月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
でも、自分の中ではどうしてもこの展開しか思いつきませんでした。作者の趣味100パーセントで書いている内容なので、読者の皆様は呆れながらも付き合って下さい。
―――“アンダーウッド”・???
見上げる程に頂点が高く、幹の太い樹が鬱蒼と生い茂った樹海。そこに突如、目が眩む様な光の球が現れる。光の球は中から十六夜、飛鳥、セイバーを吐き出すと、すぐに小さくなって消えた。
十六夜は即座に油断なく辺りを見回しながら、ついて来た二人に声をかける。
「おい、お嬢さま。怪我は無いな?」
「ええ、大丈夫よ」
「うむ。転移されたのは、ここにいる三人だけの様だな」
セイバーは周囲を警戒しながら、近くの樹に触れる。
「“アンダーウッド”に生えていた木々と似ているな。植生が似ているという事は、あまり遠くは飛ばされていない様だな」
「そう。それにしても・・・・・・・・・あの亜人は何者だったのかしら?」
「さて、ね。可能性なら色々と言えるが、まずは―――!」
「アスカ!」
不意に十六夜が振り向きざまに宙へ蹴りを入れた。同時にセイバーが飛鳥を抱えて大きく跳び退く。
次の瞬間。十六夜の足から甲高い衝撃音が、セイバー達のいた地面から爆発する様な衝撃音が周りに
十六夜の蹴りの威力を自分の蹴りと具足で相殺した襲撃者は軽やかに宙を舞い―――カツン、と音を立てて着地した。
「―――フン。そう簡単に筋書き通りにはいかないわよね」
「あうう・・・・・・・・・避けられちゃった」
セイバー達のいた地面を
襲撃者の正体は二人の少女だった。
十六夜を襲撃した方はスラリと背が高く、脚には長い棘のついた具足を履いた肉付きの薄い少女だ。勝ち気そうな笑みを浮かべながら、流線型という言葉が当てはまりそうな身体を手がすっぽりと隠れる様な長袖のロングコートで包んでいた。だが、何よりも目が行ってしまうのは下半身だ。彼女の局所を申し訳程度に隠すかの様に、股関に金属プレートの様な前張りを付けていた。
セイバー達を襲撃した少女は対称的に背が低く、手は人間を丸ごと潰せそうな巨大な金属の鉤爪だった。内気そうな顔をした彼女は黒と紫の縞模様をしたドロワーズを履き、まるで拘束具の様なベルトをサスペンダーの様に素肌の上から巻いていた。だが、何よりも目が行ってしまうのは彼女の胸だ。手を除けば小柄な彼女に不釣り合いな巨大な胸。人間の腕で抱えきれない様な双丘が動く度に、タプンと揺れ動く。
顔立ちは双子の様にそっくりだったが、性格も体格もまるで正反対だ。
「イザヨイ!」
飛鳥を抱えたセイバーは十六夜の横に降り立つ。
「怪我は無いか?」
「はっ、むしろ気付けに調度良いくらいだ」
軽口を叩きながら、十六夜は拳を構えた。セイバーもまた飛鳥を下ろし、彼女の前に立ちながら剣を構えて襲撃者の少女達と対峙する。お互いに正面から向き合う形になり、具足を付けた少女はコートの端を摘みながら舞台上のバレリーナの様に一礼した。
「懐かしい顔もいるけど、
「え、えっと私が、」
「こっちの図体の大きいのはパッションリップ。私と同じアルターエゴよ」
「うう、私、自分で自己紹介したかったのに・・・・・・・・・。あと、そんなに大きくないもん。メルトが痩せすぎなだけだもんっ」
具足の少女―――メルトリリスへ巨大な鉤爪の少女―――パッションリップは涙目になりながら抗議する。おどおどとした口調といい、くしゃくしゃとなった泣き顔といい、どうにも見ている者の嗜虐心を煽る少女だった。
「・・・・・・・・・十六夜。気付いているか?」
「何だ?」
緊迫感を漂わせる表情で十六夜とセイバーは目配せする。知らず知らず、セイバーの剣を握る力が強くなる。セイバーはゴクリと生唾を飲み込むと、
「なんと・・・・・・・・・なんという大きさだ、まさに説明不要というヤツだな!」
パッションリップの鉤爪―――ではなく、豊かな双丘にクワッと目を見開いた。
「パッションリップと名乗った少女の胸は体格に合わずアンバランスだ。あそこまで大きいともはや巨乳ならぬ奇乳だな。しかしあやつのベビーフェイスから繰り出す儚げな表情と涙に濡れた目が蠱惑的な魅力を引き出しあの奇乳のアンバランスさを見事に打ち消している。まさに魔性の女ならぬ魔乳の女
「って、いきなり何を言ってるのお馬鹿皇帝!」
スパアアアアアアンッ!! と気持ちの良い音がハリセンから響く。
『黒ウサギ専用(ウサギマーク)』と書かれたハリセンを飛鳥は顔を真っ赤にしながらセイバーの頭に振り落とした。
「そうだぜ。目の前の相手に集中しなきゃ駄目だ」
十六夜は目の前の相手―――メルトリリスをしっかりと見つめ、
「極限にまで無駄を絞ったフォルムはスレンダーと言うよりもはや芸術美だ。それだけに中心部が一層と際立つな。あれは貞操帯か? 処女の純潔を守る道具をワザと前面に出す事でエロティックかつインモラルな魅力を出しながらも最後の一線を越えられないのはまさに見えないからこその芸術
「変態しかいないのこのコミュニティは!?」
スパアアアアアアンッ!! と再びハリセンの音が響き渡る。
叩かれながらも十六夜はメルトリリスの脚―――の付け根である股関をじっくりと見ていた。
「・・・・・・・・・あなた達、随分と余裕があるのね」
「あ、あうう・・・・・・・・・ジロジロと見ないで下さい」
呆れ顔のメルトリリスに対し、パッションリップは自分の胸を恥ずかしそうに隠そうとする。
「まあ、色々と堪能したいが今度にするとして―――アンタ等は何者だ? 魔王連盟か?」
「魔王・・・・・・・・・? フフフ、そうね。
一転して真剣な顔つきになった十六夜に、メルトリリスは挑発的な笑みを浮かべる。
「一つ言えるのは―――貴方に消えて欲しいの。大人しく溶かされてくれないかしら?」
「ほう? 他人様の恨みは売るほど買って来たが、アンタ達の様な上半身や下半身が危ない美少女から買った覚えは無えな」
「恨みが無ければ人を殺せないの? 一々理由づけしないといけないなんて、人間って不便なのね」
「待ちなさい。十六夜君は私達の同士よ。消すなんて言われて、大人しくやらせると思っているのかしら?」
口を挟んだ飛鳥に、メルトリリスは心底からつまらなそうな顔を向けた。
「部外者・・・・・・・・・いえ、端役は黙ってくれない?」
「なっ・・・・・・・・・!」
「まったく、あの魔術師も何をしているのかしら? 予定では逆廻十六夜だけを転移させて、リップと挟み撃ちにする筈だったのに。サーヴァントとオマケまで連れて来るなんて、職務怠慢だわ」
「―――待て。今、余をサーヴァントと呼んだか?」
深々と溜息をつきながら吐いたメルトリリスの愚痴に、セイバーが反応した。今まで、箱庭でセイバーの事をサーヴァントと呼んだ人間はいなかった。聖杯戦争の関係者でない限り、使い魔としての英霊をサーヴァントと呼ばないハズだ。
「貴様等・・・・・・・・・まさか聖杯戦争の関係者か?」
「―――それは貴方が一番、知っている筈よ。バビロンの大淫婦さん?」
ズン、と空気が重くなる。メルトリリスの嘲笑にセイバーは掛け値なしの殺気を放っていた。聖杯戦争の関係者―――すなわち、岸波白野の敵であると察すると同時にサーヴァントとしての戦闘本能が呼び起こされた。その殺気は、かつてエリザベートと清姫に向けた物の比ではない。
「どうやら・・・・・・・・・貴様等には詳しく話を聞かねばならぬ様だな」
「どうぞ御自由に。やれるものなら、ね」
あくまで挑発的な態度を崩さないメルトリリス。
「リップ、貴女はあのサーヴァントとオマケを始末しなさい。こっちの男は私が溶かすわ」
「う、うん。分かった」
パッションリップは頷き―――一気に駆け出した!
「そう簡単にやられないわよ! ディーン!」
『DEEEEEEeeeeeNNNNNNNN!』
飛鳥は素早くギフトカードからディーンをくり出す。ディーンはパッションリップへと手を伸ばした。
「邪魔、しないで!!」
パッションリップは巨大な両手を大きく広げた。同時にギラリ、と目が妖しく光る。迫り来るディーンの手がパッションリップの視界一杯に広がる。パッションリップはまるでトラバサミの様に両手を閉じ―――次の瞬間、クシャッという音と共にディーンの手が
『DeN!?』
ディーンが瞠目する様に声を上げる。痛覚の無い自動人形だったのが幸いだった。手の消失に驚きこそすれ、痛みに動けなくなる事は無かった。パッションリップは
「ディーンを仕舞え! アスカ!」
再びパッションリップが両手を閉じるより先に、ディーンの姿が掻き消える。標的を失ったリップの両手は、代わりにディーンの後ろにあった木々を根こそぎ消失させていた。
「やああああああっ!!」
ディーンと入れ替わる様にセイバーがパッションリップへ斬り掛かる。パッションリップは慌てた様子で巨大な爪を振りかぶった。
瞬間、甲高い金属音と共に風圧が吹き荒れる。
※
「チッ、オイタがすぎるぜ! 上半身痴女!」
右手を消失させたディーンを見て、十六夜はパッションリップへと駆け出す。理屈は分からないが、パッションリップのギフトは見た物―――視界に入った物を問答無用で握り潰す様だ。その事を素早く理解した十六夜は、ディーンに追撃をかけようとするパッションリップに拳を振りかぶろうとし―――
「あなたの相手は、私よ!」
背中から疾風の如く、メルトリリスが襲いかかる。まるでスピードスケーターの様に地面を滑走しながら、十六夜の背中へと追い付く。十六夜は舌打ちしながらも即座に振り返り、メルトリリスへ拳を振りかぶろうとした。
その時。十六夜の視界の端―――十六夜達から後方にある山から、赤い閃光が瞬いた。
「っ!?」
十六夜の本能がメルトリリスと打ち合うよりも赤い閃光の迎撃を選択した。十六夜は本能のままに、赤い閃光の方向へ拳を振るった。
次の瞬間、赤い閃光が―――赤い閃光を放った黒い剣が十六夜の拳とぶつかり合った。
「ぐっ―――」
十六夜の口から苦悶の声が漏れる。黒い剣は十六夜の拳とぶつかり合った瞬間、弾け飛ぶ様に爆発した。ミサイルの直撃の様な衝撃に、十六夜の体勢を崩れる。そして―――鋭い剣閃が十六夜に襲いかかった。十六夜は体勢が崩れながらも、拳を打ち合わせた。
辺りを根こそぎ吹き飛ばす様な衝撃波が吹き荒れる。
「言い忘れたけど・・・・・・・・・私達も
「っ、はっ! 上等だ、下半身痴女!」
十六夜の拳と脚で鍔競り合いながら、酷薄な笑みを浮かべたメルトリリスに十六夜は犬歯を向けて笑う。
―――かつて歪んだ恋心で月を支配しようとした少女の
※
「これはどういう事だ?」
浮遊城から撤退し、新たな隠れ家で“アンダーウッド”の様子探っていた殿下は、アウラが水晶玉から映し出した映像に眉をひそめた。映像には、境界門への道を進軍する巨人族の姿が映し出されていた。
「リン、巨人族の全滅を昨日確認した。間違いないな?」
「は、はい! ちゃんと死体も確認しました! 私達の配下にいた巨人族は全滅していた筈です!」
リンが動揺を隠せない顔で答える。彼女達が南側で従わせてきた巨人族は、衛士・キャスターの手により全て死に絶えた筈だ。ならば、あの巨人族は何なのか?
「アウラ、“来寇の書”に反応は?」
「・・・・・・・・・駄目です。“来寇の書”に反応しません」
アウラは古ぼけた本を閉じながら、首を振った。この“来寇の書”は巨人族達に土地を賭け合うギフトゲームを強制できるギフトだ。この“来寇の書”があるからこそ、殿下達は巨人族を従えられた。故に水晶玉に映っている巨人族達にもギフトゲームを強制できる筈だが―――
「つまり・・・・・・・・・あれは巨人族の見た目をした偽物か?」
「おそらくは。ちょっと待って下さい。いま、巨人族―――いえ、偽巨人族を率いている人間の姿を出しますので」
アウラは意識を使い魔の操作に集中させる。“アンダーウッド”中に巡らせた使い魔の視界とリンクし、水晶玉に投影させようとし―――突然、視界が真っ暗になった。
「っ!?」
アウラは驚き、すぐに別の使い魔へと意識をリンクさせる。だが、どの使い魔も映る光景は闇、闇、闇―――!
『ククク・・・・・・・・・』
突然、アウラの頭の中に男の忍び笑いが響いた。
『困りますねえ、勝手に覗き見するなんて。世が世なら、罰金や懲役が課せられますよ?』
「お前は・・・・・・・・・!」
「アウラさん・・・・・・・・・?」
様子のおかしいアウラにリンは心配そうに声をかける。だが、そんな事に気をかけていられない。アウラは頭の中に響く男の声―――衛士・キャスターの声に意識を集中させた。
『貴方達はゲームを降りた。ならば、後は私に任せて大人しく観戦してくれないと』
「勝手に割り込んで来た割に随分な言い草ね。それに
アウラは言うが早いが、即座に頭の中で魔術式を構築し始める。使い魔のリンクから、衛士・キャスターが介入した魔力を察知。逆探知と報復の術式を組み立て出す。その早さ、正確さは人類の幻想種である
『―――
瞬間。アウラの組み立てていた術式が全て霧散した。
「なっ・・・・・・・・・!?」
『
自分の術式が―――人類カテゴリーにおいて、最上位の魔術師である自分の術式が一言で破られて真っ青になる中、頭の中の声は失望感を隠そうともせずに溜息をついた。
『アーサー王伝説で有名なモルガン・ル・フェイは、ケルト神話の女神モリガンと同一視されるから神代の魔術が出てくると思ったら・・・・・・・・・貴方は単にドルイド信仰の巫女としとの
「有り得ない・・・・・・・・・」
『はい?』
アウラの魔術から素性を看破した衛士・キャスターに、アウラの呆然とした呟きが聞こえた。
「何を・・・・・・・・・何をした!? 人類最高峰の魔術師である私の魔術が、破られるなんて有り得る筈がない!」
あまりの出来事に、アウラは錯乱しかけながらも衛士・キャスターに問い掛ける。自分は人類の幻想種であり、人類最高峰の魔術師だ。その魔術がたった一言で打ち消されるなんて、あって良いはずが無い!
『ああ』
衛士・キャスターはつまらなそうに溜息をつき―――
『そんなもの。単に
一言の下、切って捨てた。次の瞬間、衛士・キャスターの雰囲気がガラリと変わる。
『あらゆる物は進化する。猿から人へ、石器時代から現代へ。古い物を改善し、最適化しながら進化を続ける』
アウラの頭の中で今までの慇懃無礼な態度をかなぐり捨てた衛士・キャスターの声が響く。もはやアウラは念話を切る事すら出来なかった。完全に魔術の主導権を握られた状態で、アウラは衛士・キャスターの声を聞くしかなかった。
『魔術もまた然り。術式は常に改善されていき、現代風にアレンジされていく。要するに過去作のリメイクだ。なら、大昔の魔術なんて手法が丸分かりなのは言うまでもないだろうよ』
「そ、それこそ有り得ない! 私の魔術は・・・・・・・・・
『そんなもの。わずかにでも残された文献や現代の魔術から理論を構築していけば、楽勝で再現できるだろうが。それを基に対抗術式を構築するのは寝ながらでも出来るわ。そもそも昔の人間が出来た事を何で今の人間が出来ないと思っているよ?』
事も無げに言われた内容に、アウラは絶句する。言葉の上では簡単だ。しかしそれは、古代人の遺跡に描かれた壁画を見ただけで当時の文明を、描いた人間の思想を、まつわる全てを瞬時に理解できると言っている様なものだ。
言うは易く、行うに難しく。それを平然とやってのける相手に、人類最高峰の魔術師である筈のアウラの背筋が寒くなった。
『まあ、現代の魔術師が腑抜けていると言いたいのは同感だ。そもそも時計塔の老害共が下らない権力争いに明け暮れてなければ魔術の研究はもっと・・・・・・・・・と、これは関係ない話だったか』
まあ、とにかく。と衛士・キャスターは言葉を切る。
『これはもう俺達のゲームなので、余計な事はしないで、大人しく昼寝でもして貰おうか・・・・・・・・・
次の瞬間、アウラの体内で魔力が暴走する。アウラの身体に電気椅子に座った様な衝撃が襲いかかった。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「アウラさん!?」
リンが悲鳴に近い声を上げる中、“アンダーウッド”中に仕掛けた使い魔から魔力が逆流し、アウラの身体にフィードバックされる。苦悶の絶叫と共に、アウラは吐血し、身体中の血管が破れて衣服を真っ赤に染め上げる。
次の瞬間、アウラの水晶玉が爆発する様に砕け散った。同時にアウラの身体が床へと投げ出された。
「アウラさん! しっかりして! アウラさん!」
「リン、すぐに治療ギフトを持って来てくれ。貴重かどうかは関係なく、あるだけだ。急いでくれ!」
「は、はい!」
ヒュン、とリンの姿が掻き消える。弱々しく痙攣しながら血を流すアウラを介抱しながら、殿下は歯軋りと共に空を睨んだ。
「やってくれたな、魔術師・・・・・・・・・!」
遠く空の上。そこには吸血鬼の城が不気味に浮かんでいた・・・・・・・・・。