月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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つい最近まで、才囚学園で学級裁判をしていました。色々と意見はあるけど、ダンガンロンパV3は面白かったです。
苗木「超高校級の復讐者?」エドモン「俺を呼んだな!」なんてSSを誰か書いてくれないかしら?

悩みながら書いた第二話。シナリオの都合でキャラが動きすぎかな、とは思う。でもこれ以上、書きようが無いので勘弁して下さい。


第2話『それぞれの陣営で』

 ―――“アンダーウッド”地下都市・緊急治療所

 

 急遽用意された治療所は大わらわだった。軽傷重傷を問わず怪我人はここに集められ、野戦病院さながらの混雑を生み出していた。家屋の多くは焼き払われるか暴風で吹き飛ばされ、無事だった建物を全て解放して即席の病棟にしても全員が収容できない有様だった。

 唯一、救いだったのは巨龍が巻き起こした暴風で全ての魔獣が“アンダーウッド”から取り払われた事だろう。あの巨龍は審判決議を受けて、ゲーム中断の為に魔獣を全て回収したのだ。したったそれだけで、あれだけの暴風が起きたのだ。身じろぎ一つでも天災を引き起こす。まさに最強種の一角と呼べるだろう。

 そんな中、“ノーネーム”の面々は―――白野と耀、レティシアを欠いた面々は―――集まっていた。

 

「そうか・・・・・・・・・奏者は、先の暴風で空へ吸い込まれたか」

 

 セイバーが固い面持ちでキャスターの報告を聞き終えた。

 

「私が・・・・・・・・・私が、もっと早く結界を展開していれば・・・・・・・・・!」

「後悔しても仕方ねえだろ。状況を聞く限り、岸波は自分だけなら身を守れたのに避難民達を優先させた。その結果、岸波だけが間に合わなかった。それだけの話だろ」 

 

 顔を俯かせるキャスターに、十六夜はキッパリと断じる。遠回しながら、キャスターを擁護する様な口調だった。

 

「・・・・・・・・・そうだな。顔を上げよ、キャス狐。そなたを責める事は出来ぬし、奏者もそなたが自責で潰れる事を望むまい」

「セイバーさん・・・・・・・・・」

 

 狐耳を垂れさせ、今にも泣きそうな顔のキャスター。いかに恋敵とはいえ、そんな相手の傷口に塩を塗る様な真似はセイバーには出来なかった。

 

「そなたの話では、仮面の騎士が奏者を助けに行ったのであろう?」

「はい・・・・・・」

「フェイス・レスの事ね・・・・・・・・・」

 

 キャスターから聞いた特徴と一致する人物に、飛鳥は渋面を作る。“黄金の竪琴”で眠らされた飛鳥は、襲撃が始まった時も気付く事は出来なかった。そのまま魔獣の餌食になりそうだった飛鳥をフェイス・レスが助けたのだが、その際に「襲撃に気付かないで寝てるなんて、随分とのんびりしていますね?」と言ってきたのだ。・・・・・・・・・巨人族襲撃の折りに寝込んでいたフェイス・レスに飛鳥が言った内容そっくりそのままだ。意外と根に持つタイプだったらしい。助けて貰った手前、反論する事も出来ず、かと言って素直に頭を下げるには飛鳥のプライドが許せない。そんな事があり、飛鳥はフェイス・レスに苦手意識を持っていた。

 とはいえ―――フェイス・レスの実力は、そんな飛鳥から見ても認めざるを得ないものだったのだが。

 

「あの騎士がついているなら、少なくとも奏者の身に危機が及ぶ可能性は低かろう。その点においては、最悪の事態は避けられたと言えるであろう」

「そうね・・・・・・・・・春日部さんもどうやら上空に飛ばされた人を追って、あのお城に行ったみたいだし」

 

 飛鳥が見上げた先。そこには巨龍と共に出現した巨大な城が天高くに鎮座していた。アニメ映画にありそうな浮遊城は壮観だが、そんな感想を抱いている暇はない。上空に飛ばされた人間は、あの城に留まっている可能性は高いのだ。

 

「二人とも、無事だと良いのだけど・・・・・・・・・」

「ああ、皆さん! ご無事でしたか!」

 

 上空の城を見上げる“ノーネーム”の一同に、陽気の声がかかる。振り向くと、フワリと“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックが上空から降りてきた。

 

「ジャック! あなたも無事だったのね!」

「ヨホホホ! 何せ不死身のカボチャお化けですから♪」

 

 知り合いの無事を喜ぶ飛鳥に、ジャックはおどけて答える。しかし、すぐに真面目な声色になった。

 

「それはともかく・・・・・・・・・すみませんが、アーシャを見かけませんでしたか?」

「アーシャというと・・・・・・・・・地霊の娘であったか? すまぬが、見てはおらぬな」

「やはり、ですか・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・まさか、アーシャとやらも見つからぬのか?」

 

 沈んだ声音のジャックに、セイバーは事情を察する。いつも彼に付いて回っていたアーシャの姿がない。

 

「ええ、子供達を避難させる時にはぐれてしまって………無事だと良いのですが」

「安心しろ。黒ウサギに確認したが、審議期間中はギフトゲームによる死者が出ない様に配慮される。ここにいない連中は暴風に飛ばされて墜落死、なんて事にはならねえよ」

「とすると、いまこの場にいないので分かっているのは春日部さん、岸波君、アーシャ。ついでにフェイス・レスの四人ね」

「え!? フェイスまでも行方不明なのですか!?」

 

 十六夜達の話にジャックは目を剥く。

 

「これほど探しても見つからぬとなると、奏者達は上空の城に集まっているのであろう。奏者やヨウ達で合流できていれば良いが………」

「い、いやあ、フェイスはたとえ単独でも問題ないと思いますし、彼女がいるならアーシャも心配はないと思いますが………。彼女の身に万が一があったら、クイーンからどんなお叱りを受けるか………」

 

 ブルリ、とジャックは身を震わせる。箱庭の三大問題児の一人、クイーン・ハロウィン。彼女の近衛騎士であるフェイス・レスをジャック達は客分として迎えているが、その近衛騎士になにかあった場合はホストの“ウィル・オ・ウィスプ”の責任となる。振って湧いたコミュニティの一大事にジャックがカボチャ頭を蒼白にさせていると―――

 

「―――いえ、もう一人。私の知り合いがご主人様を追って空の城に行きました」

 

 それまで黙っていたキャスターが静かに口を開く。皆の視線が集まる中、彼女はその人物を告げた。

 

「彼女の名前は、清姫ちゃん。私の友人で………バーサーカーのサーヴァントとして、南側のコミュニティに在籍していた子です」

 

 ※

 

 ―――時間は少し遡る。

 上空に飛ばされた白野とフェイス・レスは、吸い寄せられる様に浮遊城に飛ばされていた。やがて暴風の勢いが無くなり、重力に従って二人の身体が落下し始める。耳元で風がビュウビュウと鳴り、浮遊城の地面が迫ってくる。

 

「っ、コード・gain_con()!!」

 

 白野はありったけの魔力を総動員させ、自分とフェイス・レスに守備力増強のコード・キャストをかける。フェイス・レスは、落下の衝撃を相殺させようとギフトカードから素早く投槍を取り出し―――不意に落下の勢いが収まった。

 

「え………?」

 

 白野が驚く中、二人の身体は羽毛の様に静かに地面へと降りていく。やがて足の裏に軽い衝撃を感じ、二人は地面へと降ろされた。

 

「今のは、一体………?」

「おそらく月の兎の“審判権限”による影響でしょう。ギフトゲームが中断した以上、ホストプレイヤーは参加者に危害を加える事はできませんから。ところで………そろそろ離してもらえますか?」

 

 淡々と答えるフェイス・レスに、白野はようやく今の状況を確認した。飛ばされた際にフェイス・レスに抱きかかえられ、白野も同様にフェイス・レスと身体を密着させていた。端的に言うと………抱き付いている形である。

 

「あ………ゴ、ゴメン!」

 

 慌てて離れる白野。赤面して挙動不審な白野に対し、フェイス・レスは落ち着き払った仕草で服についた埃を払っていた。場に気まずい沈黙が流れる。

 

「その………さっきはありがとう。ええと………」

「フェイス・レスです。“クイーン・ハロウィン”に属する騎士であり、今は“ウィル・オ・ウィスプ”に客分として招かれています」

「“ウィル・オ・ウィスプ”と言うと、ジャック達の知り合いなのか?」

「ジャックをご存じなのですか?」

「ああ、うん。俺は“ノーネーム”の岸波白野。ジャックとは取引先として良くしてもらっているよ」

 

 ピクン、とフェイス・レスの眉が動く。

 

「“ノーネーム”………ひょっとして、“月の兎”がいる?」

「そうだけど………どうかしたのか?」

「いえ………何かと貴方のコミュニティは縁がある様です」

 

 たまたま会った少年が、つい先日に関わったコミュニティの一員というのはどんな偶然か?フェイス・レスが短く溜息をつくと―――

 

「マ~~ス~~タ~~~!!」

 

 白野の頭上から可愛らしい少女の声が降ってきた。ふと見上げると―――竜角を持った少女が空から降ってきた。

 

「へ?」

 

 どんがらがっしゃ~ん!!

 白野が間抜けな声を上げたと同時に、竜角を持った少女は落下の勢いのまま白野に抱き着いた。二人は間抜けな効果音を上げながら、ゴロゴロと地面を転がる。

 

旦那様(マスター)、お怪我はありませんか! 旦那様(マスター)!」

 

 竜角を持った少女―――清姫は地面に倒れた白野の肩を掴んで揺さぶる。

 

「ああ、酷い! 身体がこんなに傷だらけに………!」

「いえ、それは今貴女がダイビング・ボディプレスを決めたからなのでは?」

「頭から血を流して……あの魔獣共のせいですね!?」

「貴方を受け止めた衝撃で地面に打ちつけたからでしょう」

「はっ! マスター、目をお覚まし下さい! 死んでは駄目です! しっかり!」

「白目を剥いて気絶してるだけですから。誰のせいか言うまでもありませんね?」

 

 ボロボロな姿となった白野に、清姫は涙目になりながら叫び続ける。横で冷めた口調でフェイス・レスが的確なツッコミを入れていた。

 ‟アンダーウッド”上空の浮遊城塞の一角。ここに十六夜達が願った通り、白野達は合流を果たした。

 ………約一名、無傷とはいかなかったが。

 

 ※

 

 ―――‟アンダーウッド”上空の城塞都市・城塞の一室

 

 城の貴賓室にあたる部屋で、白髪を左右に分けさせた少年は上座の席に座っていた。彼の顔には隠しようもない不愉快さがありありと出ていた。

 

「―――それで? わざわざ話を聞いてやっているんだ。俺達の手駒を潰した納得のいく説明はあるんだろうな?」

 

 尊大な口調で下座に座らせた男に問い詰める。威圧感を込められた言葉は、恫喝してるも同然の迫力だった。

 そんなプレッシャーを感じながらも、下座の男―――衛士(センチネル)・キャスターは全く堪えた様子はない。ニッコリと紳士的な笑顔を見せる余裕まであった。

 

「いや、全くもって申し訳ない。私の手駒がとんだご迷惑をおかけしました」

「………………」

 

 深々と頭を下げる衛士・キャスターに、白髪の少年は温かみの欠片もない視線を向けた。

 ―――この白髪の少年こそが、‟アンダーウッド”に巨人族を使って襲撃を行い、そして巨大龍を差し向けた黒幕。鈴やアウラ達から‟殿下”と呼ばれ、彼女達のリーダーとして振る舞う人物だった。鈴から巨人族全滅の報告を受け、それを行ったと自白する人物を連れて来させた。その鈴は彼の後ろに控え、事の成り行きを見守っていた。

 

(胡散臭い………)

 

 低身低頭で謝罪する衛士・キャスターを見て、殿下の抱く感想はそれに占められていた。目の前の男は言葉では真摯に謝罪はしているが、それが真の感情では無い事がありありと分かる。言わば台本通りに喋る役者の様な物だ。ともすれば、殿下のよく知る―――しかも嫌いな―――男と重なって見えて、殿下の中でイライラと不愉快さだけが募っていた。

 

「なにせ腹を空かせた猛獣みたいな物ですから、うっかりと拾い食いをしちゃったと言いますか………いや、首輪をちゃんとつけなかった私が全面的に悪い。本当にごめんなさいね?」

「―――で? 誠意の全く籠らない能書きをべらべらを言う為に、俺に会いに来たのか?」

「いえいえ、まさか! 私は紳士ですから! 言葉だけでは誠意は伝わらないと思ったので、耳寄りな情報をお伝えしに来た次第で!」

 

 万の神霊すら射殺す様な殺意を向けられても、なおも衛士・キャスターは胡散臭い笑顔で能書きを垂れる。いっそ、このまま感情の赴くままに殺すかと殿下の忍耐が限界に達しようとし―――

 

「実はですね、東側の白夜叉が神格を返上したらしいですよ」

 

 その一言は、思い止まるのに十分な言葉だった。

 

「なに………?」

「ほら、どういうわけか今は活動中の階層支配者の所に魔王達が殺到しているでしょう? その非常事態に白夜叉は自身に課した封印を解いたそうですよ」

 

 チラリ、と殿下は背後に控えていた鈴へ視線を向ける。しかし鈴にとっても初耳の情報だ。突然の事態に鈴のに動揺が浮かぶ。

 

「そのお蔭で東側を襲撃したアジ=ダカーハの分隊は即座に全滅されたそうです。今は北側の‟サラマンドラ”の救援に向かっているから………ここへは一両日もあれば来れるでしょう」

 

 世間話をする様な口調でもたらされる情報に、鈴の背中に冷たい汗が流れた。

 マズイ。この情報が本当ならば、非常にマズイ。自分達の目的は新たな階層支配者が生まれない様に、‟アンダーウッド”を徹底的に壊滅させること。しかし、もはやその目的は実現不可能になった。

 太陽と白夜の星霊、白夜叉。彼女は今でこそ東側の階層支配者に収まっているが、本来は星霊の中でも最強個体として生まれ落ちた白夜の星霊だ。彼女の相手が務まる者は箱庭でも十人はいない。下層に干渉する条件として仏門に帰依し、自らの霊格を縮小させていた。そんな彼女が階層支配者の地位を捨て、全盛期の力を取り戻す? 

 

(冗談じゃないっての………!)

 

 唇を噛み締める鈴。情報が確かならば、自分達が各階層支配者に派遣した魔王など相手にならないだろう。現在、‟アンダーウッド”を襲っている巨大龍に関しても同様だ。もはや状況は詰みに近い。

 

「そこで物は相談なのですけど………この場は私に譲りませんかな?」

 

 胡散臭い笑顔を崩さず、衛士・キャスターは提案を切り出す。

 

「………どういう事だ?」

「まあ簡単に言うと、あなた方が逃げる時間を稼いであげましょうか? という話ですよ。その代わり………ギフトゲーム‟SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"の進行は譲っていただきたい」

 

 これには殿下と鈴もワケが分からなかった。確かに白夜叉が出て来た以上、撤退するのが最善手だ。それを目の前の男が手助けする? 会って間もない人間が? 交換条件もまた意味不明だ。確かに‟SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"を起動させたのは殿下達だ。しかし、このギフトゲームは殿下達の管理下にはない。言わば暴走状態にある主催者権限を発動させているに過ぎない。そんなギフトゲームを進行したいなど、メリットが全く見えない。一見すると殿下達には損が無い提案だが、それに喜んで飛びつくほど殿下は愚かではなかった。

 

「………その条件を呑むとして。俺達に何のメリットがある? そもそも撤退するにしても、お前の手を借りる必要性が全く見えないな」

「いやいや、これ以上の損害は避けた方が良いのでは? ねえ―――‟ウロボロス”連盟のカルキ殿?」

 

 今度こそ。殿下は腰を浮かして立ち上がる。鈴もまた腰のナイフベルトからナイフを引き抜いた。

 そんな殿下達の様子を面白そうに―――むしろ余裕すら見せながら衛士・キャスターは喋り続ける。

 

「ヒンドゥー教に伝わる最高神ヴィシュヌの最後のアヴァターラにして、カリ・ユガを終わらせる英雄カルキ………そんな存在を小間使いにするとは、‟ウロボロス”連盟とは全くもって大胆と言うべきか。まあ、それは今は置いておきますか」

 

 殿下達から最大限の敵意を向けられてもなお、衛士・キャスターは余裕な態度を崩そうとしない。ここまで来ると、何か仕掛けがあるのか? と殿下達も疑い始めていた。

 

「重要なのは、‟ウロボロス”連盟にとって貴方の存在は‟必要だけど替えが利く程度”ということ」

「さっきから偉く決めつけているな。お前がいまベラベラと喋る情報、確証はあるのか?」

「それは秘密です。こちらにも秘密の情報源がある、とだけ言っておきましょう」

 

 ククク、と笑う衛士・キャスター。しかし、それらの情報が真実である事は殿下達の余裕のない態度が暗に示していた。

 

「ここで引いた方が賢明じゃありませんかな? 引き際を誤って、‟ウロボロス”連盟に処罰されるのは避けたいでしょう? いずれ、貴方が反逆する為にも………ね?」

 

 そう言って、衛士・キャスターは殿下達の反応を待つ。お互いに視線を交わし合う事、一分あまり。

 

「………フン。よくもまあ、あれこれと調べてきたな」

 

 先に沈黙を破ったのは殿下の方だった。

 

「いいだろう。そっちの望み通り、俺達は引かせて貰おうか」

「殿下!?」

 

 鈴が驚いた声を上げる。現状では撤退が最良というのは殿下達のゲームメイカー(軍師)として鈴は十分に理解出来ている。しかし、それをこんな胡散臭い男に提案された形で行うというのは安心できる要素がない。しかも、こいつは殿下や自分達の内情を見透かしている節がある。はっきり言って、生かしておくのは危険すぎる。

 

「いやあ、分かって貰えた様で何より!」

 

 パン、と手を打って衛士・キャスターは満面の笑顔を浮かべる。

 

「ご安心ください。巨龍はこのまま暴れさせておきましょう。運が良ければ、‟アンダーウッド”の壊滅も成就するでしょう」

「ほう。それは安心だ。じゃあ、やり残した仕事をするか」

 

 はい? と衛士・キャスターは首を傾げ―――

 ザクン!!

 次の瞬間、殿下の手刀が衛士・キャスターの腹を貫いていた。

 

「が、あぅ………」

「情報をくれた事には、まあ感謝してやる。俺の事を色々と調べたのにもまあ許してやる」

 

 でもな、と殿下は冷めた目で苦悶の表情を浮かべた衛士・キャスターを見る。

 

「俺を………俺達を、甘く見るな―――!」

 

 そのまま無造作に手を一閃させ、衛士・キャスターの上半身と下半身を分断させる。内臓や血を撒き散らしながら地面に倒れる。衛士・キャスター。トドメに殿下は足を振り上げる。

 次の瞬間、水風船が割れた様な音が響いた。

 衛士・キャスターの頭が、殿下によって踏みつぶされていた。

 

「………ふう。少し、ムキになったな」

「いえ、殿下がやらなければ私がやってたかもしれませんから」

 

 罰が悪そうに頭を掻くを殿下に、鈴はどこかスッとした表情で応えた。

 そのくらい二人にとって、衛士・キャスターの態度は腹が立つものだった。交渉とは名ばかりの上から目線の態度。こちらを下に見ていた余裕な目線。全て彼等の琴線に触れるには十分過ぎた。

 

「でも………良かったのですか? どうせなら体に一本一本ナイフを刺していって情報を全部吐かせた方が有益だったと思いますけど?」

「鈴。発想が怖すぎる」

 

 てへ、と舌を出す鈴。そんな自分のゲームメイカー(軍師)に少しだけ溜息をつく。

 

「だってだって、散々余裕そうな態度の割にはテンで弱かったじゃないですか。殿下なら無傷で取り押さえる事だって、」

「木偶人形をか?」

 

 え? と鈴は殿下の足元―――衛士・キャスターの死体があった場所に目を向ける。そこには先ほどまで撒き散らされていた血の一滴すら残っていなかった。

 

「な―――!? そんな! だって、気配もちゃんと人間の物だったはず!」

「幻術か、あるいは高度な分身か………。いずれにせよ鈴に会った時から身代わりだったわけだ。ずいぶんと臆病な性格な奴だな」

 

 フン、と殿下は鼻を鳴らす。

 

「とにかく、だ。鈴、これからどうするべきだと思う? ゲームメイカー(軍師)として意見を聞かせてくれ」

 

 敬愛する殿下に聞かれ、鈴は動揺した表情を沈めて思考の海に埋没する。ものの十秒もしない内に結論を出した。

 

「………現状は、撤退が最優先ですね。白夜叉が出て来るだけなら、殿下だけ下がらせて私やアウラさん、グーおじ様で‟アンダーウッド”の迎撃を行う手もあったけど、さっきの謎の男がネックですね。結局、所属するコミュニティも不明だったし、とにかく相手の手が見えない」

「ふむ………」

「あの男がゲームを乗っ取りたいと言うなら好きにさせれば良いと思う。どの道、‟SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"は私達の支配下には無いし、これであの男の手の内が見えてくるなら安い代償かな?」

「とりあえずはお手並み拝見、というわけだな」

 

 殿下は頷くと、すぐに指示を出し始めた。

 

「鈴、アウラとグー爺に撤退を伝えてくれ。ただしアウラには監視用の使い魔をこの浮遊城塞と‟アンダーウッド”に差し向ける様に伝えるんだ。とにかく情報を得るのが先決だ」

「はい!」

「それにしても………このゲームは予想外の事ばかりが起きるな」

「うん。結局、都市内の冬獣夏草もほとんどあの騎士に狩られちゃったし………」

 

 窓から遠くを見て殿下は一人ごちる。それに応える様に、鈴もまた窓の外を見た。

 そこには、城の尖塔があり―――いくつかの人型に焼け焦げた跡があった。

 その一つ。まるで墓標の様にいくつもの杭が突き刺さった焦げ跡を見て、殿下は忌々し気に呟く。

 

「コミュニティが滅んで尚も、自分の役割に殉ずるのか? 亡霊騎士め………」

 

 




二月から四月まで、諸事情あって小説の投稿が出来ないかもしれません。なるべく一ヶ月に一回は更新したいと思うけど、確約はできません。

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