艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file43:隊ノ終焉

9月9日午後 岩礁の小屋

 

「人間に、かあ」

「ソウナノダ」

事情を聞いた提督は腕を組んだ。

「艦娘に戻ってくれたら、近代化改修か解体の時に人間になれるけど・・・」

「ヤッパリ、深海棲艦カラ、艦娘ニ戻ルッテ所ガ問題ダナ」

「だね」

その場に居るメンバーは溜息を吐いた。

研究室でも艦娘に戻る方法を試行錯誤しているのだが、残念な事にまだ1件も成功していない。

全員満足げに成仏してしまう。

だからこそ、リ級が転売された艦娘達を艦娘のまま引き渡してくれる事に価値がある。

夕張が口を開いた。

「提督、やっぱり全体を通して1回見せて欲しいのですけど」

「見せられるんならとっくに見せてるってば」

「ヲ級から蒼龍に戻った所だけは録画してあるんですけど、それ以外が無いので」

「なんというか、日常会話してたらいつの間にか戻った、というものだったからな」

「蒼龍、私達のやってる事と貴方の時で明らかに違う事ってある?」

蒼龍はずっと考え込んでいたが、あっと声を上げた。

「何?蒼龍」

「えっとね」

「うんうん」

「提督と一緒に居たいなって、凄く強く思ってたよ」

「え」

「提督は話を聞いてくれて、皆とわいわいガヤガヤ楽しく話せて、小屋に来るのが楽しかった」

「あー、そうだったねえ」

「だから、艦娘に戻るとかの選択肢じゃなくて、ずっと提督と一緒に居たいって願ってた。」

「面と向かって言われると物凄く恥ずかしいんだが」

「今も変わってませんよ?」

「なっ!?」

「まぁ、違いと言えばそれくらい。後は最初から深海棲艦になりたくなかったって事」

「そういやそうだったね」

「後の方は個々の事情だけど、前の方は今から何とかなるよね」

「どういう事?」

「人間で居たい理由があるはずじゃない。だから光に包まれたらそれを強く願って・・という」

「それは物凄いバクチじゃない?」

「でも、今の所それしかないわけで」

「人間に戻りたい深海棲艦に、提督ラバーになってくれなんてセクハラだし」

「そりゃそうだ」

「ワ、私ハ、ソレデモ良イケド・・・」

「ん?タ級も戻りたいのか?」

「彼女ノ件ガ一段落シタラネ」

「あれもどうしたもんか、悩ましいね」

「正直手詰まり感があるわ」

「過去にリ級さんが話した内容を録音して聞かせてもダメだったしねえ」

「難しいものだ」

「1つ上手く行けばスルスル行きそうな気はするんだけどね」

「ふうむ」

「彼女ニツイテハ、深海棲艦モ長イ事調ベタガ、他ニ方法ガ見ツカラナカッタンダ」

「かといって、ずっとリ級さんに任せるのもなあ」

「ソウナノダ」

「皆、気持ちは一緒なんだけど」

「方法が見つからないのよね」

再び、全員が溜息を吐いた。

「とりあえず、その深海棲艦さんにはそれでも試してみるか聞いてみて」

「解ッタ」

「じゃあ、また来週ね!」

その言葉を合図として、全員が立ち上がった。

 

 

9月13日夕方 某海域の無人島

 

「イラッシャイ」

タ級に連れられて、ホ級が島を訪ねてきたのを見て、リ級は優しく迎えた。

「エエト、進展ハ、アリマシタカ?」

ホ級は期待と諦めがない交ぜになったような表情で聞いてきた。

リ級はにっこり笑って

「可能性ハ、出テキタワ」

「本当デスカ?」

「タダ、確実トハ言エナイ。説明ヲ聞イテ判断シテ欲シイノ」

リ級はタ級から聞いた研究室の話を伝えた。

「ツマリ、人間ニナリタイ理由ヲ強ク願イツツ、ソノ鎮守府デ生活シテ、心残リヲ解消シテイク、ト」

「ソウイウ事ネ」

「時間カカリソウデスネ」

「何カ心配事ガアルノ?」

「チ級ニ何テ言オウカト」

「ソコハ、心配要ラナイワ」

「エッ?」

「大手ヲ振ッテ行ケルヨウニ、シテアゲル」

「・・・ソレナラ、オ願イシマス」

「解ッタ。ジャア手配スル」

「私ハドウスレバ?」

「9月18日ニ、マタ来テクレル?」

「解リマシタ」

 

 

9月15日昼 深海棲艦の拠点

 

「ト、言ウ訳ナノ」

リ級は護衛班を連れて、戦艦隊の隊長であるル級の所に足を運び、話を持ちかけていた。

「・・・マァ、正直補給隊ハ要ラン」

「デショウ?」

「チ級モ解ッテルトハ思ウンダガ・・辞メルトハ、言イニクイノダロウ」

「補給隊ガ一番引キ渡シテル、駆逐隊ヲ説得シテクレナイカシラ?」

「構ワナイガ、チ級ト、ホ級ハドウスル?」

「ホ級ハ、私達ガ引キ受ケル。チ級ハ元々駆逐隊ダカラ・・」

「駆逐隊ガ、チ級ヲ受ケ入レルカ、ダナ」

「ソウネ」

「ソコモ含メテノ交渉カ」

「エエ」

「解ッタ。彼女ノ件ヤ、負傷兵ノ件デ、リ級ニハ借リガアルシナ」

「申シ訳無イケド」

「イヤイヤ、借リッパナシハ私ノ性ニ合ワナイカラ、丁度良イ」

「デハ、オ願イスルワネ」

「アア」

リ級が去っていくのを見送っていたル級は腰を上げた。

駆逐隊はリ級を嫌っているから、私が言う方が良いだろう。

いい加減、役立たずばかり寄越す補給隊に資源を掘って渡すのもウンザリしていた。

この機会に決着をつけてしまおう。

 

 

9月16日午後 深海棲艦の拠点

 

「ドウシヨウ・・・」

チ級は始まる前から大汗をかいていた。ついに1体も供給出来なかったのである。

一体どれだけ非難されるかと思うと、始まる前から頭が痛かった。

「幹部会ヲ、始メマス」

司会の順番になっていたル級が切り出す。

「マズハ、補給隊ノ話ダガ」

チ級はびくっとなった。最初という事は相当怒られる。

「先月ノ供給数ハ、ドウダッタ?」

「ゼ、0デス」

「ソウダッタナ。整備隊ニ何体行ッタノダ?」

「大体40体ッテ所カシラ」

リ級が答える。

「要スルニ、集メテモ、深海棲艦ニハ、ナッテクレナインダナ」

「ス、スミマセン・・」

チ級は諦めた。非難轟々でも、事実は事実だ。

「チ級ヨ、隊ヲ解散シナイカ?」

「エッ?」

「正直、資源ヲ掘ル時間ガアレバ戦闘シタイノダ」

「・・・・。」

「マァ、来テモ逃ゲ出スヨウジャ意味ガナイシ、来ナイナラ尚更ナ」

「ア、アノ」

「ナンダ?」

「ワ、私ハ、処分サレルノデショウカ?」

「イヤ、ソンナ事ハシナイサ」

「!」

「最後ハ残念ナ状況ダッタガ、今マデ功績ガアッタノハ確カダカラナ」

「・・・。」

「ダカラ、隊ハ解散スルガ、処分ハ無イ」

「・・・ア、アリガトウ、ゴザイマス」

「チ級ハ駆逐隊で、ホ級ハ整備隊デ、引キ取ル」

「ソウデスカ・・」

「反対ハ無イカ?デハ、次ノ話題ダ」

チ級はほっとした。隊が成果をあげられなくなったら殺されるかと思っていたからだ。

駆逐隊は元の部隊だし、隊長を含めて友人も多い。ホ級が整備隊行きというのも何となく解る。

呆気ないくらいの幕切れだったな。

丁度進んでる取引もないし、ホ級の言うとおり潮時だったのかもしれない。

 

「補給隊・・解散、デスカ」

チ級から聞かされたホ級は、ぽかんとした。

「アト、ホ級ハ、整備隊ニ配属トナッタ」

ホ級は呆然とした。

リ級が大手を振って行けるようにしてあげると言っていたが、隊がまるごと解散とは思わなかった。

改めて自分が相談した相手の凄さを実感したのである。

しかし、と、ホ級は思った。

これでなりたくないのに深海棲艦にさせられる子は居なくなる。良かった。

ただ、虎沼さんはまた失業しちゃうな。それだけは伝えないと。

 

 


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