魔法の時計は狂わない   作:炭酸ミカン

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1年目の話その3

 新入生にとっては驚きの連続であった入学の日から大体2週間が過ぎた。最初は親元から離れた慣れない生活に戸惑っていた彼らも徐々にホグワーツに馴染み始めてきていた。

 あまり人付き合いが得意な方であるという訳ではないイアンにもハーマイオニーやネビル以外の友達ができていた。

「おい、イアン。そろそろ行かないと遅刻だぞ」

「そうね、早く来ないと置いていっちゃうわよ」

 ルームメイトであるマイケル・コーナーと、授業で一緒に課題をこなしたことで仲良くなったパドマ・パチルだ。この二人は同じ寮生なのも重なってイアンにとって最も共に過ごすことの多い友達であった。

「ごめん。教科書を整理するのに手間取ってたんだ」

「あなたって時間とかはしっかり守れるのにそういうことは苦手よね」

 パドマが呆れたといった感じでいう。

「まあまあ、誰だって苦手なことはあるさ。それより早くいこうぜ、寮監の先生の授業をサボりたくないだろ?」

 マイケルが笑いながらフォローしている。

「うん、マイケルの言うとおり急がないとね」

「遅れそうなのは、あなたの所為でしょ」

 パドマは軽くイアンの頭を小突いた。

 

 

 授業は先生の人数の関係か他の寮の生徒と一緒にやることも多い。組み分け後、ネビルやハーマイオニーと会える機会もなくなるのかとイアンは考えていたがそんなことはなく、胸をなでおろしていた。呪文学もそんな授業の一つだった。

「やあ、ハーマイオニー」

 一人で本を読んでいた彼女に声をかけると、本を閉じて元気にあいさつを返してくれた。

「あら、イアン。こんにちは」

「うん、こんにちは。何の本を読んでいるの?」

 彼女が読んでいた本はかなりの厚さがあり、ちょっと授業の合間に読むには向いてそうにないものだ。

「ホグワーツの歴史って本よ。せっかくこの学校に通うんだもの、知っておきたいと思わない?」

 確か昨日パドマが借りようとしたら貸し出し中だったと言っていた本だったっけと頭に浮かべた。

「確かにね。僕も読んでみようかな」

「じゃあ私の後にこの本を借りるといいわ。もうすぐこの本も読み終わるし」

 ハーマイオニーはにっこりと笑うと見てみる?といって本を差し出した。

「うーん、でも僕の友達にこの本を読みたいって言っていた人がいるからその後にするよ」

 本を受け取りパラパラとめくりながら答えた。

「そうなの?私の寮にはあまり興味を持ちそうな人がいなかったけど結構いるのね」

 レイブンクローの寮は真面目な人が多く、読書が趣味の人も多くいる。ハーマイオニーと話しているとグリフィンドールよりは趣味の合う人がいるこっちの寮に向いていたんじゃないかと良くイアンは思っていた。

「君ってレイブンクローの方が向いていたんじゃない?」

「みたい。組み分け帽子を被った時もレイブンクローがいいんじゃないかって帽子も言っていたけれど、私がグリフィンドールがいいっていったからグリフィンドールになったわ」

 そういって彼女は少し俯いた。イアンやネビルと話すときは元気な彼女にしては珍しいことだった。気になったイアンが何かあったのかと尋ねようとしたところで授業が始まった。

 

 

 この日の授業は浮遊呪文についてだった。各自ペアになり羽を呪文で浮かべる練習をしている。イアンは他の科目よりもこの科目が好きでかなり先まで予習を進めており浮遊呪文も使うだけならばかなりの自信があった。だが先ほどまでのハーマイオニーの様子が気にかかり、中々上手くいかなかった。

 彼の祖父がそうであるようにへんな所を受け継いでしまっていた。

「おいおい、集中しろよイアン。お前昨日自分の部屋で羽ペンを浮かせてたじゃないか」

「あはは、なんだか。人がいると集中できなくって」

 マイケルはそんな様子を見ていてふと思いついたようにニヤリと笑った。

「それとも、さっき話してたグリフィンドールの彼女の前でかっこつけようとして力が入りすぎちゃってるのか」

 そういう感情があった訳ではないが彼女のことを考えていたのは事実だったので少し動転してしまう。

「べ、別にそういうのじゃないよ」

 ごまかすようにそういった時、ふと視界の先で羽が浮かんでいくのが見えた。

「みなさん、見ましたか!グレンジャーさんがやりましたよ!」

 フリットウィック先生が褒めている。どうやらハーマイオニーが魔法をかけた羽のようだった。

「あらら、例の彼女さんの方が上手だったか」

 マイケルがびっくりしたように呟いた。

「だから違うんだって」

 

 

 それからまた何日か経ち10月の中旬に入った頃、レポートを提出しようと先生の部屋に向かっていたイアンは変身術の担当のマクゴナガル先生の部屋から出てきたハーマイオニーを見つけた。

 彼女ははた目から見ていて分かるくらいに元気がなかった。

「ハーマイオニー、元気がなさそうだけどどうかしたの?」

「ああ、イアン。大したことじゃないのよ」

「そんな様子で大したことがない訳がないよ。マクゴナガル先生の部屋で何か有ったのかい?」

 イアンがそうやって聞くと彼女はすごく何か言いづらそうにしていた。

「ええと、ちょっと授業で分からないことがあって先生に聞きに来てたのよ。今までこんなことがなかったから悔しくて」

 彼女はそう言ってちょっと笑う。

「そう。それならいいけど」

 イアンはこの時彼女がノートも何も持ち歩いていなかったのに気付かなかった。質問をしに行ったならばそういうメモ出来そうなものを持ち歩いているのが望ましいはずである。

 この時ハーマイオニーは寮監であるマクゴナガル先生に組み分けをやり直すことはできないだろうかということを質問しに行っていた。彼女の真面目な気風とほんの少しの見栄から周りの生徒と上手くかみ合わずこれからの生活に不安を感じていたのだ。

「あなたはこれからレポートを提出に行くところでしょ、先生の都合もあるから急いだ方がいいわ」

 そういった彼女の様子に違和感を感じつつもそういうこともあるよねと思ったイアンはレポートを提出にいった。

 彼がこの時の彼女の事情を知るのはハロウィンが過ぎてからかなりの時間が経ってからのことになる。

 綴られた物語と同じように彼女は救い出され親友を手に入れるがそれはまた別のお話。




この回は難産でした。微妙に彼女は動かしづらいキャラクターなんですね。
関係ない話ですがロンって人気投票2位だったんですね、少し意外でした。

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