艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file08:3割ノ苦労

7月1日午前 鎮守府提督室

 

「ほほう、通算3割かあ」

高雄は提督の笑顔を見てほっとした。

毎月1回、深海棲艦調査対応班、通称研究室の活動状況を報告する時間だ。

先月まで愛宕が報告していたが、たまたま用事が重なったので高雄が代わったのである。

そこで高雄は相談に来た深海棲艦数と成果を集計し、数字でまとめてみた。

しかし、3割という数字を見て提督ががっかりしないか心配だった。

そして、もう1つ密かに悩んでいた事があった。

「あ、あの。あまり高く無くて申し訳ありません」

提督はきょとんとした顔で高雄を見た。

「一体何を言ってるんだい?」

「なんと言いますか、その、華々しい数字ではないので」

「高雄」

「はい」

「これが相談件数3体で成功1件の3割なら、まあもうちょっと相談増やしてみようかと言うよ」

「はい」

「でもな、今まで完全に敵でしかなかった深海棲艦から143件も相談を受けてるんだぞ」

「は、はい」

「そしてその3割、44件も成功している」

「ですが、私達で対応したケースでは全員昇天してしまいました。」

「ん?あぁ、そうだなあ」

「でも提督は、たった1回で蒼龍さんに戻しました」

「それこそ偶然だ。1回しかやってないんだからな」

「艦娘になった蒼龍さんはLVを上げて頼もしい味方になってるのに、私達は1人も」

「高雄」

「あ、はい」

「昇天するのは艦娘に戻る事より卑しいことかな?間違って昇天させちゃったのかな?」

「・・・」

「違うよね。私も君達も、深海棲艦が望む形になる手助けをしたという意味では同じなんだ」

「・・・」

「手法が確実に解ったとしても、深海棲艦が天に帰る事を望むなら昇天になるんだよ」

「・・・・」

「そして君達は、3割もの高確率で願いを叶え続けてる。神頼みしたって3割も叶えてくれない」

「・・・・」

「なあ扶桑、3割も願いを叶えてくれる神様ならちょっとお賽銭弾むよな?」

秘書艦当番だった扶桑は、高雄にお茶を出しながらふふっと笑った。

「そうですね。早くケッコンカッコカリさせてくださいってお百度踏んじゃうかも」

提督はグキッと音がするかのような速さで扶桑の方を向き、あっという間に真っ赤になった。

「ば、ばか。真面目な話をしてる時にお前という奴は」

「あらあら、それでは提督の超が付く鈍感を直してくださいませ、高雄様~」

パンパンと拍手を打ちながら、扶桑は高雄を拝んだ。

「何を言ってるんだ全く。私はそんな鈍感じゃないぞ。なあ高雄?」

高雄は素早く目線を窓の外にそらし、

「黙秘します」

と、いった。

「神も仏も居らんじゃないか。ともかく、高雄達は凄い事をしているんだ。誇りを持ちなさい」

「あ、ありがとうございます。あと」

「あと?」

「実は、夕張がもうデータの保存場所が無いと言い出しまして」

「先日もそんな事を言って何か機械を取り寄せていたよな。どんだけ溜め込んでるんだアイツは」

「大事なものだけにしてねと常々言ってるのですが、全部大事だと言い張りまして・・・」

提督は溜息を吐いた。調査に夕張の情報は不可欠だ。3割はその成果ではある。しかし。

「夕張にちょっと話を聞こうか」

「いえ、その、今日はその件で電気街に買い物に行ってまして」

「なにっ!?エサの中に放し飼いにして大丈夫なのか!?」

「勿論、お目付け役で愛宕について行かせました」

「うーん、大丈夫かなあ。嫌な予感しかしないよ?」

「はい、私も送り出した後、ずっと嫌な胸騒ぎがするんです・・・」

「とにかく帰ってきたら一度来る様に言ってくれ。私から言うほうがいいだろう?」

「そうですね。既に研究所の半分が埋まりつつありますし」

「岩をくりぬいて2階を作るか?」

「工廠長さんがお怒りの姿がありありと目に浮かびます・・・」

 

 

7月1日午前 某電気街

 

「うわ~、このNAS消費電力少なっ!2つください!」

「凄い凄い!プラチナ電源こんな値段だよ大放出じゃん!3つ買うわ!」

「すみません、今コスパ一番のHDDってこれですか?え?これ50台限定?10個ください!」

愛宕は既に酷い頭痛に襲われていた。

ここに来てから夕張が何を言ってるのか、店員と何を話してるのかさっぱり解らない。

異星人の言語を喋ってる・・・あの箱に茄子が入ってるの?

「愛宕さん!OSとマザーボードも買って良い?」

「よ、予算内で押さえてね・・・」

「大丈夫ダイジョウブ。足りなければ小遣い!それでもダメなら魔法のカードがある!」

「それは大丈夫と言わないわ・・」

「うひゃっほーう!次はバックアップメディアだー!」

「ゆ、夕張ちゃん、待ちなさーい!」

愛宕は目が回りそうだった。

これって何の罰ゲームかしら?高雄姉さんにこっちを頼めば良かった。

 

 

7月1日昼過ぎ ソロル島の港

 

「お、重かった・・・さすがに買い過ぎたわ」

「だっ、だから・・宅配便で・・って・・」

「ソロルは離島だから高い・・もん・・・」

「だったら・・・もう少し・・・考えて・・・」

島の岸壁、あと数十mで研究室という所で、ついに夕張と愛宕は力尽きて座り込んだ。

電気街に1時間少々しか滞在させなかったのは、島風が

「夕張ちゃんを長時間あの街に放したらダメ!色々な意味で帰って来なくなるよ!」

と言った為である。見事に正解だったが、対策が甘すぎた。

1時間で脚の遅い夕張に何が出来ると思っていた。しかし、愛宕は見た事も無い速さで動く夕張を目撃した。

そして1時間後、駅前に山のように商品の紙袋を抱える夕張と愛宕の姿があった。

途方に暮れた愛宕は宅配便での輸送を提案した。

しかし、夕張は輸送中に沈められては水の泡だといって頑として拒否したのである。

仕方なく二人で持って帰ってきたのだが、あまりの過積載に2人とも疲労困憊だった。

愛宕は固く誓った。次は高雄姉さんと摩耶の2人で行ってもらおう。鳥海じゃ負ける。

時間は30分で。

 

座り込んでいる愛宕達を、研究室から出てきた高雄が見つけた。

「あら、帰って・・って、何これ!」

「た、高雄姉さん・・愛宕は・・頑張りましたが・・・返り討ちに遭いました・・・」

「一体何があったの!?愛宕?!愛宕!?しっかりしなさい!」

騒ぎを聞きつけて島風達も出てきた。

島風は山積みの紙袋を見て悟った。

「あー、夕張ちゃん、完全勝利したんだね」

夕張はぐききと島風の方に顔を向け、右手で拳を作って弱々しく突き上げた後、がくりとうなだれた。

「ちょ!夕張!おま、しっかりしろ!」

「あー、摩耶さん、夕張ちゃんは満足したのです」

「待て!おい!成仏するな!」

摩耶がゆっさゆっさと夕張を揺さぶるが、幸せそうな顔をしたまま夕張は目を開けない。

島風が歩み寄った。

「摩耶さん、ちょっとごめん。下ろして」

「なにか策があるのか?」

島風は夕張の耳元で何事か囁いた。すると、夕張がバチッと目を開けしゃきっと立ち上がると、

「そうだよね!危ない!さあ搬入するわよ!皆手伝って!」

と、勢いよく動きだした。

「島風、何を言ったんだ?」

「ここで寝ちゃったら鎮守府の皆が買ってきたもの取ってっちゃうよ~って」

「こんな訳の解んねえ部品誰も取らねえだろ」

「事実か否かじゃなくて、夕張ちゃんに効くかどうかが大事なんだよ」

テキパキ動く夕張を見て摩耶は納得した。

だが、やり終えた後の反動が凄そうだ。明日の早朝ランニングは勘弁してやるか。

 

 

7月1日15時 鎮守府提督室

 

「で、夕張は搬入し終えた後仮眠室で爆睡した、と」

「はい、気がついたら泥のように寝てて、どれだけ揺さぶっても起きませんでした」

「高雄の努力は認めるよ。それと、愛宕」

「対策不足の落ち度は認めるわ提督。ごめんなさい」

しょぼんとした愛宕の頭を、提督はいつになく優しく撫でた。

「違うよ。本当によく頑張ったな」

愛宕は提督を見た。苦労を解ってくれている。途端に双眸に涙が溢れた。

「ていとくぅ~、私、頑張ったんですぅ」

「うんうん、あの魔窟で支援艦隊もなく頑張ったんだよな。気づくのが遅くなってすまない」

「うぇぇぇ~ん」

高雄は戦々恐々としていた。愛宕がこんなになるなんて、あの電気街はどれだけ敵だらけなの?

5連酸素魚雷と20.3cmだけで足りるかしら?工廠に九六式機銃頼んでおいた方が良いかしら?

愛宕がいつのまにか提督に抱きついてるけど、今回だけは見逃しましょう。

「よしよし、愛宕、よく頑張った。よしよし、よしよし」

ちゃっかりしっかり抱きついてる愛宕を見ながら扶桑は溜息をついた。

あれでさえ気づいてないんだから、提督は犯罪級のニブチンさんよね。

 

 




今度電気街で夕張さんを探してみようと思います。
高雄さんでも摩耶様でも良いです。

filenoの誤りを補正しました。

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