艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file29:艦娘ノ花火(前編)

8月9日午後 鎮守府提督室

 

結局、以下のような構成となった。

40号(4尺玉)長門、金剛、比叡

10号(1尺玉)摩耶、天龍

4号(0.4尺玉)涼風、五月雨

仕掛花火:北上、大井、夕張

工廠長は発射装置と訓練用の火薬を作る為に工廠に戻っていった。

 

陣形や発射順など、決める事は多々あったが、長門を中心にテキパキと決めていった。

そして工廠長から用意が出来たと連絡が入ると、長門達はウキウキと提督室を出て行った。

提督は思った。

長門、きっと秘書艦の仕事を忘れてるな。まぁしょうがないか。

 

長門達が行って少し立ってから、とてとてと足音がした。

「お父さーん」

「おや、文月じゃないか。どうした?」

「さっき長門さんがいつになく嬉しそうな声で花火大会の招集をしてたのです」

「うん、今打ち上げ装置を取りに工廠に行ったよ。そのまま練習に入るだろう」

「今日の秘書艦さんは長門さんですよね?」

「だな」

「代わりの秘書艦さんを頼んできますか?それとも」

文月はにっこり笑うと提督の隣に立ち、

「お父さんも心配なら、お二人の仕事を事務方で代わりますよ?」

といった。

提督はその言葉ではっとしたような顔をすると、文月を膝の上に乗せ、頭を撫でた。

「文月は優しい子だなあ」

「えへへへへー」

「どうしようかなあ」

「長門さんは滅多に失敗しませんけど、珍しく嬉しそうだったので」

「そうだね。かなり浮かれてたな」

「です」

「・・・・。んー、頼んで良いかな?」

「お任せください、です」

「じゃあ羊羹持って行きなさい羊羹」

「事務方の皆で食べますね」

「よろしく伝えておいてくれ」

「はーい」

 

「工廠は近いようで遠いなあ」

提督がやっと工廠についた時、工廠の中は静まり返っていた。

提督は研究所のドアをノックした。

「はい・・・あれ、提督?」

「高雄、皆はどこ行ったかな?」

「すぐ裏の桟橋の所ですよ。海の上で打ち上げ装置の練習をするそうです」

そう言った途端、ドンという発射音がした。

「なるほど、じゃあ行ってみよう」

「あ、提督、これを」

そう言って手渡してくれたのは耳栓とゴーグルだった。

「助かる。ありがとう」

「お気をつけて」

 

「それじゃダメだ金剛!真上に向けて維持!垂直以外だと反動で吹っ飛ばされるぞ!」

「も、もう1回デスネー!」

「厳しいようなら30でも20でもすぐ作れるからな!無理するな!」

「やってみまース!」

提督がトンネルを抜けて桟橋につくと、金剛と比叡が海の上に居り、工廠長が指示していた。

提督は真剣な目で見ている長門の傍に行くと、

「長門」

「おや提督、どうしたんだ?」

「文月に甘えて仕事サボってきた」

「サボりはだめだろう」

「先にサボったのは?」

「・・・あ」

「気付いてなかったのか」

「す、すまん。夢中になってた」

「良いよ、そんなに嬉しそうな長門は久しぶりだ」

「気をつけねばならんな。」

「そうだな、真上に打つ40号は反動も凄いだろ?」

「ああ、金剛でも真上を維持したままの発射に手こずっている」

「使ってみて、今回厳しければ今年は30でも20でもよかろう。また来年がある」

「そうだな。厳しければそうする・・・ん?」

「なんだ?」

「来年?」

「毎年の恒例にしても良かろう。長門がそんなに楽しみならば」

「それこそ職権乱用ではないか」

「そんなに嬉しそうな顔で叱っても説得力ないぞ」

「・・そうだな。ありがとう。提督」

「気をつけろよ」

「うむ。もう大丈夫だ」

 

結局その夜、4尺玉は更なる練習が必要という事で3尺玉に変更となった。

それ以外は変更はしなかった。提督は仕掛花火を少々心配していた。何故なら

「普段20射線の酸素魚雷を2式も扱ってんだから大丈夫だよ~ほっほ~」

という、軽い感じの北上の声と

「面白いわ~面白いわ~新しい噴進砲に応用出来ないかしら?」

と、目が星になっている夕張だからである。

(大井が北上以外眼中に入ってない割にそつなくこなすのは皆知っている)

提督が摩耶に夕張達を頼むと耳打ちすると、摩耶は

「おう、ちゃんと考えてるぜっ!」

と返したのである。

 

 

8月10日夜 鎮守府の浜辺

 

「さぁー皆さんお待たせしました!第1回ソロル花火大会の開催ですよー!」

青葉の声がスピーカーに乗って届くと、観覧場所に集まった艦娘達がわああっと声を上げた。

提督は急遽工廠長が作ってくれた寝椅子に座り、同じく寝椅子に寝そべる中将達と同席していた。

 

「艦娘による花火大会か。バカンス最後の夜にふさわしいな」

中将達に昼食後説明したところ、とても喜んでくれた。

「大会と言うには発数が少ないかもしれませんが、楽しんで頂ければと」

「うむ。宵の口なら起きていられるだろう」

五十鈴が口を開いた。

「出来ればで良いのだけど、寝椅子で見られないかしら」

「寝椅子、そんなにお気に召しましたか?」

「椅子に座って見上げ続けるのは地面に座って見るより首が疲れるの。出来ればで良いのだけど」

「なるほど。それなら会場に運ばせましょう」

「ありがとう」

 

「では最初ですよ最初!記念すべき初の打ち上げは涼風さんと五月雨さん!」

「続いて北上さん、大井さん、夕張さんで仕掛花火!」

「前半の最後は摩耶さんと天龍さんの1尺玉で締めです!では、どうぞ!」

会場がしんと静まると、はるか先の海上でひゅるるるっという小さな音がして、

 

ドーン!

 

と、綺麗に4号玉の菊物が開いた。

花火は打ち上げる距離に必要な時間分、導火線の長さを取って点火を遅らせる。

打ち上げた勢いがなくなった頂点で展開すると最高に美しい花火となる。

また、波で揺れる海の上で打ち上げる事から、打ち上げ装置に設定する角度は常に変わる。

きっちり正しい導火線の長さと合うよう火薬を調整し、正しい角度をテンポ良く作り出す。

簡単なようで難しいのである。

 

ドーン!ドドーン!

 

次々と打ちあがっていく。

「たーまやー」

「かーぎやー」

という声に交じって

「涼風いいぞー」

「五月雨頑張れー」

といった声も聞こえ始めた。

 

盛り上がりに手ごたえを感じながら、涼風と五月雨が合図を出す。

すると北上と大井が距離を取り始める。涼風達が打ち上げた最後の1発が花開いた直後、

「せいっ!」

とかけ声を出すと、夕張が点火装置のスイッチを入れた。

北上と大井が高く掲げた棒の間に吊るされた仕掛けから、サアアッっと滝のように花火の火の粉が流れ落ちる。

網仕掛、ナイアガラと呼ばれる花火だ。

わああっと歓声が上がる。

 

夕張が摩耶に合図をすると、摩耶と天龍は頷いた。

ドシュッ!

 

網仕掛が終わる頃に、ひときわ大きい菊物が開いた。10号、すなわち1尺玉だ。

 

ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!

 

摩耶と天龍が衝撃に耐えながら続けざまに打つ様を見て、涼風と五月雨は黄色い声を上げた。

お姉さま格好いい!

 

ドドドドーン!

 

「いやあ、本当に素晴らしいです!素晴らしい花火です!」

青葉も興奮気味に声を張り上げる。

移転前であれば他所で行う花火大会の火が見えた事もあったが、ここでは皆無だ。

つまり2年近くご無沙汰だったのである。

 

最後の1発まで滞りなく打ち上げた後、涼風達はゴーグルを外し、ハイタッチした。

緊張で足がガクガクしてるが、それ以上の高揚感があった。

 

大歓声の中、青葉はマイクに叫んだ。

「さぁ!前半はお楽しみ頂けたでしょうか?この後煙が晴れるのを待って後半です!15分お待ちを!」

青葉はカメラの撮影結果を見ていた。良い花火ですね!これなら明日の1面に持ってこれます!

 

 




誤字の修正を行いました。
や~、気づかないものですね。すみません。

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