ハロウィンにトロールが侵入したという事件があったが生徒には何ら危害を与えることなく退治されたらしい。そのままでは大した噂になりそうもなかったが、退治したのが生徒となれば話は別だ。それもあのハリーポッターが成し遂げたとなると話は大きくなってくる。他の寮でもそれなりに噂となっていた。
「すごいよね、僕なんかトロールを見ただけで逃げだす自信があるよ」
「まあな。でもやっぱあれだな。なんか特殊な呪文を知ってるんじゃねえの?例のあの人を退治したときみたいな」
どことなくマイケルがつまらなそうに言う。ハリーポッターが一年生なのに特例でクィディッチのチームに入団したということを知ってから彼はずっとこんな調子だ。同じくクィディッチ・チームに入団したかった彼からすれば何であいつだけ特別扱いなんだと思わずにはいられないのだろう。
「でも例のあの人を倒したっていうの赤ちゃんの頃のことでしょ。そんな歳で呪文なんて使えないんじゃないかしら」
パドマはあまり興味がなさそうだ。グリフィンドールで同じ寮だと騒いでいたらしい彼女の姉と対照的にどうでもよさそうな態度を取っている。
「それもそうだよな」
あまりいい話題じゃなかったかとイアンは思った。彼自身はかなりハリーに興味を持っていたのだが、周りはそうでもない。
「そういえば二人はクリスマス休暇はどうするの?」
もう12月に差し掛かっていてそろそろクリスマスの時期だった。多くの生徒が実家に帰省し、学校に残る人もそれなりにいるらしい。
「私は実家に帰るわ。その、ちょっとさみしいしね」
パドマが少し恥ずかしそうに答えた。
「なんだ。普段はクールなパドマでもまだまだ子供だったってことか」
マイケルがにやりと笑って言う。
「うるさい」
スパンといい音がしてマイケルの頭がはたかれる、見れば彼女の顔はちょっと赤くなっていた。くすりとイアンが笑う。
「なによ、イアンまで私のことをからかう気?」
それを見たのか、彼女がイアンをじっとにらむ。
「そんなことないよ」
慌てて彼は否定する、心の中でちょっとかわいいなと思ったことは口には出さなかった。いったら多分イアンもはたかれる。
「まあ、いいわ。そういうあなたたちはどうなのよ」
「俺は学校に残ってクィディッチの練習かな。先輩が来年に備えて鍛えてくれるって言うんだ。自分で言うの何だけど結構自信があるんだぜ」
胸を張ってどことなく誇らしげだ。マイケルの箒さばきはイアンも飛行訓練の授業で見たきりだが、かなり上手だった。問題が無ければ来年にはレイブンクローのクィディッチチームに入れるだけの技量は持っている。
「へえ、じゃあ来年のクィディッチが楽しみだね」
「おうよ。それでイアンはクリスマス休暇どうするんだ?」
「僕はやっぱりパドマと同じで実家に帰るかな、久々に家族に会いたいしね」
親元から離れて生活することが初めてだったイアンにとって慣れてきてはいたが家族に会えないというのは中々寂しいものがあった。またホグワーツに来る前は普段祖父の工房に入り浸っていたこともあってまた祖父の作業をしている姿を見たいという思いが強かった。イアンは結構なお爺ちゃん子だ。
「普通そうよね。大体の人が帰省するみたいだし」
と言ってパドマはちらっとマイケルの方を見る。どうやらさっきのこと根に持っているらしい。
「わかったよ、いい加減もう許してくれ」
そんなことを話しながら呪文学の授業へ向かっているとハーマイオニー達にあった。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人組。彼らはトロールの事件以来仲良くなったみたいでイアンも三人でいるところを良く見かけていた。
「はい、イアン。久しぶりね」
「うん、久しぶり」
イアンが少し前まで彼女に感じていた不安な様子はなく、ほっと彼は胸をなでおろした。
「こいつは誰だい?」
彼女の隣の赤毛の少年が不思議そうな表情を浮かべている。ハーマイオニーやネビルとよく話す機会があったがイアンはロンやハリーと話すことはほとんどなかったのだ。
「レイブンクローのイアンよ、私たちと同じ一年生」
ハーマイオニーが二人に紹介する。
隣のマイケルからトントンと肩を叩かれる。
「おい、ひょっとしてライバル出現か」
小さい声で言ったためイアン以外には聞こえていないようだったがそれで十分だった。
「だから違うって」
「えーと、いいかしら?」
二人でこそこそと話をしだしたイアンとマイケルに疑問を持ったのかハーマイオニーが聞いてくる。
「だ、大丈夫」
「イアンに聞きたいことがあるんだけど、ニコラス・フラメルって知ってる?」
イアンはどこかでそれを聞いたような気がしていたが思い出せなかった。
「ごめん、ちょっと分からないや」
「そう、ごめんね。変なこと聞いて」
そういいつつも彼女は残念そうだった。
「あ、そろそろ行かないと授業に間に合わないよ。ハーマイオニー」
稲妻の形をした傷が目立つ少年が言った。イアンの次に組み分けされた少年ハリーだった。
「ほんとだ、急がなくちゃ。イアン、またね」
「あ、うん」
時間を確認すると三人組は次の教室へ向かって行った。さっきの質問は何だったのだろうと頭の中で疑問符が踊っている。
「さて、私たちも早くいくわよ」
「そうだな。ぼーっとしてたら遅刻するぞ」
そんなイアンをパドマとマイケルが引っ張っていく。
「それにしてもあの子何でニコラス・フラメルの名前なんて聞いたのかしら」
見るとパドマがちょっと不思議そうにしていた。
「知ってるの?」
「確か有名な錬金術師の名前よ。賢者の石を作ったっていう」
へえと他の二人から声が上がる。
そうこうするうちに教室に着き三人は授業を受ける。
その後、イアンは少し気になっていたものの何日か経つうちにニコラス・フラメルのことはすっかり忘れてしまった。
もうすぐクリスマス休暇が迫っている。
更新が遅れてしまって申し訳ない。
亀更新な習作ですがよろしければしばらくお付き合いをお願いします。