艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file53:逆ノ手

10月26日朝 鎮守府提督室

 

「んっ!なんだっ?」

提督が1通の封筒を見るなり表情がこわばったので、秘書艦当番だった長門が近寄ってきた

「どうした?提督?」

「霞から文が届いているぞ!」

「5151・・・そうだな、間違いない」

「まさか、虐待でもされてるんじゃあるまいな。いざとなったら第1第2艦隊で突撃するぞ!」

「ま、待て。まずは開封して読んでみないと」

「そ、そうだな。落ち着こう」

 

 拝啓 提督殿 鎮守府の皆様

 過日はひとかたならぬご配慮を賜り厚く御礼申しあげます。

 下名以下、派遣された艦娘は皆元気に、忙しく過ごしております。

 手紙での報告となった御無礼をお許しください。

 過ごしやすい季節になりましたが、どうぞ無理をなさいませぬよう。

 まずは無事のご報告まで。

                          敬具

 

 追伸: 龍田先生に万事完了とお伝えください。

 

 

「これはSOSの暗号じゃないよな?縦書きじゃないよな?透かし・・でもないな」

「だ、大丈夫だと思うぞ?そこまで深読みしなくても」

「最後の1文が凄く気になるんだけど」

「龍田を呼ぼうか?」

「うむ、伝えてくれと言ってるしな」

 

「はぁい、お呼びですか提督?」

「龍田、霞達から手紙が届いたんだが、見てくれるかな」

「・・・あらあら、しっかりやってるようですね~」

「SOSじゃないよな?」

「深読みしすぎです~」

「そうか・・それにしても、最後の一文はどういう意味なんだ?」

「送り出す時にアドバイスをあげたから、そのお返事ですね。ちゃんと報告してくるなんて良い子ね~」

「そうだな、さすが霞だなあ」

「上手く行くと良いですね~」

「そうだなあ」

「じゃあ、教育方には私から知らせておきますね」

「おぉ、そうだな。頼むよ」

「失礼します~」

パタン。

そうですか。鎮守府制圧完了しましたか。大体予想通りの頃合でしたね。

 

「そうだ、知らせると言えばタ級達にも知らせてやらないか?」

「ん?ああ、あの時協力してくれたからな。良いかもしれない」

 

 

10月27日夕方 鎮守府教育棟

 

「凄いわねぇ」

妙高は感慨深げに言った。職員室の机で雪崩を恐れずに仕事が出来るのはいつぶりだろう?

長良達と書類の緒戦は長良TKOという惨敗でスタートした。

だが、それが3人の整理魂に火をつけた。

翌日には提督に「3人とも専属でやります!」と宣言。

積み上がる書類の山を前に、

「やってやるわよー!」

「えい!えい!おー!」

と、気勢を上げて宣戦布告したのである。

途中、名取がパソコンを、長良が大型書棚を、由良がファイル等事務用品の購入を申請。

膨大な書類の束をきちんとファイルに収め、書棚に並べ、パソコンで台帳化。

講師陣に要否を聞いたり、運用を考えたりしながら整理作業に取り組んでいった。

その結果、およそ半数の書類が紙の山脈から整理された状態になったのである。

机から書類の山が消えたので、講師は机のスペースに書類を広げて作業できるようになった。

また、事務方が教材の複製や手配等を手伝ってくれるので、本来すべき仕事に時間を割けるようになった。

これらにより、疲労困憊だった講師の負担は大幅に減ったのである。

足柄が長良達に声をかけた。

「さっきはごめんなさいね、資料が漏れてて急に20部も用意してもらっちゃって」

「平気です!お任せを!」

「事務方、退屈じゃない?大丈夫?ちゃんと休んでる?」

「いえ、結構体力勝負なので体が動かせて楽しいです!」

「そういう物なんだ・・・じゃあ名取ちゃんは大変じゃない?」

「わ、私は、主にパソコンで台帳を整備してるので平気です。」

「名取ちゃん凄いんですよ!文書を番号で区分したり保管期限といったルールも検討してるんですよ!」

「そ、その方が、皆が解りやすいかなって」

「あの文書番号は名取ちゃんの発案だったのね。探すのに便利だからしょっちゅう使ってるわ。ありがとう!」

「あ、い、いえ、ありがとう、ございます」

その光景を見て、龍田は頷いた。

事務方は頭脳も体力も両方必要とされます。

長良も由良も頭の切れる方ですから、名取の案を理解して塩梅良く分担をしているのでしょう。

以前の職員室では受講生に見せるのは恥ずかしかったですが、このまま整理が進めば大丈夫でしょう。

提督も見てないようで、ちゃんと艦娘の適性を見てますね。感心感心。

 

 

10月28日午後 岩礁の小屋

 

「ホウ。ソウデスカ。アノ艦娘達ハ、無事異動シマシタカ」

打合せの後、霞達の異動成功を聞いたタ級は顔をほころばせた。

「少シシカ協力シテナイガ、気ニナッテイタ。アリガトウ」

「いやいや、君達のおかげで円滑に異動出来たんだ。感謝しているよ。」

「ソウカ?」

「あまりに怖い思いをしてるとLV1化しないといけないしね」

「LV1化ッテ、ナンダ?」

「簡単に言えば記憶の消去だよ。辛い事も忘れられるが、嬉しい事も全て忘れてしまう」

「・・・・ソレハ、可哀想ダナ」

「あまりにも辛すぎて今が苦しい時だけ、だね」

「ダナ」

「そうならないように出来たんだから、君達の意味は大きいんだよ」

「・・・ソッカ」

「そう。だから、ありがとう」

「ウン。ワカッタ。ドウイタシマシテ」

「そういえば、大隅さんは補給隊だったんだって?」

「ア、言ッテナカッタカ?スマナイ」

「いやいや。ところで、補給隊は解散したそうだけど、他に艦娘転売ルートはあるのかな?」

「我々ガ知ッテル範囲デハ、無イ」

「知ってる範囲?」

「深海棲艦ハ、小規模マデ含メルト沢山軍閥ガアルンダ」

「そうか・・」

「デモ、大規模ナ取引ニハ、資源トカ、対応組織モ必要ダカラ、ソウソウ居ナイ筈」

「増えないと良いな」

「ソウネ。トコロデ、ホ級、イヤ、大隅ハ、ドウダ?」

「研究班と色々やってるんだが、なかなか上手くいかない」

「彼女ノ件モソウダガ、色々、早ク見ツカルト良イ事ガ、溜マッテルナ」

「そうだね。探してる間は疲れるからな」

「マァ、ヤルシカナイナ」

「すまないけど、引き続き頼むよ」

「提督ガ謝ル事ジャナイシ、毎週来ルノモ慣レタ。デハ、リ級ニモ伝エテオク」

「ああ、よろしくと言っておいてくれ」

 

「ソウデスカ・・・」

リ級はタ級から艦娘達の報告を聞いて機嫌が良くなったのだが、LV1の話を聞いて考え込んだ。

記憶を消す、か。

深海棲艦の中にも悪夢に悩まされている者は結構いる。

轟沈した記憶、集中砲火された記憶、裏切られた記憶、ミスした記憶。

艦娘と違ってLVの概念が無いが、記憶を消せたら楽になれる子は多いだろうに。

「ドウシマシタ?」

タ級が心配そうに聞いて来た。

「イエ、深海棲艦ニモ、記憶ヲ消ス方法ガアレバ、楽ニナレル子ハ居ルダロウナト思ッテ」

「私ハ辛イ記憶モアリマスガ、ボストノ思イ出ガ消エルノハ、嫌デス」

「・・・アリガトウ。ソウカ。逆ノ考エモ、アルカ」

「ハイ」

「・・・・ア」

「ドウシマシタ?」

「艦娘カラ、深海棲艦ニスル方法ハ、アルンダヨナ」

「ハイ」

「ジャア、ソノ逆ヲシタラ、深海棲艦カラ艦娘ニ、ナルノカ?」

「逆?」

「艦娘カラ深海棲艦ニスル方法ヲ知ッテルノハ、チ級ダケカ?」

「ソンナ事ハ無イト思イマスガ、確実ニ解ルノハ、チ級ダケデスネ」

「・・・・駆逐隊、カ」

「私ガ連レテ来マショウカ?」

「無理スルト戦イニナル。数ガ多イカラ面倒ダ」

「ソウデスネ・・・」

「ウチニ、出来ル子ガ居ナイカ、確認シテミテクレナイカ?」

「ソウイエバ、結構増エマシタネ。解リマシタ。聞イテミマス」

「頼ム」

 




漢字の送り仮名をカタカナにするFEPって無いでしょうかね・・・
今はFEPって言わないのかな。

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