月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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 少しばかり真面目な話をします。

 原作の展開をなぞるだけでは面白くないという作者の独断により、三章から原作の路線から少し外れた展開を書いています。それに伴い、作者が考えた独自の設定やキャラに対して独自の強化を行っています。
 問題児やFateに詳しい読者からすればご都合主義だ、と言いたくなるかもしれませんが、作者なりに散々悩んだ結果、自分が書きたいと思った事を第一にしようと思いました。
 それと更新の頻度の割には話が進まない、という意見を戴きましたが、現在の私生活ではSSを纏まった時間で書くのは難しい状況です。また、作者なりに必要だから書いておきたいシーンを書くので原作と比べても時間がかかる事があります。

 結局のところ、自分が書きたいから書くというだけの趣味的なSSですが、今後とも本作品をよろしくお願いします。


第6話「アサシンの加入」

 ―――“アンダーウッド”上空。吸血鬼の古城・城下町

 

「―――以上が、私達とレティシアの経緯だよ」

 

 ようやく話を終え、耀は緊張を解く様に短く息を吐いた。“ノーネーム”とレティシアの関わり、今までレティシアと過ごした日々。それらを一息でヴラドに説明した為、かなり疲れた。

 

(長かった・・・・・・・・・。自分ながら、こんなに喋ったのは初めてかも)

 

 あまり社交的でない耀にとって、他人に長時間に渡って話をするというのはかなり精神力を使う物だった。レティシアや白野の身が掛かっている以上、いつもみたいに面倒と言う気はないが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 耀が話している間、ヴラドは黙って聞き役に徹していた。しばし瞑目すると、ようやく口を開く。

 

「そうか・・・・・・・・・姫殿下は、コミュニティが滅びた後は貴公らのコミュニティに身を寄せていたか」

 

 幽鬼じみた形相からは想像がつかない様な静かな声でヴラドは頷く。すると手にしていた槍を地面に置き―――耀達へ跪いて頭を下げた。

 

「大変失礼いたした。姫殿下の恩人であったとは知らず、槍を向けるとは。どうかその非礼を詫びさせて頂きたい」

 

 これには耀は面食らった。さっきまで殺意に漲っていた人間から、跪いて謝られるとは思わなかった。どう対応すれば良いか分からず、白野と互いに顔を合わせる。

 

「・・・・・・・・・それで、貴方は何者なのですか?」

 

 このままでは埒が明かないと判断したフェイス・レスは、静かに問い質す。ヴラドは片膝をついたまま、右手の手の甲を相手に向けて顔を上げた。

 

「我が名はヴラド。そこの少年の言う通りに生前はヴラド三世と呼ばれ、ワラキア公国の君主であった。死後、レティシア殿下の下で騎士団長を務めていた」

「ヴラド三世・・・・・・・・・それって、ドラキュラのモデルになった、」

「その名は口にするな!!」

 

 ビクッと耀は震える。憤怒を剥き出しにして、ヴラドは耀を睨んでいた。

 

「・・・・・・・・・すまない、少しばかり大人気なかった。だが、我にとってその名は耳にもしたくない。以後、その単語を口にしないで欲しい」

「わ、分かった」

 

 悔恨に満ちたヴラドの顔に、耀は首を縦に振る。場に支配した気まずい雰囲気を払う様に、白野は咳払いを一つした。

 

「ヴラド三世。その・・・・・・・・・貴方は何故ここに? レティシアのコミュニティにいたと言っても、ここは―――」

 

 その先をはっきりと口に出して良いか分からず、白野は代わりに辺りを見渡した。荒れ果て、住人が消えた城下町。吸血鬼の寿命を考慮しても、ここに人が住んでいるはずが無かった。しかし、ヴラドは静かに首を振る。

 

「それは我にも分からぬ。あの日、我はこの地で息絶えた筈だ。しかし、2ヶ月程前か・・・・・・・・・我は気づけば再びこの地に立っていたのだ」

「・・・・・・・・・それを信じろと? 随分と曖昧な話ですね」

「事実は事実だ。我は虚言を言う気はない」

 

 胡散臭い視線を向けるフェイス・レスに、ヴラドはキッパリと断じる。言葉は少ないが、言い訳を述べないその態度は話は本当じゃないか? と思わせる風格があった。

 

「ちょっと待ちなさい。2ヶ月前、と言いましたか?」

 

 それまで事の成り行きを見守っていた清姫が唐突に口を挟んだ。

 

「そうだが・・・・・・・・・それが何か?」

「・・・・・・・・・そう。そういう事ですか」

「清姫?」

 

 一人納得する清姫に、耀が首を傾げる。しかし耀に答える事なく、清姫は白野の方を向く。

 

「ますたぁ。このサーヴァントの言った事は、少なくとも嘘ではありませんよ」

「分かるのか?」

「ええ。私、嘘が大嫌いなので嘘吐きの匂いという物に敏感ですもの」

 

 それに、と意味ありげに清姫は目配せする。

 

「2ヶ月前と言えば、私やエリザベートが箱庭の地に召喚された日ですもの」

 

 はっ、と白野は気付く。2ヶ月前。それは丁度、白野がセイバーを召喚した日ではないか! 

 

(どういう事だ? セイバーの召喚に呼応して、他のサーヴァントが召喚された? いや、そんなはずは―――)

 

「時にヴラドさん。貴方、1ヶ月程前に酷く体調を崩されたんじゃありません?」

「何故それを知っている?」

「私も丁度、その日に体調を崩しただけですわ。どうぞお気になさらず」

 

 清姫とヴラドの遣り取りに、またも白野はピンときた。1ヶ月前はキャスターを召喚した日だ。より正確に言うと、死にかけた白野が九死に一生で召喚した日となる。

 

(あの時・・・・・・・・・自分が死にかけた時、セイバーは酷い脱力感に襲われたと言っていた。じゃあ、清姫やヴラド三世の不調はそれが原因だというのか? と、すると・・・・・・・・・まさか!)

 

 一つ一つは無関係な点。しかしそれが線で結びつき、白野の中で一つの可能性が絵になって現れてきた。その可能性は有り得ないと言いたい。しかし、そうでなければ起きた出来事に説明がつかない。白野が驚愕する中、咳払いが一つされる。

 

「お二方だけで納得されても困りますが・・・・・・・・・それで、この吸―――彼をどうしますか?」

 

 フェイス・レスの一言に、白野は現実に引き戻される。矢をつがえたまま、弓の弦に指をかけていた、

 

「今この場で処理した方が早いと思いますが」

「それは・・・・・・・・・」

 

 フェイス・レスの言うことは分かる。さっきまで敵意を向け、こちらに襲いかかった相手だ。しかもヴラドは、何故この場にいるのか説明できないと言う。まだ魔王のゲームは終わっていない。不審者にしか見えないヴラドには、この場で退場させるのが一番後腐れが無いだろう。

 

「待って頂きたい。仮面の騎士殿」

 

 ヴラドは地面に膝を付いたまま、白野達を見上げた。

 

「我の首を取る、という事に異存はない。そなた達を殺しかけたのだ。それに報復する権利は確かにある。しかし・・・・・・・・・それは少しだけ待って貰いたい」

 

 両手を地面に付け、首を差し出す。いわゆる土下座でヴラドは白野達に懇願した。

 

「姫殿下がいま危機に陥っているというのであれば、それをお救いするのが我が使命。もはや守るコミュニティもなく、かつての地位も意味はなさぬが、騎士として姫殿下に誓った忠義だけは遂げたいのだ。頼む、この通りだ」

「・・・・・・・・・」

 

 フェイス・レスは弓の弦から手を放す事なく、土下座するヴラドを見つめる。たっぷり一分は経っただろうか、フェイス・レスは白野へと振り向いた。

 

「貴方が決めなさい」

「俺が?」

「直接的に被害を受けたのは、ミスタ・キシナミだけです。その罪をどう裁くか、貴方が決める権利があります」

 

 チラッと白野は耀達に視線を送る。耀達は任せる、と言わんばかりに小さく頷いた。それを見て、白野の答えは決まった。

 

「ランサー・・・・・・いや、ヴラド三世。状況は話した通りだ。いま、“アンダーウッド”は危機に陥っている。それも何故かレティシアが魔王として君臨して。まずはレティシアがどうして魔王となっているのか・・・・・・かつて、この場所で何があったのか、それを知りたい」

 

 面を下げたまま、ヴラドは静かに聞いていた。

 

「貴方の力を貸して欲しい。レティシアを助けたいという願いが同じなら、俺達に協力してくれ」

 

 どうだろうか? と問う白野に、ヴラドは厳粛な面持ちで頷いた。

 

「了解した。これより我が槍は、レティシア殿下の為に貴殿達と共に在ろう。仮初めではあるが、貴殿を我が(マスター)と認めよう」

 

 ホッとした面持ちで、白野は溜め息をつく。紆余曲折はあったが、この状況で新たな味方が増えた。かつて、月の聖杯戦争でヴラドの実力を目の当たりにしている白野にとって、味方として心強い相手だ。

 

「時に、主よ。貴殿は一つ思い違いしている」

 

 え? と疑問符を浮かべる白野に、ヴラドは告げた。

 

「我のクラスはアサシン。不本意なクラスに縛られた暗殺者くずれ。それが今の我だ」

 

 

 

 

 ※

 

 上空に存在する古城には風が強く吹き付けていたが、幸いにも雨風が凌げる程度には倒壊していない家屋もあった。その一つに白野達は集まっていた。元は集会所だったのだろうか。空気が埃っぽい事を除けば、百人近くになった避難民を収容できるくらいの広さだった。

 

「コード・キャスト、heal()実行!」

 

 白野の手から温かな光が広がる。光が収まると、ガロロの足の傷は綺麗に消えていた。

 

「おお! 全然痛くねえ! ありがとうな、坊主!」

「傷がそれほど深くなくて良かった・・・・・・。あまりに重傷だと、完全に塞がるまで時間がかかりますから」

「それでも緊急時に治療が出来るというのはありがてえよ。地図のギフトといい、坊主がいたお陰でこっちは大助かりだ」

 

 正面から誉められ、白野は照れくさそうに頭をかく。いくらなんでも誉め過ぎだと白野は思ったが、ガロロも手放しで賛辞しているわけではない。

 魔王のゲームでは、持久戦になる事が多い。そのため、魔王の襲撃に備える人間は食料や水を常にギフトカードにストックしているくらいだ。今回の様にコミュニティから孤立して補給が確保できない状況で、治療が行える人間がいる事実は精神的な支えにもなる。ある意味、戦闘員以上に重要度は高い。

 

「ただでさえ、箱庭じゃ事故でコミュニティから離されて遭難、なんてのも珍しくないからな。坊主みたいな治療のギフトは重宝されるんだよ。自信を持って良いぜ」

 

 ただし、とガロロは釘を刺す。

 

「坊主は腕っ節が強い方じゃねえな? 坊主のギフトは治療やら索敵やらに特化した分、戦闘力は劣る方だろ?」

「それは・・・・・・・・・はい、その通りです」

「さっきも言ったが、箱庭じゃコミュニティの支援が受けられないなんてザラにある事だ。達人級に鍛えろとまどは言わんが、対魔王コミュニティを名乗るなら戦闘力のあるギフトを持っておいた方が良いぜ」

 

 事実、ガロロの“六本傷”も商業が専門で戦闘力は本職である“一本角”達には遠く及ばない。しかしガロロの意向でコミュニティの全員がギフトを付与された武器の扱い方を学び、最低限の自衛は出来る様に教育している。非戦闘員だからと言って甘んじていられるほど、箱庭は安全な世界ではないのだ。

 

「まあ、今回は耀お嬢ちゃんにバーサーカーお嬢ちゃん、クイーンの騎士様と味方には事欠かないけどな。生きて帰れたら、最低限の護身の手段は用意しておきな」

 

 ご入り用なら安くしておくぜ? と笑うガロロ。その後、とりとめの無い話をして白野はガロロと別れた。

 

(最低限の護身手段は、か・・・・・・・・・)

 

 廊下を歩きながら、先程の話を白野は考えていた。ガロロの話はもっともだ。事実、白野は単体ではまるで脅威にならない。コード・キャストには攻撃の術もあるが、それも威力自体は大したものではない。もともとがサーヴァントの援護が主体だっただけに並み以上の相手では足止めがせいぜいだろう。だからこそ、サーヴァントと一緒にいなければ白野は戦力としては役に立てない。

チラリ、と白野はギフトカードを見た。令呪の模様が刻まれ、セイバーとキャスターを示すギフトネームが書かれた白野の魂の欠片。しかし、それだけだ。白野が一心に念じようが、魔力を込めようが、二人は白野の下に召喚されなかった。彼の剣となるサーヴァントがいない今、白野は戦場で丸腰でいるに等しかった。

 

(いや、サーヴァントがいない事が問題なんじゃない。一人で放り出された時、自分で身を守る手段がない事が問題なんだ)

 

 以前、セイバーと鍛錬を行った時、セイバーには体術は全くもって話にならないと評された。十年くらい鍛えれば、少しはマシになると言われたが、白野を取り巻く状況はそんな悠長な時間を許してくれそうになかった。

 

(もしも俺が、サーヴァント並みに動けたら、さっきの様にあっさりと人質に取られなかったかな・・・・・・・・・)

 

 意味のない空想だとは思いつつ、白野は考える。もしも自分が、十六夜や耀の様に動けたら。あるいはセイバーの様に動けたら。思えば、鍛錬を始めようと思った一端も白野の身体能力の低さで絶体絶命に陥ったからだ。

 先程の出来事。白野達が辿り着く前に、耀が冬獣夏草達を全滅させていた事を思い出す。白野の見立てでは、冬獣夏草の単体の強さは鬼化したワータイガー・ガルドと同等だろう。少なくともサーヴァントを連れてない場合の白野では、逃げ切る事は可能でも戦闘は避けるべきだ。それを耀は多対一の状況でも無傷で勝った。いつの間にか成長した耀の強さに驚き―――少し、羨ましく思ってしまう。箱庭に来た時から明らかに強くなった耀に比べ、自分は進歩しているのだろうか?

 

(こういうのも嫉妬、と言うのかな・・・・・・・・・)

 

 嫉妬した所で自分が急に強くなれるわけでもないのに・・・・・・・・・。そんな事を思いながら、白野は耀達の下へ向かった。

 

 

 




クラス:アサシン
真名:ヴラド三世
属性:秩序・悪

筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:C

クラススキル

気配遮断:E

 ヴラド三世に本来、アサシンとしての適性は無いので著しくランクダウンしている。不意打ち、奇襲の際に有利な判定ボーナスがつく。

単独行動:A

 マスター不在でも現界を可能とするスキル。吸血スキルと組み合わせれば、半永久的に現界は可能。

保有スキル

吸血:B

 吸血行為。対象のHP減少&自身のHP回復。本来は対象に魅了のバッドステータスを付与できるが、この姿のヴラド三世はやりたがらない為、ランクダウンしている。

変化:B

 ヴラド三世の吸血鬼の力の一つ。霧や蝙蝠、影など吸血鬼が変身できると言われる物には全て変身可能。

信仰の加護:×

 吸血鬼となった自分には、もはや神の加護などないと思っている為、スキルの恩恵は得られない。そのお陰と言うべきか、ランサーの時よりも精神的に落ち着いている。

宝具:『串刺影槍(カズィクル・ベイ)』:Cランク

 対軍宝具。相手の影から杭を出現させる。宝具の性質上、地面や背後の影から杭が出現する為、相手に対して奇襲攻撃の判定を取れる。ランサーとして現界したならば相手の不義や堕落の罪に対して攻撃力が上がるが、このヴラド三世は吸血鬼としての側面が色濃く出ている為、自身の伝承に則ってより多くの相手から吸血する為の手段に成り下がっている。

解説

 串刺し公の異名を持ち、ドラキュラのモデルとなったヴラド三世のアサシンとしての姿。とはいえ、ヴラド三世自身に暗殺者としての逸話はない。例えるなら佐々木小次郎=アサシンというくらいに無理のある召喚となっている。
 アサシンとして現界したヴラド三世はかつてルーマニアを守った英雄ではなく、夜闇に潜む魔物―――すなわち吸血鬼ドラキュラとしての姿が色濃く出ている。
 バーサーカーとして召喚されてもドラキュラの側面が色濃く出るが、アサシンのクラスでは狂気に満ちていない分、ドラキュラと化した自分を恥じている。そのため、いくつかのスキルがランクダウンしている。
 しかしトルコ軍と敵対した時に焦土作戦や敵兵の串刺し刑を行った時の冷酷さは健在であり、必要と判断すれば吸血鬼としての力もためらい無く使用する。

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