魔法の時計は狂わない   作:炭酸ミカン

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1年目の話その6

 休暇が終わり、またホグワーツでの日常が帰ってきた。なんとなく休みボケのようなけだるい感じを持った生徒もチラホラいる中、イアンは上機嫌だった。昔からやってみたいと思っていた時計いじりが出来るようになったのだ。彼の祖父ウィルが精緻な手つきで時計を作り出していくのを見ていていつか自分もあんな風に作ってみたいと思い、前の休暇で教えてくれないのかとダメ元で頼んでみたのが良かったのかもしれない。そんなイアンは笑顔で談話室の窓際の椅子に座っていて、青いインテリアで落ち着いた雰囲気の部屋から少し浮いていた。

「久しぶり。えらく機嫌が良さそうね、何かいいことでもあったの?」

その様子は同じく休暇帰りのパドマにも分かったようで彼女は不思議そうに聞いてきた。

「うん、お爺ちゃんから時計の作り方を教えてもらえることになったんだ」

イアンはそう言って手元の小さめの工具箱を見せる。チャリっと中から金属のすれる音がする。イアンは実家から学校へ戻ってくる際に祖父から時計作りについての本と簡単な懐中時計を作るための材料、そして工具を譲り受けていた。流石に学校にいる間何もできないというのは腕が鈍っていくとウィルに学校でも実家にいる間に試作った物をいじるぐらいのことはしていろと言われていた。もちろんイアンにある程度の知識が無ければ無理なことであったが。

「時計ってあなたがいつも持ち歩いているようなサイズの物のこと?作らなくてももう持っているじゃない」

パドマが少し眉をひそめる。

「それはそうだけど」

確かにイアンが時計を作ったとしてもあまり彼自身には必要がないものになってしまうだろう。

「それに態々マグル式の方法から作らなくてもいいんじゃないかしら、元からある物に魔法をかけるだけで十分じゃない」

呆れたようにパドマがイアンを見ながらいう。

ここで一つ言っておくとそもそも魔法使いの時計は大まかに二種類あり、一つは普通の時計に見た人に対して正確な時間を指し示すように動く魔法が掛けられたもの。そして逆転時計と呼ばれ、時を遡ることのできる魔法の道具がある。逆転時計についてはここではあまり関係が無いので置いておくとして、このような時計が主流であるので普通の時計はあまり魔法使いは使わずかつ作ろうともしないのだ。必要ならばマグルから買えばいい、そう思っているのが大半である。

「……そんな言い方ってないだろ」

一方でイアンは面白くなかった。パドマの呆れたような物言いで尊敬していた祖父の仕事を馬鹿にされたような気分になったのだ。そんな様子のイアンを見てパドマは何か言おうとしていたがイアンは無視して男子寮の方へ向かって行ってしまう。

「ちょっと、急にどうしたのよ」

彼女は急に期限が悪くなったイアンを呼びとめたが怒っているらしい彼には効果が無かった。もちろんパドマには特に馬鹿にしたつもりはない、ただ彼女の家は魔法使いの血筋であって価値観が違うマグル出身のものに対する配慮が足らなかっただけである。

「何だっていうのよ、もう」

訳が分からないという風に彼女は呟いた。

 

 

 

 それからしばらくの間パドマとイアンは仲違いをすることになった。普段から三人で一緒にいたマイケルがうんざりするくらい二人の間での会話が少なくなり、事情をよく知らないマイケルから見ても二人の間で何かがあったのは明らかだった。

「なあ、一体何があったか知らないけどさ。そろそろ謝って仲直りしろよ」

いい加減この空気に耐えかねたマイケルが言う。

「あら、別に喧嘩なんかしてないわよ」

「うん、全くね」

二人は声をそろえて否定する。なんで喧嘩してるのに息があってるんだと二人の板挟みになっているマイケルは頭を抱えたくなった。傍から見ていると意地を張っているだけで謝ればなんとかなる問題にみえるがそれは中々難しそうである。彼はこっそりとため息をついた。

マイケルが思った通り、喧嘩の原因となったイアンの頭はもう冷えていた。パドマも悪気があってああいった訳ではないと分かっていたし自分の態度もあまり良くなかったと感じていた。実際頭が冷えてからはあの日のことを謝ろうとしたのだが、すげない態度をとられたことを怒っていたパドマの機嫌は悪く、売り言葉に買い言葉といった形で口論になり上手くいかなかった。

一方パドマの方も見かけほどには怒ってはおらず、あの日のことに関しては反省すらしていた。思い返してみると自分の言葉は普段から時計を大事に扱っているイアンに対してあまりにも不躾だった。彼がなぜ怒ったのかはよくわからないが大事にしている物を馬鹿にしたような態度を取られたらいい気分がしないだろうことは容易に想像がついた。しかし、彼女は謝ろうという気にはなれなかった。確かに自分が悪かったかもしれないがあんな態度を取ることもないじゃない。ちょっと拗ねている自分を自覚しつつ彼女はそう思っている。

 

 闇の魔術に対する防衛術の授業が終わって自分の寮に戻る最中に見かけた灰色のレディにイアンは話しかけた。マイケル達には少し用事があると言って別れたため今は一人である。

「ねえ、ヘレナ。ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな?」

静かに上の階へ移動しようとしていたレディは少し珍しいものを見たように止まりイアンに向き合った。

「イアン。どうかしましたか?」

レディは他のレイブンクローの生徒に対するよりもどこか親しげにイアンに声をかける。イアンは他のレイブンクロー生よりも彼女と仲が良く、休暇が始まる前にはレディと呼ばれるの嫌った彼女から本名を教えてもらっていた。彼女からすれば知識を誇る傾向にあるレイブンクローらしさがあまりなく、ゴーストにも人と同じように接するイアンが好ましかったのだ。

「ええと、その…ね…」

相談をしようと思っていたものの何て言ったら良いのかイアンは口ごもる。その様子を見ていてレディは思い当たる節があったのか少し笑った。

「相談とはもしかしてパドマ・パチルとのことですか?」

レイブンクローの寮付きのゴーストである彼女は先日の二人のやりとりを知っていた。

「うん」

イアンはレディと話していると時々自分の考えていることが分かるのではないかと思うことがあった。自分が割と分かりやすいということに気付いていないだけだが、そんなところも彼が彼女に相談を持ちかけた理由であったりする。

「なんとかして彼女と仲直りしたいんだ。このままは気まずいのは嫌かな」

レディはあまりに単純な話にくすくすと笑ってしまった。それを見てイアンは恥ずかしげな表情をする。

「もう、笑わないでよ」

「ごめんなさい。ただあなたの相談がかわいらしくて」

レディは笑いをおさめるとゆっくりと続けた。

「そうね、素直に謝ってしまいなさい。お互いに意地を張っているだけなのだからそれで十分よ」

すでに一回謝ろうとして失敗しているイアンは不満げな表情になっている。

「大丈夫。きっと彼女も仲直りしたいと思っているわ」

そこでレディはちらっと通路の角の方に視線を送る。そこにはこっそりと様子をうかがっている少女の姿があった。

 

 その翌日いつも通りになったイアン、マイケル、パドマの姿があった。




※時計の作成について
あまり調べてないためおかしい点がかなりあると思いますがこの話のプロット上外せないため見逃してくれると嬉しいです。本職の方、すみません。おそらく実際にはもっと複雑な工具などが必要で大変なのだと思いますがこの話ではこういう風な設定としてやっていきます。そもそもちゃんと調べてからプロットを練ろと(ry
また魔法使いの時計に関しても調べてみたのですが原作の方ではあまり描写がされておらず分からなかったのでオリジナルでこんな感じかなと設定させていただきました。

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