艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file19:数多ノ思惑

6月23日昼 某海域の無人島

 

「ホ、本当カ!?」

チ級はリ級の提案に小躍りしそうになった。

リ級からの提案は、まず引き取ってきた艦娘を島に集め、補給隊が説明し、意思確認を行う。

深海棲艦として戦う意志があるものは補給隊が連れて行って深海棲艦に変える。

意志が無いものは整備隊が引き取り、海原に放すなどの処置をする。

チ級は思った。

それなら意志あるものだけ連れて行けるし、無駄に深海棲艦へ変える手間も減る。

幹部会で突き上げられる事も減るだろう。

チ級は答えた。

「アリガタイ。ソレデ頼ム」

リ級は返した。

「コチラモ、準備ガアルカラ、取消ハ、無シデ頼ムゾ」

「解ッタ」

喜んで帰っていくチ級を見送ると、タ級はリ級に言った。

「深海棲艦ニナリタイ意志ノアル艦娘ナンテ、居ルノデショウカ?」

リ級は答えた。

「少ナイホド、我々ハ恩ヲ売レルシ、都合モ良イ。モシ、引渡シヲ拒ンダトキハ」

タ級はニヤリと笑った。

「砲門ヲ向ケテ、言ウコト聞カセマス」

リ級は頷いた。

「ソレデ良イ」

 

 

6月23日夕方 某海域

 

「整備隊ガ、艦娘ヲ、引キ取ッテクレルノデスカ?」

ホ級はチ級の話に首を傾げた。

「アア。ソノ方ガ都合ガ良イソウダ」

「ソノ後ドウナルノデショウ?マサカ、殺サレルノデハ?」

「イヤ、海原ニ返シ、他ノ鎮守府ガ拾イヤスイヨウニスルラシイ」

へぇと、ホ級は思った。

それならあの子達に深海棲艦にならないよう言い含めれば、事実上他の鎮守府に移せる。

ずっと待ちぼうけより、活躍の可能性が出るではないか。

「ダカラ、艦娘勧誘ノ、チラシヲ作ッテホシイ」

「ワカリマシタ。作成シ、配ッテオキマス」

「内容ハ任セタゾ」

「ハイ」

ホ級はチ級に心の中で謝った。

それでも、これ以上騙す事には耐えられなかった。

 

 

6月24日午後 某海域

 

「良イゾ、来テクレ」

タ級の合図と共に、夕張、島風、蒼龍、飛龍は走り出した。

ここは深海棲艦の基地。中枢真っ只中である。

丁度幹部達が不在の時間を狙って、リ級が調査隊を「彼女」たる装置の元に案内したのだ。

夕張の合図で、島風達は一斉に調査用の機械を手際良く設置していく。

何が役に立つか解らないが、とりあえず現象を押さえておきたい。

夕張が設置確認をすると、リ級に合図した。

リ級はいつも通り、彼女に話し始めた。

様子を見つつ、計器を確認しながら夕張は「彼女」の大きさに圧倒されていた。

禍々しいというより、物凄いエネルギーを感じる。

誰が何の為に、こんな物を作ったのだろう?

島風はそんな夕張の様子を心配そうに見ていた。

夕張は根っからの研究者だ。興味の為に危険な所に平気で飛び込みかねない。

どんなことがあっても守らねばならない。

大切な、たった一人の友達だから。

「マタ来ルワネ、ソレト、アノ子達ヲ怖ガラナイデネ」

リ級はそういうと、「彼女」から離れ、夕張に合図した。

「機器を回収してきて!」

回収も手早く行われた。

すぐさま一行は基地を離れ、小屋に戻って行った。

 

 

6月24日午後 車中

「珍しいな、いつもの居酒屋ではない所で会おうなんて」

虎沼は大隅から指定された場所にライトバンで迎えに行った。

大隅はライトバンの助手席に座った。

「人払いが必要だったの」

「そうか。で、話って何だ?」

「・・・あの、ね」

「あぁ」

「・・・怒らないで、聞いて」

「わ、解った」

「・・・私達が買った艦娘達はね、深海棲艦になったの」

「!?」

「今まではそれしかルートが無かったの」

「じゃ、じゃあ、あの資源は」

「そう。深海棲艦が海底で掘り出したものよ」

虎沼は別に直接深海棲艦に攻撃されたわけではないが、会社を追われた遠因ではあった。

その深海棲艦から資源が出ている・・という事は

「じゃあ、き、君も・・」

「そう。深海棲艦よ」

そういうと大隅は一瞬だけホ級に戻り、再び大隅に戻った。

「実際見ても信じられん。そもそも深海棲艦なんて見た事も無いしな」

「それはそうね。普通なら見てない人がほとんどよ」

虎沼は世間で言われる深海棲艦のイメージと目の前の大隅のギャップに困っていた。

「深海棲艦は人を見たら食べると聞いてたんだが」

「それは無いわ。私達は言わば幽霊みたいなものだもの」

「幽霊?」

「船の魂、船霊っていうんだけど、轟沈した船の霊なのよ」

「だからそんなに色白なのか?」

「そ、そこは解らないけれどね」

虎沼はふと、先程の言葉を思い出した。

「で、今後は売り先が増えるって事なのか?」

「売り先ではないけど、他の鎮守府に艦娘のまま拾ってもらうルートが出来たの」

「拾ってもらう?」

「元々、艦娘が深海棲艦と戦って甚大な被害を与えると、LV1艦娘として生まれ変わる場合があるの」

「ほう」

「そういう感じで、海に艦娘を放して、航行中の艦娘に見つけてもらうって訳」

「あ、そうすると」

「そう。鎮守府で待ちぼうけにされてる子達を結果的に移転させられるわ」

「だが、全員深海棲艦にならずに済むのか?資源は深海棲艦の物なのだろう?」

「出来るだけ消費したくないのはその通りよ。」

「じゃあ、司令官不在の場合だけ渡す専用の資料を作ろう。資材は渡せないが移転は出来るというような」

「と、いうパンフレットがここにあるの」

「でも、大隅さん」

「なに?」

「それを深海棲艦がするメリットが見えないんだが」

大隅は溜息を吐くと、ぽつりと呟いた。

「深海棲艦というより、私の意志よ」

「大隅さんの?」

「ええ。私、もう艦娘達が泣き叫ぶのを見るのが嫌なのよ」

「・・・。」

「そして、貴方を騙し続けるのも嫌になった」

「俺・・を・・?」

「そうよ。あなたは真面目に、ちゃんと仕事してくれるから、心が痛むのよ」

「大隅さんは、深海棲艦らしくないな」

「そう?」

「優しい女の子だよな」

「私も、元は艦娘だから」

「えっ!?」

「元は阿武隈っていう軍艦だったわ」

「・・・・。」

「私の司令官は何ヶ月も私に仕事を与えず、最後は遠征と偽って深海棲艦にさせられた」

「酷いな・・・」

「そう。酷かったの。だから凄く恨んだわ」

「そりゃ、恨むわな・・・」

「だから復讐してやりたかった。でも、艦娘達を騙すこの仕事に耐えられない」

「大隅・・・」

「だからせめて、深海棲艦になりたくない子を移転させてあげる事で罪滅ぼしをしたい」

「・・・。」

「貴方を騙していた事は本当に悪かったと思ってるわ。だから頼める義理ではないけれど」

「喜んで協力させてもらうよ」

「!?」

「そりゃ、聞いたって言えないわな。よく解ったよ」

「・・・。」

「でも、俺の見立て通り、大隅さんは善人だ。だから耐え切れなかったんだ」

「・・・。」

「俺の方はおかげさまで蓄えも出来た。成功報酬がなくなっても充分食っていける」

「・・・。」

「俺を窮地から救ってくれたのは大隅さんだ。だから今度は、俺が大隅さんを助ける」

「虎沼・・・さん・・・」

「どうせ、上司には内緒なんだろ?」

「!」

「秘密の共有だ。どこまで内緒にすれば良い?」

「上司には、パンフレットに全員で深海棲艦になる事を拒否してくれと書いてる事は言ってない」

「ははははは。そりゃそうだ」

「だからパンフレットを持参させないように言ってほしい」

「解った。」

「後、貴方への成功報酬は固定給だけど用意する」

「えっ?」

「資源0で交渉する事は上司命令だけど、貴方への報酬分は許可を貰ってるから。」

「・・・それは取っておくよ」

「何故?」

「いつか、大隅さんが、阿武隈さんとして帰って来た時に、カネが要るだろう?」

「で、でも、私は艦娘に戻れるかどうか」

「可能性は、捨てなければ0じゃない。俺は、大隅さんにも帰ってきて欲しい」

「・・・・。」

「俺の命の恩人で、仕事仲間なんだから、さ」

大隅はついに泣き出した。

「女の子を泣かせるのが趣味なの?」

「本当の事だ。だから取っておく。安心して艦娘に戻るといい」

「だから、方法が解んないんだってば」

「探せば見つかる。それまで命を大事にな」

「船霊だって言ってるでしょ」

「あぁ、そうだったな」

鼻をすすりながら笑う大隅と、虎沼はしっかり手を取り合った。

 

 




さて、それぞれの転機をまとめて書いてみました。
これから動いていきますよ。

球磨「あたし達はまた置いてきぼりかクマ?」
作者「えっ!?」
多摩「ちょっと串刺しにしてやろうかにゃ」
作者「やめてええええぇ・・・・」

4/27 一部設定を直しました。

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