月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
去年の内に三章を終わらせたかったのですが、風邪で寝込んだり、新年の挨拶回りをしている内に年が明けてしまいました。本当は第三章の最終話となる話を先に投稿すべきでしょうが、リハビリも兼ねて幕間を先に投稿させていただきます。
今年も当SSをよろしくお願いします。
p.s.お年玉ガチャはエルキドゥと獅子王がセットで来ました。運営は太っ腹やね
―――ム#@セル・オー§マト■ 中△部 アン¶ェリ/ケ?ジ(閲覧制限ランク:EXにより一般観測不可)
「どういうつもりだ、キャスター!!」
ドンっと鈍い音と共に野太い声が上がる。
騎兵の彫像が背もたれに置かれた玉座。
「勝手に小聖杯を持ち出した挙げ句、魔王連盟に接触をするとは………一体、何を考えている!?」
「同感だぜ。そこら辺、キッチリと説明して貰おうじゃねえか」
槍兵の玉座から
「情報収集の一環です。本来はアサシンさんの仕事ですが………」
しかし対する衛士・キャスターは二騎の叱責など何処吹く風、と言わんばかりの態度で応じる。チラリと意味有り気に見た先では、一連の出来事に対して興味なさそうに衛士・アサシンが深紅の―――何処か錆臭い臭いのする―――塗料を爪に塗っていた。
「私が泥臭い下調べなんてするわけないじゃない。そういうのは下々の人間の役目でしょう?」
「ええ、その通り。御覧の通り、アサシンさんはそのクラスに反して情報収集や諜報活動を苦手としている。ですから、箱庭や『彼』の周辺を調べるのは不肖ながら私の役目だと思いまして」
「話をはぐらかすな、キャスター! それが何故、魔王連盟などに接触した!」
胡散臭い笑顔でぬけぬけと言い放つ衛士・キャスターに苛立ちながら、衛士・ライダーは一喝する。
「ですから、情報収集と。仮称・魔王連盟は現在、箱庭下層のフロアマスターを一掃しようと動いています。当然、『彼』がいる南側も対象です。ここまではよろしいでしょうか?」
「それが何だと言うのだ?」
「はっきり言って邪魔なんですよ、彼等。こちらの目的の為にも、邪魔になりそうな存在は早めに抑えておきたい。だから―――南側における彼等の
それこそが衛士・キャスターの狙いだった。南側―――‟アンダーウッド”の襲撃者である魔王連盟。その一団は、南側においては手足となる巨人族に対して黒幕の数が少ない。それこそ片手で数えられる程度の人員だ。そしてこの一団は自分達の存在を必死に隠匿しようとしている。彼等が動けば‟アンダーウッド”の壊滅は今よりも簡単に済む程の実力があるというのに、一向に動かないのがその証拠だ。だからこそ、衛士・キャスターは言わば実働部隊である巨人族を全滅させた。完全に頭と手足という役割を守っている以上―――
「その為に、小聖杯をあのワー・タイガーに与えたんですよ。事実、巨人族を一掃してくれました。第一、あれは私の持ち物でしょう? どう使おうと私の勝手なのでは?」
「随分と勝手じゃねえか。手前の言う
ジロリ、と衛士・ランサーが衛士・キャスターを睨む。
「動かないでしょう。そもそも南側の一団は、魔王連盟本隊と折り合いが良くないみたいですから。これ以上、事を荒立てて自分達の立場を危うくするのは避けるでしょう。仮に実力行使をするとしても………私にとって神の化身は相性がいい」
不敵な笑みを浮かべながら、衛士は手元の本の背表紙を撫でる。尋常ならざる魔力を発する黒い革表紙の本。それこそが、衛士・キャスターの宝具だった。
「………ふん。大した自信だな。まあいい、そこまで言うなら話が抉れたら手前でどうにかしろ。で、何であのワー・タイガーに小聖杯をくれてやった? 小聖杯が『小僧』の手に渡った場合、どうするつもりだ?」
「ああ、別に問題ありませんよ。仕掛けはちゃんとしてあるので」
「仕掛けだと………?」
「ええ、いざとなったら私の命令一つで―――」
カシャン、と衛士・キャスターの眼鏡が床に落ちる。衛士・ライダーが席を立ち、衛士・キャスターの胸倉を掴み上げていた。
「貴様………どこまで卑劣に成り果てる気だ?」
顔に冷たい怒りを刻み込み、衛士・ライダーは衛士・キャスターを睨む。
「小聖杯を持ち出したこと、我等に黙って魔王連盟に接触したこと。これらは………まあいい。納得はいかぬが、流すとしよう。だが! 死者を愚弄する様に蘇らせ! そして使い捨ての兵器の様に扱う! 貴様は英霊として………否、人として犯してはならぬ事をした!」
以前の叱責とは比べ物にならない怒りを露わにし、衛士・ライダーは手に力を籠める。衛士・ライダーとて復活させられたガルドの経歴は知っている。彼にとってもガルドは唾棄すべき卑劣漢であり、残虐な畜生だ。だが、それとこれとは別なのだ。たとえ悪人であっても安らかな死は与えられて当然の権利だ。それを無理やり目覚めさせ、あまつさえ将棋の駒の様に簡単に死地へと追い立てる。義侠に生きた衛士・ライダーにとって、衛士・キャスターのやった事はガルド以上に許しがたい行いだった。
「答えろ、衛士・キャスター。貴様はそうまでして勝ちたいか? 獣に堕ちてまで得た勝利に、何の意味がある!」
「——―——―当然だろ。勝利以外に意味なんてあるわけないだろ」
衛士・ライダーの憤怒を目の当たりにしてなお、衛士・キャスターは物怖じなどしなかった。眼鏡が外れた事で取り繕った態度が無くなり、剥き出しとなった本性で衛士・ライダーに相対する。
「忘れるなよ、衛士・ライダー。これはアンタにとって………そして俺にとっても負けられない、負ける事が許されない戦いだ」
衛士・ライダーの手を振り解き、衛士・キャスターは冷め切った目つきで相手を見る。
「だからこそ、打てる手段を打った。確実な勝利の為に布石を敷いた。邪魔になりそうな障害を排除した。まさか、その事を責める気か?」
「その為ならば、人道すら捨てると言うのか? その手柄を、我等の主に胸を張って報告できるか? この様な卑劣な行い………主は望まぬ!」
「だったら何だと言うんだ? 『アレ』は万に一つでも勝機を見出してくる。なら、こっちも万に一つの可能性すら潰すべきだろ。打てる手があったけど、打たなかったから負けました、とでもマスターに言うのか?」
己が義の為に。己が目的の為に。両者は譲ることなく、正面から睨み合う。もはや、どちらかが武器を抜いてもおかしくはなく―――
「―――静まれ」
静かに。そして、逆らう事を許さない重圧を伴った声が響く。広場の一角―――剣士を象った彫像の玉座に座る人物は、対峙し合う二騎のサーヴァント達を睥睨する。場に集まったサーヴァント達は、その人物から発せられるオーラに居住まいを正した。
「衛士・キャスター。貴様に聞きたい事は一つだ」
「なんなりと」
「貴様の手駒は使えるのか?」
「衛士・セイバー殿! 何を―――」
衛士・ライダーが抗議の声を上げるが、玉座に座る人物―――衛士・セイバーが一睨みして黙らせる。
「スペックは問題なしだ。ムーンセルのバンクから、彷徨海の魔術師が残した秘術をガルドに使用した。元が人と獣、悪魔との混ざり物だからな。適合し易かったぜ。加えて無限魔力炉と言える小聖杯を使用した。頭の出来は最悪だが、それはそれで御しやすい」
「それは―――確実に『敵マスター』を屠れるか?」
何の感情も浮かばない金色の瞳が衛士・キャスターを射抜く。人間性という物を極限まで廃し、ただ能率だけを求める機械の様な冷徹さで衛士・セイバーは返答を求める。ここで答えを誤れば、衛士・キャスターの首が容易く刎ねられる事は容易に想像できるほど、温かみの無い声だった。
「―――やれる。『アレ』の首も………『アレ』のサーヴァントも、取り巻きも殺せる。それだけの御膳立てはした」
衛士・セイバーの発する重圧を跳ね除け、衛士・キャスターは断言する。
「ならば言葉通り、実行せよ。魔王連盟の動きを封じ、邪魔する者を全て排除し―――『敵マスター』の首を刎ねよ」
「衛士・セイバー殿! それはあまりに衛士・キャスターに甘い判断であろう!」
衛士・キャスターの独断専行を認める発言に、衛士・ライダーは再度抗議する。
「無論、勝手にさせる気はない。衛士・アーチャー、衛士・ライダー。貴様等は共に箱庭に降り、衛士・キャスターを見張れ。我等の益にならぬ、と判断した場合は背中から刺せ」
「………御意に」
「やれやれ………私は暗殺者ではないのだが」
弓兵の玉座に座った衛士・アーチャーが溜息をつきながら、衛士・ライダーと共に頷く。自分への殺害許可が出されたにも関わらず、衛士・キャスターは気負った様子もなく床に落ちた眼鏡を拾った。
「それと、衛士・キャスター。貴様の手駒が強力とはいえ、『敵マスター』陣営に対して多勢に無勢であろう。その点について考えてあるか?」
「ああ、それはエネミープログラムを使う。Moby-Dick型ならば仕留めるには至らなくとも、十分な足止めは―――」
「貴様の残る手駒を使え」
ピタリ、と衛士・キャスターの口が止まる。
「………何の話だ? 俺にガルドやエネミープログラム以外の手駒はいねえぞ。システム・フェイトの使用にも制限がかかったしな」
「とぼけるな。貴様が我等の目を盗んで、頻繁に虚数領域に入り込んでいる事を知られてないと思ったか? そしてそこから『あの女共』を拾い上げ、匿っている事を私が知らないと思ったか?」
一瞬。衛士・キャスターの顔色が変わる。動揺を悟られまいと無表情になったが、その反応は衛士・セイバーの言ったことが真実であると雄弁に語っていた。しかし、衛士・セイバー以外のサーヴァント達は一様に疑問符を浮かべる。衛士・キャスターが裏で何か企んでいる事は知っていたが、衛士・セイバーが言う様な匿われた人物に覚えがなかった。
「待て。あれは使えない。あれは一度消去されてたから霊子状態も不安定だ」
「死人であったガルド・ガスパーを巨人族を全滅させるまで強化できたのだ。問題なかろう」
「いや、待て。そもそもアイツ等はムーンセルに反旗を翻した身だぞ? 外に出しても様々なロックがかかって、全盛期の半分も出さねえよ」
「貴様は既に我等やムーンセルの目を欺いて違法まがいの手段を取っている。今更、何を躊躇う」
「そもそもだな、匿ったと言ってもほんの気まぐれで、深い意味は、」
「衛士・キャスター」
深く。斬撃の様な鋭さを持った声が、静かに響く。衛士・セイバーは機械さながらの無感動さで衛士・キャスターを睥睨した。
「貴様は如何なる手段を講じても勝利すると言った。その為ならば打てる手段は全てやる、と。エネミープログラム風情よりも、貴様が匿っている『女共』の方が戦闘力は上だ。そして奴等はかつてムーンセルに逆らった。ムーンセルに属する我等にとって、『女共』が死のうと関係ない。足止めとして使うならば、打ってつけであろう。ならば、エネミープログラムよりも奴等を使う方が成果が出る。貴様は自分の言った事を曲げると言うのか?」
衛士・キャスターの身体が震える。鉄面皮を装っているが、今やその顔色は真っ赤になっていた。目に浮かぶ表情は憤怒、屈辱―――そして苦渋。
「貴様の言う通り、我等は我がマスターの為に勝たねばならない―――何としても」
衛士・キャスターだけでなく、周りの衛士・サーヴァント達に言い聞かせる様に衛士・セイバーの言葉が重くのしかかる。相変わらず無機質な声だったが、最後に付け加えた言葉だけはどこか熱を帯びていた。
「甘さは捨てろ。情は捨てろ。全ては勝利の為に―――我がマスターの為に」
十秒ほど、衛士・キャスターは衛士・セイバーと睨み合った。やがて眼鏡をかけ直し、紳士然とした顔つきに戻る。しかし、その顔にはいつもの様な胡散臭い笑顔は浮かんでいなかった。
「………すぐに調整して参ります」
クルリ、と背を向けて衛士・キャスターはその場を後にした。
その背中を衛士・セイバーは無感動なくすんだ金色の瞳で見つめる。
手にした黒い剣が―――ギラリ、と妖しく光った。
時々、「サーヴァント程度は箱庭では大した脅威にならない」という感想を目にしますが、このSS独自の設定で彼等は強化されています。後々、劇中で説明していくので今はあまり詳しく聞かないで下さい。