艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file27:十六ヶ月目ノ視察

 

8月5日昼 鎮守府提督室

 

「提督にお知らせがあるみたい」

本日の秘書艦である扶桑は、提督に手紙を差し出した。

「大本営から?珍しいな・・」

開封し、内容を読み進めると、

「なんじゃこりゃ?」

と、声を上げた。

「どうなされたのですか?」

訝しがる扶桑に、提督は笑いをかみ殺しながら手紙を差し出し、

「まぁ読んでごらん」

と言った。

扶桑が手紙を開くと、こう書いてあった。

 

 指示書

 指示内容:

  ソロル鎮守府完成十六ケ月目の状況を確認する為、以下の者に視察させる。

  一.大本営中将(統括)

  一.艦娘大和(秘書艦)

  一.艦娘五十鈴(監査)

  一.艦娘夕雲(護衛)

 

 視察期間:

  開始:八月八日

  終了:八月十一日

 

 尚、宿泊ならびに食事の手配はソロル鎮守府側責任において手配するものとする。

 洋食可、喫煙者一名、洋食可

 

扶桑は最後の1行を見て提督が笑う意味を理解した。

「中将様は本当にカレーを召し上がりたいという意気込みが溢れてますね」

「大事な事なので2度言いましたって感じだよな」

「それに、そもそも16ヶ月目の視察ってありましたでしょうか?」

「ない。1年でも1年半でもないんだし中途半端過ぎるじゃないか。無茶も良いところだ」

「となると、簡単に言うと」

「明後日からカレー食べに仲良し同士で夏休み取って行くから準備しといて、という事だ」

「なるほど」

「まぁともかく、こちらも幾つか成果報告も出来るし丁度良い。扶桑、すまないが」

「海の見える迎賓棟の準備と、鳳翔さんへの注文ですね」

「3食カレーでは五十鈴さんが暴動を起こすから、アレンジは任せると言っておいてくれ」

「費用は鎮守府負担で良いのでしょうか?」

「私の財布で支払う気はないよ」

「いえ、大本営に請求すべきか、という事ですが」

「標準費用分だけ請求しなさい。視察名目だから、うちで全額負担すると中将が監査上面倒な事になる」

「こんなにしないと夏休みも取れないなんて、可哀想ですね」

「全くだよ。私は絶対大本営で勤務したくない。中将達もここに居る間は羽を伸ばして欲しいね」

 

 

8月8日朝 鎮守府提督室

 

秘書艦当番の長門と提督は世間話をしながら、隣同士で座り、静かに朝食を取っていた。

実に微笑ましい光景だった。

しかし。

ドンドンドン!ドンドンドン!

提督室のドアを勢い良く叩く者がいる。

「な、なんだ?こんな朝早くから」

提督と長門が顔を見合わせた瞬間、ドアが開いた。

 

「お邪魔するわよ!」

提督と長門は箸を持ったままぽかんと口を開けた。

サングラスに派手なアロハシャツ、短パンに草履という格好の中将。

同じくサングラスに白い水着でパーカーを羽織り、ビーチサンダルという格好の五十鈴。

ざっくりとしたデニムのワンピースと麦わら帽子にミュール、という格好の大和。

夕雲は一見普通の格好に見えるが、ピンクのフードが見えており、サンダル履きである。

 

「ちゅ、中将殿・・・その恰好で出発されたのですか?」

五十鈴が腰に両手をあてると、

「馬鹿ね、そんな訳ないでしょ!移動中に着替えたのよ移動中に!」

夕雲が遠慮がちに

「い、一応迎賓棟で着替えましょうと申し上げたのですが・・」

といったものの、瞬時に

「一番早くサンダルに履き替えて嬉しそうだったのは誰だったかな~」

と、大和に言われて真っ赤になってしまった。

「中将殿、また思い切り羽を伸ばされましたね。心配は無用だったようです」

「南の島のバカンスに軍服なんぞ似合わん!」

「・・・私共の勤務地なんですが」

「こんな青い空の下で堅い事を言うな」

「まだ午前7時前なのですが」

「おお朝飯の時間だな!わしらも頂けるかな!」

「ご用意は昼からの予定だったのですが」

「何とかしてくれ。腹が減った。お!そうだ!カレーラーメンで良いぞ!」

「・・・あ、あの、インスタントラーメンのですか?」

「カレー味で頼むぞ!」

「・・・長門」

長門はインカムで初めて食堂にお湯と箸を頼んだのである。

 

「うまあああい!」

喜びの声を上げる中将は予想の範囲内だったが、

「あら、インスタントと馬鹿に出来ないわね!」

「んふー、美味しいですー」

「美味しいけど、服につかないか心配ね・・」

と、艦娘達にも好評だったのである。

提督は

「中将、幾つか報告・・が・・」

と言いかけたが、長門が耳元で

「カレーは落ちないぞ」

と言ったのを聞き、慌てて口を閉じた。危うく自分で黄色のお化けになる所だった。

「とりあえず、我々も食べてしまおうか」

微笑ましい筈の朝食は、すっかり賑やかなものになった。

 

「うむ、憲兵隊から話は聞いている。非常に良い手際だと褒めていたぞ」

「恐れ入ります。こちらも逮捕や鎮守府内の捜査といった所を対応頂き助かりました」

時は過ぎ、しっかり食器類も(提督の安全の為)片付けた後。

すっかりバカンス気分満々の中将に、

「と、とりあえずご報告だけ」

と、提督が提案。中将はぐずったが、大和が

「大本営で書く報告書に何か書く事が無いと帰ってから大変ですよ」

と、助け舟を出し、打合せの時間が設けられたのである。

「取り調べに対し、司令官の供述では相手が深海棲艦だとは気付いていなかったそうだ」

「そうでしょうね」

「知らせる事も大事だと思う。大本営からも訓告するが、教育の場でも取り上げて欲しい」

「仰る通りですね。さっそく教育内容に追加いたします」

提督は教育というキーワードで妙高達から受けていた相談を思い出した。

「ところで中将、その教育関係の事なのですが」

「うむ?」

「先月から広報班を編成し、鎮守府を回って教育のPRをしているのです」

「ふむふむ」

「しかし、教育内容には良い反応を頂けるのですが、費用面で消極的になってしまうそうです」

「ほう」

「我々としても住まい、食事、教材、弾薬まで用意しますので、それなりに費用がかかります」

「そうだろうな」

「そこで、教育をクエストに入れて頂けないでしょうか?」

「クエストか。なるほど、鎮守府同士で金を動かさず、大本営費用でやる方が受けやすいな」

「はい。往復の燃料代の負担程度なら良いと思うのですが」

「なるほどな。帰ったら検討させよう。大和、メモしておいてくれ」

「かしこまりました」

「もう1つ」

「・・なんだ?」

「そんな悲しそうな声を出さないでください」

「手短に、手短にな」

「えー・・先日、長期不在となった司令官の鎮守府から、艦娘が集団脱出しました」

「なっ!?なにっ!」

「手短にと言うことなのでこれで」

「待て!詳しく聞かせろ!」

「ええっ、手短にと仰るから」

「いいからはよ」

「司令官が1年以上不在で何も出来ず、不安だと大本営に陳情したが聞いてくれないと」

「むぅ」

「そんな折に深海棲艦の誘いに乗って集団脱出した所を我々が保護しました」

「危ない所だったな」

「ただ、艦娘達は深海棲艦になる気は無く、最初から他の鎮守府への移転を希望してたようです」

「なるほど」

「確かに艦娘は建造や運営等で司令官の私財が絡みますが、あまりにも長期待機は酷かと」

「少し、考えねばならんな。五十鈴、次回の議題にしてみようじゃないか」

「そうね。意欲があるのに待ちぼうけというのは切ないわね」

「よろしくお願いします。我々で保護出来る艦娘は保護しますので」

「うむ・・・・で、提督」

「はい」

「そろそろ、海が見たいのだが」

提督はがくっと恰好を崩したが、それまで大人しくしていた五十鈴達も

「中将!たまには良い事言うじゃない!」

「窓から見える海が超綺麗ですよ!」

「早く水着に着替えて泳ぎたいな~」

と、声を上げたのである。提督はこれはもう無理だと判断し、

「解りました。砂浜にご案内しましょう」

と、応じたのである。

 





この中では五十鈴さんの姿を見てみたいです。
絵心ゼロなのでどうしようもありませんが・・・

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