月から聖杯戦争の勝者が来るそうですよ?(未完) 作:sahala
でも今回と前回の合計文字数は14000文字くらいになります。
………バカジャネーノ?
そんな第9話
耀の様子を見ていると言ったジンくんに留守を頼み、自分と十六夜、黒ウサギに飛鳥を加えた面々は“サウザンドアイズ”の二一〇五三八〇外門支店に来ていた。既に話は伝わっているのか、店員に応接室へ案内してもらった。そこにはピリピリとした雰囲気を漂わす白夜叉と、亜麻色の髪に蛇皮の上着。さらには蛇髪の女性の頭を模したアクセサリーが付いたチョーカーを首に巻いた線の細い男が待ち構えていた。
「へえ。こいつが“月の兎”か。東側に来てるって噂だったけど実物は初めて見るなあ。つーかミニスカにガーダーソックスってエロくね? 君、ウチのコミュニティに来いよ。あ、僕は“ペルセウス”のリーダーのルイオスって言うんだけど。君が良ければ三食首輪付きで飼ってやるぜ」
開口一番、男―――ルイオスは黒ウサギを見るなり好色そうな視線で舐め回した。不躾な視線から守る様に、飛鳥が黒ウサギの前に立ちふさがる。
「これはまた随分と分かりやすい外道ね。断っておくけど、この美脚は私達のものよ」
「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」
突然の所有宣言にツッコミを入れる黒ウサギ。そんな二人を見ながら十六夜は呆れて溜息をつく。
「そうだぜお嬢様。この美脚は既に俺のものだ」
「いや、黒ウサギは俺達の
「良かろう! ならば黒ウサギの所有権を言い値で」
「売・り・ま・せ・ん! なんで皆様でふざけ合っているんですか!」
いや、ここはボケておくべきだと思って。そんな自分達のやり取りを見たルイオスは、ポカンとした顔の後に唐突に爆笑しだした。
「あっははははは! え、何? “ノーネーム”って芸人コミュニティなの? そうなら纏めて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうけど」
「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありませんよ」
嫌悪感を吐き捨てる様に黒ウサギは言う。でもさ、
「その服、見せる為に着てるんじゃないのか? 見えてるのではない、あえて見せてるのだ! ってカンジに」
「どこのストリートキングですか! これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この恰好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて………」
最後の方はゴニョゴニョと声が小さくなっていく黒ウサギ。横を見ると、十六夜と目が合う。自分達は頷き合い、白夜叉へ向き直った。
「「超グッジョブ」」
「うむ!」
ビシッ! とサムズアップする自分達三人。この瞬間、魂の絆を確かに感じた。
「いい加減、本題に入らせて下さい………」
仕切り直し、長机を挟んで対峙する自分達“ノーネーム”と“ペルセウス”のリーダー・ルイオス。白夜叉は両者の真ん中に位置するように上座へ座った。
「―――“ペルセウス”の狼藉は以上です。そちらのコミュニティの所有するヴァンパイアとその追手が、我らのコミュニティの敷地内で狼藉を働いたのは明白です」
黒ウサギの話には所々に嘘がある。レティシアが“ノーネーム”で暴れ回った様に言っているが、勿論そんなことはない。しかし“ペルセウス”が一方的に危害を加えて来たことにして、その遺憾を両コミュニティの決闘で解決させる。そして決闘で勝利した景品としてレティシアを“ノーネーム”に取り戻す。
それが事前に話した黒ウサギの作戦だった。
「この屈辱は両コミュニティによる決闘をもって、」
「嫌だね」
唐突にルイオスは言った。彼は髪を掻き上げながら、黒ウサギを流し見る。
「大体さ、吸血鬼が暴れたって証拠はあるの? そっちのでっち上げかもしれないじゃん」
「そ、それは………」
「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出す理由は君達だろ? 元・お仲間さん。実は盗んだんじゃない?」
「言いがかりです!」
「じゃあ調査してみる? ま、それをやって困るのは何処かの誰かさんでしょうけど?」
わざとらしく白夜叉を盗み見するルイオス。対する白夜叉は、鼻を鳴らして受け流していた。
そうか。レティシアが脱走できたのは、白夜叉が何かしら手引きをしたのだろう。“ノーネーム”は既に白夜叉に何度も融通して貰っている。ここでレティシアの事を調べられたら、自分達の関係も洗い出されて白夜叉のコミュニティでの立場も苦しくなるだろう。
同じ考えに至ったのか、黒ウサギは唇を噛んでそれ以上は追及しなかった。
「さて、僕はさっさと帰ってあの吸血鬼を売り払うとするかな。知ってる? 吸血鬼の買い手は箱庭の外のコミュニティなんだ。吸血鬼は不可視の天蓋で覆われた箱庭でしか日の光を浴びられない。アイツは日光という檻の中で永遠に玩具にされるんだ」
「あ、貴方という人は………!」
怒りのあまり、逆立ったウサ耳が震える黒ウサギ。しかし続くルイオスの言葉で凍りついた。
「アイツも馬鹿だよね。他人の所有物になるなんて恥辱を被ってまで、己のギフトを魔王に譲り渡すなんてさ」
「………え?」
「気の毒な話だよ。魔王に生命線であるギフトを譲って仮初の自由を手に入れたのに、昔の仲間は誰も助けてくれないんだもんなぁ。いやはや目を覚ましたら、アイツはどんな顔をするんだろうねえ?」
待て―――つまりレティシアは、自分の魂の欠片を砕いてまで―――“ノーネーム”へ駆けつけようとしていた………?
「取引しないかい、月の兎さん」
スッとルイオスは手を差し出し―――邪悪な笑みを浮かべた。
「吸血鬼は返してやる。その代わり………君は生涯、僕へ隷属するんだ」
な―――!
「何を言ってるの! そんな提案、聞けるわけないでしょ!」
怒りのあまり、飛鳥は席を立つ。自分も同感だ。レティシアを助ける為とはいえ、こんな男に黒ウサギを渡せない!
「妥当な取引だと思うよ? “箱庭の騎士”の吸血鬼の代わりに、“箱庭の貴族”である月の兎がウチに来る。交換レートは釣り合ってるだろ? それとも元・お仲間が惜しくないとか?」
「………っ!」
「ホラホラ、君は月の兎なんだろ? 帝釈天に自己犠牲の精神を買われて箱庭に招かれたんだろ? 今度は君のお仲間の為に、僕にその身体を差し出し」
「
黙り込んだ黒ウサギに尚も詰め寄るルイオスは、飛鳥の“威光”で強制的に口を閉じさせられる。
「っ………!? ……………!!?」
「不愉快だわ。そのまま
混乱するルイオスに、飛鳥は更に“威光”を使う。ルイオスはそのまま体を前のめりにさせ………いや、違う。これは!
「こ、の、アマ。そんなものが、通じるのは―――格下だけだ、馬鹿が!」
飛鳥の“威光”に逆らう様に、急激にルイオスは体を起こす。その手にはギフトカードから取り出した金色の半月形の鎌。それを飛鳥の首めがけて振り下ろし―――
「gain_con()!」
「オラッ!」
防御を強化させる
「な、なんだお前?」
「十六夜様だ。喧嘩なら利子つけて買うぜ? もちろんトイチだけどな」
鍔迫り合っていた鎌を蹴って押し出すと、十六夜は一端距離を取った。なおも追撃しようとするルイオスに、白夜叉の叱責が飛ぶ。
「ええい! 止めんか小童ども! 話し合いで解決出来ぬのなら外に放り出すぞ!」
「向こうが先に手を出したんですがね」
舌打ちをしながら、ギフトカードへ武器を収めるルイオス。黒ウサギは間に入って仲裁をした。
「ええ、分かってます。これで今夜の一件は不問としましょう。………先程のお話ですが、少しだけお時間を下さい」
「「黒ウサギ!?」」
返事に驚く自分と飛鳥。しかし黒ウサギはこちらを振り向かず、ウサ耳を萎れさせていた。
「オッケーオッケー。こっちも取引のギリギリの期限………一週間先まで待ってあげる。僕の物になる決心が着いたら、いつでも来なよ」
鼻唄を歌い出しかねない上機嫌で、ルイオスは退室した。残された自分達は、ただ重苦しい沈黙に包まれていた―――。
あれから一晩明けた早朝。自分は自室のベッドでの上で天井を見上げていた。結局、あの後に“ノーネーム”に帰ってきた自分達は黒ウサギと話し合ったが、レティシアを見捨てる事が出来ない黒ウサギとは話が平行線のまま会議は終わってしまった。
騒ぎを起こした自分達はジンくんから謹慎処分を言い渡された。大方、頭を冷やす時間を設けてくれたのだろう。深夜になって自分はベッドに入ったが、寝付く事が出来ずに夜が明けてしまった様だ。
「ふう………」
思わず溜息をついてしまう。当然だけど、自分はレティシアがこのまま箱庭の外へ連れて行かれるのを黙って見ている気は無い。でもレティシアの為に黒ウサギをルイオスの奴隷にするつもりも無い。あの男は黒ウサギを手に入れたら欲求の捌け口として徹底的に黒ウサギを辱めるだろう。そんな男の元へ、黒ウサギが行くのを黙認できるはずが無かった。
「いや、違うな」
ゴロン、と寝返りを打ちながら一人ごちる。前提条件が間違っている。黒ウサギかレティシアかの二者択一ではない。自分はどうにか二人を助けたいのだ。
再び寝返りを打ちながら状況を思考する。現在、レティシアはルイオスの手の内にある。これをどうにかするには向こうの要求を呑んで黒ウサギを差し出すか、ルイオスからレティシアを取り戻せる状況にする必要があるだろう。その状況を作るには?
①ルイオスのコミュニティ“ペルセウス”を壊滅させる。
これは論外。十六夜達の力があれば出来そうに見えるが、そうなると“ペルセウス”が所属している“サウザンドアイズ”が黙ってないだろう。多くの敵を作るこの方法は除外だ。
②ルイオスからレティシアを買い取る。
これも無理だ。“ノーネーム”の台所事情は自分が考えるよりも芳しくない。恐らくコミュニティの全てを質に入れても、レティシアの売値には満たない。
③ルイオスがレティシアを手放さざるを得ない状況にする。
これはどうだろうか? 一見、不可能そうだが何とかならないだろうか? 例えばそう、ルイオス本人ではなく“ペルセウス”として動かなくてはいけない様な―――。
そこまで思考が行き渡った時、不意に思いついた事があった。すぐに確認を取らないといけない。自分はベッドから起き出して身支度を済ませると、朝食も摂らずに“ノーネーム”を後にした。
「また貴方ですか………」
“サウザンドアイズ”の店の前まで来ると、掃き掃除をしていた着物の店員がウンザリといった顔で出迎えた。
「流石は“名無し”のコミュニティですね。開店前に来るとは最低限の常識すら持ち合わせていない様で」
「白夜叉に会わせて欲しいんだ。すぐに取り次いで貰いたい」
店員の嫌味を無視して用件を述べる。今は時間が惜しい。こんな所で遊んでいる暇は無いのだ。
「開口一番にそれですか。何度も言う様に、当店は“ノーネーム”はお断り、」
「白夜叉に会わせてくれ」
「っ、ですから、」
「お願いします。白夜叉に取り次いで下さい」
頭を下げて―――それでも視線は店員の目から切らない―――店員に頼み込む。店員はじっくりと三十秒くらい黙り、
「………当店は“ノーネーム”は入店禁止なのですが、今は営業時間外。売買をするわけでも無いですから、“サウザンドアイズ”の規定には反しないでしょう」
そう言って、こちらに背を向けて店員は掃き掃除を再開する。
「ありがとうございます」
「座り込みでもされたら面倒ですから。さっさと白夜叉様への用件を済まして出て行っていただきたい」
あくまでも無愛想に言い放つ店員に頭を下げると、自分は白夜叉の私室を目指して“サウザンドアイズ”の店内に入って行った。
「おう、おんしか。そろそろ来る頃だと思ったぞ」
白夜叉の私室へ行くと、中で御膳に乗せられた朝食を食べている白夜叉がいた。対面には同じ様に御膳に乗った朝食が、手の付けられていない状態で置かれていた。
「その様子では食うものも食わずに来た様だの。どうじゃ? おんしも馳走になるがよかろう」
「いや、俺は」
「よいよい、遠慮などするな。話をするにしても腹が減っては戦は出来ぬ、と言うからの」
そこまで言われたら断るのも失礼だろう。御膳の前に座り、朝食に手を付ける。メインであろう焼き魚を口に運ぶと、ホクホクとした焼き加減の身が口の中で踊った。
「おいしい………」
「その朝食は店の前にいた者が作ったのだよ。あやつは性格がキツイが、仕事ぶりは有能だからのう」
そう言ってカラカラと白夜叉は笑う。
その後、すっかり朝食を御馳走になり、御膳の上の食器が空になる頃には自分の腹も大分膨れていた。
「御馳走様でした」
「うむ。お粗末さまじゃ。食事の挨拶は作った者と食材への感謝を示す大切なものだ」
口にしたら怒るだろうけど、白夜叉はおばあちゃんみたいだな。もっとも、自分より長く生きているだろうから当然かもしれないけど。
「さて。そろそろおんしの訪問の理由を聞こうかの」
居住まいを正した白夜叉に自分も真剣な表情になる。答え次第では、今後の行く末を左右する重要な事だからだ。
「“ペルセウス”をギフトゲームに引きずり出す方法を教えて欲しい」
「これはまた唐突だの。そもそもどうしてそんな考えに至ったのやら」
「………少し考えてみたんだ。コミュニティがどうやって名前と旗印を売るのかを」
ガルドから取り上げられた旗印を返された人々を見れば分かるが、コミュニティにとって名と旗印は命の次に大事な物だ。ではその名と旗印を売るにはどうすればいいか?
もっとも簡単な方法はギフトゲームで連勝する、もしくは自分でゲームの主催者を行うことだ。
「あの後に黒ウサギから聞いたけど、“ペルセウス”は五桁のコミュニティ。それくらいの上位にいるなら“ペルセウス”主催のギフトゲームだってあるはずだ。それも“ペルセウス”の名前に相応しい様な」
ギフトゲームの主催を行うコミュニティは、名前を効果的に売る為にコミュニティの名に関連したギフトゲームを開催するはずだ。白夜の魔王であった白夜叉が、自分の名と同じ白夜の世界をゲーム盤とした様に。
「もしもそんなギフトゲームをクリアしたら、それこそコミュニティの名前と沽券に関わる事だ。リーダーのルイオスが無視しても、“ペルセウス”として黙っていられなくなるはずだ」
そこまで言い終わると、白夜叉はニンマリとした笑みを浮かべた。
「ふぅむ。少し甘いが及第点にしておこうかの。おんしの予測通り、“ペルセウス”主催のギフトゲームはある。それも下層のコミュニティに常時挑戦を受け付けている物がな」
「っ! それは、」
期待していた以上の情報に、腰を浮かせかけた自分を手で制して白夜叉は先を続ける。
「おんし、ペルセウスの伝説は知っているかの」
「………概要くらいは」
ペルセウスはギリシャ神話に登場する半神の英雄だ。彼はハデスの不可視の兜やヘルメスの空飛ぶサンダル、不死身殺しの鎌ハルペーやアテナの盾といった様々な
「そのペルセウスはな、ゴーゴン殺しに行く前に二匹の怪物を相手した。それがグライアイとクラーケン。コミュニティの“ペルセウス”もまた、この二匹を見事打倒した者には自身への挑戦権を認めておる」
つまり、“ペルセウス”に挑むには伝説をなぞって怪物達の試練を乗り越えて来い、ということか。それだけ聞ければ十分だ。
「これがギフトゲームの開催場所だ。持って行くがいい」
白夜叉が柏手を打つと、自分の手元に地図が現れた。
「何から何までありがとう、白夜叉」
「よいよい。私もルイオスの小僧には腹を立てておるからな。心ばかりの意趣返しというやつだ」
ひらひらと扇子を振ってはぐらかす白夜叉に頭を下げ、自分は“サウザンドアイズ”を後にした。
―――Interlude
「よろしかったのですか? あの少年より先に“ノーネーム”の仲間が来ていた事を伝えなくて」
岸波白野が退室した後、朝食を下げに来た女性店員は白夜叉に問う。岸波白野が来る前、まだ日が昇って間もない内に逆廻十六夜が訪ねて来ていた。問われた白夜叉は、欠伸を噛み殺しながら答えた。
「構わんじゃろ。逆廻十六夜の性格からして力が強いクラーケンの方から挑むじゃろ。対して岸波白野はここから近いグライアイの試練に挑むじゃろうから、行き違いになる事はあるまい。それしてもあの童め、火急の事態とはいえ私を叩き起こしおって………せめて岸波白野を見習って欲しいものだ」
「………本当に、よろしかったのですか? あの金髪の少年はともかく、先ほどの少年にグライアイは荷が勝ちすぎると思いますが」
女性店員が心配しているのはそこだ。下層に常時開放さているとはいえ、グライアイは神話級の怪物だ。本来なら複数のコミュニティが数日かけて挑む試練を岸波白野がどうにか出来るとは思えなかった。
だが白夜叉はニヤリと笑い、唐突に関係ない質問をした。
「のう、おんし。岸波白野のギフトをどう思う?」
「え? 確か、傷の回復や身体能力を向上させるギフトでしたよね? それなりに強力だとは思いますが………」
「そう、それなりには強力よな」
“フォレス・ガロ”の事の顛末を聞き及んでいた女性店員に、白夜叉は含みのある笑みで返す。
確かに岸波白野の支援のギフトは強力なものだが、昨夜の“ペルセウス”との会談に同席していた白夜叉は違った見方をしていた。
(ルイオスの小僧が武器を出した時………岸波白野は十六夜が割って入るのを見越したかの様に支援の術をかけておったな。それどころか、ルイオスが攻撃することも予め分かっていた様だ)
目の前の敵どころか味方の状況すら把握する観察眼はさながら歴戦の指揮官だ。見た目が二十にも満たない若者が持ち得るものではない。
(それに、たかが強力な支援の術を使えるくらいで“月の支配者”を名乗れるとは思えないな。いい機会だ、“ペルセウス”には岸波白野のギフトを見極める試金石となってもらおうかのう)
クックックッと笑う白夜叉を、女性店員は不思議そうに見つめていた。
―――Interlude out
一度“ノーネーム”に帰ってきた自分は、皆にばれない様にこっそりと準備をする。ジンくんや黒ウサギに話したら危ない事はさせられないと反対されるだろうし、飛鳥達は自分と同じく謹慎中の身だ。勝手な事をして怒られるのは自分だけでいい。
地図によると、一番近いのはグライアイのいる場所だ。歩いて一日といったところか。アゾット剣、食糧や水、寝袋などをギフトカードへ入れていく。便利な事に、ギフトカードはギフトの宿った武器以外にも色々な道具を収納できるらしい。用意した物が全て光の粒子となってカードに吸い込まれたのを確認した後、玄関へと向かった。
――――――。
ふと、誰かに呼ばれた気がして周囲を見回す。朝の早い時間の為か、廊下には人影が見当たらなかった。
―――――よ。
「まただ………」
また声が聞こえた。自分の気のせいでは無いらしい。立ち止まって、辺りに耳を澄ませてみる。
――――者よ。
「こっちか?」
声の方向に足を運んでみる。そこは以前、ジンくんからアゾット剣を貰った地下室の保管庫だった。何かあるとすれば、この中だろう。覚悟して保管庫へ踏み入る。
扉を開けると、相変わらず埃っぽい臭いがした。あれから誰も入ってないのだろう。
―――奏者よ。
ふと、懐かしい声が聞こえた気がした。雑然と置かれた武器や道具を避けながら進むと、そこには以前入った時に見た揺らめく炎の様な長剣が置かれていた。どうやらあの時のままになっていたらしい。
「ひょっとして、この剣が呼んでいたのか?」
試しに刀身へ手を触れてみる。剣からはヒンヤリとした手触りしか感じないはずなのに、何故か熱を帯びてる様に感じた。さながら、火種が無くて燻った炎の様に。
しばらく剣に触れて考える。どう考えてもこの剣は自分に不釣り合いだ。十六夜の様に身体能力が高いわけでもないし、剣の腕に覚えがあるわけでもない。自分がこの剣を持った所で満足に扱えないだろう。
なのに―――何故、この剣から懐かしさを感じるのだろうか?
「………持って行くか。御守り代わりにはなりそうだし」
自分を納得させる様に呟くと、ギフトカードへ剣を仕舞った。
はい、ようやくここまで書けました。もはやこの言葉も挨拶になりそうです………。
次回に皆さんお待ちかねの、あのキャラが登場します。どうぞお楽しみに!