艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file33:島ノ謎(後編)

 

 

8月22日夜 食堂

 

ゴキが赤城に飛びかかるべく飛行ルートを変えた時、雷は赤城に慌てて声をかけた。

「赤城!奴が!あなたの方に向かってるわよ!」

聞こえてないのか?でも、ゴキに向かっていくのは足が震えて出来ない!

赤城の背後にゴキが迫る。その瞬間!

 

バシッバシッ!

 

箒がムチのようにしなり、振り向きもせずに2匹のゴキを叩き落とした赤城。

ヒュンと箒を一払いし、再び何事も無かったかのように掃き始めた。

艦娘達は一瞬静まり返ったが、その惚れ惚れする格好良さに盛大な拍手が上がった。

赤城は顔を背け、艦娘達に軽く手を振っていた。

雷が恐る恐る近づいて行き、

「だ、大丈夫?」

と聞くと、

「鎧袖一触よ、心配要らないわ」

と答え、ぴくんと動きが固まった。雷も固まった。

そういえばと、雷は過去を思い出した。

自分も大概弱いが、負けず劣らず赤城もゴキの来襲には悲鳴を上げて逃げていた気がする。

そもそも、言っては悪いが、赤城がこんなに格好良く、静かに振舞うだろうか?

記憶の呼び出し、思考、そして疑念へと変わる雷の表情をちらちらと数度見た後、赤城はさっと顔をそむけ、

「そ、掃除を済ませてしまいましょう」

と掃き始めた。

しかし、雷はインカムをつまみ、

「響、この赤城は赤城じゃないかも」

と、言うと、赤城は箒で掃く手がびっくんと固まった。

響はその連絡を聞くと、はっとしたようにインカムをつまんだ。

「電!」

「は、はいなのです!」

「今すぐ赤城と加賀の部屋に行って!加賀が居るか見てきて!」

「なのです!」

そして、傍らにいる暁に言った。

「暁!トンネルに突入!証拠写真を押さえるよ!」

「良いわ!こんな暗い外に居るよりマシよ!」

そして先行する暁が穴に入ろうとした途端、出てこようとする人影とぶつかってしまった。

どすん!

「きゃっ!」

「痛っ!だっ、誰っ!」

響は夢中でシャッターを切り、フラッシュが人影を捕えた。

倒れこんだ人影の傍らには、小さな包みからこぼれたボーキサイトが転がっていた。

その頃、電は目を疑った。

赤城も加賀も部屋に居ないのに、加賀の服だけが残されていたのである。

 

 

8月23日朝 提督室

 

「あのね、手をかけすぎです」

「面目次第もございません」

「ごめんなさーい・・・」

 

提督室には提督の他、本日の秘書艦である扶桑と、暁4姉妹、工廠長、そして赤城と加賀が居た。

響が説明した顛末はこうだ。

まず、赤城と加賀が工廠裏までのトンネルを掘り、ロープを垂らし、入り口は見つからないよう模造岩で隠す。

トンネルに行く日は赤城が夕食後の夜で、かつ喋らずに済む掃除当番となる日を選んだ。

そして当番には赤城に化けた加賀が対応し、その間に赤城がボーキサイトを失敬していたのである。

ロープづたいのルートという問題と、明らかに盗ったと解らないよう、盗る量は小さな包みに入れていた。

こうして、赤城のアリバイは完璧で、かつ工廠長は盗られた事に確証を持てなかったのである。

 

二人が白状したところによると、トンネルを見つけたのは赤城で、昨年の夏頃だったという。

その時はトンネルは工廠の真下まで来ていたが、工廠と貫通はしていなかった。

その為、赤城がオフの時間を利用して縦穴を掘り、ロープを垂らしたのだという。

加賀の方は1度だけ計画を聞いた時に赤城と一緒にトンネルを見に行ったが、それ以来行ってないという。

うめき声は、盗り終えてロープを降りた時、急に夕張からかけられた声に驚いて落ちたらしい。

 

「本当に痛かったんですよ・・50cm位でしたけど」

「天罰です」

「むぅ」

「一応、動機を聞こうか。まぁ赤城の方は解るが」

「ひどい!」

「ボーキサイトをつまみぐいしたかった。他に何かあるか?」

「出来るだけ長くバレたくありませんでした!」

「胸を張って威張るなバカモノッ!」

「でも上手く行きました!」

「まったく・・で、加賀の方はなぜ協力した。加賀はこういう時ブレーキ役だろう?」

「私の方はボーキサイトはどうでも良かったので、1回だけと思ったのですが」

「ですが?」

「その、赤城と衣装を取り換えっこして、赤城に成りすまして班当番をするのが」

「するのが?」

「なんだかスリリングでドキドキしちゃいまして、それが楽しくて病み付きに」

「あのね・・・」

 

はぁ、と溜息を吐く提督に、加賀は

「響さんの推理に間違いありません。いかなる罰も受ける覚悟は出来ております。」

と言ったが、赤城はしょんぼりと

「夜のおやつが・・・」

と言うのみであった。

「工廠長」

「んー?」

「無くなったのは合計どれくらいだ?」

「まぁせいぜい10kgってトコだろう」

「・・・赤城、加賀」

「はい」

「今回の罰当番として、二人でトンネル全体を穴埋めする事を命じます。」

赤城は

「うえ~掘った以上に埋めるなんて~」

と言ったが、加賀は

「・・・それでよろしいのですか?」

と、聞き返した。提督は口を開いた。

「座敷牢で辛い大根おろしを食べたいかね?」

「それくらい来るかと思ってましたが」

「盗った量が少なすぎるしなあ・・・それに」

ちらりと響達を見ると、

「夏休みの冒険として、正直楽しかっただろ?」

というと、響がちょっと目線を逸らし、

「き、嫌いじゃない・・・」

と言った。

 

 

「えいほーえいほーえいこらさー」

「砂ドンドン持ってきて~」

「あいよ~」

「砂のバケツリレーはきっついわー」

 

ハチマキをして作業する赤城と加賀に、伊勢、日向、山城、扶桑、飛龍、蒼龍、千歳、千代田が加わっていた。

彼女達いわく、

「一口貰ったので共犯という事で」

だそうだが、仲間を手伝っているというのがホントの所だろう。提督は黙って彼女達の当番を免除した。

その後、提督は間宮の店に行った。

「と、いうわけなんだが」

「良いですよ、やってみましょう」

その後、間宮はくすくす笑いながら

「提督はやっぱり、加賀さんと赤城さんに甘いですね」

と付け加えた。

「ば、馬鹿者。からかうんじゃない。頼んだぞ!」

「お任せください」

 

数日後。

「あーあ、全部埋まっちゃったねー」

「もうバレてしまったのですから、あっても仕方ないです」

「あと1回くらいダメだったかなあ」

「もう交代してあげません」

「そりゃ駄目ね」

「ダメです」

すっかり埋まった穴の前で、赤城がしょんぼりと座り、加賀が傍に付き添っていた。

そこに、響が包みを持って現れた。

「赤城、加賀」

「あら響さん、どうしました?」

「この通り、穴はちゃんと埋めたわよ~?」

「提督が、これを持って行きなさいって」

響が包みを開けると、麩菓子のような黒い棒が姿を現した。

「間宮さんの特製だそうだよ」

加賀は1本つまんで食べてみた。おや、これは・・・

「赤城さん、召し上がってみたら?美味しいですよ」

促されて赤城が口に運ぶと、

「ボ!ボーキサイトが入ってる!」

 

提督が間宮に作らせた「ボーキサイトおやつ」は「ホントにボーキ入り!」という注意書きと共に売店に並んだ。

以来艦載機のある子達は昼食後に売店でこれを買い、楽しく昼休みを過ごしたらしい。

勿論、赤城は大量に購入して部屋に備蓄しているそうである。

余談だが、工廠長は

「ボーキサイトを食用として消費していると大本営に言うべきか・・・ま、報告ケタ未満だし、ほっとくか」

と、苦笑しながら帳簿をつけているそうである。

 





作者「初めての推理小説です」
響「単に夏休みの日常だよね」
作者「推理小説です!」
響「そろそろ大人になろう?」

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