艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file44:ホ級ノ門出

9月17日夕方 某居酒屋

 

「そうか!良かったな!」

大隅は事業を解散することと、合わせて人間になるべく色々試してみる事を虎沼に伝えたのだ。

すると虎沼は満面の笑みで祝してくれた。

「人間になれたとして、姿は今と変わるのかい?」

「艦娘の頃は人間でいうと中学生位の感じだったから、どちらの姿で戻るかは解らないわ」

「え?ちゅ、中学生だったのか?」

「実際はもっと年上だけど!姿形って話よっ!あっ!ねっ、年齢は聞かないでよねっ!」

「女性にトシなんて聞かないよ・・・」

「でも・・」

「ん?」

「また虎沼さんは仕事が無くなっちゃうね」

「今度は蓄えもあるし、当分は鋼材屋さんだ」

「鋼材屋さん?」

「俺が報酬として貰った鋼材、まだ大量にストックしてるんだ」

「ああ、そういえば」

「それと、大隅さんの貯蓄分もまだ鋼材だから現金化しないといけない」

「!」

「だからまずはそれだ。落ち着いたら次の職を考えるが、数年はやりくりしてるだろうよ」

「あ、あの話、本当だったんだ」

「嘘ついてどうする」

「励ましてくれたのかなあって」

「勿論励ましだし、励ましで嘘言ったら余計酷いだろ・・・」

「そっか・・・うん、そっか・・・」

「おっおい、泣くなよ・・ほら、飲め・・って中学生か」

「ちゅ・・中学生じゃ・・ない・・ってば」

「でも、中学生と言えば、娘が生きてたらその位だなあ」

「・・・え?」

「小学校入学した直後だったんだが、妻と一緒に事故に遭ってな。二人とも即死だった」

「!」

「大隅さんで戻るなら一人でも生きていけるだろうし、ええと、艦娘だと・・何だっけ?」

「阿武隈」

「そうそう、阿武隈さんとして中学生になったとしても、俺が親代わりに面倒見てやるよ」

「えー、虎沼さんは良いお父さんなのかなあ?」

「あっ!馬鹿にしただろ!ちゃんと家事出来るんだぞ!料理だって作れる!」

「お父さん飲み過ぎだよ、はいお水!とかやらないといけないのかな?」

「ぐっ!!ふ、二日酔いは・・たまにしか・・ない」

「へぇ~?」

「うわ!疑ってるな!よし!娘として来たら深酒は一切しない!」

「そんな事言っちゃって良いの~?」

「俺はやると言ったらやる!」

くすくす笑いながら、ホ級は思った。虎沼さんが父さんか。それも良いかもしれない。

 

 

9月18日夕方 岩礁の小屋

 

「エ、エト、ホッ、ホ級・・・デス」

「よろしくねっ!あと、今提督呼んで来るから、中入って待ってて!」

タ級とリ級が久しぶりにカレーを食べに来て、予約をしていった。

島風は後がつかえないよう、最終枠を押さえた。

そして、時刻通りにタ級とホ級が姿を現したのである。

ちょんと岩に乗っかったかのような小さな建物を見て、ホ級は思った。

こ、この小屋が鎮守府?私が居た鎮守府より物凄く小さい気がする。

というか工廠も格納庫も港も無いじゃない!

「ア、アノ、タ級サン」

「何?」

「シ、信用シテ、良インデスヨネ?」

「大丈夫。提督ヲ信ジロ」

「コ、コノ鎮守府、高波デ壊レナイカナ?」

「ヘ?」

「ダッテ、今ニモ水ガ・・・」

「コレ、鎮守府ジャナイヨ?」

「エッ?」

「鎮守府ハ、アノ島ノ奥ダゾ」

「ソ、ソウナンダ・・・」

「ダカラ島ニ提督ヲ呼ビニ行ッタジャナイカ」

「良カッタ・・」

 

「おーい、お待たせ~」

提督が夕張に曳航されたボートで岩礁にやって来ながら、タ級達に声をかけた。

ホ級はガッチガチに緊張していた。どうしても人間に戻りたい!出来れば阿武隈の姿で!

よっこいせと降りてきた提督に直角に頭を下げると、

「ハッ、ハジメマシテッ!ホ級デスッ!フツツカ者デスガヨロシクオ願イシマシュ!」

言い終えてホ級は真っ赤になった。のっけからいきなり噛んだ!しかもなんか変な挨拶っぽい!

しかし、提督はにっこり笑うと、

「君が深海棲艦から戻りたいっていう子だね。提督です。よろしくね」

そういうと手を差し出してきた。

ホ級は焦って、

「オッ、オ金デスカ?用意シテナカッタノデスガ、エト」

「違う違う。握手だよ」

「ア・・・」

タ級がホ級の肩を叩きながら、

「大丈夫ダカラ、少シ、落チ着ケ」

「ハッ、ハイ!」

「まぁ立ち話も何だし、小屋に入ろうか」

夕張が声をかけた。

「提督!同席して良いですか?」

「勿論だよ。夕張達の知恵も借りないとダメだろう」

「わーい」

 

後片付けをしている面々を除き、ホ級、タ級、夕張、蒼龍、そして提督が小屋の中に入った。

タ級が一通り説明した。

「ソレデ、コノ蒼龍ガ、提督ニヨッテ艦娘ニ戻ッタ訳ダ」

「ナルホド!実績ガアルンデスネ!」

「一応、あるにはある」

「私ハテッキリ、色々実験サレルノカト!」

「勿論研究に協力してくれるんなら大歓迎よ!色々試して欲しい薬とか機械とかあるし!」

「ヒッ」

「夕張、目が星になってる。ヨダレ拭きなさい。乗り出すな。ホ級が怯えてるじゃないか」

「アト、提督」

「ん?」

「コノ、ホ級ハ、人間ニ化ケラレル」

「タ級と一緒か」

「ソウダ。ホ級、化ケテミテクレ」

「ア、ハイ」

「待って!ちょ、ちょっとだけ待って!」

「?」

全員が見ると夕張がHDDをガシャガシャと艤装に装填してる所だった。

「あの、夕張さん」

「何ですか提督、今忙しいんです!」

「どうして兵装にHDDが要るの?」

「何言ってるんですか!録画用ですよ録画用!ホ級さん!」

「ハ、ハイ」

「ちょっと待ってね!まだ半分装填しないといけないから!」

「ハ、ハァ・・」

装填の終わった片側からジャキン!とカメラ数台とガンマイクが飛び出してきた。

「ろ、録画用って・・・何台HDD装填するのさ?」

「これで最後・・・っと。え?12台ですよ?」

「なんで12台も要るの!?」

「撮り逃すわけに行かないでしょ?フル4Kで立体的に撮るならこれくらいは」

「そんな高画質で撮らなくて良いでしょが」

「いーじゃないですか!お小遣いで買ってるんだし!音だって凝ってるんですよ!」

「兵装を私物で改造するんじゃありません!」

「提督だって執務室に栗羊羹3本も隠し持ってるじゃないですか!」

「なっ!何故知ってる!どこから見てた!」

「青葉ちゃんと情報交換してるんですぅ!」

「個人情報の勝手な譲渡は禁止されてます!」

「提督は公人だから良いんです~!」

「そんな理屈は通りません!それから兵装没収します!」

「あ~ひど~い!提督の横暴を許すな~!」

ホ級はぽかんと見ていたが、タ級がホ級に囁いた。

「コレガ、ココノ日常ダ」

「・・・結構、騒々シイ?」

「ウン。コンナモノジャ、ナイガ」

「ソウナンダ」

「デモ、仕事ハ真面目ニスル」

「アマリ想像出来ナイケド」

「私モ、最初ハソウ思ッタ。スグ解ル」

「ソウナンダ」

「・・・楽シソウダロ?」

夕張と提督はぎゃんぎゃん論戦を交わし、蒼龍はゆうゆうとお茶を飲んでいる。

ホ級はふっと笑うと、

「・・・ソウネ」

と言った。

 




名称誤りを直しました。

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