艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file17:虎沼ノ日

6月15日夕方 某居酒屋

 

「大隈さん、こっちだ」

虎沼は大隅に声をかけた。いつも通り、約束の時間ピッタリだなと思いながら。

「今日は定期報告だけど、何か変わった事とかはある?」

「司令官向けの資料はあらかた配り終えたが、1つ気になることがある。」

「何?」

「何度行っても司令官が居ない鎮守府が居る」

「居留守では無く?」

「居留守の場合、警備要員が出てきて今日は居ないというんだ」

「ええ」

「だが、艦娘が出てきて「ずっと来ていない」という鎮守府が幾つかある」

「ずっと?」

「そうだ。艦娘が出て来るという事は説明の意志がある。嘘じゃないと思う」

「どれくらい来てないのかしら」

「聞けた所では1年という所もあった」

「1年!?」

「大隅さんも驚きの声を上げるんだな。初めて知ったよ」

慌てて口に手をやりながら、大隅は動揺を隠せなかった。

「そこの艦娘さんと話をしてきたが、可哀想だったよ」

「どんな様子だったか、詳しく話して」

 

 

6月14日昼 第5122鎮守府

 

「大本営様には、この事は?」

「もちろん報告しています。それは日々の作業内容にありますので・・・」

「それで、お返事は?」

「特にありません」

虎沼は不思議に思った。1年も停止状態の鎮守府を放置してるのか?

確かに司令官室は綺麗に片付いているが、どことなく人の気配が薄れている。

「そうですか・・」

「あの」

応対した艦娘が言う。

「わ、私達、本当にこのままで良いんでしょうか?」

「と、おっしゃいますと?」

「山田さんに聞くのもおかしいと思うのですが、資材庫には上限まで資材が溜まっています」

「・・・。」

「毎日補給船が来るので、私達はちゃんと食事も出来ています」

「・・・。」

「でも、私達は毎日何もせず、ただ食事をするだけ。それが1年以上も」

「・・・。」

「このままで良いのか、半年位前までは皆でよく話してましたが、今は疲れ果ててしまって・・」

「・・・。」

「大本営さんにも言いましたけど、司令官が戻るまで待ての一言で・・・」

艦娘は泣き出してしまった。

「私達、本当にこのままで良いんでしょうか。役立たずと言われたくないです」

「・・・わ、私がお答えするのも変な話ですが」

「?」

「その状況は、本当にお辛いと思います。そして貴方達が悪いと言われて欲しくない。私はそう思います」

「・・・。」

「私も司令官さん向けの資料しか手持ちがないので何もして差し上げられないのですが」

「・・いえ、良いんです。ありがとう」

艦娘は涙を拭くと、寂しそうに微笑んだ。

 

 

6月15日夕方 某居酒屋

 

ドン!

大隅が無言でテーブルを叩いた。乗っていた箸やコップがガタガタと揺れる。

「あ、すいませんすいません。」

ぎょっとして見る周囲に慌てて虎沼が謝ると、痴話喧嘩のもつれかといった表情で向き直っていく。

大隅は両手を拳にしたまま、机の上でプルプルと揺すっていた。怒りで顔が真っ青だ。

「大隅さん、大隅さん、落ち着いてくれ」

はっとしたように手を机の下にやると、感情を表に出した事を恥じるかのように横を向いてしまった。

「・・ご、ごめんなさい」

「いや、良いよ。大隅さんが善だと解って、一緒に仕事出来るのを誇りに思う」

「え?」

「俺は深海棲艦が海運ルートを封鎖しちまったせいで、商社をリストラされた」

虎沼はシュッと、タバコに火をつけた。大隅はまだ横を向いていた。

「貯金も無い時の突然の出来事だったし、再就職先も無かった」

「そんな時に拾ってくれた大隅さんには、恩がある」

「しかし、移転先とか、資源の供給元とかの話をしてくれない事に何となく溝を感じてな」

「だから、今後も付いてって良い人かってのを知りたかったんだ」

虎沼は紫煙を吸い込み、吐き出した。

「俺は悪徳会社やマフィアとも仕事してきたが、大隅さんはその手合いじゃない」

「理由があって言えない事があるが、根は善だ。だから今後もついていく」

大隅は横を向いたまま、頬を赤くした。

「俺もその艦娘を助けてやりたい。異動させてやれないかな」

「・・・上司と話してみるけど・・・」

大隅は目を伏せた。我々が引き取っても、その先は悲惨だ。

本当の意味で助けてやれないだろうか。

大隅は我が身を呪った。どうして深海棲艦になってからこんな事を知ったのだろう。

ちゃんとした鎮守府に勤める艦娘の頃に、この情報を知ったなら。

「あ、そうだ忘れてた。もう1つ報告事項がある」

「え、何?」

「どうも、詐欺師が居るらしいんだ」

「詐欺?」

「なんでも後払いといって艦娘を取るだけ取ってドロンしたそうだ」

大隈は首を傾げた。補給隊では持続性を考慮し詐欺はやってない。艦娘を持っていってどうする?

「嫌な話ね」

「そう言う訳で、今後回る所では門前払いの確率が増えそうだ」

「解ったわ。また連絡する。そっちも何かあれば連絡を」

「了解」

 

 

 

 

6月16日朝 某海域

 

「司令官不在ノ、鎮守府カ」

「ハイ」

虎沼と別れた後もホ級は散々悩んだが、翌朝チ級に報告した。

チ級は考えた。既に鎮守府の資材が満タンなら、資材を払わなくて良い。

そうでなくても、司令官が居ないのだから僅かな資材と引き換えにすればいい。

「シカシ、呼ンダ後ガ今ノママデハ、ダメダ」

「ハイ」

チ級とホ級は同時に溜息を吐いた。

現在のやり方では、あまりに結果が悪すぎるのだ。

先日の45体の結果は惨憺たるものだった。

まず、翌朝迎えに行った時点で10体が居なくなっていた。

残る35体のうち10体は互いに砲撃しあったらしく重傷を負っていた。

15体は兵装を拒否したので、整備隊に預かってもらった。

結局20体を駆逐隊と戦艦隊に配分した。

しかし、ほとんどがLV1だったので、あっという間に轟沈するか敵前逃亡してしまう。

つまり1人も戦力とならなかったのである。

これは幹部会でも問題となり、戦艦隊幹部からは

「ウチニ回スナ。仲間ガ新入リヲ庇ウ為ニ却ッテ被弾スル。迷惑ダ」

と怒鳴りつけ、駆逐隊幹部からは

「艦娘ヲ見テ逃ゲ去ルカラ、弾除ケニモ使エナイ。ハグレ部隊ナンテ頼ンデナイガ?」

と言われ、普段は発言しない整備隊幹部のリ級までもが

「最初カラ、整備隊ニ入ル子ガ増エテイルガ、アテニサレテモ、困ル」

と苦言と呈される始末。

戦力増強の為の補給隊の筈だが継続する意味があるのかと、存在意義を問われてしまった。

大本営直轄鎮守府調査隊と取引していた頃は、主に隊長が輸送中に酷いセクハラをしていた。

それゆえに艦娘達にはいつか一緒に大本営や調査隊に復讐しようと言い、意欲を引き出せた。

しかし、虎沼は真面目で大本営と無関係だから敵役には使えない。

そんな虎沼の真っ当な手続きを見て、艦娘達は真っ当な結果を期待してしまう。

ゆえに深海棲艦になる事に耐えきれず、今のような惨状になってしまったのだ。

チ級にとっては大本営直轄鎮守府調査隊の代行策たる虎沼は痛し痒しだった。

だが、自身もセクハラの被害を受けていたホ級は真面目な虎沼と仕事する事は大歓迎だった。

ふと、気づいたようにホ級が言った。

「司令官ヲ、敵ニ出来レバ良イノデスガ」

「司令官ヲ?」

「ハイ。来ナクナッタ理由ガ酷イトカ」

「ナルホド。居ナイカラ言イ放題ダシナ」

「ハイ」

「ナニカ、捏造に使エル証拠ハ無イカナ」

「人間ノ事ハ人間ニ聞イテミマショウ」

「解ッタ。ソレガアレバ、艦娘向ケノ資料ヲ作ッテモ良イ」

「アト、厭戦的ナ艦娘対策ガ必要デス」

「ソウダナ。イツマデモ、整備隊頼リダト怒ラレル」

「整備隊ハ、ドウヤッテ運営シテルノデショウ?」

「ソウイエバ、増エル一方ノ筈ナノニ、極端ニ増エテナイナ」

「聞イテミテ、モラエマスカ?」

「解ッタ。デハ、オ互イ頑張ロウ」

「ハイ」

 




作者「小説を毎日書いてたら艦これ起動して無い事に気づきまして」
長門「本末転倒過ぎるぞ」
作者「自分で書いてて耳が痛くなりました」
長門「なら取り上げなければ良いじゃないか」
作者「色々都合がありまして」
長門「要するに展開に困ってるんだな」
作者「お主はエスパーかね」
長門「助けんぞ」
作者「ネタに詰まったらこちらが放置プレイになりますが」
長門「訂正する。助けられん。というか登場人物にネタを相談する作者って何なんだ」
作者「ほら、漫画家さんが良く言うじゃないですか、勝手にキャラが動き出すって」
長門「言葉通りに取るな。鉄格子の付いた病院に送られるぞ」


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