5月6日15時 岩礁
「今日も大繁盛だったね~」
「いよいよ辛口が100食で危なくなってきたわ~」
「そろそろ鳳翔さんも限界だし、対策考えないとダメね~」
提督はぺたんと座り込んでしまった。
「こ、これ、毎週やってるのか?」
飛龍が冷たい水を提督に差し出す。
「みたいですよ。お疲れ様です、提督」
小屋に控えていた提督は、あまりの繁盛ぶりを見て1時間皿洗いを手伝ったのである。
しかし、1時間でも結構な労働だったのだ。
「食器洗い機でも買うか?」
「洗い残しが出るのよね~」
「金属製の食器に買い換えても良いぞ。単純な形のやつにしたら洗い易いだろう」
「あ、提督良い事言った!そうね、金属製の皿にするのは良いかも!」
「今のお皿は食堂に返して、来週から金属のお皿で出しましょう」
「今日も5枚くらい割っちゃったもんね」
「全部島風でしょ」
「あたしは3枚だもーん、2枚はお客さんだもーん」
「威張るな」
「あう」
ふと提督が蒼龍を見ると、何か考え事をしている。
「どうした、蒼龍?」
「んー、気のせいかもしれないんですけど」
「なんだい?」
「最初に来たリ級さんて、部隊のボスかも」
「まぁ、ボス禁止とは言ってないからな」
「そうじゃなくて」
「なんか問題か?」
「部隊の、ボスが、来てるんですよ?」
「辛口美味しいですって言って帰ってったぞ?」
「部隊ごと来たらどうするんです?」
「あー・・・・蒼龍さん」
「はいな」
「その部隊、大きいのかな?」
「とっても」
「何体位所属してるのかな?」
「二百隻は余裕です。数え切れませんけど」
全員がしんと静まり返った。
提督がギギギと摩耶達を見ると、摩耶達は光の速さで目を逸らした。
「あっ!お前ら私を見捨てる気か!」
「ナニモ聞イテマセンヨ」
「私達知リマセン」
「来週ハ提督ガ対応シテクダサイ」
「何カタコトになってる!しかも酷い事言っただろ今!」
「あ、でも」
「なんだ、島風?」
「リ級ちゃんと一緒に居たタ級ちゃん、相談のリクエストしたよ。今週はその1件だけだったの」
再び小屋に静寂が訪れた。
「ま・・・まさか・・・」
「毎週とか・・・ないですよね・・・」
「鳳翔が過労死してしまう」
「そのリストに私達も混ぜて欲しいです。いや、やっぱり混ぜないでください」
「どうしよう」
「絶対きっぱり断ってください提督!NOといえる提督目指すんでしょ!」
「二百隻もの深海棲艦が怒って襲ってきたら勝てる訳ないだろ!逃げる準備をするぞ!」
「どこに逃げるっていうんですか!」
「地の果てまで逃げてやる!」
「あ、襲われる事は無いと思いますよ」
「なんで?」
「あの部隊、戦わないんです」
三たび小屋に静寂が訪れた。
「は?」
「最後に私が所属していた部隊なんですけど、あの部隊は整備隊っていうんです」
「兵装の整備とかしてるの?」
「いえ、何を整備するのかは部隊員でも解らないんですけどね。」
「なんでやねん」
「何せ何もしてませんでしたから」
「どないやねん」
「整備隊は戦いたくないって子達を迎えてくれるんです。戦闘命令もされないし」
「あのリ級がそういう方針て事か」
「でしょうね。私はボスと直接話した事は無いんですが、重武装のタ級が守ってるって話でした」
「あのタ級か。確かに強そうだったな」
「あの子なら金剛4姉妹でいい勝負って感じかな」
「そんな事になって欲しくないがね。で、いつ来るんだい?言い訳考えとかないと」
島風が提督を指差した。
「ん?なんだ島風」
「き、来た」
振り向くと、タ級とリ級が提督の後ろの海面に居た。
「せ、狭くてごめんなさい」
夕張はリ級達に謝った。
普段は夕張と相談者の二人だけなので余裕がある。
しかし今回はリ級、タ級、摩耶、鳥海、夕張、島風、提督、蒼龍、飛龍である。
ぎゅうぎゅう詰めなのだ。
提督が溜息を吐いた。
「これは無理だよ夕張、外で話そう。」
「でも、元居た所を知りたいなら画面見てもらう事になるし」
「ソレハイイ、外デ話シマショウ・・・アツイ」
リ級が外に出たのを合図に、全員が小屋から出た。
「提督サン」
リ級が声をかけた。
「何でしょう?」
「コノ小屋ノ目的ハ、何?」
提督は一瞬沈黙した。深海棲艦からすれば喜べない目的だからだ。
しかし、嘘は止めよう。一か八かだ。
「深海棲艦に売られた艦娘達を成仏させたり、元の艦娘に戻す手伝いをする為の場です」
リ級は提督を見た。
「元ニ戻ッタ子モ居ルノ?」
「私です」
蒼龍が名乗った。
「アナタハ・・」
「flagshipのヲ級でした」
「・・ソウ。ジャアDMZ指定シタノモ、アナタネ?」
「はい」
「・・・・乱用ハ禁止ノ筈ヨ?」
「この1回しか使っていませんし、正しかったと信じています」
「艦娘ニ戻ッテ、ドレクライ?」
「1年ちょっとになりました」
「1年、コノ提督ヲ見テ、今モ、思イハ変ワラナイ?」
「はい」
「ソウ・・ソレナラ正シイノデショウ。タ級」
「ハイ」
「DMZハ維持サレテル?」
「2~3カ所、痛ンデマスネ」
「ジャア、直シテキテクレル?」
「解リマシタ」
そういうと、タ級は静かに島の周りを廻りだした。
リ級がタ級を見ながら言う。
「提督サン」
「はい」
「私ハ、深海棲艦ハ、人間ト争ウベキデハナイト、思ウ」
「はい」
「深海棲艦デ居ルノハ、辛イコト」
「・・・」
「ダカラ、装置モ、出来レバ止メタイ」
「装置?」
「深海棲艦ガ、新シク生マレテクル、装置」
「どうにもならないのですか?」
「生マレテクル子ガ、居ルカギリ」
「壊すとかは?」
「壊セナカッタシ、暴走シタラ巨大ナ深海棲艦ガ沢山出ル。私達デモ手ニ負エナイ」
「・・・・。」
「デモ、ソノ子ダッテ、幸セジャナイ。ズット泣イテタ」
「・・・・。」
「サッキ、売ラレタ艦娘ト、言イマシタネ」
「ええ」
「・・・・補給隊、ネ」
「補給隊?」
「艦娘ヲ買ッテキテ、深海棲艦ニ変エテル部隊。新シイ部隊」
「でもそれは、人間側が売るから成り立つ」
「ソウネ」
「私は、艦娘を売って私腹を肥やす人間が許せない」
「私モ、深海棲艦ヲ、悪戯ニ増ヤスノハ、ヨクナイト、思ウ」
「私達は、協力出来ますかね?」
「売買組織ト、戦ウッテ事?」
「それと、出来れば装置の停止方法も探したい」
リ級が提督を見た。
「ソレハ、貴方ニハ関係無イ話デショウ?大変ナダケヨ?」
「貴方は止めたいのでしょう?」
「ソウネ」
「だったら、一緒に考えますよ」
「・・・・・。」
「艦娘を売る仕組みの根絶を手伝ってくれる、お返しをしたい」
「・・売ル手段ヲ作ッタノハ、多分コチラヨ?」
「貴方の隊ではないのでしょう?」
「ソウネ」
「であれば、貴方も関係無いのに私達に手を貸してくれるって事じゃないですか」
「・・・・フフッ」
「?」
リ級は蒼龍を見た。
「ナントナク解ッタワ。嘘ジャナイヨウネ」
「提督は嘘をつける程に器用じゃないです」
「それ酷くないか蒼龍?」
「・・・ハハハハハッ!面白イ!」
そこにタ級が帰ってきた。
「DMZヲ、直シマシタヨ・・・ナンカ、楽シソウデスネ」
「タ級」
「ハイ」
「補給隊ノ仕事ヲ、邪魔スルゾ」
「ハイ?」
「ソシテ、装置モ止メル」
「!」
「アァ、装置ノ方ハ、止メラレルカ、考エテミル、ダナ」
「エ、エット?」
「コノ提督ガ、協力シテクレル」
「人間側の艦娘売却ルートを我々が潰す。協力してくれる礼として装置の止め方を一緒に考えたい」
「マァ、時間ハ、カカルダロウケド、ネ」
「セメテ、安定制御方法ガ、見ツカルト良イデスネ。暴走ガ怖イ」
「ソウシタラ、私ハ、オ役御免ダナ。イイ加減、成仏シタイ」
「ソンナ」
「深海棲艦ナンテ寂シイダケ。タ級モ、一緒ニ、成仏シヨウ」
「天国ニ、オ供スルノモ、イイデスネ」
「お二人は仲が良いんですね」
「ソウナノカ?」
「エッ?仲良シダト、思ッテタノデスガ」
「フフフ、冗談ダ。一番ノ戦友ダ」
「ヨカッタデス」
タ級は思った。
そういえばリ級がこんなに楽しそうに笑ってるのは初めて見たかもしれない。
「あ、あと、1つ相談が」
「提督カラ、私ニ相談ナノカ?」
「はい」
「・・マァ良イデス。ナンデショウ?」
「もし、貴方の隊で深海棲艦から戻りたいという子が居たら、この小屋を教えてあげてください」
「恐ラク噂ハ広マッテルダロウガ、ソウイウ相談ハ受ケル。ソノ時ニ言ッテミヨウ」
「充分です。ありがとうございます」
「・・・蒼龍サン」
「はい?」
「本当ニ、変ナ提督ダナ」
「それはもう」
「ちょ、そこは否定しようよ!むしろ素晴らしい提督ですとか言ってみよう?」
「皿洗いまでする提督を普通とは言えませんねえ」
「皿洗イ?」
「提督ったら忙しいのは可哀想だ~とかいって、今日の皿洗い1時間も手伝ったんですよ?」
「提督サン」
「はい?」
「変デス」
「まっすぐ見てキッパリ言わなくても!」
「皆サン、ドウ思イマス?」
提督以外が綺麗に声を揃えた。
「変だと思います!」
「泣いて良い?」
「ダメデス」
「はい」
「・・・フッフフフフ、ハハハハハハ!本当ニ面白イ提督ダ!」
リ級は提督の手を取ると、
「解ッタ。信用シヨウ、提督サン」
と言った。
深海棲艦関係のお話を3話書きました。
入力に数倍時間がかかります。
しばらくカタカナ見たく無いのでこの関係は放置プレイしようかと思います。
タ級「喝ヲ入レテヤロウ」