかに素敵なモデルがいないものか……」
改造したメイド服のような桃色の衣装。所謂魔法少女のようなコスチュームを身に纏ったその姿はこの世のモノとは思えず。一言で現すならば、その姿は正に――――。
「ミル☆たん、スランプにょ……」
――――
「ふざけんなぁ!!」
「にょお!?」
憂いの溜息を吐く、筋骨隆々の魔法少女(♂)。
その姿を目にした楯無は、迷うことなく全力の拳を叩き込むと、そのままマウントポジションを取り、拳の連打を浴びせ続けた。
「返せ! 返しなさいよぉ! 私の『桜蘭高校マッチョ部』! 『ハチミツとラフレシア』! 『ドリアンバスケット』ーっ!!」
「お姉ちゃん! 何だかタイトルが嫌なものになってるから!」
「お嬢様落ち着いて~!」
絶望の涙を流しながらも拳を止めない楯無を、何とか落着けようと奮起する二人だったが楯無の理不尽な怒りは凄まじく。鈴も加わった3人で何とか抑える事が出来たのは、それから5分後の事だった。
◇
「いやぁ、ビックリしたにょ」
「あれだけタコ殴りにされてちょっと赤くなっただけとか、相変わらずの規格外よねミルたん」
「鈴ちゃん。そんなに褒めたら照れちゃうにょー」
「褒めてないわよ」
「……なんでお姉ちゃんのパンチをあんなに受けたのに平気なんだろ……」
「不思議だねぇ~……」
あれだけ楯無の全力の拳に晒されながらも、ケロリとした表情でビックリしたの一言で済ませるミルたんと名乗る
慣れている鈴は平然と受け止めていたが、楯無の生身の実力を知る簪と本音はミルたんに対して畏怖を覚えていた。
「それで、あっちのお嬢さんはどうしたんだにょ?」
「あぁ。あの人がミルたんに会いたいって言ってたんだけど……ちょっと楯無さん! いつまで落ち込んでんのよ!」
「私の『お前と僕』……『となりの妖怪くん』……『3月のタイガー』……」
先程までミルたんを襲っていた楯無は、怒りが一周して完全に消え去ったのか、部屋の隅で壁に向かい体育座りをしながらブツブツとミルたんの作品名を呟き続けており、その後ろ姿は哀愁を感じるには充分すぎるものだった。
「でも、折角来てくれたのに申し訳ないんだけど、ミルたんスランプ中なんだにょ……」
「あれ、まだスランプ中なの? 新刊出してたから、直ったんだと思ってたのに……」
「あの作品は大丈夫にょ。けど、新作のヒロインのアイデアがどうしても浮かばなくて……」
「新作ですって!?」
新作と聞いた途端、先程までの落ち込みが嘘のように飛び起きる楯無。
ミルたん本人の事よりも、新作に対する興味の方が上回った瞬間だった。
「新作って、どんな作品なんですか!?」
「楯無さん、アンタねぇ……」
「おぉ、御嬢さん。元気になったみたいで良かったにょ。
次の新作は魔法少女物にする予定なんだけど、ヒロインの女の子のアイデアが全然出てこないんだにょ……鈴ちゃんにモデルをお願いしようかとも思ったんだけど、鈴ちゃんの明るいイメージはちょっと合わないんだにょ……」
「あ、もしかして魔法少女のイメージが浮かぶようにそんな恰好を?」
「これはただの趣味にょ」
「………………そですか」
一度立ち直った心が再び砕けそうになった楯無だったが、新作への情熱で何とか耐えきった。
「魔法少女っていう事は、ヒロインちゃんは小学生なのかしら? 最近の魔法少女は中学生くらいの事もあるみたいだけど」
「そうにょ。ヒロインちゃんは小学5年生の10歳。少し大人しいけど心は強い、少し儚げな女の子にょ!」
「あぁ、それじゃ性格が正反対な鈴ちゃんはモデルは無理ね」
「10歳の女の子の時点で無理って言いなさいよ!」
「あはは……。でも、それだとルリちゃんだったらその印象にぴったりじゃないかな。今日はルリちゃんは来れなかったの?」
暗に外見だけなら10歳児のモデルにもなれると言われ怒りかけた鈴だったが、簪にルリの話題を出されると楯無をキッと一睨みしてから、簪の疑問に答えた。
「ルリならラウラと一緒に、束母さんに呼ばれたって出かけちゃったわよ。すぐに終わるって束母さんは言ってたらしいから、早く終わったら合流するって言ってたけど――――」
「りっちゃん呼んだー?」
「って、何で普通にここにいるのよ!」
ルリとラウラが束に呼ばれてどこかへ行ったと思えば、その呼んだ張本人が気付けば隣に陣取っており、思わず声を張り上げてしまう。
「いやぁー。今日はるーちゃんとらーちゃんに服を見繕ってあげてたんだけどね。ほら、あの二人って、殆ど私服ないじゃん? だから束さんがこーでねーとをしてあげてたんだYO!」
「ルリもラウラも、ずっと同じ服な束母さんに言われたくないと思うけど」
「それは言わないお約束だよおっかさん!
まぁ、それは置いといて。るーちゃんらーちゃんを着せ替えて楽しんでたら、そこの筋肉達磨な少女漫画家が魔法少女のモデルを捜してるとか言ってるじゃん? これはるーちゃんの可愛さを世に知らしめる絶好の機会と、束さんの灰色の脳細胞が訴えたのだよ!」
「どこで聞いてたのよ……盗聴器とか仕掛けてないでしょうね」
「束イヤーは地獄耳~」
「はいはい。ったくもう……」
明らかにプライバシーもへったくれも無いような事をされている反応だったが、IS学園にいる間は常にそうだと既に諦めの境地で流す事にした。
「ねーねー束博士。もしかして、るーるーに魔法少女の服を着せるの~?」
「お、中々に鋭いね本音ちゃん。正確には、着せるんじゃなくてもう着せたのさ!
サモン! るーちゃん&らーちゃん!」
束がそう叫ぶと、予め仕掛けていたのか玄関が白煙に包まれる。何等かの処置がされているのか、その煙は目や鼻に沁みる事は無く、視界を奪うためだけの煙だった。
その無駄に凝った演出も、普通にドアホーンを鳴らしてから「お邪魔します」の声と共にドアの開閉音がした為に、微妙に台無しになっていたが。
「あ、ヤバい。思ったより煙が霧散しないや。みんなー窓開けてー! 換気換気ー!」
…………微妙どころか、本気で台無しだった。
◇
「おぉ~! るーるーもらうらんも可愛い~!」
「うん! 本当に魔法少女と、そのライバルみたい!」
「へぇー。杖も凄く凝ってるのね。漫画じゃなくて実写ドラマだったら、このまま出演出来るんじゃない?」
「ふっふっふ。そうじゃろ? 可愛いじゃろ? なんたって束さんの自信作だからね!!」
「ていうか、束母さん裁縫なんか出来たの?」
「愛に不可能は無いのだよ!」
煙が晴れた部屋で一同の眼に入ったのは、白いワンピースの上に、同色の薄手のジャケット。普段着けている髪留めとは違い白色のリボンで髪をツインテールにし、身の丈程度の精巧な作りをした杖を両手で持つルリ。
そしてそんなルリと対になるように、ノースリーブの黒いインナースーツに黒いニーソックス。黒いリボンでルリと同じツインテール。欧州の貴族が持つサーベルのような細剣を携えたラウラの姿だった。
「そ、そんなに似合ってますか?」
「う、うむ。そこまで褒められると、恥ずかしいものだな……」
頬を染め、恥ずかしそうに俯く二人の姿がその可愛らしさを更に引出し、着付けた当人の束でさえもその愛らしさに悶絶する事になった。
「――――らしい」
「え?」
「ミルたん?」
鈴達4人が悶絶する中、ただ一人反応が無かった人物――――ミルたんが何かを呟き、皆が声のした方を振り向と、そこにはその巨躯をまるでバイブレーションのように小刻みに震わせるミルたんの姿が……。
「素晴らしいにょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『!?』
震えが止まったと思った瞬間、勢いよく顔を上げ叫びだした。
その迫力にあの束までも含めた全員が動きを止めるが、ミルたんはその様子を気にする事もなく一足飛びにルリとラウラの下へ近づくと両脇に抱えて捕獲。そのまま仕事机に直行し、席から見やすい位置にまるでマネキンのように二人にポーズを取らせ固定した。
「滾る! 溢れる! 漲るにょぉぉぉぉぉぉおおお!
これならいける! 明日の〆切までに間に合う! 間に合わせてみせるにょ!」
「え、ちょっと、その新作って明日が〆切なの!?」
「明日の10時が〆切にょ!」
「後20時間しかないじゃない! キャラデザも今からやるのに、間に合うわけ……って、早ぁっ!? もうデザイン画終わってネーム書いてる!?」
「にょにょにょにょにょぉぉぉぉぉ!」
目に映らない程の速さで腕を動かし続けるミルたん。その速さからは想像も出来ない程の繊細なタッチで、みるみる内にネームを完成させていくその姿に、鈴は驚愕するしか出来なかった。
「あの、お姉ちゃん。私とラウラさんはどうすれば……」
「あー……。もうこうなったら出来上がるまで止まらないだろうし、出来るだけモデルとして協力してあげてくれる?」
「これはクラリッサが持っていた少女漫画というものか。モデルというのはこの姿勢で立っていれば良いのだな?」
「うん。ミルたんの指示に従ってポーズをとってくれたら良いから。
ミルたん。アタシも何か手伝う事ある?」
「助かるにょ! 机を固めて、皆が作業しやすい方にして欲しいにょ。それが終わったら、このメモに書いた画材と、食べやすくて汚れにくい御飯を買ってきて欲しいにょ!」
「りょーかいっと。じゃあ簪達も買い物に付き合ってくれる?」
「あ、うん。良いけど……大丈夫なの……?」
「流石に明日が〆切なんて修羅場は初めてだけど、テンションが上がったミルたんはいつもあんな感じだから大丈夫よ」
「そうなんだ……」
釈然としないながらも、鈴と一緒に買い出しに出かける簪、本音、楯無の三人。
一人残った束はミルたんの作業風景をじぃっと見つめると、大きく頷いて珍しく玄関から出て行った。
「んふふ……これは助っ人を呼ぶしかないみたいだね。楽しくなりそうな予感!」
◇
「ただいま。買ってきたわよー」
「待ってたにょ!」
買い出しから三時間。
頼まれた画材は数駅離れた大型の画材専門店にしかないものも含まれており、少し時間がかかってしまった。
三時間モデル作業に付き合わされたルリとラウラの顔には疲労の色が見え始めていたが、ミルたんの熱意に感化されたのか姿勢を崩す様子は無く、真剣な表情でミルたんの作業風景を見守っていた。
「5ページラフが出来たにょ!
鈴ちゃんはペン入れ! そこの眼鏡のお嬢ちゃんは指定した箇所にトーン貼り! 何を張れば良いかは鈴ちゃんか、それでも分からなかったらミルたんに聞いて欲しいにょ!
袖の長いお嬢ちゃんは消しゴムかけと枠線引き! もう一人のお嬢ちゃんは、指定した箇所にベタを頼むにょ!」
「え……今時、一から十までアナログの手作業……?」
「手作業じゃないと、作品に魂が込められないにょ!」
「お~かっこいい~!」
「これが、ミルたんの作品の秘密の一つなのね! 任せといて!」
なし崩しにミルたんの作業を手伝う事になっていた楯無達3人。
いきなり指示され戸惑っていたが、ミルたんの作品に対する情熱を感じると我先にと用意された作業机に座り、振り分けられた仕事を始めた。
「あの、お姉ちゃん。お母さんは一緒に行ったんじゃないんですか?」
と、ここでルリが束が未だに帰っていない事に気付くと、どこに行ったのかと疑問を口に出す。
「あれ? 束さんここに残ってたんじゃないの?」
「いや。母は鈴達が出て行ってすぐに後を追っていったぞ」
「けど、こっちには合流してないわよ?」
「お母さん、どこに行ったんでしょう?」
「ま、束母さんの事だからそのうち帰ってくるでしょ。ほら、時間無いんだから早く始めましょ」
束の行方が分からず、首を傾げる5人だったが、束の事だからそのうちひょこっと帰ってくると判断し、今度こそ作業を始めようと――――。
「たっだいまー!」
始めようとしたところで、タイミング良く当の本人が帰ってきた。
「はぁ……また狙ったみたいなタイミングで帰ってきて……」
「お母さん、どこに行ってたの?」
「ふっふっふ~。それはねるーちゃん。強力な助っ人を連れて来たのさ!」
『助っ人?』
「うむ! では助っ人君、入って来たまえ!」
漫画を描くための助っ人。ただでさえ友人どころか知人も少ない束に、そのような人物がいるのだろうかと疑問に思う一同だったが、束の合図で入って来た人物を見て、思わず自分の眼を疑った。
「ほう。ここがその漫画家の仕事場か」
「ち……」
『千冬さん(織斑先生)!?』
入って来た人物は、元世界最強にして元ブリュンヒルデ。織斑千冬その人だったのだから。
「あ、あの、束さん。助っ人って織斑先生なんですか……?」
「そだよ?」
「あの、これって漫画の手伝いですよ。間違っても軍事訓練じゃいだだだだだだだ!?」
「お前が私に対してどんな印象を持っているのか、今の発言でよく分かったぞ更識姉」
迂闊な一言を口走った瞬間、千冬お得意のアイアンクローを喰らう楯無。
鈴、簪、本音の三人も同じ思いだったが、楯無の惨状を見ると黙って目を逸らした。
「だ、だってぇ! 剣一筋みたいな織斑先生が漫画を手伝えるなんて思わないじゃないですかー! それより離してぇ……ふぎゃっ!」
「どれ、原稿はこれか?」
楯無の顔面を砕く寸前で手を離すと、今から楯無が手を付けようとしていた原稿を射ぬくような瞳で見つめる千冬。
「……このコマは俯瞰でビル群。ここはベタフラッシュ。ここは人物を中心に軽めに集中線…………」
「え、あの、織斑先生?」
「ホワイッタァア! ベタタタタタタァッ!!!」
ブツブツとどう描くかを呟き始める千冬。数秒程それを続けると、イメージを掴み終わったのか、凄まじい速さと技術でペン入れを始めた――――!
「は、速い!? そして巧い……っ!!」
「ちょ、何でそんなに巧いのよ千冬さん!? 直木賞にでも応募したことあるの!?」
「口を動かす暇があれば手を動かせ!」
「「い、イエスマム!!」」
千冬の超技術がどこから来たのかが気になる楯無と鈴だったが、本人の一喝によりすぐに自分の仕事に戻されてしまった。人に過去あり。人生に歴史あり。無理に掘り返せば地獄を見るのだ。
「さっすがちーちゃん! じゃ、束さんはお役御免だよね? ぐふふ……るーちゃんとらーちゃんの写真をこの機会に取り貯めなければ。束さんの娘フォルダが火を噴くぜい!」
「束。貴様は汗拭き係だ。原稿に汗が落ちたら台無しだからな」
「え~。束さんは大事な仕事が……」
「……何か文句でもあるのか?」
「ナイデス!」
千冬を連れて来たことで自分の仕事は終わりだと気楽に考えていた束だったが、千冬がそのような真似を赦す筈もなく。誰でも出来るが大事な仕事を任されてしまうハメになり、静かに涙を流した。
◇
PM11:00
「そこ! もっと凛々しい表情を! 貴女は今、魔法少女なのよ!? 分かる!? もっと確固たる意思を顔に出して! けどその中でも愛らしさを忘れちゃダメよ! ビダルサスーンなのよ!」
「は、はい……解りました???」
「貴女も! 貴女はライバルなの! 仲良しこよしじゃダメなの! 認め合いながらも慣れ合わない! 戦友とかいてともだちって読むの! けど百合百合しさを忘れないでね!」
「百合? 淑やかにという事か?? 下手な暗号よりも複雑だ……」
「うわぁ……ミルたん完全にスイッチ入っちゃってるわね。完全に女言葉になってるし」
◇
AM4:00
「あー……空が明るくなってきたわね……。ミルたん、後何ページなの?」
「全37ページ中、9ページにょ!」
「うわぁ……28ページも終わらせてるとか……千冬さんが居なかったら絶対に間に合ってないわね。まぁ、今でも怪しいけど」
「勇気と愛があれば不可能は無いにょ!」
「はいはい」
◇
AM7:00
「ミルたん先生ー! 〆切まで後3時間です! 大丈夫ですか!?」
「皆が信じてくれれば絶対に間に合うにょ! だから担当さんも、ミルたん達を信じてて欲しいにょ!」
「分かりました! いつも通り、神に祈りを捧げてますね!」
「うわ、今まで気付かなかったけど、普通に神棚あるし。あれって担当さんのお祈りスペースなんだ……」
◇
AM9:00
「はぁ……なんとか終わりそうね」
カリカリとペンを走らせる音以外が聞こえなくなり2時間。〆切まで残り1時間という瀬戸際だったが、努力の甲斐もあり、終わらせる目途がついた今は話を再開できる余裕が出来始めていた。
「皆が手伝ってくれたお蔭にょ。ミルたんが出来るお礼なら何でもしてあげるにょ」
「あ、本当? じゃあ私が持ってる貴方の本全部にサインお願い出来る?」
「お安い御用にょ!」
出会い頭に殴りかかったのが嘘だったように、和やかにミルたんに話しかける楯無。
「まさかこんな事になるとは思わなかったわ。憧れの作者さんの新作作りに参加できるなんてね」
「ミルたんのピンチにたくさんの助っ人を連れて来てくれた楯無ちゃんと鈴ちゃんには、いくらお礼を言っても足らないにょ」
「いいのよ、私へのお礼なんてサインだけで。
私は貴女の作品の大ファンなんだから。ミルたんが満足できる作品を作ってくれるのが、私達ファンからしたら一番のプレゼントよ」
「楯無ちゃん……」
「あ、でも雑誌が出来たらうちに一番で送ってくれたら、嬉しいかなー……なんて」
「ふふ、分かったにょ。ミルたんから担当さんにお願いしておくにょ」
「ほんと!? やったー! 言ってみるものね」
こうして、皆で協力して作り上げた作品は、何とか〆切10分前に完成。
担当が原稿を受けとり帰ると、全員が泥のように眠りにつくのだった。
◇
「楯無さん。ミルたんから新作が載った雑誌が届いたわよー」
「え、本当!? ミルたん、本当に届けてくれたんだ!」
「自分が手伝ったページって、何だか見るのが怖いね……」
「かんちゃん、最初はトーン貼る手が震えてたもんね~」
「ほ、本音ぇ!」
あの騒動から1週間。
鈴宛てに届いた新作の載った少女漫画雑誌を皆で読む為に、鈴、簪、本音、楯無の4人は生徒会室に集まっていた。
「さて、それじゃあ読むと……あれ?」
「どうしたの鈴ちゃん?」
「この作者名のところ……」
何かに気付いた鈴に促され、表紙を覗き込む一同。そのページに記されていた作者名には……。
『ミル☆たん with 魔法少女隊』
「魔法少女隊って……」
「私たちの事、かな?」
「多分そうだよね~」
「この作品の魔法少女は10歳児でしょうに。ミルたんったら……」
自分達が一緒に作品を作ったという証を残してくれたミルたん。
あの修羅場は大変だったけど、こんな素敵なプレゼントがあるのなら、またいつか助けてと頼まれたなら手伝ってあげても良いかなと、4人で顔を見合わせて笑いあうのだった。
『鈴ちゃーん! 楯無ちゃーん! 2話目も手伝って欲しいにょお~!』
「「もう!?」」
そのいつかは、割とすぐにやってくる事になりそうだが。
疲れたー。
久々に書いたら1万字近くなるとは思わなかった。
今月中に残り2作品も投稿したいです。そっちは本編を。