艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file23:証人ノ護送

7月24日夜 某海域の無人島

 

「ココデコノママ、死ヲ選ブノモ自由ダ。止メハシナイ」

「デモ、モシ、チカラヲ貸シテクレルナラ、イツカ、司令官ニ復讐スルト約束スル」

チ級は言葉を続けた。

「明日ノ朝、マタ来ル。考エテ欲シイ。我々ハ歓迎スル」

連れてきた艦娘達を前にそこまでいうと、チ級はおやっと思った。

今回から深海棲艦にする前に説得する事になった。

しかし、何というか艦娘達に全然悲壮感が感じられない。

どういう事だろう?

 

首を傾げながらチ級が海に帰っていくのを見届けると、霞はフンと鼻を鳴らした。

「確かに、勧誘があったわね」

「お、お話長かったのです」

「他の子達はこの話で深海棲艦になったのかなあ?」

「とりあえず迎えを待ちましょ。しばらくかかるらしいけど」

ホ級は木の陰から様子を見守っていたが、確証を得たように頷くと、静かに海に帰っていった。

 

 

7月25日朝 岩礁の小屋

 

「オハヨウ、皆、待タセタカ?」

タ級が浮上すると、既に艦娘達は揃っていた。

昨日の明るい雰囲気とは違い、全員が兵装を固め、作戦に備えていた。

望遠用ゴーグルを首にかけ、兵装をチェックしながら一言も喋らない鈴谷と熊野。

砲門をキュッキュッと磨きながら、軽く微笑んでいる山城。

鱗のような模様があるウェットスーツに身を包み、長い狙撃銃を持つ伊19。

何か知らないが、3本の長い爪のような武具を嬉しそうに眺める球磨と多摩。

砲門を高く空に掲げ、ニヤリとする金剛と比叡。

いつも通りの響が際立つくらいだ。

タ級は瞬時に理解した。絶対敵に回してはいけない連中だと。

 

 

7月25日昼前 某海域の無人島

 

「ナッ、ナニッ!?誰モ行カナイノカ!?」

チ級はのけぞるほど驚いた。確かに今回は資材0で済んでるから痛手は無い。

無いが、誰も行かないというのは初めてだった。

朝から何度も確認し、色々説得を追加したがダメだった。

その時初めて、自分が深海棲艦にしてから説得していた威力に気付いた。

気が付いたら深海棲艦だったというのは1つの強い説得材料だったのだ。

しかし、変化させるには大人しく寝てもらわなければならない。

今、無理矢理かけても袋叩きに遭うだろう。

チ級は目を閉じた。幾らなんでも全艦娘を整備隊に引き渡せばタダでは済まない。

「説得ハ終ワッタノカ?」

ハッとして振り向くと、タ級が立っていた。腰に手を当てている。

万事休す。

「ス、スマナイ。全員拒否サレタ」

だが、タ級は鼻息を一つ吐くと、

「解ッタ、後ハ私ガヤッテオク」

と言った。

「イ・・・イイノカ?」

「幹部命令ダカラナ」

チ級はこれ以上の説得は無理と諦めていた事もあり、大人しく海に帰っていった。

タ級は艦娘達を見ると、唇に人差し指を当て、

「アト少シダケ、待ッテロ」

といった。

艦娘達は首を傾げた。これも勧誘?迎えはいつ来るの?

 

「航空機による索敵完了、全域クリア。タ級の合図を確認。球磨、多摩、上陸開始。」

山城の連絡に、球磨と多摩がざざざっと駆け上がっていく。

「こちら球磨。タ級以外の深海棲艦見つからないクマ」

「多摩にゃ。赤外線で調べたけど土に潜ってる敵も居ないにゃ」

「了解。鈴谷、熊野、響、上陸開始して」

「はい!」

 

再び現れたタ級と一緒に来た面々に、艦娘達は怯えた。

自分達と明らかに異なる恰好、ものものしい武装。気配。鉤爪?

高LV艦娘だろうが、何故タ級と一緒に居る?

「君達が今回の移動希望者かい?」

鈴谷の陰からひょこっと響が顔を出すと、艦娘達はほっとした顔を見せた。

「そ、そうよ。貴方達が鎮守府からの迎えなの?」

「そう。私達が護衛して鎮守府まで移送する。心配しないで欲しい」

「キッチリ守ってやるクマー!」

「え、えと、貴方達の鎮守府って、深海棲艦の拠点じゃないわよね?」

「私達が深海棲艦に見えるかにゃ?」

「い、いえ、だって・・・」

艦娘達はそっとタ級を見ると、響が言った。

「この人は君達を深海棲艦にならないよう手助けしてくれた仲間だよ。心配要らない」

「そ、そうなの!?」

「そう」

艦娘達はまだ戸惑っていたが、熊野が

「詳しい事は鎮守府で話しませんこと?お茶菓子もありましてよ」

といった事に納得すると、ようやく鈴谷と熊野に乗り込んだ。

「こちらでの全艦を収容!次の地点に向けて出航します」

「了解、タ級に合図せよ」

既に海原に出ていたタ級は、合図を見るとゆっくりと動き出した。

「もう1箇所寄っていくから、ちょっと我慢してね」

鈴谷は乗り込んでいる艦娘達に伝えた。

 

「コノ島ダ」

タ級は砂浜に立つと同時に、人に変化した。そして鈴谷達に

「浜で待っててくれる?」

というと、島に入っていった。

5分位経っただろうか。タ級に連れられて睦月が出てきた。

虚ろな表情をしている。

「彼女達が保護してくれる事になったよ」

タ級が優しく言うと、睦月は鈴谷達を見た。そして、

「お、お願い、ぶたないで」

と言うと、目を瞑ってしゃがみこんでしまった。

響はタ級に聞いた。

「何か、連れてくる間にあったのかい?」

タ級は弱々しく肩をすくめると、

「連れてくる時からこうだったの。酷く怯えててね。鎮守府で何があったとしか解らないの」

といった。

響はそっと、睦月に声をかけた。

睦月は目を瞑ったまま、両手で頭を抱え、うずくまって震えている。

「聞いてくれるかい?」

「・・・。」

「私の鎮守府は出来たばかりだったんだけど、深海棲艦に司令官と先輩艦娘を殺された」

「・・・。」

「鎮守府からずっと離れたところでその事に気づき、私も殺されそうになった」

睦月がそっと片目を開けて、響を見た。

「でもね、そんな時にここの鎮守府の人が助けてくれて、爆風から守ってくれた」

「・・・。」

「君がどんな酷い目にあったかは解らない。でも、ここの皆は傷を認めて、助けてくれる」

「・・・。」

「1度だけで良い。私を信じて欲しい。提督に会って話をして欲しい」

「・・・。」

「きっと、今まででは信じられない位良い未来を与えてくれる」

「・・ぶったり、しない?」

「頭を撫でてくれるよ」

「寒い夜に外に放り出したり、武器無しで出航させたりしない?」

「大丈夫。もしそんな事したら、私が味方になってあげる」

「・・・本当?」

「約束する」

睦月の目に涙が溢れ、響にひしと抱きついた。

 

ひとしきり泣き止むまで、響はずっと睦月をぎゅうっと抱きしめていた。

きっと提督なら、そうすると思ったから。

 

鈴谷がそっと、タ級に近づいた。

「話では2人と聞いていたけど」

タ級が首を振った。

「1人は自決していた。昨日の朝には話をしたのだけど・・・」

鈴谷は拳を握り締めた。

今までどれだけ、こんな辛い最後を迎えた子が居るのだろう。

鈴谷は響の手を握り、立ち上がる睦月を見て、

「いらっしゃい!羊羹は好きかな?」

と、ニッと笑って聞いた。

睦月は響の手をぎゅっと掴み、恥ずかしそうに俯きつつも、こくりと頷いた。

「よっし!じゃあ帰ったらご馳走してあげます!」

熊野が鈴谷の方を向き、

「あら良いこと、私の分もお願いするわ」

「えー奢ってよー」

「嫌ですわ、こういう時は言い出した人が奢るのが慣わしですのよ」

「そんな事言わないで、熊野お嬢様ぁー」

響はふと、睦月がかすかに震えている事に気づき、慌てて

「どこか痛いのかい?」

と聞くと、睦月が

「う、ううん。お姉ちゃん達がおかしくって」

と、少しだけ笑った。

「よーっし!鈴谷お姉ちゃんの船に乗りなっ!一緒に行こう!」

「う、うん」

僅かに顔に赤みが差したのを、響は心から喜んだ。

自分が何か出来た事が嬉しかった。

 

鈴谷はインカムをつまむと、山城に伝えた。

「収容完了、帰還準備完了、山城の合図を待つ」

「了解。帰還ルートの準備は良いか?」

「伊19、指定海域に到着なの」

「金剛、比叡、準備出来てるか?」

「心配無用デース!」

「護衛準備、出来てます!」

「よし、調査隊、護送開始。球磨と多摩も護衛に回れ。全艦撤収開始!」

「了解!」

鈴谷と熊野、そしてタ級を中心に、響、球磨、多摩がすぐ外側を、さらに外を金剛と比叡が囲む。

伊19が航行時の死角に先回りし、発射準備を済ませた状態で不審者が居ないか探している。

山城は少し離れて航空機による索敵を続けながら追従していた。

全10隻による護送は、滞りなく鎮守府への護送を完了した。

 

 

7月25日午後 岩礁の小屋

 

「今日ハ、凄イ物ヲ、見セテモラッタ。素晴ラシイナ」

タ級は響からお茶を受け取りながら言った。

「初回だったから、皆ちょっと高揚してたね」

響も茶を啜りながら答えた。

他のメンバーは本島の鎮守府に帰ったが、タ級を労う為に響だけ残ったのだ。

睦月は途中で寝てしまったので、鈴谷が抱きかかえて連れて行った。

「アノ様子ナラ、艦娘達モ、酷イ扱イハ、サレナイダロウ」

「そこは大丈夫。なにせあの提督だから」

「・・・ムシロ鈍感ニ、悩マサレソウダナ」

「積極的に肯定する。ところでタ級」

「ナンダ?」

「会長の加賀から言伝があるんだ」

「エ?」

「提督ファンクラブは年会費1296コインです、お早めに納付してくださいと」

「ハ?」

「提督ラバーは全員加入する事が義務付けられてます」

「ラ、ラバー?」

「ラバー」

「・・・響、モ?」

「入ってる」

「エ、エエト、何ノコトダカ」

「良く解ってるよね?」

「ソ、ソンナコトハ」

「自分に嘘を吐くと苦しいよ」

「ウゥ」

「提督は神経毒だから、1度触れたら最後なんだ」

「エ」

「ほら、たった1296コインで楽になれるよ。一人で悩んでても仕方ないだろう?」

「ア、アウ」

「さぁ、この規約を読んだら入会書にサインするんだ。」

「ソ、ソンナ急ニ」

「会員証は用意してきたよ。素直になって解放されよう?」

「ヒィ」

 

「お支払ありがとうございます。これで私達と同じ仲間と認定されたよ」

タ級は財布に会員証を仕舞うと、懐に戻した。

この妙な解放感は何だろう。まるで隠していた趣味を暴露したら受け入れられたような感じだ。

響は封筒にお金を仕舞いながら言った。

「来年は終了1か月前に納めに来てください」

「ハイ」

 

 




ついに1日4話投稿というアホみたいな事をやってしまいました。

皆様からの評価と感想が次の話を書く燃料でございます。
ネタバレしそうなのでお返事は書けませんが、全部拝見しています。
本当にありがとうございます。

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