艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file06:罠ノ蜜

5月20日午後 第4316鎮守府

 

「困った・・・困ったぞ・・・」

司令官は頭を抱えていた。

この鎮守府は艦娘も数十を超える中堅クラスであったが、

「うちにも雪風!雪風ちゃんを迎えたい!」

と、雪風欲しい病を発症。

所属艦娘総出で遠征に行った資材を全て注ぎ込んだが幸運の女神は微笑まない。

悪魔の囁きに負けて資材をアイテム屋から大量購入してみたものの、まだお迎えに至らない。

「もう私財は無いし、こんなにLV1艦娘ばかり居ても意味が無い・・」

最近はもう新たな艦娘が出来ても迎えにすら行かず、秘書艦に任せっきりだった。

来ないとなるとますます思いは募る。

そんな時、司令室のドアがノックされた。

「なんだ!」

「あの、司令官、トップ開運流通の山田様という方がお会いしたいと」

「誰だそれは。何の用だといっている?」

「それが、艦娘運用と資源に関するお話だそうで」

司令官は一気に疑いの目になった。

資源は大本営か遠征か大本営公認のアイテム屋からしか入手出来ない筈だが。

「北上に隣室で控えるよう言っておけ。面会に応じる。もし怪しい輩なら大本営に連行してくれる」

「はい」

 

「お目通りが叶い光栄でございます、司令官様。私、トップ開運流通の山田と申します」

そういうと、中年の男は腰を深々と折り、名刺を差し出した。

中肉中背、スーツは普及品だがきちんとしており、礼儀も正しい。いかにも普通の会社員だ。

司令官は少し警戒を緩めた。

「ご苦労。今日の用向きは何か?」

「私どもは、司令官の皆様の仲立ちをさせて頂いております」

「仲立ち?」

「はい。たとえばこちらの司令官様が長門さんの建造に2回成功されたとします」

「ふむ」

「一方、別の司令官様は陸奥さんを2回建造されたとします」

「うむ」

「お互いに長門さんが欲しい、陸奥さんが欲しい。そういう時に私どもが出ます」

「交換、という事か?」

「仰る通りでございます。同じく改を止めたい方と早く改造されたい方の間でも」

「同じ艦でLV違いの交換という事か」

「左様でございます。大本営様の手続きにはございませんが、非常に需要がございます」

「ううむ」

「大本営様も大変多岐に渡る運用をされている以上、全ての需要に応じるのは困難でございます」

「・・・」

「そこで私どもが、ささやかながらお手伝いをさせて頂いております」

「で、うちに何の用だ?」

「申し上げました通り、私どもは仲立ちでございます。自ら建造する事は出来ません」

「そうだろうな」

「従いまして、より多くの司令官様とつながりを持つ事で、より希望に沿う事が出来ます」

「・・・。」

「しかし、私どもは創業したばかりで認知度が低い。そこでご挨拶に回っている次第です」

「・・・。」

「ご参考までに、私どもが交換のご依頼を受けている一覧と、資源相場表をお渡しします」

「資源相場、とは?」

「司令官様によっては、自ら開発を望まれる方もいらっしゃいます」

「うむ」

「その逆で、資源はあるので早く迎え入れたいという方もいらっしゃいます」

「ふむ」

「従いまして、艦娘を資源と引き換えたり、その逆も行っているのです」

「・・・・なるほど」

「私どもは司令官様のお望みを断りたくありません。ですので様々な方法をご提案しております」

「ふむ」

「こちらが資料と、相場表になります。私に御連絡頂ければ雨でも台風でも必ず伺います」

「ほう、仕事熱心なのは良い事だ」

「恐縮でございます。頑張りますので、何卒お引き立ての程よろしくお願いいたします。」

「解った」

「それでは、これにて失礼させて頂きます」

「ん?もう帰るのか?」

「ご多忙の中お時間を割いて頂いたのです。いつまでもお邪魔するわけには参りません」

「そ、そうか。まぁ、そうだな」

「本日は誠にありがとうございました」

「ん。おい北上、お見送りを」

「解りました。こちらへどうぞ~」

「失礼いたします」

 

パタン。

司令官はドアが閉まるのを見届けると、早速リストを探し始めた。

雪風雪風雪風・・・・くそっ、雪風だけ無いじゃないか。大鳳まであるのに!

しかし、大鳳を資源で手に入れるのは無理だ。凄まじい対価が必要だ。甘くないか。

これなら建造で頑張ろうという司令官が居るのも解る。

ん?

空母とかはLV1でも結構な額だし、高LVだと軽巡でもかなりの資源を得られるな。

司令官は慌てて鎮守府の艦娘リストを開く。

「あ、居る。居るぞ。LV30まで育てたが最近は使い道が無くて遠征に使ってる」

改の場合は、と・・なに!こんなに多い資源と交換できるのか?!

ま、まて、落ち着け。

雪風の代わりに来たLV1艦娘達と改クラスの軽巡を一掃すれば・・・

司令官は電卓を叩き、結果にニンマリした。

あはははは。

大和建造レシピさえ回せるじゃないか!

ご丁寧に交換資源には建造キットや高速建造材まで付いてる!

使える、使えるぞトップ開運流通!

とはいえ、足元を見られては癪に障る。数日待ってから山田に電話してやるとするか。

 

「ありがとうございました」

鎮守府の入り口で北上と別れた山田は、5分ほど歩き、止めてあった白のライトバンに乗った。

ライトバンには「トップ開運流通」と書かれている。

車の中で携帯電話を取り出すと、電源を入れ、ある番号に電話をかけた。

「お疲れ様。俺だ。手ごたえは十分だ。量が決まったら資源の手配を頼むよ」

先程までの誠実で気弱そうな顔とは違い、辣腕といった感じだ。

「まぁ、もったいぶって数日後に電話してくるだろう。」

「あの手の人間を信用させるには支払いが肝心だ。特に初回は絶対トチったらダメだ。確実に頼む」

電話を切ると、すぐに電話がかかってきた。番号を見てから応答する。

「おう、ヤ・・虎沼だ。ははは、ついヤマダって言っちまいそうになる」

 

 

5月23日午後 第4316鎮守府

 

「うむ、うむ。そうだ、艦娘45体の売却、いや、資源交換を依頼したい。」

「・・・そうか、解った。では本日の夕方だな」

司令官は電話を切ってニヤリとした。雪風ぇ、今度こそ迎えてやる!

 

その日の日没頃。

対象とされた艦娘達は司令室に集められ、山田と幾つか質問を交わしていた。

「はい解りました。破損個所はありませんね?」

「装備は標準ですか?あ、20.3cmですか。それは素晴らしいですね」

全員と質問が終わると、山田は分厚いリストから顔を上げ、司令官に向いた。

「ありがとうございました。確認が終わりました」

司令官は艦娘達を下がらせると、ぐっと身を乗り出した。

「で、どうだ?完全な未使用が多いが、改も居るぞ」

「はい。大変素晴らしい状態です。今回は今後の意味も込めまして、これくらいを考えております」

司令官は目を見張った。先日リストで計算した数字より更に1割も多い。

「これだけ一度に御提供頂けるので、精一杯の数字を出させて頂きました」

山田は両手を膝におき、司令官を上目遣いで見る。

「如何でしょうか?」

司令官は内心、充分な数字だと思ったが、欲が出た。

「もう少し何とかならんかね」

山田は内心舌打ちした。この強欲が。だから運が逃げるんだよ。

そしてマニュアル通り数秒間目を瞑り、考えるそぶりをすると、携帯電話を取り出した。

「少々お待ちください」

「うむ」

そして電話に向かって話し出した。

「あ、部長。1課の山田です。第4316鎮守府の司令官様とお話をしているのですが」

「・・はい、はい。何とかなりませんでしょうか?」

「え、それは、少し待ってください」

受話部分を押さえながら、山田は司令官の方を向くと、

「即決頂けるのであれば、あと鋼材330上乗せ出来ますが?」

と、畳みかけた。

「鋼材350追加。それで決めようじゃないか」

山田は内心舌を出した。読み通りだ。追加は取り分が減るがこれで落とす。

「解りました。この山田が責任をもって何とか致します!」

「うむ、調整は頼む」

山田が再び電話に戻る姿を見ながら、司令官は笑いを押さえるのに必死だった。

 




深海棲艦も、鎮守府側も、1枚岩ではありません。
魚心あれば何とやら。

金剛「そんなコト言って、作者がこの機能欲しいダケでしょー?」
作者「黙秘します」
金剛「弥生出てよ弥生って言いながら、オール30で回しては泣いてマスネー」
作者「止めてバラさないで」

艦名の誤字を直しました。
一部メタ過ぎる部分をカットしました。

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