月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完)   作:sahala

18 / 76
なんか調子が良かったのか、1日でエピローグが書けました。

追記:感想で勘違いされた方がおりましたが、これで完結ではないですよ。




エピローグ「星が瞬くこんな夜に」

 さて。それからどうしたかというと---。

 

「「「じゃあ、これからよろしくメイドさん」」」

「「「・・・・・・・・・はい?」」」

 

 “ノーネーム”へと所有権が移ったレティシアをコード:cureで石化を解くと、十六夜達は口を揃えて宣言した。突然の事態に黒ウサギとジンくん共々で間抜けた声が出る。

 

「はい? じゃないわよ。今回のゲームで活躍したのは私達五人じゃない。黒ウサギ達はついて来ただけだし」

「うん。私も精一杯の露払いをした」

「つーか挑戦権を持ってきたのは俺と岸波だろ。所有権は俺と岸波が3、お嬢様と春日部が2で話がついた!」

「いや、話し合ってないよ!?」

「そうだぞ! それでは余の取り分が0ではないか!」

「オーケー、皇帝様も入れて五人で等分だな」

「ならば良し!」

「よくありません!」

 

 もうツッコミが追いつかないなんて物じゃない。黒ウサギ達と一緒に混乱していると、当事者のレティシアはゆっくりと頷いた。

 

「ふむ・・・・・・・・・メイドか。確かに今回の事で、君達には大恩が出来たな。親しき仲にも礼儀ありと言うし、君達が望むなら家政婦をやろう」

「レ、レティシア様!?」

 

 黒ウサギが驚いた声を上げていた。それはそうだろう。自分にとっては大先輩にあたる相手が、立場としては自分の下につくと言っているのだから。

 

「本当に良いんですか? 俺は別に、助けた恩とか気にしませんけど」

「構わないさ。私もメイドというものを一度やってみたいからな。それよりも、君は主にあたるわけだから私に敬語を使わなくていい」

「・・・・・・・・・分かった。これからよろしく、レティシア」

「こちらこそよろしく。・・・・・・・・・いや、よろしくお願いしますでございます?」

「黒ウサギの真似は止めとけ」

 

 ヤハハと笑う十六夜に釣られて、自分達も笑顔になる。 この日、自分達“ノーネーム”に新たな同士兼メイドが出来た。これから賑やかな日々になりそうだ。

 

「金髪の童女が余の侍従か。ならば、あんな事もこんな事も・・・・・・・・・クフ、クフフフフフ」

 

 ---うん。セイバーとレティシアを二人きりにしない様にしよう。

 

 

 

 “ペルセウス”とのギフトゲームから三日後。夜中に自分達は“ノーネーム”敷地内の噴水前広場にいた。労働を担当する子供達を含め、その数は128人+1匹。数だけならば、ちょっとした中堅コミュニティだ。

 

「えー、それでは! 新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めたいと思います!」

 

 黒ウサギの開始宣言に、子供達がワッと歓声を上げる。屋外に運び出された長テーブルには、ささやかな宴会料理が並んでいた。10歳からそれ以下の子供達が料理を囲んでいるのは、端から見れば小学校のお楽しみ会に見えるだろうけど、自分は悪い気はしなかった。

 

「だけど、どうして屋外での歓迎会なのかしら?」

「うん。私もそれは思った」

「黒ウサギなりの精一杯のサプライズだろ」

「まあ、良いではないか。今宵は宴の準備をした黒ウサギ達に感謝して、吐くまで飲み食いするとしよう」

「セイバー、流石にそれは止めてね」

 

 セイバーが存命していた古代ローマでは、宴会は飲食しては吐き戻し、また飲食しては吐き戻すのが一般的だったらしい。

 “ノーネーム”の財政は決して豊かではない。こうして皆でお腹一杯に食べるというのも、ちょっとした贅沢になるくらいだ。そこまでして用意してくれた料理を吐かれるのは、あまり良い気はしないだろう。

 

「分かっている。余も現代の一般マナーくらいは心得ている」

「それにしても意外よね。こんな女の子が、あのネロ帝なんて」

「うん。私もびっくりした」

 

 飛鳥と耀がなんとなしに呟き、十六夜がそれに続いた。

 

「皇帝様の剣、原初の火(アエストゥス・エストゥス)というのは古代ローマの公用語だったラテン語だ。加えて剣を贈ったコミュニティ“パクス・ロマーナ”は、ローマ帝国の支配領域が平和な時代を指す言葉。トドメに臆面なく“余”を自称で使っている所からローマ帝国の皇帝だった人物とは思ったが、まさかネロ帝だったとはな」

「そなた等・・・・・・・・・何とも思わぬのか?」

 

 不安そうに聞くセイバーに、三人はキョトンとした顔を返した。

 

「なんで?」

「余は、あのネロだぞ。暴君として名高い皇帝だぞ?」

「馬鹿馬鹿しい。そんなの、後生の人間が勝手に言った事じゃない」

 

 髪を掻き上げながら、飛鳥は短く鼻を鳴らす。

 

「私は、私が見て感じた事しか評価しないわ。他人の評価なんて、鵜呑みにする必要がないもの」

「私は、セイバーと友達になりたいだけ」

 

 三毛猫を抱えながら、耀はまっすぐとセイバーの顔を見る。

 

「セイバーともっとお話したい。セイバーの話も聞いてみたい。他の人が暴君と言っても、セイバーの事をもっと知りたい」

「ま、皇帝様の過去なんて歴史の本でしか知り様が無かったけどな」

 

 十六夜が、いつもの人を食った---それでも少しだけ優しい笑みでセイバーを見た。

 

「重要なのは、ここにいる皇帝様がどうするかだろ? 俺が気になるのは、皇帝様が面白いかどうかだ」

「そなた等・・・・・・・・・」

 

 三人の飾らない言葉に、セイバーの翡翠色の瞳が潤む。でもそれは一瞬のこと。すぐにいつもの自信タップリな笑顔になった。

 

「よかろう! これから心ゆくまで、余の・・・・・・・・・ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスの華やかな姿を魅せてやろう! しかと心に刻みつけるが良い!!」

「期待しているぜ、皇帝様」

 

 笑い合うセイバー達に気付かれない様に、自分は安堵の溜め息をついた。いつもは堂々としているけど、セイバーは暴君と呼ばれる事に思う所はあったのだろう。統治した市民を愛し、市民を第一とした政策に取り組んだ彼女にとって、暴君という字は少なからず心に響いていたはずだ。

 まだ短い付き合いとはいえ、十六夜達がそんな色眼鏡でセイバーを見る人間じゃないと分かっていた。それでも万が一と心配していたけど、杞憂だった様だ。

 

(良かったな、セイバー)

 

 そんな自分達を余所に、宴もいよいよたけなわとなったのか、黒ウサギの声が辺りに響いた。

 

「それでは、本日のメインイベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕にご注目下さい!」

 

 言われた通りに皆が一斉に空を見上げた。星々が瞬く、綺麗な夜空だった。やがて---

 

「あ・・・・・・・・・!」

 

 その声は誰のものだったのか。それが合図だったかの様に、一つ、また一つと流星が箱庭の天幕を(はし)る。

 

「これが、流星群・・・・・・・・・」

「ああ、なんと美しい」

 

 初めて見る流星群に心を奪われていると、隣にいたセイバーも同意する様に目を輝かせていた。

 そこへ、黒ウサギが解説する様に声を張り上げた。

 

「箱庭の世界は天動説の様に、全てのルールが箱庭を中心に回っています。先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティはその責から“サウザンドアイズ”から追放され、あの星空からも旗を降ろす事になりました!」

「え?」

 

 なにか、黒ウサギがトンでもない事を言ったのが聞こえて驚いていると、一際大きな光が夜空を照らした。慌てて光の方を見ると、夜空にあった筈のペルセウス座が消え、代わりに夥しい数の流星がそこにあった。

 

「今夜の流星群は、“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”の再出発祝いも兼ねています。鑑賞するも良し、流れ星に願いを託すも良し。皆で心ゆくまで楽しみましょう♪」

 

 黒ウサギの音頭と共に、子供達が高々と杯を掲げ合う。だが、自分達は驚いてそれどころではなかった。

 

「空から星座を無くすなんて・・・・・・あの星の果てまで、箱庭の為の舞台装置だというの?」

「そういうこと・・・・・・・・・かな?」

 

 ハハハ、と飛鳥と耀が力なく笑い合う。自分も、まさか天体すら自由自在にする存在がいるなんて夢にも思わなかった。

 

「アルゴルの星が食変光星じゃない事は分かっていたが・・・・・・・・・まさか星座まで造られたものだったとはな」

 

 先ほどまでペルセウス座が輝いていた空を見上げ、十六夜は感慨深げに溜め息をついた。面白いから、という理由で世界の最果てまで行き、神にすら喧嘩を売った彼にとっては最高のサプライズだっただろう。

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

 気がつくと、黒ウサギが十六夜に声はかけていた。十六夜は降参と言わんばかりに両手を上げる。

 

「やられた、とは思っている。最果ての大瀑布に、水平に廻る太陽、黄金の劇場・・・・・・・・・色々と馬鹿げた物を見てきたつもりだったが、まさかこんなショーが残っていたとはな。お陰でいい個人的な目標が出来た」

「おや? それは何でございましょう?」

 

 破天荒な十六夜の目標というのが気になり、自分もなんとなしに聞き耳を立ててみる。すると、十六夜はペルセウス座の消えた夜空を指差し、

 

「あそこに俺達の旗を飾る、というのはどうだ?」

 

 まるで、旅行の行き先を決めるかの様に言ってみせた。

黒ウサギは驚いた顔になったが、すぐに笑顔になって頷く。

 

「それは・・・・・・・・・とてもロマンがございます♪」

 

笑い合う二人を見ながら、自分もその光景を想像してみる。それは、なんて---

 

「あれ?」

 

 気がつくと、セイバーが居なくなっていた。周りを見渡しても、彼女の特徴的なドレスを見つける事が出来ない。疲れて、どこかで休んでいるのかな? そう考えながら、宴席から離れた場所に足を向けてみた。

 

 

 

 宴会の会場から離れ、ぽっかりと広場になっている木立の中にセイバーはいた。彼女は何をするという訳でもなく、ただ静かに流星群を眺めていた。

 

「セイバー? こんな所でどうしたの?」

「・・・・・・あの者達は変わっているな」

 

 声をかけると、セイバーはポツリと洩らした。

 

「余を王として・・・・・・悪名高い暴君としてではなく、一人の人として見てくれる人間など、セネカと奏者以外にいなかった」

「セイバー・・・・・・・・・」

 

 セイバーの独自になんとも言えず、ただセイバーの名前を呼ぶ。彼女---ネロ帝は、実の母の為に皇帝という将来しか約束されなかった。その母ですら、自分の子を権力を振るう為の道具としか見ていなかったのだ。それでもセイバーは、セイバーらしく振る舞おうとした。その結果に残ったのが・・・・・・・・・暴君という烙印だった。

 

「奏者よ」

 

 セイバーの翡翠色の瞳が、まっすぐと自分を見る。いかなる宝石にも勝る翡翠の眼は、真剣と色合いを帯びていた。

 

「余は・・・・・・・・・私は、あの者達の力になってやりたい。彼等が己の旗が戻るまで、剣を振るってやりたい」

 

 ローマ帝国の皇帝でもなく、英霊としてでもなく。ネロとして“ノーネーム”の力になりたいとセイバーは言う。

 

「だが、私は奏者のサーヴァントだ。ムーンセルの制約は無くなったが、剣を捧げた誓いは変わらない」

 

 そして一呼吸置き---セイバーは切り出した。

 

「奏者は・・・・・・どうしたいのだ?」

「俺がどうしたいか、か・・・・・・」

「ここはムーンセルではなく、聖杯戦争もない。奏者は月では戦う事でしか生を許されなかったが、ここならば奏者が望めば平穏な生を歩む事が出来る」

 

 それは、かつて聖杯戦争の予選で見せられた偽りの生活。朝起きて、学校に行って、友人と他愛ない話をして。退屈だったけど、命の危機など無かった生活。それが真実の物として手に入る。

 

「奏者は月で十分に戦った。だから、奏者が望むなら---」

「それは違うよ」

 

 セイバーの言葉を遮って、否定する。

 

「奏者・・・・・・?」

「セイバー。俺は、平穏な生活を送りたいから聖杯戦争を終わらせたわけじゃない」

 

 いつだって、必死だった。負ければ死に、勝っても対戦相手の死を見届けなくてはならない。何度、気が狂いそうになっただろうか。あまつさえ、自分が作られたデータ上の存在でしかないと知った時は胸に穴が空いた様な気持ちだった。それでも---。

 

「それでも、さ。俺はここに---セイバーと一緒に、ここにいるという事を無かった事にはしなくなかった。セイバーが救ってくれた事を、無かった事にしたくなかった」

 

 思い出すのは、セイバーと初めて会った時。選定の間で倒れ、死を待つだけだった自分。それでも諦めきれない、と伸ばした手をセイバーは取ってくれた。あの時の姿は、例え地獄に堕ちても忘れる事は出来ないだろう。

 黒ウサギ達は、自分と十六夜達に助けを求めて手を伸ばしてきた。それなら---今度は、自分がその手を取りたい。

 

「奏者よ。そなたは---」

「さっきさ、十六夜と黒ウサギが話していたんだ」

 

 照れくささを隠す様に、セイバーの言葉を遮る。

 

「いつか、あの夜空に“ノーネーム”の旗を掲げようって。だから---」

 

 決意を顕わに、空を見上げる。もう大分、流星が収まってきた星空。その空に自分の決意を示す。

 

「俺はここに---“ノーネーム”にいたい。黒ウサギに、ジンくん。十六夜に飛鳥、耀達と一緒にまた夜空を見上げたい」

 

 ---あそこに俺達の旗を飾る、というのはどうだ?---

 

 先ほどの十六夜の言葉が脳裏に甦る。それはけっして楽な道では無いだろう。存続すら危ういこのコミュニティを立て直し、さらには旗を奪った魔王を探さなくてはならないのだ。

 でも。それはなんて---

 

「明るい光に満ちた、未来だよな」

 

 言いたい事を喋り終えると、セイバーは黙っていた。やがて、深い溜め息をつきながら口を開く。

 

「奏者にとって、それが“ノーネーム”と共に戦う理由か。なんとも、そなたらしい・・・・・・他者に対する慈愛に満ちた答えよな」

「むっ、そこまで博愛主義じゃないぞ? 襲いかかって来るなら、きっちりと撃退するし」

「会って間もない相手を無償で助ける、と言ってる時点で十分にお人好しだ、たわけ」

 

 くつくつとひとしきり笑い、セイバーは顔を引き締めた。

 

「奏者よ。あの者・・・・・・否、我等“ノーネーム”の目標は果てしなく遠い。今回のギフトゲームは、ペルセウスの末裔が使役しきれてないからこそ星の精霊を圧倒できた」

 

 もしも、アルゴールの魔王が万全ならばどうなっていただろうか? 少なくとも、今回の様に圧倒は出来ないだろう。

 

「この箱庭世界は、余が想像する以上の伏魔殿の様だ。下手をすれば、聖杯戦争が可愛く見える相手すら敵になるだろう。それでも、その意志は変わらぬか?」

「変わらない」

 

 セイバーの問いに即答する。聖杯戦争が可愛く見える? その聖杯戦争すら、自分はなんとか勝てたくらいだ。自分よりも遥かに強大な相手だなんて、いつもの事だ。

 

「そうか・・・・・・ならば、私も奏者に付き従おう」

 

 そう言うと、セイバーは片膝をついて剣を実体化させる。

 

「先ほども言ったが、ムーンセルの制約は既にない。だから、私と奏者の間にはサーヴァントとマスターという関係は形骸でしかないが・・・・・・改めて、ここで主従の契約を結ぶぞ」

「---分かった。やってくれ」

 

 突然の申し出に面食らったけど、セイバーの真剣な気持ちを汲んで応じる。セイバーは片膝をつきながら剣を正眼に構え、誓いの言葉を紡ぎ出した。

 

「誓いをここに。我の身は汝の下に、汝の命運を我が剣に。私、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスの名の下に誓う。そなたを再びマスターとして認めよう。岸波白野よ」

「俺からも、よろしく。セイバー---ネロ」

 

 厳粛をもって、セイバーの真名を呼ぶ。

 

 星が瞬くこんな夜に。

 自分と情熱的な皇帝は、再び戦う事を決めた。




セイバーの普段の一人称は余。個人として振る舞う時は私。
セイバーが岸波白野のオマケとしてではなく、ネロ個人として“ノーネーム”で戦う理由を作りたかった。同時に、岸波白野が巻き込まれたのではなく、確固とした意志で戦う理由を作りたかった。
そんな思いで書いたら、少し長くなりました。エピローグなのに(笑)

次回は、恐らくそのまま二巻の内容に突入すると思います。日常編を望む声があるので、どこかで日常編はやろうとは思っています。

作者のパソコンが使えず、スマホからの投稿なので今までの様にルビ振りが出来ませんが、マイペースに更新はしていきます。ではまた次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。