のんびりと列車に揺られながら窓の外を見る。親元を離れるのがほとんど初めてであるイアンにとってこれから7年間近く寮生活を送るということは楽しみな反面少し不安でもあった。
友達は出来るかな、魔法が使えなかったらどうしよう。
窓から見える景色は曇り空だけれど雲の切れ目から少し光が差し込んできていた。
来るときに祖父から餞別だといって貰った懐中時計を見る。もうすでにクオーツ式が一般的であるのにも関わらず、祖父からのプレゼントは手巻き式の物だった。だが細部まで非常に丁寧に作られており、祖父が持てる技術を限界までつぎ込んだ品である。そのせいかここにはいないはずの彼のぬくもりを感じられるような気がした。
カチ……カチ……
物心ついたころからかイアンは祖父の工房に出入りしていた。時には工房を荒らしてしまい烈火のごとく怒った祖父に叱られることもあったがそれでも工房に通うことをやめようとはしなかった。それは静かで独特の雰囲気を持った工房が彼の琴線に触れたのかもしれない。そしていつしかイアンは長くなじんだ時計の音を聞くと落ちつく少し変わった子供に成長していた。
だからどうしても落ちつかない時彼は静かにして時計の音を聞こうとする、まるで眠っているかのように穏やかに。
この時の彼もそうだった。入学に控えての不安を落ちつけようと時計の刻む音に耳を傾けていた。
時折部屋でしているそれと違ったのはここが列車の中で他にも乗客がいるということだろうか。
「ね、ねえ…そこ相席してもいいかな」
どこかおどおどした雰囲気を持つちょっと太めの男の子だった。荷物を抱えて席を探していたらしい。
「……うん、大丈夫だよ。どうぞ」
話しかけられたことに少し驚いたものの返事をすると安心したように彼は笑った。
「ありがとう。他のところは皆グループが出来てて入り辛かったんだ」
この列車に乗っているのは新入生ばかりではなく、上級生もいるのだから確かに入り辛いだろう。久々の再会に談笑し合っている上級生たちの中に入っていくのは厳しいものがある。
「それじゃあ、ここが空いていて良かった。僕も一人って言うのは少しさびしかったんだ、よろしくね。ええと……」
「ネビル。僕はネビル・ロングボトム。君の名前は?」
「ごめん言い忘れてたね。イアン・オーティスだよ」
これがイアンとネビルの出会いとなった。
「……でね。もうだめだって思ったんだけど、その時不思議なことに僕の体がポーンとゴムマリみたいに跳ねたんだよ!もうあの時の我が家は大喜びでさ、叔父さんなんかその時のお祝いでヒキガエルのトレバーを買ってくれたんだ!」
二人で話しているうちにやはりこれから魔法学校に行くということで魔法にお互い興味があり、自然と初めて魔法使った時の話をするという流れになっていた。
「すごいなあ、ネビルはそんなことがあったんだ。僕は特に何もなかったんだ」
ネビルの分かりやすい魔力の発現があったのに対してイアンには特にそういった形での不思議なことは起きてはいなかった。魔法使いの素質があるということも手紙が来るまで母から知らされることもなかったのだ。
「そうなの?でもホグワーツからの手紙が来たってことはイアンも魔力があると思うよ」
「うーん、どうなんだろうね」
母が魔法使いではあったものの魔法学校からの手紙が来てから通うかどうかを決めたのは母ではなく彼自身だった。理由は非常にシンプルでお伽噺に出てくる魔法使いの姿にあこがれていたからだった。
「そういえばヒキガエルのトレバーって学校に連れてきているの?」
話すことが無いので気まずくなって話題を変える。
「うん、叔父さんからもらった大事なペットだからね。見せてあげる」
ネビルはそういうと荷物の辺りを探し出したが見つからなかった。探すうちに顔色がどんどん悪くなっていく。
「いなくなっちゃった!どうしよう!」
「カエルだからまだそんなに遠くに行ってないんじゃないかな」
ここで話していて気をそらしたちょっとの間でいなくなったのならそう遠くへはいけないはずである。もちろんトレバーが魔法生物であるなら分からないけども。
「ちょっと探してくるから荷物みておいてくれる?」
「うん、わかったよ」
申し訳なさそうに頼みごとをするとネビルはヒキガエルを探しに行ってしまった。その後彼はハーマイオニーと出会い、ともにトレバーを探すのだがそれはまた別のお話。
イアンは再び一人になって外を見る。外は全く知らない景色で広がっていた。ホグワーツまではもうすぐつくだろう。
これから先に何が待っているのかその期待感で少年の胸は高鳴っていった。
さっきまで感じていた不安はあまり感じなくなっていた。
勢いで書いてるけど難しい。
ネビルってこんな感じだったっけ?