月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

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ジャンヌオルタが来ません(血涙) ゲットした夢まで見ました。飛び起きた時刻は午前二時・・・これは午前二時教のお告げですね!! おお、神よ感謝します! ・・・真面目に考えるくらい精神を病んでますよ?


第5話『Dragon lady's』

 フラフラと蛇行しながら、飛鳥達を乗せたグリーは高度を下げる。

 一瞬、身体が崩れ落ちそうになるが、その様な無様な着地は鷲獅子の誇りにかけて許せなかった。グリーは気力で持ち直し、大樹の根の隙間から地下都市へと降り立った。

 

『着いたぞ』

「し、死ぬかと思ったのデス………」

 

 ウサ耳をグッタリと垂れさせながら、黒ウサギがグリーの背から降りる。先程の毒音波で気分が悪くなったのか、足元が少し覚束ない。

 あれだけ響いていた毒音波は、地下都市に入った途端にピタリと止んでいた。遮音結界が張られているという話は本当らしい。

 

「何だったの、先の音は?」

 

 飛鳥がこめかみに手を当てながら、地面へと降りる。気丈な顔つきではあるが、青白い顔色までは誤魔化せなかった。

 

「南側では来客の鼓膜を破る風習でもあるのかしら?」

「もしくは遠吠えかな。友達のコモドドラゴンの鳴き声がこんな感じだったもの」

 

 気絶しているジンの介抱をしながら、耀は以前の世界を思い出していた。

 動物園にいた爬虫類の友人達の鳴き声を万倍に引き上げれば、さっきの様な音になるだろうか?

 しかし、そんな耀達に憤慨する者がいた。

 

「そなた等は何を言っておる! あれほどの歌声を聞いて、何の感動も抱かぬとはっ!!」

「「「『………………は?』」」」

 

 シュタッ! とグリーの背から飛び降りて着地したセイバー。その顔は、興奮の余りに上気していた。

 

「なんと美しき魔曲か………! この余ですら天上の楽曲と聞き違えた! グリーよ、あの歌声の持ち主は何者なのだ!?」

『い、いや待てセイバー殿。あれが………歌声?』

「それ以外の何に聞こえたと言うのだ? あの様な魔曲、余のローマ帝国どころか月にすら存在はしなかった。まさか、噂に聞くローレライなのか!?」

『ローレライ………。聴いた者を破滅に導くという意味なら、まあその通りだが……』

「くっ、やはりか! 悔しいが見事である! 余の歓待にローレライを遣わすとは、誠に大義であった!!」

『そ、そうか。喜んでいるなら何よりだ………』

 

 喜悦満面の笑顔を浮かべるセイバーに、グリーはたじたじとしながら答えた。

 グリーの通訳をしている耀を尻目に、飛鳥が黒ウサギへ近寄った。

 

「ねえ、あれが歌声に聞こえた?」

「いえ、一万歩譲っても咆哮にしか………」

「………いまさら確認するまでもないけど、セイバーの感性(センス)って―――」

「ま、まあ、セイバーさんは芸術家肌ですから! ほら、芸術は爆発だと言うじゃないですか!」

「爆音の間違いじゃなくて?」

 

 ヒソヒソとセイバーには聞こえない様に内緒話をする二人。

 ともかく、とグリーは咳払いを一つして空に舞い上がる。

 

『落とされたペリュドンどもを回収せねばなるまい。耀達は“アンダーウッド”を楽しんでくれ』

「分かった。行ってらっしゃい、グリー」

 

 耀が頷くと、グリーは旋風を巻き上げながら飛び去って行った。

 その後姿を見送っていると、背後から聞き覚えのある声が耀達にかけられた。

 

「お前耀じゃん! お前らも収穫祭に」

「アーシャ、そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

 振り向いた先にいたのは、カボチャ頭のお化けジャックと西洋人形のようにヒラヒラした服を着る少女アーシャ。北で出会った《ウィル・オ・ウィスプ》のコミュニティだった。

 

「アーシャ………君も来てたんだ」

「まあねー。こっちにも色々事情があってさ」

 

 再会に花を咲かせる二人を尻目に、セイバーもジャックと挨拶を交わす。

 

「ヤホホホ、お久しぶりです、セイバー殿」

「うむ。久しいな、ジャック・オー・ランタンよ。今月の納入分の礼装は出荷しておいた。三日後にはそなたの本拠に届いているであろう」

「おお、それはありがたい。あの商品のお陰で私達も商品もガッツリ売れて左団扇というものです♪ もちろん、ちゃんと“ノーネーム”製と宣伝してますから、そこはご安心を」

「ふむ、それは何よりであるな。ところで礼装のレパートリーを増やす為に、新たな素材を奏者が欲しがっていたのだが……」

「ふむふむ。今度はどんな品物で?」

「うむ。守り刀と言ってな、これは―――」

 

 本格的な話し合いになりそうな二人に、黒ウサギがパンパンと手を叩く。

 

「まあまあ、皆さん。お互いに積もる話もあるでしょうが、まずは宿舎に荷物を置きに行きましょう。それに、先に主催者の方々に挨拶に行かないといけませんし」

 

 黒ウサギの宣言に一同は頷く。そして、主催者に用意された宿舎へと足を運んだ。

 

 *

 

「ところでさ。ここに来る前に雷鳴みたいな音が響いてたけど、あれは何だったの?」

 

 木造宿舎の貴賓室。気絶したジンが目覚めないので、彼が起きるまで待つ事にした耀はジャック達の部屋に遊びに来ていた。

 耀がさっきの爆音について尋ねると、アーシャ達は顔を引きつらせた。

 

「げ。お前、あの音痴攻撃を聞いたわけ? よく生きてたなあ」

「音痴・・・・・・あれって、やっぱり歌声だったの?」

「ええ。恐ろしい事に」

 

 カボチャ頭をゲッソリとさせながら、ジャックが答えた。

 

「私達も“アンダーウッド”に到着した時、歓迎と称して一曲サービスされましたよ」

「ああ、危うく昇天しかけたよなあ・・・・・・」

「私なんてペテロのジジイが腹を抱えて爆笑しているのが見えましたよ・・・・・・あー、思い出したら腹立ってきた」

「・・・・・・・・・何者なの? その人」

 

 会う人間全てに散々な評価をされる歌声なんて、どこぞのガキ大将だろうか? 耀の疑問に、ジャックは人伝に聞いた話ですが、と前置きをして語る。

 

「2ヶ月くらい前でしょうか。この“アンダーウッド”に龍の恩恵を受けた二人の少女が現れたそうです。あの音痴・・・・・・コホン。個性的な歌声の持ち主は、その片割れですよ」

「龍……それって凄いんだよね?」

「えー、耀は龍の事を知らねえの?」

「別に。箱庭に来たばかりだから知らなかっただけだし」

 

 小馬鹿にした様な笑みを浮かべるアーシャに、むっとしながらそっぽを向く耀。

 まあまあ、と二人を宥めながらジャックは説明した。

 

「この箱庭には、三大最強種と呼ばれる三つの種族がいるのです。時代と概念の霊格を支配する神霊、質量と空間を司る星霊。そして幻獣の頂点に立つ龍。中でも龍は系統樹が存在しない、力の結晶なのです」

「ちょっと待って。幻獣は霊格が高まった系統樹が変化して産まれる種族だよね? それなら、系統樹が存在しないというのは矛盾してるんじゃ―――」

「ええ。だから、純血の龍種は〝無から発生する”のですよ」

 

 は? と目が点になる耀。つまりですね、とジャックはかみ砕いて説明する。

 

「ある日突然何の前触れもなく、強大な力が集結して形を成して発生する個体。それが龍種の純血なのです。彼等は単一生殖を可能とし、異種と交わった場合のみ亜龍が生まれるのです」

「単一生殖が出来たってことは、龍って小さいの?」

「いえいえ、まさか! 龍の純血はいずれも想像を絶するほどの巨体だと聞きます。何でも、中には世界を背負った龍がいたとか」

 

 最早、想像の範疇にすらない事実に耀は絶句する。というのも、似た様な話を知っているからだ。

 北欧神話のヨルムンガンド、インド神話のクールマ。この様に大地のごとく巨大な生物は、様々な神話で登場する。ジャックの話では、そんな幻獣が箱庭に実在すると言うのだ。

 

「・・・・・・・・・もしかして、最近南側に来た人達もそんなに大きいの?」

「ハハハ、まさか。そんなに大きいと“アンダーウッド”でも支え切れませんよ!」

 

 一瞬、巨大な龍が“アンダーウッド”を止まり木にしてペリュドン達に吠えている絵面を想像した耀だが、ジャックはそんな不安を笑い飛ばした。

 

「あの少女達は純血の龍ではありますまい。恐らくは亜龍か、龍のギフトを持った程度か・・・・・・・・・いずれにせよ、春日部嬢と同じくらいの背丈ですよ」

 

 ただ・・・・・・・・・とジャックは言葉を切る。

 

「龍のギフトは、たとえ遺骨や遺骸になっても強力な力を持っているもの。あの少女達を見た目通りだと思っていると痛い思いをするでしょうね。それに―――私見ですが、おそらくはセイバー殿と同じ存在かと」

「セイバーと同じ? それって、どういうこと?」

「それは、」

 

 ジャックが口を開いた、その時だった。

 突然、窓の外から紅蓮の光が強く光った。

 

「っ、何!?」

 

 耀が窓の外から身を乗り出すと、地下都市の方角から紅蓮の火柱が上がった。そして、動物達の力で鋭い聴覚を持つ耀の耳が風に乗ってきた音を拾った。金属同士が何度もぶつかり合い、激しく火花を散らす様な重低音。これは―――剣戟の音!

 

「あれは・・・・・・・・・!」

 

 窓の外から見える火柱に、ジャックは驚嘆に目を見開いた。しかし耀は目をくれず、窓から宙へと飛び出していた。

 

「私、ちょっと見てくるね! アーシャ達は黒ウサギに伝言よろしく!」

「あ、おい! 待てって、耀!!」

 

 アーシャが慌てて声をかけるが、それより早く耀はグリフォンのギフトで火柱が上がっている場所へと飛んで行った。

 

「行っちまったよ・・・・・・・・・」

「ヤホホホ。正に電光石火ですな」

 

 二人が呆然と耀の背中を見送る中、後ろで部屋のドアが乱暴にノックされて黒ウサギが入ってきた。

 

「失礼します! ジャックさん、こちらに耀さんが来てませんでしたか!?」

「ついさっきまでいたよ。窓から飛んで行ったけど」

「本当ですか!? まさか、あの火柱の元に!?」

 

 アーシャの返答に黒ウサギは顔を青ざめさせた。ジンの看病をしていた彼女も窓の外に見えた火柱を見て、尋常ならざる事態を感じ取ったのだ。こうしている間にも火柱は断続的に上がり、窓の外から熱気が漂ってくる。

 しかし慌てる黒ウサギに対して、何故かジャック達はには弛緩した空気が流れていた。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。“アンダーウッド”では、よくある事ですから」

「は? よくある事って・・・・・・・・・?」

 

 当惑した黒ウサギに、ジャックは深々と溜め息をついた。溜め息に込められた感情を表すなら―――またか、という呆れ。

 

「一言で言うと・・・・・・・・・“アンダーウッド”の問題児達の喧嘩ですかね?」

 

 ※

 

 ―――“アンダーウッド”地下都市。中央広場

 

 槍が、鉄扇が、火花を上げながら叩きつけられる。一閃する度に風は唸りを上げ、ぶつかる度に衝撃波が発生し、一拍遅れてストロボの様に火花が飛び散る。

 対峙しているのは二人の少女。

 一人はチェックのスカートと白いブラウスに身を包んだ少女。スカートの下からは黒い龍の尾が覗き、ルビーの様に鮮やかな色付きをした髪からは捻れた真紅の角が生えている。彼女は少女の手には不釣り合いに見える長大な槍を握り、巧みに操りながら突きをくり出していく。

 もう一人は浅葱色の着物に白い袿を羽織った少女。透き通った翠の髪からは骨の様に白い角が覗く。彼女は両手に持つ鉄扇を使い、舞を踊るかの様にくり出された槍を完璧に捌き切っていた。

 赤毛の少女の槍が剛ならば、着物の少女の鉄扇は柔。対称的ながら、武術のお手本の様な打ち合いは―――

 

「この! この! ナマイキ、なのよ! ド田舎蛇の分際で!!」

「そっちこそ! いい加減に、しなさい! バカトカゲ!!」

「バカと、言う方が! バカなのよ! バーカ、バーカ!!」

「やかましいですわ! このオオバカトカゲ!!」

「また言ったわね! 土下座しても許さないんだから!!」

 

 ・・・・・・・・・何とも低次元な口論と共に行われていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何、アレ?」

 

 二人を取り囲む人垣の外、耀は誰に聞かせるわけでもなくポツリと呟く。

 激しい剣戟の音を聞きつけて駆けつけてみれば、目の前ではハイレベルな武器の応酬とローレベルな口論が同時にくり出されていた。

 

「ん? お嬢ちゃん、観光客かい?」

 

 近くにいた犬の頭をした亜人が、耀に気さくに声をかけてきた。

 

「ハハハ、驚いただろ? あれぞ南側名物、『ドラゴンの一騎打ち』でございってな」

「一騎打ちって・・・・・・・・・どう見ても喧嘩してる様にしか見えないけど」

「いや嬢ちゃんの言う通りよ。あの二人は馬が合わないのか、ああして事あるごとにぶつかり合っているんだわ。最初は俺達も止めたんだが、いい加減馬鹿らしくなってきてな。今じゃあの二人の喧嘩を肴に楽しんでるのさ」

 

 ほら、と犬の亜人は人垣の一角を指差す。

 

「行け! そこだっ!」

「エリちゃんガンバレー!!」

「やっちゃえ、バーサーカー!!」

「さあさあ! “一本角”の大型ルーキー、我等のアイドルのエリちゃんと大和撫子のバーサーカーちゃんの一騎打ちだよ! 張った張った!!」

「俺、エリちゃんに銀貨一枚!」

「俺はバーサーカーちゃんに銀貨二枚だ!」

「うはw 二人ともバ可愛いっすw あ、バカ過ぎて可愛いって意味っすからwww」

 

 ワイワイガヤガヤ、駒鳥はピーチクパーチクと騒がしくさえずる。被害の巻き添えにならない様に距離を取りつつも、二人の喧嘩を闘犬の様に楽しんでいた。この騒動にかこつけて観客達に商品を売りつけ様とする、商魂たくましい屋台までいる始末だ。ここまで来ると、ちょっとした祭り騒ぎだ。

 

「ええと、ほっといて良いの? さっき火柱とか見えてたけど」

「あー・・・・・・・・・流石に家を燃やしそうになったら止めるが。というか、俺達じゃ止めきれないんだけどな。ああ見えて、あの二人は龍のギフト持ちだから」

「龍のギフト? じゃあ、“アンダーウッド”に来た龍の女の子達って、あの子達のこと?」

「何だ、知ってるじゃないか。そう、スカートを履いてるのがエリザベート。着物の方がバーサーカー。どちらも龍のギフトを持つ、“アンダーウッド”の期待の新人だよ」

 

 耀が話し込んでいる間にも、二人の戦闘は苛烈さを増していく。鉄扇で槍を打ち払いながら、バーサーカーは苛立たしそうに声を上げた。

 

「そもそも! 境界門が起動してるのに宝具を使うとか! なに考えてるんですか!?」

「はあ!? 知らないし! サラの言う通りにやっただけだし!」

「このカラッポ頭! 遠方からの来客を殺す気ですか!?」

「うっさいわね! 何よ! 私のラストナンバーを聞けるなんて、むしろご褒美じゃない!」

「自分の力量を考えなさい! ドラ音痴!」

「なんですって!? もう、あったまにきた!!」

 

 エリザベートが槍を横凪に振るう。槍はその形状から突きが一般的だと思われがちだが、払いとなると槍の遠心力によって生半可な防御ごと叩き潰す強力な一撃となる。加えて槍のリーチも相まって回避も容易に出来ない。

 だがバーサーカーも並みの相手ではない。地面スレスレまで体勢を低くし、槍を自分の頭上で空振りさせる。そのまま、無防備な背中を晒したエリザベートへ距離を詰める。その姿は、獲物に襲いかかる蛇を思わせた。

 

「かかったわね!」

 

 エリザベートは背中を向けたまま、尻尾を振り上げる。スカートが捲れ上がって野太い歓声が響く。

 

「そーれっ!!」

 

 掛け声と共に尻尾が振り下ろされた。バーサーカーは目を見開くが、駆け出した勢いは止められない。鞭打つ様な音と共に土埃が舞った。

 

 徹頭徹尾の竜頭蛇尾(ヴェール・シャールカーニ)

 

 “無辜の怪物”によって変化した姿とは言え、エリザベートの尻尾は本物の龍の物。音速すら超えて振るわれた鞭は、たとえガードしても相手は落雷の様な衝撃と共に麻痺して動けなくなる。ーーーしかし。

 

「かかったのは・・・・・・・・・貴女です!」

 

 土埃が晴れる。そこには土埃で着物を汚しながらもバーサーカーがしっかりと立っていた。彼女の片腕は鱗の生えた巨大な龍のそれとなっていた。その腕がエリザベートの尻尾をムンズと掴んだ。

 

「や、やば―――!!」

「終わりです。転身―――!」

 

 バーサーカーの目が赤く染まり、口の奥からチロチロと火の粉が漏れ出す。

 

「―――何を、しているかこの馬鹿娘共オオオオォォォッ!!」

 

 突如。大樹の頂上から怒声をドップラー効果で響かせながら、炎の翼と緋色の龍角を持つ女性が二人へ飛来し―――二人の頭を思いっきり殴った。




本日の教訓:争いは同レベルの相手としか起きない

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