月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
Fate/EXTELLAは絶賛アルテラルートをプレイ中です。新しく出てきた設定などは見てて驚くものや楽しいものがありますが、このSSはCCCを基本骨子としているので全部はSSに取り入れられないだろうな、と思っています。これからの展開にも影響が出そうな設定もありそうなので。
その為、これからも『月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?』は『Fate/CCC』や現時点の『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』の設定を基に書いていこうと思います。ですから、「Fate/EXTELLAはこうだった」というコメントを受けても対処しない場合があります。ご了承下さい。
追記:もちろんの事ですが、感想でFate/EXTELLAのネタバレはしないで下さい。作者もまだプレイしてる最中なので。
―――“ノーネーム”本拠地
「―――まあ、こんな事があったわけだ」
そう締めくくり、十六夜は自らの過去を語り終えた。
「・・・・・・・・・」
白野は出されていた紅茶に口をつける。話に夢中になる余り、湯気の立っていた紅茶はすっかり温くなっていた。
並外れた異能を持ち、優秀過ぎた故に里親を転々とした幼い日の十六夜。
そんな十六夜の前に現れ、『感動に素直になれ』と教えた女性―――金糸雀との出会い。
金糸雀の死後に彼女の最期のメッセンジャーとして現れた神霊クロア・バロンとの戦い。
十六夜が箱庭に来るまでの軌跡を聞き、白野は想像以上に壮絶な過去に言葉を探しあぐねていた。
「はぁ~、貴方も随分と大変な経験をされたんですねえ」
パリポリ、とお茶請けのクッキーを食べながら、キャスターは呟いた。
「まあ、他人から見ればそうだろうが・・・・・・・・・一言で片付けると身も蓋も無いな」
「そりゃそうでしょうよ。私から見れば、他人の思い出話でしかないですもの。その思い出の本当の価値は、貴方しか知り得ないですし」
突き放した様な言い方だが、言葉とは裏腹にキャスターの顔はどこか慈愛に満ちていた。
「貴方が歩んだ軌跡は貴方だけの証。その人が培って積み重ねた想いに他人が評価するなんて、それこそ野暮じゃないですか」
「・・・・・・・・・まあ、確かにな」
静かに、十六夜はフッと笑った。その笑みに、白野は気になった事を一つだけ聞いた。
「なあ、十六夜。君は・・・・・・・・・後悔したりはしないのか?」
「あん? 何がだよ?」
「君の妹や弟・・・・・・・・・家族を置いて行った事に」
「ああ、その事か。別に後悔はしてねえよ。全く気にならないわけじゃないが、俺がいなくてもドン=ブルーノや丑松の御爺達がいる。俺一人がいなくなっても、孤児院は問題ねえよ」
それにな、と十六夜は付け加える。
「焔や鈴華が寂しがる事も承知で金糸雀の招待状に応じたんだ。なのに未練を引きずるなんざ、捨てた相手に失礼だろうが」
笑みを徐々に消し、真剣な表情に変わる。いつも人を小馬鹿にした笑みを浮かべている少年の珍しい顔を白野はじっと見つめた。
孤児院の院長だった金糸雀の死。そして一番の年長だった十六夜の失踪。その二つが残された弟分や妹分のに辛い思いをさせる事くらい、この聡明な少年が考えてないはずがない。十人中の九人は、「残された弟分達の為に傍で支えるべきだ」と十六夜の選択を責めるだろう。だが―――
「―――それでも、君は箱庭に来る事を選んだのか」
「当然。一生涯を元の世界で腐って暮らすものと達観したつもりだったが、あんな非日常を見せつけられたらなあ・・・・・・・・・。おかげで魅せられたというわけだ」
ヤハハハ、といつもの調子で十六夜は笑う。
「
迷いなく、晴れやかな笑顔で断言する十六夜に、白野は胸の中で溜息をついた。
ああ、そうか。十六夜は決して、無責任に故郷を捨て去ったわけじゃない。
彼にとって、過去は未来を繋ぐ為にある物。培ってきた過去というチップをまだ見ない未来へ投資したのだ。
『己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』。その言葉を真剣に受け止め、見果てぬ夢を追い求めてきた。
それはきっと、多くの人間が失ってしまったもの。年をとるにつれ、未来なんて不確かな物より目の前にある物を積み重ねる事で必死な大人には無い物。未来の事に一切の保証がなく、賢い大人達には鼻で笑われそうな開拓者精神。ああ―――でも。その心がとても眩しく見えて。それはなんて、希望に満ちた―――
「レティシアさん? どうかされました?」
ふと、キャスターの声で白野は我に返った。給仕として控えていたレティシアは、元から白かった肌が更に白くなり、まるで死人の様な青白さで何かを耐える様な顔になっていた。
「本当にどうされたんですか? 気分が悪いなら、休んでて結構ですけど」
「いや・・・・・・・・・何でもない、何でもないんだ」
怪訝そうな顔になるキャスターに、レティシアは首を横に振る。しかし、これでは何かあると公言してる様なものだ。
(今の話で何か気になる事があったのか・・・・・・・・・?)
思い返せば、十六夜が金糸雀と初めて会った話をした時からレティシアの顔色が変わった様に見える。話に聞き入る余りにしっかりと見ていたわけではないが、金糸雀の話をする十六夜をレティシアはいつも以上に真剣に聞いていた。これは、もしかすると―――
「そういえば、お前はどうなんだ?」
思考の海に飛び込もうとした白野に、まるで計った様なタイミングで十六夜から唐突に声がかかった。
「箱庭に招かれた以上、特別なギフト持ちだというのは分かる。だが英霊を使役するというのは中々に面白いな。一見すると、そこらの学生にしか見えない岸波が英霊と関わるなんて、どんな経緯があったんだよ?」
「それは私も気になる。外界において、我々の様な超常の存在に関わるなんて滅多に無いだろう。ハクノはいったい、どの様な過去を経てセイバー殿やキャスター殿を使役し始めたのだ?」
興味深そうな光を瞳に宿す十六夜。そこへ追求を逃れる好機とレティシアが乗った。しかし、彼女が興味を持っているのは本当だろう。見た目は凡庸で一般人にしか見えない白野が、どうして箱庭に招かれたのか? 二人とも過去を詮索する趣味など無いので今まで聞かず仕舞いだったが、十六夜の昔話を聞いた流れで白野の過去を聞いてみたいと思ったのだ。
「―――そうだな」
ふと、白野の目が遠くなる。人当りの良さそうな―――しかしこれといって目立つものが無い雰囲気のまま、白野はおもむろに口を開いた。
「さて、何から話したものか・・・・・・・・・」
※
“アンダーウッド”を襲撃してきた巨人族との戦いは、“
―――“アンダーウッド”地下都市・新宿舎
「こちらの方が我が“ウィル・オ・ウィスプ”の食客“フェイス・レス”! どうか親しみを込めてフェイスと呼んであげて下さい!」
ヤホホホと笑いながら、舞台の司会者の様に仮面の騎士を紹介する。純白の騎士鎧を身につけ、
「彼女こそは“クイーン・ハロウィン”の寵愛を受けた騎士の一人。彼女ならば世界の境界を預かる星霊の力を借り、ヘッドホンを召喚できる筈ですよ!」
「本当!?」
耀の顔が目に見えて明るくなる。が、すぐに何かに気付いた様に顔を曇らせた。
「だけど・・・・・・・・・異世界からの召喚なんて、ものすごく高価なんじゃ・・・・・・・・・?」
「まあ、本来ならお引き受けすら出来ませんがね。しかし“ノーネーム”とは長くお付き合いしていく予定なので・・・・・・・・・まあ、お友達価格という事で」
「うん。今後の日用品は、“ウィル・オ・ウィスプ”製のものを使う事で契約しました」
「そ、そっか・・・・・・・・・ありがとう、ジン」
安堵して改めてジンに頭を下げる耀。
しかし、ジンは恐縮そうに手をワタワタと振る。
「いえ、そんな畏まらないで下さい! 皆さんに受けた恩を思えば、これくらいどうという事はないです。それに………まだ問題はありますから」
「………問題?」
「はい。厳密にはヘッドホンを召喚するのではなく、星の巡りを変えて因果を変える―――要するに、“耀さんはヘッドホンを持って箱庭に召喚された”という形での再召喚です。なので耀さんの家にヘッドホンが無いと儀式は成立しないのですが………」
「それなら大丈夫。十六夜が持っていたヘッドホンと同じメーカーの物を父さんが持っていたから」
「あら? そのヘッドホンはお父様の物なのでしょう? 勝手に持ち出して良いの?」
「うん。父さんも母さんも行方不明だから」
さっくりと身の上を語る耀。
しかし両親を亡くしている飛鳥は、何とも言えない表情で俯いた。
「ご、ごめんなさい。そうとは知らず………」
「ううん。私も話したことが無かったし。それに………」
耀はペンダントを―――今となっては、父との最後の思い出となったペンダントを握りしめる。
「私達………みんな自分の事を話したがらなかったから、知らないのは当然だと思う」
「………ええ。その通りね」
「だから、ヘッドホンを渡すときに十六夜ともっと話してみようと思う。せっかく出来た友達だもの。関係を維持する為に、自分から歩み寄って行かないと」
以前の様な受け身の姿勢ではなく、前向きな気持ちとなった耀の顔は以前とは違っていた。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全ての捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
そんな無責任で、横暴で、素敵な招待状に自分は答えたのだ。
だから、周囲に少しずつ目を向けていこう。捨ててきた分だけ身軽になった心で、今度は自分から歩み寄ってみよう。
「その時に―――聞かせて欲しい。飛鳥やセイバーが、どんな生活をしていたのか。どうして箱庭に来たのか、私にも教えてほしい」
「ええ、もちろん」
「よいとも。とくと聞くがよい」
飛鳥とセイバーは、しっかりと頷く。そんな中、セイバーだけはどこか遠くを見る様な―――懐かしい物を思い出す様な目になった。
「………長い―――とても、長い話になるがな」
※
「そういえば、フェイス・レス様は今まで何処におられたのですか? 巨人達の襲撃の折には姿をお見かけしませんでしたが」
儀式場に移動する最中、黒ウサギが純粋に不思議そうな顔で質問した。
ヘッドホンの為に、ジャック達がわざわざフェイス・レスを“ウィル・オ・ウィスプ”から呼び寄せたとは考えにくい。ジャック達と一緒に“アンダーウッド”に来ていたと考えるのが妥当だろう。しかし、フェイス・レス程の実力者が戦場で何の噂も聞かなかったというのが、黒ウサギには腑に落ちなかった。それに対し、フェイス・レスは平坦な声で返す。
「気分が悪かったので寝ていました」
「はあ? あの襲撃でよく寝ていられたわね。随分とのんびりした騎士様ですこと」
「気分が悪かったので寝ていました」
「だから、それが何か―――」
「気分が悪かったので寝ていました」
「いや、だから、」
「気 分 が 悪 か っ た の で 寝 て い ま し た」
呆れた様な視線を向けていた飛鳥だが、フェイス・レスの平坦な―――一切の質問を許さない硬さを持った声色に押し黙る。“これ以上聞いたら叩き斬る”。そんな無言の威圧感をフェイス・レスは醸し出していた。
「………ねえ、あの人に何があったの? なんか尋常じゃない事に巻き込まれたみたいだけど」
「………私達が来た時にエリザベート嬢が歓迎の歌を披露したとお話しましたよね?」
小声でこっそりと聞いてきた耀に、ジャックはゲッソリとした声音で返す。
「どこから嗅ぎつけたのか、フェイスが特別なゲストと聞いたエリザベート嬢が、その………一晩中、彼女の部屋で歓迎ライブを………」
「ああ………」
色々と察し、耀は何とも言えない表情になる。今更言うまでもないが、エリザベートの歌はかなり音痴だ。遠くで聞いた耀でも頭痛と眩暈がしてくる歌を、フェイス・レスは近距離で長時間聞かされたのだ。そりゃあ、寝込んでもおかしくはないだろう。
「何だ、歌に聞き惚れる余りに今まで失神していたのか? まあ、仕方なしと言えるな」
横から聞いていたセイバーが、もっともらしくウムウムと頷く。
「え………? 聞き惚れ………ええ?」
「あれは余に並ぶ絶世の
「いいえ、結構! 結構です! 貴女も忙しいでしょう!? 私もクイーンの騎士として忙しいので!」
いつになく饒舌に語るセイバーに本能的に嫌な予感を察したフェイス・レスは、そう言うと一同を置いてさっさと歩き始めた。そんな後ろ姿をセイバーは残念そうに見る。
「むう………遠慮などせんで良いのに」
「あれは遠慮というか………はあ」
本気で残念がる深紅の友人に、飛鳥は溜息をついた。
「セイバー。貴方の歌は、その………随分と独特だけど、誰かから指導を受けていたの?」
「勿論だとも。余は皇帝として、あらゆる学問も芸術も最高の師がつけられたぞ! ………まあ、芸術の方は学問よりも学んだ時間はずっと短いが」
少しだけ憂鬱そうにセイバーは溜息をつく。
生前、特殊な事情でローマ皇帝となった彼女は本来なら芸術家として生を全うしたかったのだ。しかし、為政者となったからには芸術ばかりに時間をかけてはいられない。ローマ皇帝として学ぶべき事もやるべき事もたくさんあったし、彼女自身も市民の為に働くのは嬉しかった。
その為に“芸術家ネロ”として費やした時間は、“皇帝ネロ”として費やした時間よりずっと短いのだ。ある意味、
「そう………それなら、私が音楽をちゃんと教えてあげる」
「なに?」
意外な申し出に、セイバーは驚いた顔になる。
「これでも良家の子女だったのよ。勉学に限らず、あらゆる事柄に厳しい教育を受けてきたの。だから、音楽においても普通の人よりも詳しいという自信はあるわ」
「そうなのか? しかし、芸術とは作者の魂を表す自由な物であろう? あまり格式ばった物は余は好きではないのだが………」
「そういう自由度の高い芸術にも価値はあるけど、音楽にだって作法という物があるわ。お行儀の悪い人より、良い人の方が見ていて気持ちが良いでしょう?」
むっ、と一理ある飛鳥の指摘にセイバーは押し黙る。それに、と飛鳥は付け加える。
「ローマ帝国時代の音楽がどうだったかは知らないけど、音楽だって日々進歩してるの。私のいた時代は岸波君よりも古いかもしれないけど、それでも貴方の時代には無かった歌や技術がある。せっかく出会ったのだから、私の時代の音楽に触れてみない? ひょっとしたら、岸波君の喜ぶかも―――」
「やる! やるぞ!」
ノータイムだった。白野の名前を出した途端、セイバーは喜悦満面で飛びついた。
「奏者は音楽など知らなかったからな! ちょうど余の曲のレパートリーも寂しくなってきた、と思ったところだ! 是非ともアスカの時代の音楽を教えてくれ!」
「え、ええ、約束するわ」
ブンブンと手を握るセイバーの勢いに気圧されながらも、飛鳥はしっかりと頷いた。
「ようし! こうなったら、ヨウやイザヨイの時代の音楽も学ぶぞ! そうと決まれば、早くヘッドホンを十六夜に返して聞きださなくてな! 待ってるが良い、奏者よ!」
子供の様にはしゃぎながら、セイバーは儀式場へと歩いて行った。
その後ろ姿を見ながら、黒ウサギがこっそりと飛鳥に耳打ちする。
「よろしいのですか? その、セイバーさんに歌のレッスンなんて―――」
「まあ、かなり難しいとは思うわよ」
こめかみに指を当てながら、飛鳥は少しだけ溜息をつく。独特すぎる音楽センスを持ったセイバーを矯正するなど、並みのギフトゲームよりはるかに困難な事に思える。
「でも元々の素質は悪くはないはずよ。セイバーの作品に時々素晴らしい物が作られる事くらい、黒ウサギだって知ってるでしょう?」
「それは、まあ………」
セイバーの数少ない―――本ッッッ当に数少ない成功作品である、“ノーネーム”の浴場を思い出す。浴槽の水面に合わせて壁画のナポリ湾が揺れる様は、いつ見ても飽きない。黒ウサギ達の間で、あれを見る為にお風呂の時間がひそかに楽しみになっていた。
「だから、音楽もちゃんと勉強していけば聞ける様になると思うの。今みたいに相手に嫌がられてる事が分からないで歌っているのは、本人の為にならないし見てて可哀想よ。それに―――」
飛鳥は仕方ないなあ、と言わんばかりに少しだけ微笑んだ。
「私達は同志ですもの。お互いに悪い所は指摘し合って直していって、良い所は高め合っていく。それが、友達というものよ」
「………ええ、その通りでデスよ♪」
晴れやかな面持ちで、そう答える飛鳥の横顔を黒ウサギは驚いた様に見つめていたが、すぐに笑顔で頷いた。耀ほどでは無かったが、常に他人から一線を引いた距離で相手に接していた飛鳥が、自分から歩み寄ろうとしていたのだ。その事に、嬉しくならないわけがない。
(こういうのを雨降って地が固まる、と言うのでしょうね。結果的に、今回の事件は皆さんの距離が深まる良いイベントでした)
出会った時は不安はあった。人類最高峰の|恩恵≪ギフト≫の持ち主と聞いても、彼らは独立独歩の姿勢が強かった。そんな状況でコミュニティとして纏まるのか? そんな不安が黒ウサギに付き纏っていた。しかし、今は。
(今なら、はっきりと言える。皆さんは―――私が召喚した問題児様方は、素晴らしい同志だと。“ノーネーム”に来てくれたのが彼等で、本当に良かった)
誰にも気付かれない様に、心の中で黒ウサギは召喚された少年少女達に出会えた運命に感謝する。
そして―――
(―――金糸雀様)
今はいない、かつての同志の事を黒ウサギは想う。
(“ノーネーム”は………いいえ。貴女が立ち上げた“アルカディア”は、ここまで持ち直しましたよ。まだ旗と名を取り返せていませんけど、かつてのコミュニティに劣らない様な素敵なコミュニティとなりました)
ふと空を見上げる。降り注ぐ太陽の日差しが、かつて自分のコミュニティを象った旗印の太陽に見えて、少しだけ目を細めた。
(だから貴女も―――早く帰って来て下さい)
※
「悪いけど、また今度で良いかい?」
思案顔から一転、白野は申し訳なそうな笑いながら十六夜達に頭を下げた。
「何だよ。勿体ぶる様な事なのか?」
「いやまあ、いつか話さなきゃいけない事だけど………」
不満顔になった十六夜に、白野は後ろ頭をかく。
「ただ、かなり長い話になるし………どうせなら、飛鳥と耀がいる時に話したいんだ」
「ふうん、そりゃまたどうして?」
「だってなあ………俺達は会ってから、それなりの日にちが経つのにお互いの事をあまり話してないし。せっかくだから、飛鳥や耀の事も聞いてみたいと思うんだ」
「………まあ、その方が何度も話す手間が省けるか」
ふむ、と十六夜は納得した様だが、あてが外れて少しだけ残念そうだった。純粋に、白野の過去はとても気になっていたのだろう。
(………よろしいのですか? ご主人様)
傍らのキャスターが声に出さず、念話で白野に話しかけた。
(飛鳥さんや耀さん。それに凶暴児にご主人様の過去をお話しするなんて)
(別に良いと思ってるよ。彼等なら知ったからと言って、それで俺への接し方を変える様な事は無いと思うし。キャスターは嫌かい?)
(いえいえ、それがご主人様の決めた事なら私には何の不満もありませんとも。むしろ、ここはタマモちゃんとご主人様の出会いを、他人がうらやましくなるぐらいラブラブに! そして情熱的に語って頂ければ♪ あ、もちろんセイバーさんの事は省略で)
(うん、ちゃんとありのままを話すから)
残った紅茶に口をつける。異世界から召喚された四人の少年少女。これからは、それ以上の絆を結んでいこうと遠い地でお互いに思い合った。