月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

30 / 76
 どうしても書いておかないといけないと思った話。良妻狐さんはもう少し待って。あとサーヴァントの設定が自分のオリキャラ化してるので、公式との差分には目を瞑ってくれると助かります。


幕間「プレイグ①」

 ソレが生まれたのは、遥か昔。

 

 砂漠の国でアメンホテプ4世という(ファラオ)が即位した時代。そこに一人の子供がいた。日々の生活は決して楽ではなく、その日に食べる物を父親と共に河へ漁をしに行く様な暮らしだったが、その子供は満足していた。村の大人達は優しく、河の獲物は尽きる事も無い。時折、集落の外の世界に夢を思い描く事もあったが、それも日々の生活で薄れていくものだろうと子供は理解していた。子供にとって、その村は退屈ながらも幸福な世界だった。

 

 ―――そう、幸福な世界だった(・・・)

 

 最初の異変は、父親からだった。高熱を出して倒れ、その三日後には全身に痘痕が広がって死んだ。次の異変は母親から。父と同じく、母親にもまた全身に痘痕が浮かんだ。苦しむ母親を見て、子供は村の大人達に助けを求めたが誰も手を差し伸べようとはしなかった。大人達にとっても未知の病だったソレは、恐ろしくて手が出せなかったのだ。やがて村の呪い師であり、長老である男が病床の母親に指差して言った。

 

「この者には悪霊が憑いておる。原因は、この者の父親が河の神(セベク)の魚を不当に捕ったからだ。この者の家族を焼き払い、河の神(セベク)の怒りを鎮めよ」

 

 村の大人達はすぐに従った。長老の言う事に異を唱える者はいなかったし、何より顔や体が醜い痘痕で覆われた子供の母親をこれ以上見たくなかった。かくして子供と母親は家に閉じ込められ、外から火をつけられた。

 何故。茹る熱気の中、子供は外の大人達に問うた。なぜ自分達がこんな目に遭わなくてはならないのか。自分達が何か悪い事をしたのか。大人達は答える。

 

「口を閉じろ、悪霊め。平穏な我々の生活を乱したのだ。これは神罰である」

 

 優しかったはずの大人達は、口々に子供と母親をなじり、呪いの言葉を投げ掛けた。助けて、と叫んでも大勢の罵倒にかき消され。慈悲を求める声は、悪霊よ去れという声にかき消された。

 やがて炎と熱気で意識が薄れいく中、子供は焼け死んだ母親を見ながら口にした。

 

『ノロッテヤル………』

 

 自分達を悪霊と決めつけた長老。自分達を見捨てた大人達。そして自分を取り巻く世界の全てに、子供は呪詛を吐く。

 

『何百年、何千年カケテモ………オ前達ヲノロッテヤル―――!』

 

 それが、始まり。その子供の呪詛が、後に●●●●●●●と呼ばれるサーヴァントの始まりだった。

 

 

 

 ソレは、恐ろしい勢いで駆け巡った。手始めに子供がいた村を全滅させ、人から人へと乗り移りながら大陸中に蔓延した。途中、子供の様に苦しみ抜いて死んだ人間の嘆きと絶望を取り込み、ソレは自身の存在を拡大させていった。そうしていく内に、元となった子供の呪詛は薄れていったが、ソレには関係なかった。とにかく生きている人間を標的にし、ソレはひたすら魂を取り込んでいった。ソレは手当り次第に人間に憑りつき、容赦なく魂を喰らった。そうして喰らった魂を元に自分の分霊を造りだし、増殖した自分自身(・・・・)と共にまた別の人間に憑りつく。もはや流行病と言うより、際限のない悪意の連鎖と化していた

 

 ソレの手にかかれば、大人も子供も、男も女も、王も貧者も久しく命を落とした。ソレはいつしか、神罰や悪魔に見立てられ、霊格を得ていった。やがて時代が進み、人々が船で遠い大陸を行き来する様になると、ソレは人に乗り移って世界中に拡散していった。かつて子供が吐いた呪詛の通り、ソレは二千年の時を経て世界全ての人間から畏れられる存在となった。

 だが、人々もソレに対して黙って見ているわけではなかった。さらに時代が進み、人々が雷の正体が電気だと解明させた頃。ソレの治療法が確立されていった。かつての様に命を落とす事もなくなり、人間にとってソレは天災から治療可能な病気に成り下がっていった。そして西暦1980年。ソレは獲物でしかなかった人間の手で、完全に息の根を止められたのだった。

 

 

 

 箱庭世界の片隅。ソレは何をするでもなく存在していた。かつては災厄として人々に畏れられていたソレも、いまは全盛期の姿も無く、それどころか人並みの知能も無かった。人間の手によって根絶がなされたソレには最低限の霊格しか残されておらず、羽虫の様な集合体の姿しか再現できなかったのだ。ソレには何かをするという能動的な意思もなければ、何かをしたいという欲求すらも無い。まるでの影法師の様にソレは佇んでいた。唯一の行動と言えば、時折ソレに不用意に近づいてきた動物に乗り移り、魂を啜る程度の事だった。

 

「へえ? 聞いていた以上のものね」

 

 ふと、ソレに声をかけられた。ソレが目を向けると、一人の少女がソレを珍獣を見る様な目で見つめていた。

 

「マスター。何ですか、コレ?」

「私のご同業みたいね。街で草木も動物も生きていられない場所があると聞いたけど、思った以上のものがいたわね」

 

 少女は連れであろう白装束の女に説明する様に話していた。もう一人の連れ―――軍服の男はソレを怪訝そうに見つめていた。

 

「コイツ………病魔の類か? それにしちゃあ、霊格が小さい気がするが」

「ああ、多分外の世界で駆逐された―――」

 

 少女が何かを言いかけたが、ソレには関係なかった。目の前に生きた人間がいる。ならば、ソレが取るべき行動は一つだった。

 

「マスターッ!」

 

 白装束の女が何かを言ったみたいだったが、関係ない。瞬きすら許さない速度で詰め寄ると、羽虫の群れの様な体で少女を包み込んだ。いかに霊格が縮小しようが、やる事は変わらない。今までの動物では駄目だったが、この少女ならば問題ない。その魂を取り込み、身体に乗り移る。乗り移った後はかつての様に―――。

 

『………………?』

 

 何かがおかしい。退化したソレの知能でも異変に気付いた。ソレに触れた者は例外なく全身から痘痕を噴出させて絶命する筈だ。そして魂を喰らうのには数秒もかからない。事実、ソレは少女の体の奥へと入り込んでいた。だというのに―――なぜ少女は平気な顔で立っているのか?

 

『………!?』

 

 少女の魂に触れた時、ソレはようやく理解した。違う。これは人間じゃない。人間の形をしているが、もっと別のモノ。そう、かつての自分かそれ以上の―――。

 そこまで理解した途端、ソレに圧倒的な力が襲い掛かった。力は奔流となって、ソレを押し流し―――いや、それどころかこのままでは押し潰される!?

 

『―――!!、!! ―――!?』

 

 ソレは慌てて少女の魂から自身を切り離す。この姿になって久しく忘れていた感情―――恐怖がソレの中で駆け巡っていた。まるで映像のノイズの様に、ソレの姿はブレて乱れていた。

 

 ふと、少女の魂に触れたからか、ソレの脳裏に次々と映像が見えた。

 

 一面に広がる黄金色の麦畑。それを農夫らしき男達と満足そうに眺める少女。

 真っ暗な地下牢。全身を黒い痣に侵されながらも、閉じ込めた父親に呪詛を吐く少女。

 似た様な死んだ人間達の手を引き、少女は多くの仲間を引き入れていく。

 そうして霊格を拡大させた少女は、やがて人間共から■■と呼ばれる様になった。

 ソレの知能では大半の映像は理解できなかった。だが―――何故か、ソレは奇妙な懐かしさを感じていた。

 

「理解した? アナタでは私を殺せないわよ」

 

 突然、話しかけられてソレはようやく我に返った。少女は相変わらず、ソレに纏わりつかれながらもどこ吹く風と言わんばかりに立っていた。

 

「理解したなら、そろそろ離れて欲しいのだけど。いい加減、鬱陶しいわ」

 

 煩わしそうに身体を掃う少女を見て、ソレは少女から慌てて離れた。この相手は格上だ。獣並みに知能しかないソレでも、襲い掛かって大丈夫か、そうでないかの見分けぐらいはついた。

 

「ハア………もう、脅かせないで下さいよマスター」

「全くだ。やられるわけがないと分かっていても、一瞬肝が冷えたぜ」

 

 連れの二人が何やら言っているが、ソレは何も反応しなかった。この二人も自分より格上だろう。それを理解すると、もはや目の前の相手達に襲い掛かる気になれなかった。

 

「で、結局何なんですかコイツ?」

「触れてみて分かったけど、ヴェーザーの言う通り病魔の一種ね。さしずめ、天然痘かしら?」

「天然痘~? それが本当なら、病魔で納まる様な器じゃないですよ。なのにソイツ、見るからに霊格の再現に失敗してるというか………」

「外の世界では天然痘は撲滅されたと聞いたわ。恐らく、その関係で信仰も恐怖も薄れたのでしょう」

 

 それに、と少女はソレを見透かす様に目を細めた。

 

「かなり雑多に混ざり合ってるみたいね。元となった霊格に対して取り込んだ魂の量が追い付いてない。自分で殺した相手だけを取り込んでいれば問題なかったでしょうに。あれもこれもと魂を悪食した弊害ね。これじゃあ全盛期の時でも自分が誰だったのか、どうして自分がその姿へと変貌したのか覚えてないでしょうね」

「ふ~ん。とすると、ここにいるのは寄せ集めみたいなものか。こんな姿になっても人に襲い掛かる事を覚えてるもんなんだな」

 

 生存本能ってヤツかねえ、とつまらなそうに頬をかく軍服の男。しかし、少女だけはソレに未だに好奇の目を向けていた。

 

「ねえ、あなた。どうしてそんな姿になってまで存在していたの?」

「マスター?」

 

 白装束の女を制し、少女はソレに話しかける。

 

「欲求すらなく、知能も退化していながらあなたはどうして生きたいと思っているのかしら?」

 

 ピクリ、とソレが身じろぎした。まるで名前を久しぶりに呼ばれた犬の様に、ソレは少女の言葉に反応したのだ。

 

「ただの本能だけで、私に襲い掛かろうとするかしら? 違うでしょう。あなたは私が生きてる人間に見えたから、取りつこうとした。あなたは苗床になる人間が欲しいんじゃないかしら?」

 

 そう言われて、ソレは肯定する様に体をざわつかせた。

 そうだ、自分はまだ終われない。このまま消える気なんてない。もっと、もっと存在を拡張しなくては。そして自分を否定した■■に復讐を―――。

 

『………?』

 

 そこまで考えて、ソレはおかしな事に気付いた。復讐? いったい、何に? そもそも、どうして復讐しようなんて思ったのか?

 

「やっぱり思い出せないか………。でも自我は、ちゃんとあるみたいね」」

 

 ふむ、と少女は一つ頷く。

 

「ねえ、あなた。私に従えば、もっと霊格を上げられるわよ」

「え、ええ~!? こんなのをコミュニティに入れるんですか~? もっと可愛いヤツにしません?」

 

 白装束の女が不満そうに少女に異を唱えたが、少女はかぶりを振った。

 

「“サラマンドラ”と事を構えるのだから、人手は多いにこした事は無いわ。"The PIED PIPER of HAMELIN"でミスリード狙いで参加させられるしね」

 

 それに、と少女は言葉を切る。

 

「病で無情にも打ち捨てられた者、病で無慈悲に周りから排斥された者を私達(・・)は決して見捨てない。それは魔王となる前の私達(・・)の総意。既に八千万人もの魂を背負った身だもの。一人くらい増えても問題ないわ」

 

 少女―――ペストは、スッと斑模様に彩られた袖をソレに差し出した。

 

「どう? ここで一人で佇んでいるくらいなら、私達と一緒に行かない?」

 

 手を差し伸べるペストを見て、ソレの中で何かが動き始めていた。まるで凍りついた河が、溶け出して流れていく様に。ソレの中で、遥か昔に失くした筈の感情が溢れだしていた。

 今まで恐れられ、憎しみをもって接していた自分に少女は手を差し伸べてくれた。自分と一緒にいてくれると言った。

 もはや思い出す事も難しくなった記憶。炎の中で苦しみながらも精一杯、助けを求めて手を伸ばした。誰もが見捨てた救いの手を、ペストが握ってくれる幻をソレは見た。

 

 ならば、何をすべきか。

 

『―――ト、オ、ウ』

「喋れたのか!?」

 

 軍服の男と白装束の女―――ヴェーザーとラッテンが驚きながらソレを見る。ソレは毅然と胸を張りながら、手を差し伸べるペストにたどたどしくも、しっかりと話しかけた。

 

『ア、ナ、タ、ガ―――ワ、タ、シ、ノ、マ、ス、ター、カ?』

 

 




ジャンヌ・オルタ「吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)!!」
自鯖群「「「ギャアアアアアアッ!!」」」
ジャンヌ・オルタ「ハァ、ハァ………ハ、ハハハ! 勝った、勝ったぞ! 見たか、ジャンヌ! 私こそ、私こそが真のジャンヌ・ダルクだ!」
サハラ「令呪三画をもって命じる! 全軍復活!」
ジャンヌ・オルタ「ふざけんなっ!?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。