IS~インフィニット・ストラトス~  電子の妖精   作:ポコ

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 久しぶりの投稿です。クリスマス特別編という事で、今回も前回のextraと同じくノリだけで書いております。時系列を色々とすっ飛ばして12月になってますが、特別編のお約束という事で。いつものside形式だとあれだし、前回みたいに台詞と効果音だけというのも無茶なので、今回は3人称(のつもり)で書いております。


extra2 クリスマス珍騒動

 暦は12月24日。場所はIS学園1年1組。時は放課後。巷ではクリスマス一色の中、ここIS学園でもそれは例外では無かった。まぁ、恋人との逢瀬を楽しみにしている女子は、教職員も含めて悲しい事に一人も居ないのだが。こういうイベントはムードに乗ったもの勝ちなのである。

 そして、その浮かれムードの1組の中。普段の澄まし顔が嘘のように、ニコニコと笑みを絶やさない少女が居た。それはもう、周りの姉や友人達が困惑し、遠巻きに見守るしかない程のご機嫌っぷりである。

 

 

「~~~♪」

 

 その遠くからルリを見守る友人達――――一夏、鈴、簪、本音、セシリア、シャルロット、ラウラの7人は、教室の隅で話し合いをしていた。

 

「な、なぁ鈴……」

「……何よ一夏」

「何でルリは朝からあんなに機嫌が良いんだ?」

「そんなの、アタシが訊きたいわよ! 昨日寝る時は、別にいつも通りだったんだけど……」

「つまり、原因は今日にあると。ですが、(わたくし)が教室でご挨拶をした時には、もうあの調子でしたわ。それはもう、とびっきりの笑顔で挨拶して下さいましたもの」

「私が迎えに行った時も、もうあんな調子だった……」

「じゃあ、朝起きてから部屋を出るまでの短い間に何かあったって事か。鈴は何か気付かなかったのか?」

「そう言われても……起きてすぐはいつも通りだったんだけど、着替え終わる頃にはもうああだったのよ」

 

 一夏がルリのルームメイトの鈴にそう尋ねるも答えは出ず。一同は首を傾げるしか出来なかった。

 

「ん~……朝の占いで1位だったとか~?」

「アタシもルリも占いは興味ないから、それは無いわね」

「じゃあじゃあ~……茶柱が立ってたとか~!」

「渋っ! もしそうだとしても、流石に1日中機嫌がよくなるような事じゃないだろ」

「私は1日ご機嫌になるよ~?」

「本音さんはいつでもご機嫌に見えますが……」

 

 マイペースな本音が推測するも、出た案は彼女基準のものでしかなく。それを聞いたセシリアは苦笑いで返した。

 

「あーもう! 面倒臭い! ここで顔寄せあって考えてるより、さっさとルリに訊いたら良いじゃないの!」

「うん、僕もそれが良いと思うな。ラウラもそう……あれ?」

 

 元々辛抱強い性格ではない鈴が、いい加減に我慢できなくなり吼えたが、吼えた内容は御尤もと言える内容だったので、皆も同意しようとした……1人を除いては。

 

「ねえ皆。ラウラ知らない? さっきまで僕の隣に居たんだけど……」

「アタシは知らないけど。トイレにでも行ったんじゃないの?」

「らうらんなら、あそこにいるよ~」

「「「え?」」」

 

 本音が指さした先には、既にルリの傍へと移動していたラウラがいた。

 

「ルリ」

「はい? どうしたんですかラウラさん」

「今日は何かあったのか? 朝から機嫌が良いようだが」

「え……そう見えました?」

「ああ。鈴達も気にしていたぞ」

「お姉ちゃん達が?」

 

「ちょっ!?」

「ラウラ、いつの間に……」

「あはは……ルリにバレちゃったみたいだし、僕達も行こっか」

「そだね~」

 

 ラウラにあっさりとバラされ、少し恥ずかしそうにルリの元へ向かう鈴達。本音だけは、駆け足で行ってしまったが。

 

「はぁ……それでルリ。何で朝からそんなにご機嫌なのよ」

「そ、そんなに機嫌良く見えたの?」

「「「「うん。すっごく」」」」

「うぅ……」

 

 どれだけ機嫌が良かったかを指摘され、羞恥に頬を赤く染めるルリ。その様子を見て、一部のルリコン共が怪しい光を目に宿していたが、それを気にしてはいけない。

 

「ルリちゃん。今日は朝に何か良い事あったの?」

「いえ、朝には何も無かったです。その、良い事があるのはこれからというか……」

「これから? 出かける予定でもあるのか?」

「いえ、どこにも行きません。今日は何も用事は入れないで、早く寝なきゃダメです」

「これから良い事があるのに、早く休むのですの?」

「はい! 朝からそれが楽しみで……その、笑みが零れてしまったみたいで」

「ねえ一夏。どういう事なんだろ?」

「……さっぱり分からん」

 

 ルリの機嫌が良いのは、これから楽しみな事があるからとの答えは得たが、その肝心の内容が分からず謎は深まる一方である。

 

「あ……もしかして」

「え? 簪、何か分かったの?」

「うん。ねえルリちゃん。もしかして、それってクリスマスに関係あるの?」

「勿論です!」

 

 簪の問いかけに、満面の笑みで応えるルリ。それを見て、簪はようやく合点がいったとばかりに頷いた。

 

「え、簪さんは今ので分かりましたの?」

「クリスマス……早く寝る……あ! あぁ、そういう事ね!」

「鈴も分かったのか?」

「うん。分かったけど……ちょっと困った事になるかも」

「困った事……?」

 

 簪に少し遅れて鈴も気付くが、少し困った事になると言われ、気づいてない面々は増々困惑していった。

 

「ルリ。結局、今日は何があるのだ?」

「え、ラウラさん知らないんですか?」

「知らないとは、何をだ?」

「今日はクリスマスイブです!」

「ああ。それは知っているが、何故それで早急に就寝する必要がある?」

 

「それは勿論――――――早く寝ないと、サンタさんが来れないからです!」

 

「「「「…………は?」」」」

「お~成程~!」

 

 サンタ。

 サンタクロース。

 クリスマスの晩。良い子の元へプレゼントを届けに来るという、幻想の住人。

 そもそもどういう基準で良い子を選んでいるのだとか、どうやって一晩で世界中の子供にプレゼントを配るのだとか、こまっしゃくれた子供なら一度は親に聞いた事があるだろう。

 そのような問いを親に投げかけた日には、ほぼ間違いなくその年からその子供の元へプレゼントは来なくなるであろう事は請け合いである。

 そのような、普通に考えても存在自体が胡散臭い老人を、いくら10歳児とはいえ大人びているルリが信じているという事が予想外すぎ、一夏達は思わずフリーズしてしまった。またも本音だけは、心底納得したとばかりに何度も頷いていたが。

 

「サンタ? どこかで聞いた事があるような……」

「サンタさんはクリスマスの晩に、子供にプレゼントを届けに来てくれるんです!」

「プレゼント……っ! 思い出したぞ! 今頃の時期になると、何故か毎年枕元に包装された箱が置いてあった!」

「それです! それがサンタさんからの贈り物です!」

「なんだと!? 私に気配を気取らさせずにプレゼントを置いていくとは……凄まじい手練れだな、サンタ!」

 

 唖然とする一同をよそに、ルリの話に食いつくラウラ。どうやら思い当たる節があったようで、サンタに並々ならぬ興味を抱いてしまったようである。

 

「勿論です。サンタさんはどんな家にでも入れますから」

「どんな家もだと……! それが大統領官邸でもか!?」

「そこに条件を満たした子供がいれば」

「条件? 子供以外にも条件があるのか?」

「ええ。いくらサンタさんと言っても、見境なくプレゼントを配るには限界がありますから。サンタさんは一族が存在して、それぞれにプレゼントを配る基準があるそうです。

 お母さんは私のところに来たサンタさんと懇意にしているらしく、その条件を聞いてくれました。身長が150cm以下の少女である事。犯罪歴が無い事。そして、銀髪である事です」

「成程。その条件なら確かに私も該当するな……個人の身体データまでも所有しているとは、恐ろしいなサンタ!」

「各国のお偉方が、サンタさん一族に国民の情報を提供してるらしいです」

「各国の上層部にパイプを持っているのか。凄まじいなサンタ一族……!」

「「「待て待て待て待て!!!」」」

 

 あまりにも生々しい選考基準に、思わず突っ込んでしまった一夏、セシリア、シャルロット。然も有りなん。話を聞くだけなら、明らかに世界規模の少女愛好家一族である。一夏達の知るサンタクロースなら男女問わずにプレゼントを贈ってくれるはずだが、幻想の一族にも女損男卑が蔓延してしまったのだろうか。もしそうだとすれば、本気で笑えない話である。

 

「何ですか?」

「いや、あのなルリ。ラウラも。色々言いたい事はあるけど、世界ぐるみでそんなアホな一族を支援してるわけが……」

 

 荒唐無稽な内容に我慢できなくなった一夏が、ルリとラウラに真実を告げようとしたが――――……。

 

 prrrr…………

 

「って、メールか。誰からだろ…………っ!」

「一夏? どうしたの?」

「一夏さん?」

 

 狙ったかのようなタイミングで着信を知らせる、一夏の携帯電話。話を中断し内容を確認した瞬間、顔を青くしルリから顔を背けた。不思議に思ったシャルロットとセシリアが訊くと、一夏は何も言わずに、2人にメールの内容を見せ――――それを見た2人は、一夏と同じようにルリから顔を背けた。3人が口を閉ざす事になった、そのメールの内容は……。

 

【るーちゃん達の夢を壊したら、ブッ千切る by ラブリー親兎】

 

 ルリに妙なサンタ知識を教え込んだであろう張本人からの警告メッセージだった。どこから見てるとか、何で一夏のアドレスを知っているのか等は愚問である。愛に狂った親兎に不可能は無い。一夏達も本能でそれを理解したが故に、口を閉ざすしか道は無かった。

 鈴、簪、本音は一夏達の反応を見てメールの内容が予想できたのか、苦笑いを浮かべていた。

 

「あー……じゃあ、今日はラウラはアタシ達の部屋に泊まったら? IS学園でその条件に合うのなんか、あんた達2人だけだろうし。一緒にいた方がサンタも楽なんじゃない?」

「成程。サンタ程の猛者を相手にするなら、標的は一カ所に居た方が都合が良いな。ルリは構わないか?」

「勿論です。一緒にサンタさんを待ちましょう!」

「うむ! では早速ルリ達の部屋に行き、トラップを仕掛けるぞ!」

「え、だ、ダメですラウラさん! 用意するなら、サンタさんへの労いの品です!」

 

 鈴の進言に同意し、瞳に未だ見ぬサンタへの闘志を燃やし、ルリの部屋へと突撃するラウラと、それを追うルリ。残された者達は、しばらく唖然としていた。

 

 

 

「さて、と。ラウラの暴走はルリが止めてくれるとして。あたし達はどうする? クリスマス会をするつもりだったけど、ルリとラウラがあの調子だったら明日にした方が良いだろうし」

「そうですわね。それより問題は……」

「誰がサンタ役をするか、だよね」

「ルリだけならだれでも良いんだけど、ラウラがいるからなぁ……。何で鈴はラウラをルリと一緒にしたんだよ」

「仕方ないじゃない。あの話の流れだと、ラウラにあげないわけにはいかないんだから。ルリと一緒に寝てたら、ラウラも少しは油断するかもって思ったのよ」

「ですがラウラさんは現役の軍人。IS戦ならともかく、生身でラウラさんの警戒網を抜けるでしょうか?」

「うーん……」

 

 ラウラという守護神がいる中、どうやって2人の枕元にプレゼントを置くかという高難易度のミッションに頭を悩ませる6人。

 だが、ここで一つ考えてみて欲しい。今まで毎年ルリにプレゼントをあげ続けていたであろう親兎。彼女が愛娘にプレゼントをあげるという名誉を、そう易々と他者に譲るだろうか? 答えは当然――否である。

 

「ね~ね~」

「どうしたの? 本音」

「さっきから、ドアの隙間から変なのが覗いてるんだけど~」

「「「「「変なの?」」」」

 

 いち早くソレ(・・)に気付いた本音に言われ、皆が振り向いた先に居たのは――――。

 

「「「「「う、ウサビ○チ!?」」」」」

 

 片手にプラカード。片手にプレゼント袋を持ち、サンタ服を着たウサ○ッチだった。

 呆然とする一同をよそに、軽快な動きで近づいてくる怪しい兎。気の弱い者なら失神レベルの不気味さに、一同はただ身を寄せ合うしか出来なかった。

 緊張に身を固める一夏達を、死んだ魚のような瞳で見つめるウ○ビッチ。数秒、数十秒見つめ合った後、徐にプラカードを突き出してきた。

 

【可愛らしい少女2人へのプレゼントは、この親兎サンタに任せたまへ】

 

「「「「「「………………」」」」」」

 

 皆がプラカードに書かれた内容を理解する前に、○サビッチはプラカードを裏返し、反対側も見せつけてきた。

 

【同室のツインテの女の子は、そこの男装少女の部屋に泊めてもらうがいいよ】

 

 こちらの事情を知り尽くしているような内容。微妙に隠しきれていない、妙な言葉づかい。そして親兎という言葉。どう考えても、思い当たる中身は1人しかいなかった。

 一同が自らの中身に気付いたのを察したのか、慌てて再度プラカードを裏返すウサ○ッチ。先程と文面が変わっている辺り、技術の無駄遣いである。

 

【キミ達は子供じゃないけど、良い子だからこれをあげれう。代わりに、親兎サンタの事は秘密だかんね!】

 

 そう書かれたプラカードと、謎の小包を6袋放り投げたウ○ビッチは、瞬間移動もかくやという速度で教室を出て行った。恐らく、ルリ達が寝付くまで部屋の周囲に潜むのだろう。自分達が暮らす寮に、あのような謎生物がいると思うとあまり良い気分ではないが、そこは中の人物を考えると諦めるしかないのは全世界共通の認識だった。

 

「…………はぁ。シャルロット。今日は泊めてもらってもいい?」

「あぁ、うん。それは良いけど」

「え、皆さんはあれが誰か分かったんですの!?」

「あぁ、セシリアは会った事ないのか。取りあえず、心配はいらないよ」

「は、はぁ……一夏さんがそう仰るのなら……」

「……ところで、この袋の中身はなんだろう?」

「あ。あまりの衝撃で忘れてたわ……名前も書いてないし、全部一緒なのかしら? 随分薄いけど……まさか現金とかじゃないでしょうね」

 

 そう言いながら袋を開ける鈴達。中から出てきたのは――――。

 

「「「「「…………」」」」」

「お~。るーるーの写真だ~!」

 

 ルリの写真10枚セットだった。しかも、裏面に先の兎の中身であろう人物のサイン付きで。

「……帰ろっか」

「……ですわね」

「うん……」

 

 彼等にとっては微妙に嬉しいプレゼントではあったが、この一連の騒動の後では感謝の気持ちも微妙なものになってしまったのであった。

 

 

 余談ではあるが、翌朝のルリとラウラはご機嫌で登校してきた。どうやらあのウサ○ッチは、無事に2人にプレゼントを届けたようである。鈴達が何を貰ったのかを訊いても、2人揃って教えてくれなかったのが気にはなるが、2人の嬉しそうな顔を見ると無理に訊き出そうという気は失せてしまった。

 

 が、それに反比例するようにして機嫌が最低値であろう人物が1人。ルリの姉貴分の1人である、織斑 千冬である。あまりの機嫌の悪さに周囲の景色が歪んで見えるのは、気のせいだと思いたい。

 

 ルリとラウラに頼み何があったのか聞き出してもらったところ、昨晩の見回り時に不気味な兎の着ぐるみに遭遇したというのだ。その兎が何者かを知っている一夏達からすれば、その時点で冷や汗ものだったが、激しい格闘戦の末にまんまと逃亡を赦してしまったというのだ。どうやら、あの着ぐるみはパワードスーツでもあったようだ。

 謎の着ぐるみに良いように遊ばれたとなっては、機嫌が悪くなるのも仕方ないが……もう少し穏便に逃げて欲しかったと思わずにはいられない一夏達であった。

 




 本当はウ○ビッチvs千冬や、ルリ達がプレゼントを貰うとこまで書こうとしたけど、そこまで書いたら文字数が万を超えそうだったのでこんな感じにしときました。
 では皆さん。メリークリスマス!

 今年中にもう1話くらいは投稿予定です。

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